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第1章 十話 『最弱の一矢』

 


 いつだってそうだ。


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 俺は何だって中途半端ですぐに飽きて投げ出して、何も大きな事を成した事が一度たりも無い。そんな自分が嫌いじゃない事も含めてだ。

 そう、変わるキッカケなんて『いつ』でもあるから、変わるキッカケなんて『いくつ』でもあるから。

 変わるキッカケなんて――


 今、その全てを覆すために俺は足を動かしている。

 今、自分と戦うために足を動かしている。

 今、感情を押し殺して足を動かしている。

 だが走ったりはしない、細かく震える足はゆっくり白髪の少女の元へ。


 自分の力量が雀の涙くらいなのは、自分が一番分かっているつもりだ。

 正直な話、俺がシロを助けに行ったところで足手纏いになるだけだと思う。

 では何故それ故に助けに行くのか、もう一度言うが俺は偽善者になるつもりはない。ただ――

 ただ、自分の命を他人に任せるのはちょっと気持ちが悪いだけだ。


 緊急事態なのに走れない理由は、足が震えるからなんて可愛い理由では無い。

 体から溢れてくる恐怖を抑えつけるように、俺は足を思い切り叩いて一息つくと、


「やるか」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 白髪の少女が洞窟の壁に背を任せながら鞭を受け止めていた。


「あの三人を逃したままの状態からよく維持出来るね」


 先の状況と打って変わらず、シロが俺とクロに伸びてきた鞭を受け止め、文字通り、キラーの攻撃に耐えていた。

 しかし、心なしか鞭の張りがさらに強くなっていくのをシロが感じていると、キラーは心底不気味な笑みを浮かべながらそのまま続けた。


「でも相棒はまだ足りないって言ってるんだよ、もっと悲鳴を! 血を! 痛みを!……ね。それにしても面白いよ、あの男女二人は一体どんな手を使って君の心を許したんだい? 僕にあれだけの事をされて、まだ信じる力が残っているとは計算外だ……気に入らない」


 一瞬、人間では無い何かが奴の奥底から出て来た。


「……元々、信じて、ませんよ。あの二人は、クロ姉ちゃんがいたからに、過ぎないですから。私は、お母さんを助ける、ただそれだけです。あの人なんか、耐えろ、とか言ってましたけど、逃げる策でも考えているに決まって――」



「おらぁぁぁぁ! この変態野郎! 元野球部の球を舐・め・ん・な・よ!」


 シロの微弱な声を遮るのは、そこらに転がっていた小石を片手に、現在無防備中のキラーに走りながらのストレート。

 粛然とした空気に終止符をうつ形で俺は、初めてキラーに攻撃を掛けるが、キラーは顔だけ動かしそれを回避。


 エミルの水の弾丸より少し上回る程度のスピードを、さらに不意打ちを加えた攻撃。

 鞭が伸びきったままの完全無防備だったが、キラーはそれすらも凌駕する。


「噂をすれば来たんだね。でも無駄――」


「だろうな! 狙いはこっちだからな!」


 俺は右足に力を入れ方向転換、伸びている鞭に向かって全力疾走。

 そう、目的はキラーでは無い。

 俺はそのまま何の障害もなくフルパワーで上から縦に思いきり切りかかり、決めていたノルマを達成。


 狙い通りと言ったところか、伸びた鞭の真ん中部分を見事切ることには成功する。そのまま勢いあまりゴロゴロと横転てしまった。

 が、よってシロも鞭から解放されたという快挙を成した。


「いっててぇ……剣が地面に刺さっちまった。少し重いけど、確かに切れ味抜群だ。あのおっちゃんには悪いがもう少し借りるぞ」


「なっ――」




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 突如、響き渡る悲鳴が森を激しく揺らして、俺とシロに襲いかかってきた。


 魔法によるものなのかは分からないが、キラーを中心に突風が巻き起こり、体全体が強く押され恐怖が浸透していく。

 だが咄嗟に両手で耳を塞いだのは正解だった。

 それでも頭の中にミシミシと伝わってくるが、塞がないよりはマシだと俺は思った。

 シロも咄嗟に耳を塞いで音を防御するが、あちらもかなり効いているようだ。


 ようやく悲鳴が収まったと思うと、キラーの膝が崩れ落ちるのを見計らって俺はシロの元に駆け寄った。


 消耗はしていたものの外傷はそこまで無かったことに胸をなで下ろしながら、ポカンとした表情を俺に向けているシロに声をかける。


「大丈夫か? 悪い少し遅れて来ちまった。つうか何なんだよあいつ。いきなり大声出しやがって……おい聞いてるか、まさか今のやばい悲鳴でやられちまったんじゃ無いだろうな」


