表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第1章 二話 『疑問・現象・ハッピー』

かなり雑になってしまいました。

ご了承を

 


 人と人が出会うというのは単純だが、希少だ。


 小五の時、会話をする気もなかった他校の生徒と、目が合っただけで名前を知れた事がある。

 俺がこうやって異世界に来て、そして異世界人と出会うというのは一体どんなえげつない確率なのだろうか。

 数学上表すのはまず不可能であろう。



「それで、そのネコミミは本物?……ではなくて、この花は何なの? 衝撃を受けると爆発する的な、地雷ポジション?」


 凛々と咲いている、血の色に近い花を指差した。

 地面だから花が咲いても確かに可笑しくないが、まさかこんな所に咲いているとは……

 雰囲気を壊された事と、機嫌も少し悪かったので、強く言ってしまったのを後悔しつつ、ネコミミに問いかけた。


 何故こんな事を問いたのか。

 どうやら俺は花を踏みそうになり、思い切り押されたらしいのだ。


 それだけ聞くとバカな話だがここは異世界だ。

 どんな花があっても全然おかしくない。


 だからこんな質問だったのだが……


「えと、普通の花です……」


「え? 何だって?」


「だから、その、普通の花です……」


「え? 何だって?…………え? 何だって?」


「ごめんなさい! やめてください! 私が悪かったのでやめてください!」


 この花のように顔を真っ赤にして、腕をブンブンと振ってきた。

 少し意地悪したけど、予想を裏切らない可愛らしい反応にとりあえず感謝。

 それにしても花を助けるために、俺を思いっきり押したって事だが……何だ、その優しいのか優しくないのか分からん行動は。


 だが、この子はおっちょこちょいという、ポイントが高い属性持ちということになる。

 そこにネコミミが加算されれば鬼に金棒、獅子に鰭。

 何という属性の化学反応、強いもの同士がぶつかり合って見事に中和しているではないか。


「おっちょこちょいとネコミミ。おっちょこちょいとネコミミか。あ、チョネコ! チョネコってのはどうだ!?」


「何で私、初対面の人にそんな不名誉なあだ名をつけられなきゃいけないのよ! 私にはエミルという名が――」


「不名誉とはとんでもない、これは愛嬌なんだ。世の中にはおっちょこちょいが好きな人がいるくらいだからな。あ、俺カブラギ シュウ。シュウって呼んでくれ」


 何を語ろう俺がそうなのだ。

おっちょこちょいとは何とも素晴らしい響きだと思う。

 おっちょこちょいは一種の才能であり、生まれつきみたいなものであって、そもそもおっちょこちょいというのは――


「そ、そんな変人がいるの?」


「――っ!」


 顔が青くなり、自分でも分かってしまうくらいに新種の感情を植えつけられた気分になった。


 挙句の果てに体の何かが破損したかのように、緊急脳内機能停止が発令され、女の子とロクに話してこなかった俺としては中々にショッキング。


 ちゃっかり自己紹介したのも不発に終わり、せっかくの異世界ムードを無意識的に破壊され呆然としていると、未知の気配を感じ取った。


「さっきから道のど真ん中で何をしている、邪魔だ」


 脱力に襲われながら、突如後ろから現れた低くダンディーな声に振り向くと、電気が走ったかのように脳の活動が再開した。


 我ながら単純な奴だとは思うがこのインパクトに勝てる者などそうそういるまい。


 あと数センチでおでこが付きそうなくらい、黒い小型の竜と鉢合わせしたからである。


「――ぬあっ、竜が喋った!? 」


 異世界は何でもありなんだなと感心すると同時に、密かにあった動物と会話するという子供みたいな夢が叶った。


 俺は目をキラキラと輝かせ、夢どころか行動まで子供じみていた。

 感動を噛みしめていると、そのダンディーな低い声は再び俺の耳に入ってきた。


「何言ってやがんだ! こっちだこっち!」


「え?」


 この世界には太陽もあるらしく、逆光を手で塞ぎながら声がする方を見ると、後頭部が光ってる頭の寂しい男が……

 事の全てを察し、いきなり夢を壊され何かのパラメーターが急減少。

 感情の突起がまた一つ増えてしまった。


 くそこのハゲ親父め。さすがの異世界も動物は言語を話せなかったか……いやしかしこれって


「すみません! すぐにどきますので! ほら行きましょシュウ……ねぇシュウ聞いてる?」


 すげぇもしかしてこれって


「これ、もしかしなくても竜車か!」


 小型の竜に繋がれたらロープを辿ると、竜とともに積み荷を支えていた木のキャビンがあり、馬車とも似た形状だった。

 すると御者席に座っているハゲ親父が、


「あ? 竜車がそんな珍しいのか、変な奴め」


 何だこいつという変な目で見てくるハゲ親父だったが仕方ないじゃないか。

 こいつら異世界人だって飛行機とか車とか見たら絶対魔法ぶっ放すぞ。

 大惨事間違いなしだ。


「やっぱ竜車かぁ。なぁおじさん、この竜……触っちゃ駄目?」


「急いでんだよ! 早くどてくれ!」


「すみません! すみません! すみません! ほら行くよシュウ!」


 エミルが謝りまくって、俺の腕を離さんとばかりに意外と強い握力で掴むと、そのまま引っ張られて、薄暗い路地裏に拉致られた。


 捨てられた金髪の人形を始め、かなり年季の入ったホウキや空の木箱が散乱していてる。

