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第1章 五話 『考えろ』

つ、疲れた

 




「いたたた、おいシロ! いきなりなにしやが……る?」


 痺れる痛みが頰を蝕むなか、この痛みの元凶と思われる白髪に文句を言おうとするが、どうやら事情が違うらしい。

 どういう事かは俺にも理解は出来なかったが、そんな中でも僅かに確認できたのは『帰ってきた』という事だけだ。

 太い足と腕はもちろん、人間サイズとかけ離れているデカイ図体は記憶を呼び戻すのには十分過ぎる材料であった。


 こいつシロじゃない。こいつは――


「ギルドレス!?」


 どうしてこうなったんだっけ――





 ――シロが食べ物を持って来てくれるとのこと、そのため俺はシロが来るまで時間潰しとして色々妄想を膨らませていた。


「いやぁ〜エミルのおっちょこちょいもいいけど、シロのあのツンツンデレもなかなか〜」


「ツンデレやらツンツンデレやら何言ってるのか全然分かりませんが、なんか物凄くくだらない事のような気がするんですけど……ぶっ潰しましょうか?」


 片手の炎を明かりがわりにしながらツンツンデレはやって来た。

 山から持って来たのだろう美味しそうな青い果物とは反面、物騒なことを言ってきたがこいつが言うと、どうしても冗談には聞こえなく居心地があまり良くない。


「こらこら、女の子がそんな物騒な事言っちゃダメだって。もっと穏やかに和やかにお姉さんみたいに」


「むー! クロ姉ちゃんは今は関係無いです! どうやら食べ物は……そうですね、これは全て燃やして処分しちゃいましょう!」


 こいつの親はちゃんとカルシウムを摂取させていたのかハタハタ疑問に思ってくる。

 そういやこいつらの親はまだ来ない、帰って来たら色々文句言ってやろう。

 とりあえず今は食べ物防衛戦と行こうではないか、せっかくの食べ物を燃やさせてたまるものか。


「待て待てせっかくの食べ物が勿体無いから! 今の時代はエコ。食べ物は粗末にするなってお母さんにもよく言われなかったか? 今のお前を見たらきっとお母さん悲しむぞ? 叱られるぞ? お母さんってのはありがたく迷惑っていうか、俺にも母さんいるけどそりゃあうるさくってな」


 語彙力ゼロの俺が論破した事など一度も無かったが、このまま無理矢理押し切っちまえと自分に応援。途中、自分の親の口になってた気もする。


 ……でも何だろう。 何故、俺の異世界に来て初めての食べ物が、こんな尋問されてる時の日本でいうカツ丼的な存在なのだろうか。

 しかもそれを必死に守ろうとしているこの状況。

 何か悲しいが、今はそんな贅沢言うわけにもいかない。

 この空腹を満たすチャンスを逃すわけにはいかないのだ。


 ――だが、次の言い訳を考えようとしたその時、ある光景を見て思考を止めた。いや正確には止まってしまったと言った方が正しいかもしれない。

 何故なら床につく音が聞こえるくらいに一粒一粒大粒の涙が流れていたからである。


「お、おいちょっと待て、お前どうして泣いちゃってる?」


「……泣いてない。 泣いていない! 泣いていない!」


 そう言いながら鳴き声を出さずに一生懸命に手で涙を拭うシロを見て、俺は困惑を隠しきれていない。

 ――待てよ急にどうしたんだよ、俺少し言い過ぎちまったのか? いくらシロが強気な性格でも、やはり女心は繊細なのかもしれない。

 側から見たら完璧に超悪者扱いにされてしまうこの光景を、少しでも落ち着かせようと試みる。


「おいおい! どうして泣いてんだ!? ごめん言い過ぎたか? 本当にごめん。だから泣き止んでくれ頼むから」


「違うんです、 そうじゃないんです。あの……やっぱりこんな、私なんか、どう、せ……」


 やばいやばい、ほんとやばい。


 これはとんでもない地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 この状況を誰かに見られたらとんでも無いことになってしまう。