「え? あ、はい……助かりました。えと、あのその……あ、あり、ありが」


「……」


「むー! 調子にのんないでください! そんな事よりどうしたんですかその剣は!?」


 俺何も言ってないんだけど。


「えーと、これはだな、武器屋に行って鑑定師のふりをして店一番の業物を少し借りて来ただけさ。ま、今そんな事より前見ろ、前」


 その通り、この剣は石を投げた直後に両の手のひらを合わせて異世界転移し、あっちの世界からこっちに持ってきたのだ。

 咄嗟の思いつきだったが、この能力にも使い方次第で案外役に立つかもしれない。


「言っている意味がこれっぽっちも分かりませんが、今そんな事言ってる場合ではないのは確かですね」


 シロが俺の言葉に同意すると、両の手から炎を一気に噴出させ戦闘態勢に入る。

 状況を振り返ってみると、未だこちらが優勢とは判断し難い。

 だが、先程と明らかに違う点と言えばキラーの事に他ならない。今のキラーは頭を手で抱え、腹を立てながら悲しみ屈辱を味わっている最中。


 隙だらけだ、こっちを見てない、鞭を手放している、混乱している、チャンスだ、今攻撃を仕掛ければいい。それは俺とシロも無論だった。

 それなのに行けば嫌な予感がして仕方なく、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 俺とて簡単な分析くらいは容易だった。


 例えばあの鞭は伸縮自在とはいえ殺傷力が低い。

 まるで相手を『殺す』為ではなく相手を『痛めつける』為につくられた武器のようにさえ感じる。


 他にもキラーの余りにも大きい鞭への愛着は、それを切った事による精神的ダメージは相当なものだったはずだ。


 鞭を切った事で戦力を少しでも下げれたと信じる中、遂にキラーが脱力しきった体を持ち上げる。


 天井を向いているせいで奴の顔がうかがえなかったのは、ラッキーだったかもしれない。

 その後もキラーは天井を向いたまま、本来あり得ないことに対して激しく罵倒してきた。


「なんでだよ……! どうして、その剣は消えない! 僕の相棒は魔法による攻撃は効かないはずなんだああああああああ!!!」


「やっぱな、あのバカでかい水の大砲くらって無傷だったのは、そういう系のカラクリがあったか……! 言っておくが、魔法で剣の生成とか召喚とか思っていたら大間違いだからな。是非是非使ってみたいけど魔法使えねぇんだよ! 覚えとけ!」


 軽く八つ当たり出来るくらいには、いつの間にか恐怖も薄くなり自分でも信じられないくらい無我夢中になっていた。


 この発言を戯言と捉えたのか調子を戻したかのようにキラーは殺気を放つ。

 いや、洞窟いっぱいに満ち溢れるこの殺気は今までの比ではない。むしろ――

 両手で掴んでいる剣に力が入り、異様なまでに手汗が滲み出てくる。

 だが俺はその事に気付いていない。


 鞭を何の障害もなく切れるはずが無い。

 それは嫌というほど痛感出来る。

 本来キラーなら余裕で阻止出来たであろうが、鞭に魔法は効かないという、キラーの心の空きがあってこそ成し得た事だった。


「僕の……僕の相棒を傷つけた代償は高いんだよ。あー! 痛かったろう! あー! 辛かったろう! さぁ共にまたあの男を殺そう」


 切られた鞭を舐め回しながら、せっかくのイケメン顔を台無しにし、まるで会話しているかのように鞭に語りかけている。こちらに向けて不敵な笑みを浮かべながら。


「怖い! あいつ色んな意味で本当に怖い!」


「む〜シャキッとしてください! あなたがそんなんでどうするんですか。ほらいきますよ!」


 明らかに何かが違うシロに俺は気づく事は出来なかった。

どこか安心するような温かい炎と何か奥底に眠ってそうな濃い炎を見てしまったからだ。

 このイメージに過ぎない2つが混合した炎は、再びシロの手から出現し、洞窟いっぱいに広がる光はまるで、俺達を優しく包んでいるかのようだ。


 俺はその添え物に過ぎない香辛料の存在。

 味をどこまで深めるかがこの戦いの行方を左右するーーんな訳あるかぁ! 俺だってメインディッシュになってやる!


 俺はキラーに向かって堂々のホームラン宣言。

 角度を変えると、借りパクした剣は炎の光で反射してるせいか、輝いて見える。


「これが、チート能力だった異世界転移の使い道って事だ! お前は所詮それの実験台に過ぎないんだよ!」


 ――決まった……恥ずかしいけど


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