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1話 生れ落ちて、鬼畜

 まず、本題から申します。

 どうやら私は転生と言うものをしているようでして。


 逆行転生という現象ですかね。

 過去のヒトとして生まれ変わりその人生を役割として担っていることに、前世の記憶が物心と共に蘇った際、気付かされました。



 私の前世の名は、ヒトの発音ですればグリムェル。

 天空を翔け支配するドラゴンの一つでありました。



 ドラゴンはそれぞれが個性的な執着を持っておりまして、やれ宝石、やれ迷宮、やれ戦いとまあ、個体により趣味が全く違います。


 私、グリムェルというものはヒトの歴史に執着しておりました。


 ヒトの言語、文化、礼節を学んだ後、その短い生と長き国家を大きな流れでつづ紐解ひもとく歴史を学んだ私は、たいそうそれに惹かれました。

 ヒトの歴史は大変愚かしく、矮小わいしょうで、美しくもある。

 孤独で長すぎる生をもつドラゴンにはとても構築できぬ生命の深みがそこにありました。


 そうした興味である私はこれといってヒトともドラゴンとも争う事もなく、天空からヒトの営みを、地に降りてその記録を愉しんで過ごしておりましたわけですが、何をどうしたやら、気づいたら死んでおったようです。


 何せ、死因が思い出せぬ。


 まあ、生命を失う時というのはドラゴンと言えどもそういうものなのかもしれません。

 それはそれで勉強になりました。



 さて、そんな私が死して生まれ変わったのは、この世界におけるヒトの歴史上非常に重要な大国、マルクドゥルに生まれ落ちた稀代の大天災、第一王子マルクベル=ブリム、その人でありました。


 はい、そこ、誤字ではありませんよ。

『大天災』です。


 この者、無知、無能、好色こうしょく癇癪かんしゃくの四つで構成されており、やること為すこと全部だめ、女と見れば種族に関わらず発情し籠絡ろうらくする、気に入らない者は切り捨てる、典型の中でも最低レベルのボンボン、二世様。


 その名は鬼畜王子として全世界に広まる有様でありました。


 そんな彼は偉大なるヒトの父、統一王マルクゼラス=ブリムの栄光の全てを一代で台無しにする偉業を成し遂げ、歴史の分かれ目、大乱世時代の始まりとなった王国分裂を引き起こしました。

 そしてその名は『災害レベルの大うつけ』『王国に降って湧いた未曾有みぞうの大天災』の皮肉と共に歴史に刻まれたのです。



 そのような偉大すぎる馬鹿者の人生を担わされたことに気づいた、ヒトの計算において三歳となった私は、とりあえず毎晩めそめそ泣きました。


 この私が何故、ヒトというだけならまだしもこんな極めつけの大うつけに身を落とすのかと。

 何か重い罪でも犯していたのかしら。


 そんなことに気づいたとしてもまあ三歳児ですから、とかくただただ、めそめそと泣いておりました。

 ええ、優しい女中達があれよあれよと優しくしてくれるからではないですよ。

 それは大変心地よいものでしたけれども。



 その後、私までうつけになることはないのでは、ということに気付いたのは四歳になる前の春。


 私、マルクベルが有能でありさえすれば、マルクベルの不幸は避けられるのではないだろうか?

 ひいては王国の統治を継続する事で乱世を避けることができるのではないだろうか?


 ヒトの歴史が変わってしまいますが、それは今を生きている私には些細な問題に思えました。

 歴史の保全義務、そんなものは、そこを生きるものにはない。

 ましてや私、ドラゴンでしたものですから。


 むしろ、見てみたい。

 マルクベルが良き帝王となり王国が繁栄した場合、どのような時代が訪れるのだろう。

 ヒトの世の、見た事のない歴史を私の手で作り上げてみたい。



 私の実利と興味と合致し、幼い私、マルクベルは決意したのです。

 清く正しく美しい鬼畜王子として生きる事を。


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