 全くこんな所に連れて来て一体何をする気なのやら。


「言っておくけどそんな事じゃ無いからね? さっきの場所は目立ってたからよ」


 異世界人はエスパーだったか、まさか人の心が読めるとは。

 おっちょこちょいのエミルにさえ心を読まれるとは俺もまだまだ修行が足りん。


 というかその目立った状態で路地裏に連れてくのも中々あれだがそんな事は気にしない。


 ――まぁそんな下らない事はさておき、さっきからエミルの俺に向ける視線が気になって仕方ないのだが。


 そのいずい気持ちを答えてくれるかのようにエミルは話してくれた。


「ねぇシュウ。あなたもしかして竜車を見たことがないの?」


「え、まぁ一応初めてだけども」


「その、出身国は?」


「日本よりジャパンの方が自然かもな」


「ジャパン? う〜ん、聞いたことがないんだけれど、全40カ国の内そんな国あったかしら?」


 顎に人差し指を添えながら、クエッションマークを浮かしているエミルだったが、この世界では40カ国もの国があるのか。


 意外に多いと感じてしまうが実際のところ、元いた世界より四分の一も満たない。


「えっと、あれだあれ。極東にある小さな島だよ。田舎だから竜車もなくってさ」


「あ、なるほど! そういう事ね」


 エミルの急な質問にうっかり矛盾が生じてしまう答えをしてしまったが、これはチョネコに救われた。


 我ながら素晴らしい誤魔化し方だと少し自身がつくと同時に、何か失ったような気もするがそれは心にしまっておく。


 合点がいったかのように両手を合わせ笑顔で言ってきたエミルに対して多少の罪悪感に浸りながらも俺はエミルと商店街に戻ろうと……



「――おい、あんた。今からこの子とデートなんだよ。通りたいからそこの道を開けてくれ」


 無精髭を生やし人相の悪い大柄の男が1人、商店街に続く狭い道を塞いでいた。


「あのシュウ、これデートじゃないからね? でも今はそんな事より、そこのあなた。あなたはギルドレスね?」


 大柄の男がニタァと不敵な笑みを大きく浮かべて、一歩だけ前進してきた。

 典型的な悪人ヅラをしたそいつは、嫌な予感そのものであった。


「ほう。よく俺様がギルドレスと分かったな」


「ギルドレス? あいつの名前か、変なの」


「何言ってんだ貴様。あんまりふざけていると痛い目にあうぞ」


 全くふざけていなどないが、何故か理不尽に脅された。

 何だか腑に落ちないがあいつの名前では無いようだ。

 それにしてもこいつは見た目通りいい奴では無さそうだと俺の経験が伝えてくる。


 俺が正体に気付けずにいると、隣からエミルが端的に教えてくれた。


「ギルドレスは悪事を行い、ギルドから永久追放された悪者のことよ」


 なるほどホームレスが家がないように、ギルドレスはギルドがない人の事を指し示すのか。

  ギルドから追放されたという事はお金が稼げない。つまり、ここにいて道を塞いでる理由はただ1つーー


「金目のものをよこしな」


 どうやらイベントはもう始まっているらしい。

 これはきっとヒロインの好感度アップイベントの類に違いない、やる気うなぎのぼりだ。

 ただ中々に憧れるシチュエーションで大変ウェルカムなのだが、一つ問題点もある。


「ふむふむ、残念だったなカツアゲ野郎! 何を隠そう俺は無一文。金目の物なんて持ってない!」


 人差し指をギルドレスに向けて、悲しい現実をどや顔で堂々と言ってやる。


「貴様……さっきデート行くとか言ってはいたが、まさか女の方に払わせる気だったのか? 最低だな」


「人の金カツアゲしようとしてる奴には言われたくねぇよ!」


「ねぇだからこれデートじゃないんだけど」


 横から何か言ってくるエミルをほっといて、悪者に論破されるという珍しい体験を味わされると、ギルドレスは手をポキポキ鳴らしながら再びゆっくりと歩み寄ってきた。

 そのギルドレスの脅しも功を奏して正直言うと俺はかなり焦っている。


「俺は強いぞカツアゲ野郎! 逃げるなら! 今のうちどうぞあちらへ」


 強いんだぞという奴ほど弱い奴というのは言うまでもない。

 俺はもちろん常人並の力なのであの大柄の男より強いとは到底思えない。

 そして虚仮威しと脅しでは内容がどうであれ、虚仮威しが脅しに勝つことなんて到底出来るわけもなく、


「うるせーぞ黙れ。そのカバンもちったぁ足しにはなるだろ。見ただけで分かるぜ貴様はカスだとな!」


 こうなったらあれしかない。

 覚悟を決め、後ろを向いてエミルに『手を出すな』と意を込めてアイコンタクトを送ると、俺は姿勢を低く保ちギルドレスと対峙する。

 エミルは分かってくれたかのようにコクリと頷き距離をとった。

 それを確認すると息を吸って俺は思い切り叫ぶ。


「さぁ来やがれ! このカツアゲ野郎!」


「良い度胸じゃねぇか! じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ! 」


 まだだもっと引き寄せろ、もっと、もっと、もっと……よし、今だ最終手段!


「ごめんなさい! 見逃してください!許してください!」


  謝るというのは情けなく見えるが俺はそうは思わない。いや、そう思いたくないだけだが。

 ギュッと目を瞑り、しばらく経っても何もしてこなかったので、おそるおそるゆっくり目を開けていくと。


 ーー嘘、だろ


「ここ、どこだ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