 わたわたと慌て、頭を抱えて必死に慰める言葉を考えるが、ふと気がついた。


「もうこれフラグ!」


 するとそれに答えるかのように洞窟の入り口から足跡がどんどん近づくのを感じた。

 終わったと心の中で念を唱えていると、炎の光で徐々に見えてくるその正体は、


「忘れ物持って来ましたよ〜 あら! どうしたんです?」


 ここで誤解を招いて理不尽に怒られたりするパターンだったと思っていたがクロは違った。

 ちゃんと訳を聞いてくれるタイプだったので胸を撫で下ろす。


「えーと、これはだな……頼む、言い訳させてくれ」


「はい、何があったのです?」


 もしこれがシロだったら俺は今頃、黒焦げにされていただろう。

 俺は正直にありのままのことを話し、クロはちゃんと最後まで大人しく聞いてくれた。


「ある程度のことは分かりました。ちょっと待っててくださいね? 」


「え? あ、はい」


 そういってクロは未だに涙目でいるシロの手を繋いで、来た方向へ戻っていってしまった。



 約五分後



「いや〜シロのツンツンデレもいいけど、クロの超和やか穏やかな性格もまた捨てがたい」


「まだ同じようなことを言ってたんですね」


 そこには目の下を少し赤くして、ほぼ完全復活を遂げたシロの姿。


「よお、ようやく落ち着いたか、俺少し言い過ぎちまったか? なんかごめんな」


「全くですよ! というか、そもそも私泣いてませんから」


「………………………………………………フッ」


「むー! 信じてない! 本当に泣いてませんからね!」


 腕をブンブン振って意外に可愛い動作をしてくるが、これ以上は色々めんどくさいのでスルーする事にした。

 禁止ワード『お母さん』というのを肝に命じると、さすがに次に口に出してしまったらクロにも怒られてしまいそうと自身に誓う。


「それじゃあ、ウルトラスーパー腹も減ったことだし、早速頂こうかな」


 そう言いながら青い果物を手に取ろうすると、ヒョイっとシロに取り上げられてしまった。


 おい


「待って下さい。さっき私を悲しませた罰として、もう少しだけ付き合って下さい。それが終わればどうぞ、犬のようにむしゃぶりついて下さい」


「ひっでぇな」


 どうやらさっきの事を根に持ってるらしいが、言い方がキツイ。本当にお姉さん見習えとおもう。


「ではあなたの背負ってるそのカバンを見してください」


 このカバンが気になってんのか、俺にとっては利用価値ゼロなものだから別に燃やされても構わない代物だ。

 というか、捨てるのに丁度いい気もする。


「ほらよ。煮るなり焼くなり好きにしていいぞ」


「あなた本当私の事なんだと思ってるんです? 全く失礼な人。ではでは拝見」


 そう言って色々手であさったり顔を突っ込んだりしているシロであったが、しばらく経つと少し不安になって来たのは否定出来ない。

 しかし、その不安とは裏腹に問題がなかったかのようにカバンから手を離して膝に置いた。


「どうやら……何もないみたいですね。まぁ休憩を兼ねて私達に物凄く感謝しながら、どうぞ召し上がって下さい」


「あぁ感謝するよ、感謝しますとも。じゃあいただくとするか」






「いっただっきま――」






 ――そうだ、俺はあの時シロから食べ物をもらって食べようしたんだ。

 頰をさすりながら周りを見渡すと、ここはさっきまでいた洞窟じゃない事に気付いた。


 抗えない光が豪快に世界を明るくし、夜行性の天敵として太陽が堂々と君臨している。


 前方にギルドレスを確認。現在地『路地裏』、状況『不明』。状態異常『混乱』


 いきなりどういう……事? 俺路地裏に戻ってきたのか!?

 真っ先に考えた可能性として、瞬間移動でもしたかと思ったが、さっきまで夜だったはずなのに昼間だ。


  ――どういう事だ?


「おい貴様さっきから、何ボーとしてやがる。俺様のパンチがそんなに重かったか?」


「い〜〜〜や全然。よう、数時間ぶりだな。カツアゲ野郎」


 超痛い。


「は? 何言ってやがんだ? 貴様舐めてんのか」


「何って……何がだよ」

 

「数時間ぶりでも何でもねーだろ! 今、現在進行形だろーが!」


  現在進行形?


「ふん! まぁそんな事はどうでもいい、さっさとカバンを渡して貰おうか……っておい貴様、今まで背負ってたカバンをどこにやった? しかもよく見ると猫女がいないんだが、いつの間に逃げやがったんだ?」


