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徒然に綴る短編集  作者: neko
〜想い〜
8/8

〜想い〜  (6カケラ目


 今日もいい天気。


「おはよう。ケイスケ」


 相変わらずのタンスの上の遺影に水を供えながら声を掛ける。

 花瓶に活けられた花は昨日の一回忌の時のだ。


 1年経っちゃったよ。

 

 今も同じ場所にいる。

 もう一度でいいからケイスケ…出てこないかな。




 あの夜、あたしはいつの間にか眠っていた。



 朝起きると目の周りは涙で固まって腫れぼったくて、そして泣きながら眠ったから頭が痛い

 そして何より、ケイスケがいない事が痛い。

 辛い。


 もういなくなったのだと思っていた。

 なのに昨日の朝現れたケイスケと話せて、ぼんやりとだけれど姿も見え、あまつさえ最後に触れることができて。

 

 あれは夢だったんだろうかと考える。

 でも、夢じゃなかった。




 今も時々見る携帯のメール。

 あたし宛ではないけれど、あたしの携帯でケイスケが打った文字。

 内容はどうであれ。

 今も消せない。

 だから機種変更もできそうもない。


 あの時は、それまで泣けなかった分を「あたし」が泣いたような気がする。




 朝起きるとケイスケはいなくてそのまま布団の中で、昨夜の抱きしめられた感覚や優しく声をかけられながら撫でられていたのを思い出す。

 


 いたのに!

 昨日だっていたのに!!

 話もしたのに!

 行きたいって言ったのに。

 また、置いていった。

 あたしはまた、ケイスケを失った…!


 ひどいよ。

 ひどいよ!!

 ただでさえ悲しませて、またこうやって悲しませる!!

 ケイスケのばかぁ!!


「ばかぁっっ」

 

 布団にくるまってしゃくりあげて泣きわめく。

 届かない、もう届かない悪態を。

 

 気が付いたら、携帯が鳴ってる。

 着信のようだ。


 いい。

 このまま知らないふり。


 でも止まらない。

 

 のろのろと携帯を手に取り画面を見ると、社長だった。

 

 あたしやっぱりクビかな…なんてコトがよぎった。


「はい…。お疲れ様です」

『…リョウちゃん…。

 今どこ?家でしょ?そんままそこにいて。どこにも行かないでよ。

 今そっち行くから!」


 すごい剣幕だ…。

 やっぱりクビ…かな。


 また…泣けてきた…。

 ケイスケ…あたしケイスケがいないと…ダメみたい…。

 

 突如、部屋のチャイムが鳴った。

 来客は、社長だろう。

 

 布団から這い出しのろのろと玄関へ向かう。

 身体が重い…。

 ドアの鍵を開けた途端


「リョウコ!金…貸して!」


 上目遣いにキョロキョロしながらそれでも強引に入り込んで来たのはダイスケだった。


「ちょ、っと何よ…」


 勢いに後ずさる。

 後ずさるその足首を掴まれて崩れ落ち後ろ手に手をついた。


「俺…

 訊いただろ?知ってんだろ?

 なあ、金貸してくれよ、俺の命がかかってんだよ」

「知らないわよ!そんな事」


 足首を離れた手は無遠慮に崩れ落ちて動けないあたしの肩を掴む。

 思い詰め睨めあげるような視線を受け咄嗟に口をついた言葉は拒絶。

 

「なんでだよ!ずっと一緒だったじゃねぇか!

 ダイスケの保険金だって入ってるだろう?!」


 確かに、申請もしているから口座に入っていてもおかしくはないけれど。


 ケイスケの言葉がよぎる。

 (ダイスケに貸してやってくれ)

 ケイスケ…あたし…。


 ダイスケの指がひたりと首にかかる…。

 もしかして、あたしここで死ぬのかな…


「…っケ…イスケっ!」


 意識が遠くなっていくその時、視界に映ったのは社長。

 ダイスケの足で閉じられる事なかったドアを勢いよく開く社長の姿。

 いつものケリーのハンドバッグでダイスケを殴ってる。しかもその後背中に蹴りが入った。


「っざけんなよ!ダイスケ!

 リョウコに手を出すなって言っただろうがよっ!!」


 社長…?




 気がついた時にはダイスケはいなく、心配そうに社長がいつの間にかベッドに横になっているあたしを覗き込んでいた。


「…あ…しゃちょ…」


 みるみる潤んだ社長の瞳から涙が零れ落ちてくる。


「しゃ、社長?!」

 がばっと擬音がつくくらいの勢いで起き上がる。

 のと同時に、抱きしめられる。


 意識の最後で見た、聴いた声が蘇る。


 あれが確かなら、あれは、あの言い方は…。


「リョウコちゃんっ!

 大丈夫?痛いところない?

 変な男がリョウコちゃんに付きまとってたのね。

 今朝嫌な予感がしたの!

 もういてもたってもいられなくて、急いで来てみたら…」


 また潤んでくる瞳。


「無事でよかったわ!」

 うんうん、とひとり大きく頷いている。


 リョウスケ…じゃなかったの…か。


「リョウコちゃん?

