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第1章 十一話 『VS実験台』

 


 盾、鎧、剣、弓、槍、斧、しっかり手入れされた武器達は、どれもこれも光沢を帯びていてその姿は冒険心を擽られる。

 更にそこから厳選され選ばれた武器は壁や目立つところに飾れられ、新しい持ち主を待ち遠しに意気揚々としているかの様だ。

 そうここはまるで武器の世界、冒険者にとって無くてはならない場所である。


「本当かい! それは良かった良かった、嬉しい限り。ガッハッハッハ!」


「ん、間違いない! ここは品数もありゃ、それだけ質もいい! 紹介してくれたこの業物の剣も切れ味が最高だったしな!」


 その武器の世界に異類が二名。

 一人はこの武器屋のオーナーでありながら、見た目五十歳くらいの茶ヒゲが目立つ、今喜んでる最中のドワーフ。

 もう一人は自称鑑定士でありながら、全く知識も無いのに評価をしてぬか喜びさせてしまい、軽く良心が痛んでいる人間。

 間も無くバチでも当たったかの様に、いきなりきつい質問が降り注いだ。


「ん? 使ってもいないのにどうして、切れ味が最高と分かるんで?」


「それはですね……俺くらいの鑑定士となると、ほらあれだ! 見た目で……分かるんで」


「なるほど、お目が高え! ガッハッハッハ!」


「それで、この剣も確かに切れ味抜群だったんだけど、その代わり少し重いですよね? そこでだ! 初心者でも扱えそうな、軽い武器とか無いかなと思ってね」


「なるほどなるほど。それならここに丁度いいものが……これなんかどうだい?」


 自称鑑定士から高評価を得て満面の笑みをしたドワーフが傘立てならぬ、剣立てから鈍い音と共に取り出した。光沢が光に反射し輝いて見える。日本刀に似ているその剣は持つと確かに軽い、そして何より



「二刀流……か」 





 俺の途中参加により始まる第二ラウンド。


 ホームラン宣言をした直後、いざ振り回すとなるとこの剣思ったより重いんじゃね? と不安になり、戦う寸前でまた違う武器を借りてきたのだ。


 今度は遠距離戦を駆使するエミルは洞窟の最深部で治療中。

 よってシロと俺二人の近距離戦という事を意味するが、問題は俺は剣とか握るの初めてくらいの初心者という事だ。そこら辺はシロを頼るしか無い。

 鞭より剣の方が殺傷力があるという利点を応用し、なんとか戦いの形にはしたいものだ。


「違う武器……? それも相棒で消せなかったとしたら……あぁ、実に殺気が溢れてくるというものだね。それに相棒に傷を付けた罪は重いんだ。死なせないよ、まだ」


 俺とシロはそんなキラーの言葉を無視して、二人掛かりでキラーに急接近。

 同時にキラーも切られたムチを振り回しながら走り出した。


「この鞭フェチ野郎があぁぁぁ!」


 叫びながら、利き手に持つ短剣でキラーを襲う。人を斬りつける事に対抗があると言えば嘘になるが、今回ばかりはそんな甘えも言ってられない。

 一瞬そんな事が頭によぎったと同時に、顔面に神経が削られるような激しい痛み。


「あゔえっ!」


 約一メートルくらい吹き飛び、地に顔をぶつけ血の味と遅れて来た痺れる痛みを感じ、ようやくキラーの蹴りを喰らった事を理解した。


「いってえぇ! マジいてぇぇ!クロおおおお!」


 頬を抑えて地面でもがく中、俺に続くシロの猛攻がダンスを踊るかの如く舞い上がる。

 冷静さを取り戻したかのように、力が入り無駄な動きが目立った先程に比べ、鋭い動きへと進化を遂げていた。


 壁から壁へ、天井から床へ、小柄な体型を生かした軽々とした動きはあらゆる角度からキラーを狙う事を許した。

 ただひたすらに攻撃するという単純な戦略だったがついにキラーの背後を取った時、攻撃を避け続けていたキラーが突如、シロを冷徹に睨みつけ目力だけでねじ伏せた。


「――!」


 それが恐怖だったのかは定かではない。が、確実に威圧を感じたシロはどうしてもそれを避けたい衝動に駆られ、地面へと進路を変更。

 即ち立ち上がる砂煙は視界を奪い、感覚だけのフィールドへと変えた。


「む!」


 これをチャンスをとみなし、再び素早く背後を取ると渾身の一撃を振り下ろし炎が静かに散る。

 当たったかのように思われた攻撃だったが、よく見ると鞭がその進路を塞ぎ、腕にグルグル巻き付いて空中で吊るされ身動きを封じらた。


「これやばいんじゃ」


 俺が立ち上がる頃には、シロは鞭に乱暴に投げられ背中から岩に衝突し、今度はキラーが砂煙を立ち上げる。しかし俺が焦燥に浸る間も無く、すぐさま砂煙から飛び出てきたシロは攻撃を中止せず相手に休む暇を与えない。