 猫女というのはエミルの事と考えていいだろう。

 しかし、いつの間に逃げたとはどういう事なのかが一切理解が出来ない。それに、カバンはシロに取り上げられた後返してもらってないだけなのだが。


 今確認できるのはギルドレスと俺の会話が全く噛み合わないという事のみだ。


 俺は考える事に全てを注ぎ込むよう、意識を思考の世界へと移行させる。

 だがあくまでこれはギルドレスが大人しくすればという前提があってこそ成立するものであり、それが成立するというのはないに等しいはずだ。


「猫女はまーいい。貴様、どこにカバンを隠しやがったんだ? あまり時間ないんでな、行かせてもらうぜ!」


 そう言いながら俺に再び襲いかかってきた。

 再開されたこの状況は、エミルがいたから気付きにくかったかもしれないが、緊張感がすごい。

 戦うしかない。大丈夫、これでもし相手に怪我させたとしても正当防衛なんだ。


 しかし普通に戦って勝てるはずがない。

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ! 一秒でもこの怪奇現象を考えるんだ。


 ギルドレスのパンチ二発目が俺に届こうとした時、後ろに後ずさり何とかギリギリで回避。その隙も逃すはずがなく、カウンターで俺も反撃を仕掛ける。


 よっしゃ意外にいけるぞ


「どうだ! ザマァみやがれ!」


「この程度か。こりゃあ退屈だなぁ!」


 図体がでかい割りに煽り効かない。少しは悔しがって欲しいものだ。


 いやそんな事はいいから今は考えるんだ。


 やむを得ないが今は攻撃は必要ない。避けるか防御に専念しよう。

 この怪奇現象を整理する事がおそらく今の最優先事項だ。



 まず路地裏からいきなり商店街に行った事。その時はエミルと一緒だった。

 そしてエミルによると、いきなり路地裏から商店街に来たかと思えば、金が使えなくなるし、国の数も違うし、さらに存在しないはず国が存在するって話よ。


 そしてシロの発言から、逆に存在するはずの国が存在してない。



 少し前から薄々勘付いてはいたが……これって



「まさかこれって俺が日本から異世界に来たのと同じ状況なんじゃ……ぼこべ!」


 ギルドレスの攻撃を上手く避けていただが、ついに顔面に命中してしまった。

 思考を遮断されかけたが、なんとか持ちこたえ考え直す。

 ――という事は俺は日本から異世界に転移した後に、さらにそこから別の異世界に転移したって事になるんだ。


 そして今はまた異世界転移してここに戻って来たという事か。


 エミルと俺のカバンはあっちの世界において来たから、今こっちの世界にはない訳だ。

 つまり俺は日本以外の、2つの異世界を行き来したという事になる。


 しかしこれはあくまで推測に過ぎない。後せめて最終確認が欲しい。


「いたたたた。ちょ、ちょっと待った。話をしよう! 少し聞きたい事があるんだよ!」


「聞きたい事? フンッ! いいだろう。冥土の土産に答えてやる」


「殺す気か! まぁ話が早くて助かる。そんでここはなんて国だっていう事とソニック王国って知ってるかという質問だ」


「なんだそんな事か。ここはストライス王国だ。後、ソニック王国だったか? そんな国は知らねーな。……もういーんだよな? では続きと行くか!」


 ビンゴ


 俺は立て掛けてあったほうきを武器がわりにして手に収めて身構え、防御と思考に全てを注ぐ。


 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ


 エミルが今、向こうの異世界にいっぱなしとなると発動者は多分俺だろう。

 恐らく俺が何らかの発動条件を満たした時にエミルが俺に触れて巻き添いにしてしまったんだ。

 そして一緒に異世界転移してしまった、という訳だ。


 そしてまだ引っかかる点がある。それはこのギルドレスの発言に他ならない。

 ついさっき久しぶりにあったはずなのに、こいつ現在進行形とか言っていた。

 そしてかなり時間がたっているはずなのに、この世界は真昼のままだ。


 ――もしかして、俺が片方の異世界に転移すればもう片方の世界の時間が止まっちまうのか!?


 ゲームで例えると2つのセーブデータ見たいなものか。


 ということは今、エミルとシロとクロのいる向こうの世界は時間が止まっているかもしれない。

 ギルドレスのパンチをいきなり食らったのも、俺が殴られる寸前で異世界転移したせいだ。

 他にもギルドレスから見て、カバンとエミルが急に消えたように見えたのも、きっとその理由だ。



 合点が一致する。



 結論として、恐らく俺のチート能力は二つの世界を行き来できる異世界転移。

 さらに俺が片方の世界に転移すると、もう片方の世界が時間が停止する。

 俺が停止した世界に転移すると再び時間が動く、という訳だ。


 簡単にいうと、俺がいない時の方の世界は時間は動かないっていう事になる。

 そして今やる事は一つ、発動条件を探して誰か助っ人連れて来る! そんでもってカツアゲ野郎を倒してもらう事!


 思考終了反撃開始!




 俺……セコイな

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