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第1章 九話 『突然の疑問と』

 

「すごい威力だったよ。僕と相棒じゃなければ本来、死んでるほどだね」


 目を疑うどころか、信じたくもなかった。

 嫌な予感が的中するほど最悪な事はない。


 舞台は森の洞窟。

 しんと沈んだ湿気のある空気が異様な事態を物語り、俺に恐怖を一段と跳ね上がらせる。


 黙々と立ち上がる白霧がやがて晴れると、黙視する光景には更なる疑問が心に戸惑いを植えつけた。

 明らかに今のは避けてもいなければ、鞭で叩き割った訳でもなく、ましてや外れた訳でもない。


「あいつあれか、不死身系ってか? やっぱ無理ゲー?」


 顎まで垂れる汗が緊迫した状態の象徴を露わにし、実際、そう結論に至るのも無理はないはずだ。


 キラーの言う通りあの攻撃を直撃して、本来無事な訳がない。

 いくら頑丈なやつでも傷一つはつくほどの威力だった事は確信を持って言える。

 だがそこが解せない。

 だとしたら何故、今まで攻撃を避け続けいたのかという疑問だけが頭の中で引っ掛かっているからだ。


 キラーの受け身の手段は鞭で叩き割るか避けるかの二択、それのせいで今の今までノーヒット。

 もし今みたいに攻撃が効かないのなら、逃げていた意味が全く無い。


 そこに矛盾が生じている。


 考えるんだカブラギ シュウ。

 どこかにヒントはあるはずなんだ。

 相手の能力が分からない以上勝ち目なんて一向に見えて来ない。

 焦燥が体に込み上がる中でも、生きる化け物は、思考のゆとりをくれるほど優しくはないらしく、


「実に面白かったよ。でも、そろそろ相棒のディナーの時間だから……反撃だよ」


 キラーの雰囲気がガラリと変わると同時に、この場の空気が一気にドンッと重くなったように感じた。

 エミルの水の大砲でダメージは無かったものの、何か思うところがあったのかもしれはい。


「シロちゃん気を付けて! 何か来るわよ」


「分かってます……なので、あの時の盾で防いでくれると助かります」


 言いづらそうにしながらエミルの後ろに身を隠す。

 エミルも無言で頷いて了解の意を示す。

 冷静で妥当な判断だと思った、何故ならキラーの攻撃範囲は精々あの鞭の長さ程度――攻撃宣言をしてきた今、わざわざ近くほど愚かなことはない。


「先手必勝」


 そうポツリと一言放ったエミルの両手先から、鋭く凝縮された水の弾丸は再び出現――放出。

 軌道は前、大粒の雨がキラーめがけて横に降り注ぐが以前キラーは動こうとはしない。


「……相棒は、それ飽きたってよ」


 キラーの鞭が動き出した。


 だがそれは、今までとは根本的に意味が違いすぎる。


 だって鞭が生きているからだ。


 どういう事か。

 それはキラーはただ鞭を掴んでいるだけに対して、鞭が生き物のようにくねくねと動き出したのだ。

 皆が驚愕が走るのを無視するように、そのまま鞭が一人でに動き、円を作るように横に振り回して水の弾丸全てからキラーの身を守ったのだ。


「何だあれ、気持ち悪!」


 何とも言えない疑問と不気味さで一杯だったが、これで一つ分かった事はキラーの言った通り、確かに四対一なんかでは無く四対二という事だ。

 しかしまだ解せないところは、あの水の大砲の威力をどうやって防いだかという所にある。

 俺の記憶が正しければキラーと水の大砲が直撃した時、鞭もまた動いていなかったはずだ。

 エミルが再び魔法準備すると、早くも二度目の誤算を強いられた。


「なっ――!」



 何だろう、今の――?



 デジャブ――?



 いや……違うな。



 確かにあった何かだ。



 実はたった今、離れていた俺とクロの方に向かって鞭が一直線に襲いかかった。

 まさか鞭が自分の意思で動けるだけでなく、伸びる事も可能だとは予想だにしてなかった。


 いや、例え予想していたとしても対抗策が存在しない俺には、反射的に目をぎゅっと瞑るのがやっとだった。

 だが目が閉ざされる瞬間、何かが見えたような気したのだ。

 例えるなら、瞼に閉ざされた暗闇の世界に映るビジョンが何かを感じさせてくる、と言ったところだろうか。


 これは確かシロとクロと初めて会って……それでそうだ。

 シロがいきなり攻撃してきたんだったよな。そしてその後……あれ、どうやって俺は助かったんだっけ?