 既に奴が攻撃し始めている事に恐怖を帯びながらも今俺に出来る事を考えなければならない。

 死角を含むシロの猛攻を紙一重で回避しつつ奴の自慢の鞭を多彩に振り回す事により、どうしても優勢へと回り込まれてしまうのだ。シロ一人では荷が重すぎる。


「アハハ! 仇を討つ? この程度では到底無理だよ! 君も君の母親と同じ運命さ、僕と相棒に喰われて終わるんだよ」


 そんな冷やかしを受けてもシロは無言でキラーへの攻撃をやめない。炎も衰える事を知らず、生命力溢れる代物だが当たらなければそれも意味を持たない。

 元々強気の彼女だがキラーに対するここまでのモノは俺にはとても計り知れるものでは無かった。


 かといってそれで実力の差が埋まる訳でもなく、言ってしまえば奴とシロの実力の差は同じ次元には存在しない。

 スピードが違う、パワーが違う、経験が違う、何もかもが違う――なのに


 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、――何度も。



 彼女は折れない


 ここにいる誰よりも理解しているはずなのに、いくらボロボロになっても、鞭で叩かれても、吹き飛ばされても、地についても。それでも立ち上がるのは彼女の執念に比例する。


「主人公、みたいだな」


 自分の非力さがここまで滲み出ると、自分に怒りを覚えてくるものだ。そりゃそうだ俺はシロ以上に弱い。

 勇気をもらったなんてカッコいい事は言わないがシロ自身はカッコいいと思った。

 諦めなければ何かが起こるというのは本当の事かもしれない。

 実際の話、シロの無謀な挑戦は無駄にはなっていないのだ。


 シロとクロはあくまで捕縛、キラーにとって殺していいのは俺とエミルだけであり、シロとクロは殺しの対象外だ。

 エミルが復活するまでの時間稼ぎと考えれば上等なものだ。


「おっし実験開始といきますか。実験一! 持って来れる数の制限」


 名の通り、最大何個まで向こうの世界からこちらに持ってこられるかという事だ。


 俺はこっそり両の手を合わせ向こうの世界に辿り着くと、ありったけの石をズボンのポケットに詰め込み、息を呑みながら再び両の手を合わせる。

 こちらの世界に帰って来ると、確かに感じるポケットの重さが実験成功の合図を告げる。


「よし、数は気にしなくていいんだな!」


 投げ込んだ大量の石は拳の大爆発と化してキラーの動きを止め、意識をこちらに奪いさった。


「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるって言葉の通りだ!」


 うつ伏せのまま言ったせいか絵面がダサい決め方になってしまったが、とんでもない快挙を成した。

 流石のキラーと鞭も不意打ちな上にこの至近距離、この数では全ては避けきれず、胴体と右腕に何発か命中。

 ようやく動いた硬い眉間にシワをつくらせ、してやったと言える。


「また君か、この僕に微弱たりとも攻撃を加えた事は素直に褒めよう。したがって敬意を込めてブチ殺す」


「結局殺されんのかい!」


 即答、俺は更にうつ伏せの状態から再び持って来た大量の石を標的に向かって投げる。

 が、キラーは今度は避けるのではなく、鞭の方が円を描くように振り回し全ての石を弾いた。


「あ」


 まさしくこれが調子に乗ったという事であろう。

 そんな間抜けな声とは裏腹にキラーの後ろから炎を手に纏い既にボロボロになったシロの姿が現れたおかげで一時危機から逃れる。


 本来ならとっくにクロの元へ搬送されるべき状態だったその姿は、どれだけ必死なのかが伝わってくるには十分すぎるくらいだ。

 だが一瞬、キラーの顔が……


「――ッ待てシロ!」


 俺が叫んだ頃には時すでに遅し。シロの炎に包まれた腕が奴の頭上を通り過ぎ岩を砕き、擦り抜けた奴は勢いを殺さずに回転が上乗せされた蹴りのカウンターを衝突させ、逆らえずシロは吹き飛ぶ。


「――ッッ!」


 声にもならない悲鳴が大きく震わせ、残酷なメロディーを奏でながらも重力に従い地面に吸い込まれ炎が鎮火していく。

 シロが地面に密着したのをキラーは確認すると声を低くし、鞭に対して撫でながら語りかける。


「おっとマズイ、やりすぎるとまた団長に怒られるんだよね。大切な商品だから……おや? まだ、」


「当然です、当たり前じゃ、無いですか。あなたをこの手で、倒す為、今まで生きて、きたんですから」


 キラーの視線の先にはボロボロになったシロがフラフラと立ち上がった。

 顔がグチャグチャで、足を引きずって、左手を抑えて、ようやく歩ける状態にまで仕上がったシロは、もはや気絶してもおかしくないレベルに到達している。


 ただでさえ実力は圧倒的な差があるのに、その上今のあの状態では無茶だ、無謀だ。しかし――


 止める、べきなのか、あそこまで必死なシロを止める権利が果たして俺にはあるか?

 事情も何も知らない俺に止める事が許されるか?

