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マサキカズラのクリスマス  作者: 大野ヨシオ
1/12

1,魔界少女との出会い

よろしくおねがいします。

今回は、毎日アップしていきます。


 いくら魔族でも、火あぶりにされたら死んでしまう。

 (かずら)はりつけにされた魔界少女を助けようと、近づこうとする。


「火の勢いが強すぎる。このままじゃ丸焼けだ!」


 2人とも焼け死ぬ必要は無い。

 燃え盛る炎の中で、少女は懸命に訴える。


「カズラ!逃げて!」


 燃料に引火したら爆発する。


「必ず守ると決めたんだ!」


 *********


 年の瀬も近づき、慌ただしくなって行く街の喧騒の中、クリスマスのイルミネーションが輝く。

 誰もが、(せわ)しそうに歩く夕刻の時間。正木葛(まさきかずら)は駅前ロータリーに設置された、大きなクリスマスツリーを見上げていた。


(もう、こんな時期になったか)


 スーツ姿の(かずら)は、白い息を吐き出す。

 彼女いない歴32年の彼には、クリスマスイベントも無縁だ。

 不器用な性格が災いしてか、片思いと振られ続ける事、幼少の頃から実に101回。

 気が多い訳ではないが、20代の頃は当たって砕けろを繰り返し、友人のセッティングした合コンに何回も出席して、玉砕するのが当たり前になっていた。


 腕を組んで歩く、仲の良いカップルをチラ見すると、心の中で呪いの呪文を唱える。

 かなり性格は歪んでしまった。

 もちろん呪文の効果など、あるはずもない。


「カツラのマサキ!おまたせ!」


 葛の後ろから、旧友のシンジが足早にやって来た。待ち合わせ時間から20分の遅刻だ。


「遅いぞシンジ。それに俺の名はカツラマサキじゃない、マサキカズラだ!何度言えば解るんだ!エントリープラグに押し込むぞ!」


 数ヶ月ぶりに会う友人に、葛はお約束の挨拶で笑顔になる。彼の名前は、井狩真司(いかりしんじ)

 学生時代から、ネタ振りが得意なシンジは、面白いヤツだとクラスでも人気があった。

 20代の頃の、合コンのセッティングも、真司の功績が大きい。

 どういう訳か、性格も趣向も正反対の2人だが、社会に出るまでは一緒につるむ事が多かった。


「しかし、久しぶりだなカズラ。最近どうよ?」


 真司と葛は、駅前の居酒屋に足を運ぶ。

 今日は、真司の出世祝いと男2人の忘年会を兼ねて、飲みに行こうと誘われた。


「どうもこうもないよ。お前の所はいいよなぁ」


 真司が勤めているのは、中堅の電気メーカーで、アジアに進出して上手くやっている様だ。

 一方、葛の会社の方は、前は景気が良かったが、この数年の業績は(かんばしくない。


「まぁ。元気だせよ!その内良いこともあるさ!」


 何の励ましにもならないが、葛の肩を叩く真司。

 能天気というほど明るい性格で、学生時代もムードメーカーだった。

 居酒屋の席に付き乾杯すると、早速真司から出世の報告があった。


「てな訳で、俺は課長様に抜擢された。会社の中ではスピード出世みたいだぜ」


「おめでとう。真司は頑張ったもんな」


 SNSで、海外展開している支社を飛び回り、現地のスポット紹介をする近況報告を見て、葛は真司の活躍を羨ましく思っていた。


「それと、もう一つ。俺、結婚するわ」


「おお、そうか。ダブルでお祝いだな。前に合わせてくれた彼女さんか?」


「ああ、もう3年の付き合いだからな。男のケジメってやつかな。向こうは20代の内にってさ」


 旧友の祝い事だが、素直に葛は喜べない。呪いの呪文を唱えないだけ、ましな方だ。

 1人取り残された気分で、ビールジョッキを飲み干す。


「おお、いい飲みっぷりだな葛。お代わりしようぜ!」


(今日は祝いに、こっちの奢りだし。徹底的に飲んでやる!)


