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第1章 七話 『仮の借り』

 


 太陽が長い影をつくりながら朝を告げていた頃、洞窟の入り口では目覚ましには丁度いい説教をくらっていた。

 しかし俺が心底申し訳なさそうな顔をすると、ため息を吐きながらも意外とすぐに許してくれたので、ツンツンデレも健在だ。


「あのさシロ、食べ物ないか? 俺もうお腹が……マジで餓死る」


「何ですかその餓死るって……食べ物ですか? さっきあなたが二回も食べ損ねた果物ならありますけど。まぁクロ姉ちゃんと私に物凄く感謝しつつ、どうぞ召し上がって下さい」


「あぁ感謝するよ。ほんとに今度こそいただきまーす」


 俺だってもちろん学習はする。

 今度は両手を合わせて異世界転移しないよう、手は膝の上に置いていただきますを行った。

 いい加減に空腹を訴えてくるお腹が限界だったので、今度ばかりはミス出来ないのだ。


「うめぇ」


 空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。

 口を大きく開けて果実を口の中に入れると、とにかく美味しかった。

 ようやくこなせた異世界での初の食事は、まず忘れさせてはくれまい。


 今、振り返ってみると異世界人ですらパニックになるような事を俺は味わっていたのではなかろうか。


 よく考えれば異世界が一つだけなんてありえない。

『異』は無限の可能性を秘めている。

 日本も含めて三つも世界があったのだから、ここまで来ると何でもありではなかろうか。

 そういう考え方をすると、俺はその無限分の三しか世界を巡っただけにすぎないのだ。




「広いなぁ」




 最後――そうポツリと思いながら、果物をむしゃぶりついた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 全部食べ終わるのにそう時間はかからず、ようやくお腹が満たされることに満足を覚えていると、先程から気になっていた事があったので遂にそれを聞いてみた。