 多分シロは自分の命を守る為に戦っている訳ではない、ましてや自分の命なんかどうでもいいとさえ思っているだろう。


 第一、俺はまだシロに信用されてすら無い。

 今は協力しているとはいえ、シロの心は未だ俺を許してないまま、仮に俺が止めたとしても言うこと聞いてくれるとは限らない。


 一体何をされたらあそこまで信用する事に怯えるようになるんだ?

 一体何をされたらあそこまでキラーを怨むようになるんだ?

 あいつの身に何があったんだ? あいつは――!


「あぁもう面倒くせえなぁ!」


 思考の海から飛び出した俺は二本の刀で地面を削りながら奴の元へ、いや、シロの元へと走り出した。


 俺から見てシロは奴の背後にいるため、難攻不落の領域に踏み込んでかつ戻って来なければならない。


 装備も怠る事なく走りながら両手を合わせポケットに大量の石を再びチャージ、そのまま一気に難攻不落エリアまで辿り着くと、右腕で奴の体に縦線を描くが届かず刀は空を切る。


 その際、隙間から見えたのはただ立っているだけの、顔が見えないシロの姿、それを境に視界が飛び、背中から墜落。見ると奴が左足を上げていたため、横腹の痛みに理解が追いついた。


 ここで立ち上がれば格好はいいのだが、どうやらシロのようにはいかないらしく体が動かない。

 何故なら、


「さて僕も面倒だから、こうすれば大人しくなってくれるかい?」


 そう言いながらずっと奴の背後に立ち続けていたシロの頸を掴み上げ宙に晒したのだ。

 その際シロの目線に入ったもの――入れられたもの、それは暗くて見えない洞窟の最深部。すなわちクロとエミルのいる場所を示していた。


 洞窟の奥は特に入り組んでいるわけではなく限りなく真っ直ぐの一本道だ。キラーも一度ここに訪れた事があるという事はこの洞窟の地形を知っている可能性が高い。


「ここでクエッション。僕の相棒は切られてもなお、伸びる? 伸びない? ……はい、時間切れ」


 まさに外道と言ってもいい奴は、感情など持ち合わせていない。ましてや心とは無縁の存在そのもの、それがキラーという殺人鬼なのだ。


「クロ姉ちゃん……」


 倒れたシロの微かな声を蚊のように踏みにじり、鞭が容赦なくエミルとクロの方に向かい伸び始めた――

 が、突如それを隔てるものが出現し、鈍い音と共にその進路を塞いだのだ。




「実験ニだ」




「――! これは……土魔法?」


「だーかーら魔法使えないつってんだろ! 嫌味か!俺だって使いたいんだ魔法! これはただの手品だ」


 たまたま偶然奇跡ミラクルマグレで伸びる鞭の進路に飛び込み咄嗟に両手を合わせ、俺と同じくらいの大きさの岩を持ってきたのだ。


 実験ニ・・・大きさ制限


 実はさっきから何回か転移していたのだが、この岩のように人並みサイズがこちらに持って来られる限界のサイズで、これ以上のサイズは持ってこれなかった。


 だがそれでも十分過ぎるくらいの役割を果たしている。あちらの世界でそこら辺にある至って普通の岩をこちらに持ってくる事で、


「岩の盾と化すって事だ!」


 仁王立ちしてとびきりのドヤ顔をしてやった。


「どういう事だよ? それ。テジナ? なぜなぜなぜなぜ! 意味が分かんないなぁ! なぜ相棒に食べられないんだ!?」


 この口調からするにキラーは怒っている様に思うかもしれないが、今ははっきり分かる。


 確実に焦っている、まさしく焦燥にかられているのだ。ここまでの事を分析するにキラーに対する精神的な攻撃は物理的な攻撃に比べ極端に脆い。


「ネタバレはなるべくしない、お前なら分かるだろ? サーカス団さんよ」


 チョネコに悪口のレベルが低いと太鼓判を押された俺ではあるが、煽りに煽りまくって隙をつくり、どうにかしてシロをクロの元に届ける。

 そしてそろそろ戻って来てくれるであろう彼女を――


 それまで一対一でなんとか持ちこたえなきゃならないんだが、それがマジ無理ゲー。


 今日初めて本物の武器を掴んだ人間と、キチガイ戦闘狂が戦った結果など一目瞭然。


 こんな高難度ゲーム今まであったかよ。あるなら今すぐ持ってこいってんだ。


 俺は弱い、あいつは強い。

 だが別に勝てと言っているわけではなく、負けろと言っているわけでもない。

 俺のすべき事はシロを救出、最悪エミルが来るまで持ち堪えればいい。





 時に――シロのやつ今何考えてんだろうな。


 どうせ勝てない?

 どうせ無理?

 それとも……どうせ逃げるか?

  顔だけでは人の心を読み取る事は出来ないもんだからな。


 裏表、本音建前、嘘本当、偽り真実、これだけ似た様な言葉があるんだから大変なもんだ。

 でも、裏にしろ、建前にしろ、嘘にしろ、偽りにしろ、俺はあの顔がとてつもなく嫌いだ。

 だから、





「おりゃぁぁぁぁぁ!!!」


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