 そう思っても、葛は酒が強い方ではない。

 会社が不景気なせいか、飲みにいこうと誘う同僚も減った。葛以外は、会社の人間も所帯持ちだ。

 上司との付き合いがない分、気楽ではある。

 明日は土曜日だが、休日出勤の真司のため、早めのお開きとなった。駅の改札口まで、葛は真司を見送った。


「悪いな葛。ご馳走さま。今度またな!」


「いや。結婚式の準備とか大変だろうけど、真司も元気でな。来年まで会えないかもしれないから、メリクリとあけましておめでとうと言っとくよ」


「ああ、メリクリ!元気だせよな葛!」


 色んな意味で、意気消沈していた葛を気遣い、真司が笑顔で手を振る。葛も手を振り返して、それぞれの人生に戻って行く。


(ほんと、いい奴だな真司は)


 結婚式に着て行く礼服をどうしようかと考えながら、帰り道を歩く。

 肌寒さで、だいぶ酔いも醒めて来た。

 すると、自宅の近くにある小道で、男女の言い争う声がする。外国語の様だ。

 関わりたくはないが、この道を通らないと自宅に帰れない。恐る恐る、葛は近づいて行く。


 体格の良い3人の男が、1人の小柄な女性を囲んでいる。


「何してる!警察呼ぶぞ!」


 酔った勢いか、気が大きくなっていた葛は、スマホのライトをオンにして相手を威嚇する。

 おもむろに110番通報すると、通話をスピーカーに切り替えた。


「ハイ110番です。事故ですか?事件ですか?」


 最近のスマホは、緊急通報で位置情報を送信してくれると聞いた事がある。

 何かあっても、すぐに警察が駆けつけてくれると信じての行動だ。


「Chi Sri?」

「È un gruppo di demoni?」


 男たちが、葛の方を向いて怒鳴っている。何語かもわからない。

 すると、女は片手を男たちに向け、何やら唱えた。その手には、ガラスの球体が見える。水晶玉の様だ。

 辺りの空気が、少し揺らいだような感じがした。3人の男たちは、葛の方を向いたまま動きが止まる。


「今のうちにです。早く!」


 葛の手を引くと、女はその場を離れる。


「えっ!ちょっと!」


 二人は路地を走り抜け、民家の庭先を抜ける。何処をどう走っているのかもわからない。

 女子と手を繋いだのは、小学生以来だな。と、どうでもいい事を葛は考えていた。


「ここまで来れば大丈夫でしょう」


 肩で息をしながら、少女は葛の手を離す。

 女の年は若く、身なりはどこかの国の民族衣装の様だ。観光客かも知れない。

 一息付くと、葛は通話中の相手に、勘違いだったと詫びて電話を切る。


 少女は、泣き出しそうな顔で礼を言った。


「危ない所を、ありがとうございました。人間にも親切な方がいらっしゃるのですね」


 少女の外見は、どう見ても外国人だった。白肌に、ストロベリーブロンドの長い髪、瞳の色はグリーンだ。

 人間にもと言っていたが、日本人にも、の言い間違いだろうと解釈する。


「あの男たちが、まだ近くにいるかもしれない。とりあえず、両親と同居だけど家が近くなんだ。しばらく休んで行ったらどうかな?」


 下心はないが、寒空に女性の1人歩きは気の毒だ。見た所薄着だし、水晶玉以外の荷物も持っていない。

 落ち着いたら、タクシーを呼んで、彼女の滞在先へ帰らせればいいと葛は思った。


「ご親切にありがとうございます。しばらくは、魔界へ帰れそうにありません。少しだけご厄介になれると、確かに助かります」


(そういう設定なのかな?外人に見えるけど、目はカラコンで、コスプレイヤーな女の子なんだな)


 勝手にそう思い込み、葛は少女を自宅へと招いた。

 両親は驚いたが、事情を聞いて、何も食べていないと言う少女に、食事の用意までしてくれた。

 箸の使い方も食べ方も、上品な感じがした。


「何から何まですいません。申し遅れましたが、私の名はラティファと申します。魔界眷属(まかいけんぞく)であり、人間界では、男女の間柄を取り持つ任務を遂行しております」