 警察に通報しましょう。知らない男が襲って来たって。私が目撃者だわ。

 大丈夫、心配することはないわ。私もついていくから」


 そうだ。

 社長はケイスケのことを知っているけれど、ダイスケのことは知らない。

 まったく。

 じゃぁ、あの時の言葉は…?


「リョウコちゃん?」


 別のことを考えていたからか覗き込まれた。


「っ!

 あ、あの…友達、なんです。さっきの。

 一緒の孤児院で仲良くて、ケイスケとも一緒に遊んでた…友達……なんです」


「友達?

 友達なの??!」


 孤児なあたしたちの出世頭で真面目に仕事してたのにパチンコ依存になって借金して挙句横領して…。

 ということを社長に伝える。


「そう、そうだったの」

「はい…なので、警察とかって…あの…」


 じっと一点を見ていた社長は意を決したように言った。

「リョウコちゃん?

 さっきの男の連絡先教えて。

 あたしがなんとかしてみるわ」


 ……?!

 一瞬何を言っているのか分からなかった。

 あたしを襲ったダイスケの連絡先?

 社長はいったいどうするつもりだ?


「ね。

 悪いようにはしないわ」


「あぁ…はい」


「そうなれば…うん」

 などと社長はひとり思案し始めている。


「さてと、ねぇリョウコちゃん。

 お茶入れるけど飲むでしょ?」


「あ!私が!」


「いいのよ。起きたばかりだし、大事をとってまだゆっくりしてなさい」


 そう言いつつ社長は勝手知ったる台所でお湯を沸かし始めた。

 カップを用意している音が聞こえる。


「あら?

 リョウコちゃん?

 お揃いのお茶碗は?一つしかないけど?

 ケイスケくん用のがないみたいだけど?」


 「あ…わ…っちゃったんです。

 つい…」


「あら……そうなの。残念ね」


 ケイスケとの夫婦茶碗を買ったんですっていう話をとても喜んで聞いてくれた社長に、頭に来て割ったんです。とは言えなかった。


「でも!

 丁度お花のとこだけ綺麗に残ってて!」


 ベッドから降り鏡台のコーナーの引き出しからカケラを取り出す。

 それを持って社長のところへ。


「あら…。綺麗に残ったわね」


 社長はそのカケラをしげしげと見て、ポツリと言った。


「周りをヤスリかけて滑らかにして、革紐なんかでペンダントになるんじゃないかしらね」


 ペンダント…。


「かなり根気がいるかもしれないけれど」


「社長…。あたし、それやりたい」


「本気で?ペンダントやネックレスはリョウコちゃん持ってるでしょう?

 これじゃなくても…」


「これがいいんです」


 あたしが割ったケイスケのお茶碗。

 あたしが…。


「分かったわ。

 明日また来るから、その時にでも材料を買いに一緒に行きましょう。

 私は用事が出来たから今からはちょっと無理だけど」


 そう言って社長は帰っていった。一杯のお茶を飲んで。



 次の日からあたしはヤスリで滑らかに削る日々だった。

 耐水性の紙やすりでひたすらやすりをかける。

 軍手して、マスクして、ただひたすらに。


 やすりをかけている間中、このお茶碗を買った時は勿論、小さかった頃は施設でいがみあってたなぁとか、その時の仲裁にはいつも決まってダイスケだったとか…。

 

 ダイスケ…。

 社長に何か言われてるのかな…。


 改めて貰った休みはやすりをかけることに費やし、やはりその間はケイスケとの事を思い出しては泣きながらだった。


 

 


 ちなみに。

 ダイスケは以前の会社を辞めてこの会社にいる。

 社長に拾われた…というか買われた、というか。

 始終雑用に追われている。


 なぜか。


 社長の気まぐれ。


 一言で言うとその表現になるのかわからないけれど、社長の下にいる。

 どうやら全部肩代わりをしたようだ。

 噂では、その筋の人にも顔が利いて闇金金利ではなく元金のみの返済で良いと言わせた上で完済したようだ。と聞こえて来るが、そこは謎のままである。

 ただ、肩代わりとは言え給料は全て社長が握っている。

 

 勿論良く思わない人もいる。

 あたしもそうだった。

 なぜ、そこまでするの!?!


 

 

 まことしやかに囁かれるのは、昔失踪した弟と生き様が似ているからとか、若い時にひっそり産んだ子供だとか、いろいろ。


 私も拾われたようなものだけれど…。

 謎のまま。


 やっぱり「気まぐれ」?

 

 わからない…。




 あの時貰った休み中、泣きながらも耐水のヤスリで削ったカケラは触れても痛くなくて、もう傷付かないようになった。

 それに丸革紐を巻きつけ丁度いい長さにして出来上がったのは、今も胸元にある。


 何かあるたびに、手のひらで包み込み気持ちを落ち着かせてたりと拠り所になっている。


 

 出社途中ひとつ咳払い、そうして空を見上げる。


 今日もいい天気。


 空を見上げる。


 手は胸もとの「お花」を包んでいる。

 まだまだ思い出すと泣きそうになるけれど…。


 ケイスケとの思い出はここにある。

 いつもここに。

 



 〜fin〜

えっと。

後書きです。

最後の最後に読んでいただきたいです。はい。


自分史上最高長いです。

拙い文を読んでいただけて、且つここも読んでいただけるとは!

ありがとうございます!!


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