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第1章 六話 『発動条件』

 

「ごめんなさい! ありがとう! いただきます! こんばんわ! ごちそうさま!こんにちは! おはようございますーー! はぁ、はぁ……oh」


 未だかつてないほどの大声を応えるかのように路地裏に響いていく。

 何をしてるのかと聞かれれば、勿論ふざけてるわけではない、この男を倒すための秘策である。


 1回は『ごめんなさい』をして発動。2回目は『いただきます』をして発動。

 それなら『挨拶』的な事をすればいいのかと思い試みたが今失敗に終わったのだ。


 先ほど思考終了! とつい思い上がってしまったがさっきのはマグレ推理だ、自惚れてはいけない。


「貴様……さっきから何を言っている? 頭でも打ったか?」


「おうおうおう! 悪人に心配されるほど俺は

 ヤワではないんでな! こんばんわ!」


 何でもいい取り敢えず何か言っておけ!

 俺は路地裏にあったホウキをお借りして、ギルドレスと対峙する。


 今何をすればいいかなんて愚問だ。


 ーー考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ


「いただきます! ありがとう! ……ありがとうつってんだろ! 来い来い来い来い! お願い来てください!」


「いやだからさっきから貴様何を言っている……まさか、助けても呼んでいるのか!? ならば口封じをしなければなぁ!」


 やばい、変な解釈をしたギルドレスがこちらに向かって走り出してきた。

 そのままギルドレスは右肘を引いてそれをバネに、俺の腹を狙う。


 これをなんとかホウキで防ぎ、尻餅をついてしまうが、何とかほぼ無傷で済む。


 ーー考えろ考えろ考えろ考えろ! 早く助っ人を呼んでこいつ倒してもらわないと! でも発動条件分かんねぇ。


 すぐに立ち上がり、昔鍛えたペン回し技術の応用でホウキを回しながら威嚇する。

 だが間も無く、躊躇なく空を切るようなギルドレスの拳が俺の顔の輪郭を崩し、俺はそのまま飛ばされる

 口の中に苦い味がするなか俺は必死にギルドレスに話しかける。


「待て待て待て語り合おう! 分かち合えるって! 何故言葉は生まれた? そう、分かち合うためだ! それを使わないなんて勿体ない!」


「そりゃあそうだ。いいだろう語り合おうじゃねぇか。だが……1つ違う、言葉では無く行動でなぁ!」


 再度襲ってきたギルドレスがそんな事を……言葉ではなく、行動で? 言葉ではなく、言葉で……


「あっーー」



 視界が二重三重に見えきたのは突然だった。

 思考が強制終了し膝が地面につき、四つん這いになってしまう。

 しばらく上か下かも分からない状態に陥ったがようやくピントが合う頃には、頭を鷲掴みにされていた。


 自分は騙せても体は騙せないようだ、俺は体力的にも精神的にもそろそろ限界がきていた。


 それもそうだ今日は沢山ありすぎた、本当に。

 全くーーもう少し手遅れだったら危なかったかもしれない。


「こっちもあまり時間がないんでな、さぁ! 今すぐ出すもの出してもらおうか!」


「あぁいいぞ。今すぐに……な」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 先程よりも微弱な光が精一杯に闇を照らして2つの影をつくっていた。

 その光が肌に当たると疲れていた体を優しく撫でてくれるかのように、優しい温かかさだった。


「つ〜か〜れ〜た〜良かった、ようやく帰ってこれた。お〜シロご無沙汰」


 脱力に襲われると腰が引けて座っていた石に深く座る。


「ーー!!! え……どうしたんですかその傷! 何故この一瞬で……ご飯を食べようとしただけでどうしていきなり傷だらけになるんです!?」


 このシロの面白い反応、やはり時間が止まっていたみたいだ。なるほど、これがよくある異世界のチート能力か。けど、異世界転移ができるチートって何だよ。


 そう、こうして無事帰ってくることが出来たのだが、


 異世界転移の発動条件。それは言葉で何かを言うのではなく、「ごめんなさい」と「いただきます」の共通する行動だったのだ。


 この2つの共通する行動、それは『両手を合わせる事』 まさかギルドレスのあの発言がヒントになるとは予想外だった。

 両手を合わせると異世界転移するわけだから、今両手を合わせてしまうと、また続きからギルドレスと戦わなければならいのだ。


「まぁ待て驚くの無理ない。目の前の人間が突然傷だらけになるんだからな。でも今そんな事より食べ物ないか? お腹がペコペコペッコでさ」


「そんなことよりって……あるにはありますけど……む〜分かりました、ほらどうぞ犬のようにむしゃぶりついてください」


「そのギャグさっきも聞いたぞ……なんていうのは嘘だから食べ物燃やそうとしないで下さい!」


「む! 全く失礼な人です」


「はいすいません。そんじゃ今度こそ両手を合わせないように気をつけてと、いただーー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 意識がなくなったことに気づいたのは、目が覚めた時だった。

 ギルドレスの時とは違い、だんだんというよりは一気に意識が喰われたって感じだっただろうか。


 記憶を辿りながら葉っぱの毛布を取ると、あることに気づく。ギルドレスに傷付けられてたいたはずの俺の体は綺麗に治っていたのだ。


「何だ? 全部夢だったのか?……げ」


 一瞬夢オチ? と思ってしまったが、その考えは目の前の光景で全て覆される。

 起きるのを待ち構えたかのように、おでこの右側に見えるはずのない怒りマークをつけたシロが仁王立ちしていたからである。


「よく、眠られたようですね。もう朝です」


「はい」


「クロ姉ちゃんには感謝するんですよ? 傷を直したの、クロ姉ちゃんですから」


「はい」


「ふぅーーっ何で急に倒れこむんですか! 食べ物食べようとしただけでボロボロになったとかあの二人に言い訳出来るわけないじゃないですか! そのせいで二人に何て言われたと思います? それは尋問じゃなくて拷問だって言われたんですよ!? むー! むー! むー!」


「はいー!」


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