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徒然に綴る短編集  作者: neko
〜想い〜
3/8

〜想い〜   (1カケラ目


 ホント……突然すぎる。

 こういう事って、映画とか漫画とかドラマとか!

 あたしには振りかかんないもんだと、思ってた。

  思ってたんだよ?!!


 信号無視の車との交通事故、ケイスケが担ぎ込まれた救急病院の廊下で、正直、今だって思ってる。

 これはきっと夢なんだって。


 手術中のランプが赤く点灯してるのを見上げながら、これは全部夢できっと今すぐにでもケイスケが起こしに来てくれる。そうすれば、ケイスケが事故にあったなんて悪夢から目が覚める。

 早く起こしにきて。


(ほら、遅れるぞー。はよ起きろ)って


 なのに。

 なのに、眠っているのはケイスケで。

 白い布に包まれて。

 しかもここ霊安室とか言うとこで。


 お前が起きろ。


 何寝てんだよ。起きろよ。今度の休み映画見に行くんだろうが。分担してた部屋の掃除もサボったし。あたしがしたけど。いつもだ。あ、トイレの掃除も。そういえばトイレットペーパーきれそうだった。買い物途中で見つけた喫茶店にも行く。行くって約束したじゃんか!

 早くここへ来いよ!!

 来いよ!ケイスケぇーーーーーーっ!!






 結果ケイスケは来ずあたしの生活は一変した。

 たった2週間。

 あたしがあたしを見失ってたらしい2週間。

 でも、周りは全く変わらない。変わらない。

 ケイスケがいないのに。

 あたしだけを置いて、置いてきぼりにして!

 何もしたくない。

 判を押したような日々をこれからも過ごし、そしてこれからはケイスケがいない。

 何もしたくない。


 それでもお腹が空く。生きるために。

 情けない。

 台所に向かう。


 シンクの中には家中のグラスやカップがある。使ってそのまま置いてあるから。

 インスタントのポタージュを飲むためには。

 ここにあるのを洗わないといけない。

 食器を洗って伏せておくカゴの中には、その当日の朝食に使った食器が入っている。

 あの日先に出るあたしの代わりにケイスケが洗ってくれた食器が。

 ケイスケ……。


 ふと、お茶碗が目に付く。

 お揃いのお茶碗。一緒に買いに行って結局陶器のシックな夫婦茶碗を買って来た。

 内側にひとつだけ花の模様があって、シックだけど可愛いよねって。


 って!!

 ご飯ノリ状になってくっついてるじゃないの!!

 ケイスケ!言わないとわかんないんだから!言ってもこうだけど!今度きっちり言わないと!


 ……今度、はないんだよ。

 あたし、ひとりなんだよ。夫婦茶碗だし。相手はもういない。こんなの必要?ダメ割れちゃう。いいじゃない割れても、こびりついてるし。でも大切な思い出のっ思い出だけで戻ってくるの!!??こんなのあっても悲しくなるだけじゃない!でも


「こんなもの!」


 台所の床に投げ捨てる。

 なのにそれはふてくされたように割れずにごろりと転がっている。


「ケイスケのくせに」


 もう一度手に取ると両手で持って頭上へと…。

 やめて本当に割れちゃう!使う奴がいないんだからいいじゃん。だめよ、割っちゃだめ。なんでよ、使わないのに。それでも、だめなの

 うるさいうるさいうるさいっ


 それは、がしゃともぐしゃともつかない音を出し崩れた。





「ケイスケ!ケイスケ!…ケイスケぇ…」

 どこかで誰かが泣いてる。

 自分だってことに気がつくまでに少し時間が必要だった。

 薄茶色で肩くらいのショート、ジーンズにシャツを着た女性が割れた茶碗の前に突っ伏して泣いている。


 まただ。


 俯瞰している意識のあたしは思う。

 またヒステリックになって、今度は自分で割った茶碗の前で泣いてる。

 あたしは止めたのに。


 ケイスケが交通事故で死んでから2週間。その間このあたしの意識だけで体は動いてた。


 その時だってあっちのあたしはただ泣くばかりで、孤児同士なあたしたちの、ケイスケの葬儀はこじんまりとしたものを葬儀社にお願いしたのだけど、手続きやら何やら細々としたものをしなければならなくて、泣いてる暇があたしにはなかった。

 あたしだって泣きたかった。

 あたしだって、泣きたいのに。



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