 食事をしながら、ラティファの設定を両親の前で披露された葛は、笑顔でフォローする。


「って言う設定なんだ。コスプレとか流行ってるからね。キャラクターの格好で目立った見たいで、酔っ払いに(から)まれていたんだ」


 ラティファの言葉で、引き気味の両親にそう言いながら、葛はどうしたものかと考えていた。


「私、あまり信用されていませんか?」


 ラティファは、泣きそうな顔をする。


「いや、そういう訳じゃないけど、女性の1人歩きは物騒だからさ。ラティファは日本に住んでるの?」


「普段は魔界に住んでおりますが、今回は、バチカンの追跡を逃れながらの任務遂行。不覚にも魔石を使い果たしてしまいまして、迎えが来るまで帰れそうにありません」


(随分と凝った設定だな。明日は休みだし、警察にラティファを送って行こう。家出娘かも知れないし)


「それは困ります!私には任務がありますし、ほんの数日ご厄介になれれば出て行きますから。あの、お礼も差し上げますので!」


(えっ!俺声に出して喋っていたか?)


 驚く葛に、ラティファが心の声で語る。


(驚かせてしまいましたね。今のは読心術です。私の言ったことは本当です。貴方に迷惑がかからない様にしますから、安心して下さい)


 ラティファはそう言うと、水晶玉を取り出した。何やら呟き、葛の両親へ向ける。


「な、何をしたんだ?」


 またも、感じた事のない空気が辺りを包む。葛は交互に両親を見た。惚けた様な顔をしている。


(記憶改竄(きおくかいざん)です。私は、正木家の遠い親戚という記憶を刷り込みました。ご安心下さい、他に何の影響もありませんから)


 少女は口を動かしてはいない。頭の中で声がしたのだ。テレパシーを送ってきたラティファを見て、葛は呆然としている。


「ラティファちゃんも長旅で疲れたろう。母さん、着替えと布団の用意は出来てるのかな?」


「あらやだ。何も準備してなかったわ。ラティファちゃんの部屋は葛の隣ね。狭い部屋だけど、今日はゆっくりと休んでね」


 突然、ラティファに対する態度の変わった両親。それでも葛は信じられなかった。


(本当にラティファの言う通り、魔力なのか?暗示とか催眠術じゃないのか?)


(疑ぐり深い人ですねぇ。わかりました。泊めていただくお礼に、何か魔力を使ってあげましょう。葛さんが本当にしたい事を考えておいて下さい)


 ラティファの寝る部屋を用意するため、両親は、二階の部屋を片ずけに行く。


「魔界から来たと言ったね?じゃあ君は悪魔とか魔女なんだね?」


 葛は、ラティファを正面から見据える。


「魔女でも悪魔でもありません。違う次元から来た者と解釈して下さい。貴方の世界ではテレパシーと言うのですよね。お気に召さない様ですので、読心術とテレパシーは、なるべく使わない様にします」


 考えただけで相手に伝わるなら、それはそれで便利かも知れないが、心の中を覗かれるのは嫌な気分だ。


「まあ、成り行きだけど、追い出したりはしないよ。迎えが来るまで、狭い家だけど泊まっていけばいいさ」


「感謝しますカズラさん。迷惑はおかけしませんので、安心して下さい」


 グリーンの瞳で見つめられると、自分まで記憶の改竄をされたのかと、疑問に思ってしまう。

 着替えもお金も持っていないラティファのために、葛は近くのコンビニで、女性物の下着や歯ブラシを買いに出かける。

 不審そうな人物や車は、家の周りにはいなかった。


(バチカンの追手?本当かよ)


 作り話なら、スケールの大きい虚言(きょげん)だが、記憶の改竄は催眠術でも無理かも知れない。葛はそう思った。

 自宅に戻ると、客人の少女は風呂に入っていた。着替えを脱衣所に置いて、葛はラティファに声をかけようとする。


「ハイ。人間の男性に助けられました。バチカンは本気で魔族を殲滅しようとしています」


 ラティファが、浴室で誰かと話をしている。大事そうに持っていた、水晶玉が脱衣所に見当たらない。


「迎えは数日かかりますか。わかりました。正木家で待機致します。それでは」


 着替えを脱衣所に置いて、葛は自室へと戻る。

 なんか、訳のわからない事に巻き込まれたなと、少し後悔していた。



バチカン

:ローマ教皇庁によって統治されるカトリック教会と東方典礼カトリック教会の中心地、いわば「総本山」(ウィキペディアより)


各国の教会から集められる献金は、世界の金融市場、政治を動かすと言われています。

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