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ディストピア 女だけのタワー  作者: 赤城奈津子
4/20

女性だけの会社4

男性にとって不快な内容が含まれている可能性があります。男性の方がこの小説を閲覧されて、気分を害されても、当方は一切責任を負いかねます。

本作品は純粋な空想科学小説です。フィクションであり、実在する人物団体名とは一切関係ありません。また本作品に描かれている科学技術のほとんどがフィクションであり、現実に可能になっているものではありません。将来可能になるかどうかは現在の時点では言及できるものではありませんが、いくつかは紹介、実用化してほしいと作者は切に願っております。


「兄さんは変わったことないの」

「静かなものよ」

「食事はしているの」

「さあ」

 ぼんやりとしている母をいぶかしく思い、奈津子は少し大きな声を出した。

「どういうこと、兄さんに何かあったの」

「何よ、そんな大きな声出したら、恥ずかしいじゃない」

確かにカフェで大声はまずい。奈津子はかなりイライラしていることを認識した。この会話は奈津子には拷問にも等しい。本心は大嫌いな兄がどうなろうとどうでもいい。

「あの子の食事は出してないの。置いておいても食べてくれないから、ドアの下から千円札を押し込んでいるの。たぶん、夜中、私たちが寝ているときにそっと出て行ってコンビニかどこかで食べているんじゃないかしら。そのほうが、社会復帰が早いって本にも書いてあったし」

 母はそういうと、深いため息をついた。話ではもう何年も前から兄は母の食事を食べていないという。だから母はドアの隙間から千円札を押し込んでいる。いくら耳を澄ましていても物音は聞こえない。だから深夜起きているのだろう。奈津子が家にいる間からすでに兄は深夜にしか起きてこなかった。それでも、自室から出てきて、食事をしたり風呂に入ったりしていた。顔を合わすこともあった。たまだったが。引きこもりが加速したのだろうか。

 そういえば何年、兄に会っていないだろう。14年前に家を出た。それから家の中には入っていない。外から覗いても兄の姿は見ていないから、奈津子の知っている兄は19歳の時が最後だ。そのころ痩せてひげが伸び放題になって猫背の、見かけは老人のような姿だった。今、どんな風に変貌しているのか見当もつかない。それでも、夜中とはいえ家から出るということは、確かに引きこもりから社会復帰するためになるかもしれない。たぶん、それは兄には無理だと、奈津子は思う。いやもっと言えば無理であってほしい、あの部屋から出てきてほしくないと、悪意で呪ってもいる。

「お前、まだ仕事していくのかい」

 唐突に母がきいてきた。

「そうよ、食べていけないじゃない」

「結婚すればいいじゃないの。女は無理に働くこともないでしょう」

「いつの時代よ。今はね、女性も働くっていうのが普通なの」

「でもね、ほら、あんたの特許というの、あれってほっといてもお金が入ってくるんでしょ。だったら働くことないじゃない。あんただって磨けば美人よ。いいところにお嫁に行けるわ」

 くどくどいうこの言葉を一体何回聞いたことだろう。

「私には仕事があるの」

 そう言い切ってこの話を終わらせたいと口調を荒げる。母は深くため息をついて、口を閉ざす。その顔には疲れがにじみ出ている。兄の暴力はひどかった。物が壊れ、母は逃げ回り、奈津子はそれでも立ち向かった。奈津子はそのためにどこをどう抑えれば最小限のダメージで相手の攻撃を抑えることができるかという護身術を編み出していた。それは体の部位のどこをどう止めるかという医学的な防御術だ。簡単に言えば頸動脈を一時的に抑えたり、腕の筋をどっちのほうにひねると動きを止められるかといったものだ。その結果、暴力は一時的に止まるが、それでも、兄は男で、奈津子は女だ。力の差はある。それが奈津子の気が緩んだ時に牙をむき、あわや強姦という事態にもなった。未遂には終わったが、その時、それを止めもせずに傍観していた母に絶望した。挙句、奈津子が誘ったといって、兄をかばったのだ。兄との溝は深くなるばかりで、一切の交流もなくなっていく。そして母とも縁を切りたかった。

「これ、少しだけど」

 奈津子は封筒を渡す。その中には数十万程度の金が入っている。父は必要最低限の生活費を渡すだけで、自分の稼ぎを自分で使ってしまう。母は働きに出ることがない。父が嫌うからだ。それならば金を渡せばいいと思うのだが、それもしない。母は若いころからずっと内職をしたり、近所の友人の手伝いをしてこずかい稼ぎをしていたが、今は体調がすぐれず、それもしていない。奈津子はそんな行状を知っているので、母を見捨てられない。母や時々金を無心する。奈津子が特許を取って以来、母は金を無心し、奈津子はそれを断れず金を渡す。いつもは振り込んで終わりだが、ごくたまにこうやって手渡すこともある。それはまだ母親が生きていることを確認するようなものだ。嫌悪し、侮蔑している母に、そうやって金を渡す。

「また来るわね」

 来るのは家ではない。きっと次の時もこのようなカフェで会うのだろう。自分の生まれ育った家だというのに、居心地が悪い。父と母の様子を見るにつけ、結婚に希望を持てない。

 奈津子は小さなころから才色兼備と言われていたから、付き合う相手に困ったことはなかった。が、そのどれもが長続きしなかった。相手に透けて見える男尊女卑の本音が奈津子を冷めさせた。

 帰り路、やはり気になって家の近くの高台まで遠回りした。二階の南側の部屋にはカーテンがかかっていた。ベランダはごちゃごちゃといっぱい植木鉢やプランターが置かれているが、どれにも緑はない。かれた草木の残骸が寒々と残っていた。あの中で兄は何をしているのだろう。一階のリビングには夕方が近づいたからか電灯がともった。母はこれから夕食の支度をするのだろうか。奈津子は踵を返して駅に向かった。

 帰るのだ、だれも待っていない、そして居心地のいい自分の住まいに帰るのだ。


稚拙な文章ですが閲覧していただきありがとうございます。なるたけ時間をおかずに続きを掲載したいと思います。次の掲載をぜひ閲覧のほど、お願い申し上げます。

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