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マサキカズラのクリスマス  作者: 大野ヨシオ
10/12

10、連れ去られた魔界少女

 ガラスが割れる音がした。

 不覚にも寝てしまった葛は、飛び起きて、寝室へ向かう。

 米軍や警察なら、建物ごと包囲する。一斉に侵入して、2人を拘束する筈だ。

 残された可能性は、バチカンだ。

 葛は、ラティファを追っていた、3人組を思い出した。


「ラティファ!」


 寝室のドアを開けると、冷たい海風が吹き込んでいた。

 あの日の大男が、部屋に1人立っている。葛の姿を見るなり、襲いかかって来た。


「こいつ!」


 隠し持っていた警棒を振るが、男は片手で受け止める。葛は力を込めて、警棒の先端を大男の胸に押しあて、手元のボタンを押した。数秒で電流に痺れた男は卒倒する。スタンガンだ。


 急いで窓の外に出ると、少女を担いだ男が、漁船に乗り込む所だった。


「ラティファ!」


 ヨットハーバーを駆け、なんとか追いつこうとする。2人の男は、ラティファを船に乗せて、海へ向かってしまった。


「どうすれば?そうだ、ジェットスキーがある」


 マリンリゾートのプライベートビーチに、逃走用の水上バイクがあると、美咲は言っていた。

 葛は別荘にとって返すと、キーボックスから鍵束を取り、隠れ家のビーチへ向かった。

 桟橋の水上バイクを、トレーラーごと海へ落とす。


「待ってろラティファ、必ず助けてやるからな!」


 葛は明け方の海へと向かった。ラティファを連れ去った漁船は、既に見えなくなっていた。


(ラティファ、聞こえるかラティファ!)


(葛!どうなってるの?)


 テレパシーは、距離を超えると前にラティファは言っていた。試しに呼びかけると、微かに心の声が聞こえる。


(バチカンだ!船を追っている)


(私、薬を嗅がされたみたい。大丈夫、潜在意識ははっきりしている)


 眠らせれても、テレパシスト同士は交信出来る様だ。ラティファは、念波が強くなる方角を目指せと言った。

 朝日に向かって水面を走る葛へ、後方から追いつく物がある。


「敵か?!」


 葛の操る水上バイクに、並走したボート。警視庁のマークが見える。


「葛君!無事だったのね!」


 船上から、美咲が葛の名を叫ぶ。操舵席には加藤の姿も見えた。


「美咲さん!ナイスタイミング!」


 片手で方角を示し、バチカンを追っていると伝えた。

 水上バイクで先行すると、海上に2艘の船が見える。

 近づいて行くと、漁船の先端に、縛り付けられたラティファの姿があった。

 顔を動かしている。意識が戻った様だ。


「ラティファ!今、助けるからな!」


 水上バイクの葛と、その後ろから美咲の警備艇が追ってくるのを見ると、男達は船を乗り移り漁船に火を放った。

 逃げて行くバチカンの男達を、警備艇の美咲に任せて、葛は漁船へ乗り移る。


 2人とも焼け死ぬ必要は無い。

 燃え盛る炎の中で、少女は懸命に訴える。


「カズラ!逃げて!」


 いくら魔族でも、火あぶりにされたら死んでしまう。

 葛は、十字架にはりつけにされた魔界少女を助けようと、近づこうとする。


(火の勢いが強すぎる。このままじゃ丸焼けだ!)


 ガソリンを撒かれた船上は、あっと言う間に炎の海になった。燃料に引火したら大爆発だ。


 その時だ。


 空から一筋の光が伸び、黒い羽を羽ばたかせて、人影が高速で舞い降りる。

 何かを投げる素振りを見せた。

 ラティファの頭上で、光り輝く物体が停止すると、透き通る水の大きな塊が、船の上を覆う。


「pioggia!」


 ラティファが叫ぶと水の塊は、漁船へ怒涛の雨を降らせる。


「これが魔法?さっきのが魔石なのか?」


 炎が弱まり、葛はラティファの元へとたどり着いた。


「ラティファ!無事か?」


「遅い葛!焼けちゃう所だったじゃないのぉ!でも、よく来てくれたね、私の騎士(ナイト)


 葛が縄を解くと、全身ススだらけのラティファは、笑顔で言った。怪我はないようだ。

 2人の無事を見届けると、黒い羽の魔族は、ラティファに言った。


「ラティファ、任務を遂行せよ。人の繋がり、心の繋がりを地上へ広めるのだ」


 黒い身体、赤い瞳と獣の様な体毛。翼を持つ魔界の人物は、まさしく悪魔の様相をしていた。


「ラティファ、任務を続行します。ところで、この青年なのですが」


 上司らしき魔族に、ラティファがお伺いを立てている。日本語で話してくれるのは、葛には有難い。


「よかろう。この青年の望みを果たしてやるが良い」


 どう見ても悪魔チックな魔族は、葛の方を向いた。開いた口から、鋭い牙が見える。何故か恐ろしい気はしなかった。


「人間の男よ。その勇気、守る者のために使うが良い」


 葛にそう言うと、黒い魔族は空を飛び宙を舞う。その姿は、朝日と共に消えていった。


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