 あの時も俺は今と似たような状況になって……! そうだ! エミルが俺を助けてくれたんだった。

 ちょっと待てよ? じゃあ今何か見えた様な気がしたのは……!


「エミル!!!」


 瞼を開くと濛々と立ち上がる煙が目に入り、自分が煙に包まれている事を理解すると同時に彼女を探す。


 鞭が俺とクロに届いていない事を考えるとエミルは再び俺を、クロを助けてくれた。

 そう捉えていい、だがその彼女の姿はない。

 不吉な予感が体を刺す中、脱力に襲われながらも煙を凝視。


「おい……」


 そう時間はかからなかった。

 人影が目に入った途端、頭に力と怒りが込み上がり、心の中が掻きむしられる様な激しい衝動に駆られた。

 俺が叫んだ名前の子が仰向けに倒れた姿を目の前で発見したからだ。


「イタタタタ」


「エミル大丈夫か! クロ! 回復魔法、を……イタタタタ? あれ、意外と無事なのか?」


「なんとか、ね。鞭自体の威力はそこまで無かったから……」


 思わぬエミルのリアクションに戸惑いを隠せない俺だったが、見た感じ傷がそこまで深いものでは無く、頭を摩ってはいるが気を失った訳でも無い。ひやっとしたがとにかく無事で何よりだ。

 煙がまだ舞っている中、一瞬でも緊張が解けたような気がしたが、それが命取りとなる場合もあるのだ。また気合いを入れなそうと俺は……


「シロ! シュウさん、シロが!」


「ど、どうしたクロ? シロがどうしたって……!」


 服を突然引っ張りながら珍しく感情的になっているのはシロの姉、クロだった。

 クロが指差す方向には、その感情的なった理由があったのだ。


 先程、俺が何か見えたような気がしたのはどうやらエミルだけでは無かったらしい。

 よくよく考えてみればエミルが攻撃を止めようとして吹き飛ばされた。それに対し、鞭が俺らまで届いていない。

 理由は単純、それは他に鞭を止めてくれている人物がいたからだ。


 そう、俺らを庇うようにシロが鞭を掴んで受け止めていたのである。


「む! もっと遠くへ行ってください! また狙われます!」


 遠くへ――キラーが洞窟の入り口を占拠してるも同然な今の状態では、外に出て森に身を隠す事はまず不可能。

 洞窟の奥へと進むしかない訳だが、エミルがダウンしてしまった以上、シロとキラーの差し向かうという事だ。二対一でも今の結果だというのに、一対一になれば非常にマズイ。


「シロ頼む! 五分。いや、三分間一人で耐えてくれ! ……よしエミルを運ぶぞクロ」


「はい……行きましょう。大丈夫ですかエミルさん」


「うん。ごめんね二人とも」


 クロと協力してエミルの脇の間に入り、肩を支えながら洞窟の奥へと進んだ。

 この時、彼女の体はとても冷たかった。

 俺もこの時間を無駄にはしないと自分に言い聞かせているのに、どうしても頭から離れないことが一つだけあった。


 果たしてシロはクロがいなくても助けてくれたのだろうか、と。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 俺がシロに尋問されている時に腰掛けていた岩にエミルを座らせると、俺は思わず一息ついてしまった。

 ここからではさっきまでいた洞窟の入り口は見えないが、何の効果音も聞こえて来ないのが何とも言えない気持ちだ。

 不気味すぎるくらいに静かな中、クロはエミルに回復魔法をかけると、みるみると傷が元に戻っていくのが見て分かる。


「医者に石投げられそうだな。それより、エミルにはまた救ってもらったな」


「ううん。咄嗟とは言え、私の魔法は簡単に破られたもの。攻撃を止めたのはシロちゃんの方よ」


「……魔法ってあの水の盾の事だよな? そんな簡単に破られたのか?」


「うん、何の抵抗も無しに。勢いすら殺せなかったわよ」


 あの盾でも勢いを殺せなかっただって? それなのに、エミルはその程度の傷で済んだっていうのか? しかも、シロがその攻撃を素手で掴んだんだぞ……?


 もしかしたら


「……よし、エミルは少し休んでてくれ。クロは引き続きエミル回復を頼む。そして俺は……ちょっと行ってくる」


 もしかしたら


「分かりました。でもシュウさん……その、先程、非力と言っていましたけど大丈夫なのですか?」


 もしかしたら


「今閃いた事があるからそれを試しに行くだけさ。けど、もしもの時はよろしくな。あー、怖いなぁ。成功しますように」



 もしかしたら


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