「それにしてもシロさんや、あの二人はいずこに?」


「む? 何ですかその喋り方……二人ならあなたのために食べ物を取りに行きましたよ。全く、クロ姉ちゃんたら、こんな人のためにそんな事しなくてもいいのに」


「ひどい言われよう。あのさ、そんなに俺らに出て行って欲しいのか?」


「はい」


 予想にはしていたが即答だと少し傷つくものがある。

 心底深いため息を吐きながら、何故こんなに嫌がるのか疑問に思ったが、こんな事を考えても仕方ない。

 それでも俺は何となく片手で頭を掻きながら、たった今思いついたのをシロに提案してみる。


「じゃ、こうしよう。ギルドレスっていう悪人倒してくれたら、ここを出て行くってのはどうだ?」


 シロを助っ人に選んだのは簡単な話だ。

 エミルに対しては不意とはいえ、異世界に連れてきてしまった、とてもじゃないが頼みにくい。

 クロに対しては日本で友達の少なかった俺にとっては少しでも仲のいいシロの方が都合がいいのだ。

 つまり消去法でシロを選んだわけなのだが先程のシロの攻撃を見た限りでは、俺でも攻撃が入ったギルドレスよりは確実に強いはずだ。


「あなたって人は食べ物もらって、泊まらせてもらって、怪我を治してもらって。さらに悪人を倒してくれと言うんですか。む〜いい身分ですね!」


「そこ突かれると痛いんですけど! そこを何とかさ」


「そもそも私とクロ姉ちゃんは森をあまり離れるわけにはいかないのですよ。それにいなくなったらクロ姉ちゃんと…………心配しますよ」


「ん、その事に関しては大丈夫。何と! 一瞬で街に移動できる上に一瞬で終わるんだ」


「街に一瞬で移動できて一瞬で終わる!?……そ、それは少し興味深いですね。街、街ですかぁ」


 意外に食いつきて来たので、はっきり言って驚いた。

 俺、この道で生きていけるんじゃ? などと血迷ったが、異世界まで来てそんな事してたまるものか。


 先程、攻撃してくる危険な奴の面影はどこへやら、目をキラキラ輝かせながら、ちゃんとした女の子の姿がそこにはあった。

 シロの意外な一面をこのまま見ておきたかったが、このチャンスを逃すほど俺は鈍感ではない。

 このままトドメを刺しに行った。


「ふふふ、何と今ならお得! 敵はお前よりかなり弱いし、一人だけだ!」





「――いいですか? あくまでここを出て行ってもらうためですからね」


「へいへい。じゃあ俺のどこかに掴まってくれ」


 シロにトドメを刺し、承諾を得た俺は三回目の対面となるカツアゲ野郎をリベンジする準備が整った。

 エミルが俺に触れたのは、恐らく背中辺りだったろうから他も大丈夫なのか実験するには丁度いい。


「こう、ですか?」


 こいつ……ワザとじゃなかろうか? それとも知らないのか? いやバカなのか? うんバカだ間違いなくバカだ。

 服の胸元をグーで掴んで上目遣いをする奴なんてただのバカだ。


 ギルドレスのリベンジに燃えてたところを、ある意味ガソリンを撒かれた気分になったのは、男ならではだ。誰も文句は言えない。

 というかこのまま両手を前に合わせると、シロを抱きしめる形になってしまうのだが、後ろで手を合わせれば問題ないと気付くのに五秒かかった。


「じ、じゃあ行くぞー……えーと、」


 そういえば技名考えていなかったな、どうしよう。

 シンプルに『転移』でいいか。


「転移」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何か締まらなかったがそんな事はもうどうでもいいのだ。

 実は果たしてこっちの世界に戻れるか少し不安だったのだが、その不安は吹き飛んでいった。

 何故なら豪快な太陽さんが、路地裏まで光をとどけてくれていたからである。

 前方にギルドレスを確認。現在地『路地裏』。状況『優勢』 状態異常『生理現象』


「はぁー!? 貴様、何をした!?」


 このギルドレスの面白い反応で確信へと変わったが、やはり時間は止まるらしい。

 驚くのも無理はない。ギルドレスから見るとあたかも俺がシロを召喚したように見えるからだ。


「さぁ、約束通り出すもの出したぞカツアゲ野郎!……先生、お願いします」


「あなたそれでいいんですか? それにしても、本当に一瞬で来ましたね! むむむ、なるほどなるほど」


 早くギルドレスを何とかして欲しいのだが、何に頷いてるのか分からないが、路地裏の隙間から商店街を覗き込んでいた。

 そうしている間にも混乱していたギルドレスが、次の行動に移していた。


「この野郎!」


 振りかざされた太い腕は俺の脳が、経験によって危険信号を激しく送ってきた。

 だが俺にこれを止める術などありはしない、反射的に腕で身を守る事が精一杯だ。

 それでも、ギルドレスの拳は止まったのだ。

 理由は簡単だ、意図も容易くシロが片手で止めていたからである。


「なぁっ!?」


 それからは一瞬だった。

 右上に乱暴にギルドレスの腕を投げると、そのまま懐に入り――


「いやぁ、マジ助かったよシロ。あのギルドレスの逃げる姿とか最高だったぜ」


「む、そうですか。じゃあ早く帰してください、クロ姉ちゃんが心配してるかもしれません」


 どうせあっちの世界は時間が止まってるからそんな事は無いとは思うが、とりあえず面倒事は済んで肩の荷が下りた。


「転移」


 ――ようやくのような呆気なかったような決着が着いて一段落つき、俺はそのまま硬い洞窟の岩に座り込んだ。


「む、帰ってきましたね。本当に一瞬で移動しましたし、敵も弱かったですね。そのおかげで確かに一瞬で終わりましたよ」


「一瞬ってそういことじゃなかいんだけどまぁいいか。本当に助かったよ」


 俺はほとんど何もやってないが一息ついていると、洞窟の入り口の向こうから聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 その声の主は猫耳かつ超絶美人、おっちょこちょいが代名詞、チョネコことエミルであった。


「シュウ! よかった目が覚めたのね。ほら見て、果物たくさん採ってきたから、みんなで食べましょう。クロちゃんも後から来るって言ってたわよ」



 物事とは突然だ、その人の意思関係なしに物事は良くも悪くも突然現れるものなのだ。

 俺が異世界に来たのも突然だったんだ、特別きっかけがあったわけでも無く予定してたわけでも無い。

 その人の都合に合わせてなんて、絶対にありはしない。

 エミルと出会ったのもシロとクロと出会ったのも、突然の出会いだった。

 それは、カブラギ シュウにとってはどんな突然だったか。そんなの愚問だ、良い突然に決まっている。


 ――もう一度だけ言おう


 物事とは突然だ、『良くも』『悪くも』


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