女性だけの会社2
男性の方にとって不快な内容が含まれる可能性があります。男性の方がこの小説を閲覧されて、気分を害されても当方は一切の責任を負いかねます。本作品は純粋な空想科学小説です。フィクションであり、実在する人物団体名とは一切関係がありません。また本作品で描かれている科学技術のほとんどがフィクションであり、現実に可能になっているものではありません。将来可能になるかどうかは現時点では言及できませんが、いくつかの技術は実用化してもらいたいと切に願っております。
実家といっても赤城奈津子は結婚しているわけではない。28歳、独身。文科省の特例処置で飛び級して17歳で大学を卒業した異才だ。専門は生物、それも微生物を研究している。14歳で高校を卒業してから、返還無用の奨学金で大学に進学した。
奈津子が学齢に達したとき、学校制度が変わり、飛び級が認められた。小学校時で二回、中学で一回、高校学校で一回、飛び級が認められる。その代り、留年も認められるようになった。奈津子はとびぬけて賢いその頭脳を認められ、上限いっぱいの飛び級をして、最年少で大学進学を果たした。その時に家を出た。そのまま大学院に進学し博士号も取り、先端科学研究所に就職した。同じ東京に住んでいるというのにたまにしか親に会うことはない。
「おかえりなさい。無理していないの」
出迎える母親はいつも心配を口にする。六十を超えた母はめっきり体が弱ってきた。心配するのは赤城のほうだ。赤城奈津子は母が心配になっているから嫌で嫌で仕方のない実家に、実家の近くに帰ってくるのだ。
「別に、体のほうはいたって健全だよ」
両親はともに六十を超え、健康にも問題が出てきている。特に父は糖尿病で、食事療法が必要なのだが、わがままな父はそれを受け入れようとしない。薬は飲んでいるのだが、暴飲暴食を繰り返すので、病気は進行するばかりだ。
母はその父に対して口答えすらできず、言いなりになって酒や食事の用意をする。その家を奈津子は毛嫌いしている。だから家に帰るといっても家のそばまで来るだけで、実際に家に入ることは大学に進学してから一度もない。
父は奈津子の進学にも反対していた。理系に進みたいという奈津子に、お嬢様大学に行って無難な結婚をしろと言い張る父とうまくいくはずがない。飛び級して神童と言われた娘に対して、玉の輿を狙えという時代錯誤な父と理解しあえるはずはない。
「一体いつの時代よ」
それが奈津子の口癖になっていた。奈津子は猛反発し、実力で超難関大学に入学、そのまま奨学金をもぎ取り、家出同然で進学を果たした。今どき理系に進学する女性は多い。かつては紅一点などと言われていただろうが、奈津子の大学では理学部や工学部の4割が女性だ。社会科学系は七割近く、全体でも6割が女性になっている。日本の最高学府といわれる大学でも女性の進学はすさまじく、他のベスト20に挙げられる大学ではおおむね女性のほうが、学生数が若干多い。そして首席で卒業する学生の多くが女性である。それなのに社会に出ると女性は価値を認められない。
「まったく」
愚痴がこぼれる。高度科学技術研究所でも女性の扱いはひどい。五十嵐の問題は珍しいことではない。
「仕事場でうまくいかないの」
奈津子の機嫌が悪いので母親は心配げに声をかける。
「別に大したことじゃないわ」
そう、論文の乗っ取り程度、日常茶飯、まだ五十嵐の名前が残っただけめっけものだ。
「それより、うちはどうなの。お母さんのほうこそ、大丈夫?兄さんはどうしてる」
奈津子が気をかけるには理由がある。父の糖尿病だけではなく、この家には闇がある。兄だ。
「昼間は寝ているみたいで静かよ」
二階の南側の部屋が兄の部屋だ。広さ六畳にベランダが二間分、奥行きの広いタイプなので、かつては兄がベランダ菜園をしていたころは緑が滴っていた。ベランダから垂れ下がった枯れ草が風に揺れている。もう十年近く緑はない。かれた茎や蔓が垂れ下がり、それが母の手に届く範囲だったら切り落として掃除をしたが、手の届かないところはどうしようもない、ベランダから掃除しなければ片付かないが、兄の部屋を通らなければベランダに出られないので、そのまま放置されている。奈津子は家には入らないが、時折、家のそばまで来て家を見ている。そのみすぼらしさがたまらなく嫌で、結局家に入らず、こうやって親を駅前まで呼び出すことになる。
「今はいいカウンセラーがいるわよ」
「そんなの、お父さんが許すわけないじゃない」
そうだ、父が許さない。父は赤城の家から引きこもりを出していることを認めたくないのだ。
稚拙な文章ですが閲覧していただきありがとうございます。なるたけ時間をおかずに続きを掲載したいと思います。次の掲載をぜひ閲覧のほど、お願い申し上げます。