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徒然に綴る短編集  作者: neko
ランデブー
2/8

ランデブー(遭遇B面

 ということで、喫茶店にいる。


「またお家に上がらせていただけませんでしたね。前の担当の人は上がらせてもらってたみたいですけど!」


 いつものミルクティーを飲む彼女は打ち合わせのたび同じことを言う。


「たまたまでしょ。俺だってコーヒーくらい息抜きで飲みたくなるでしょうよ」


 コーヒーを啜りながら、これまたいつもの同じ台詞で返す。

 テンプレートなやり取りになっている。


「だったら良いですけれど。何か隠し事があるんじゃないかって編集部で話題になってますよ?白状するなら今ですよ?!」


 くすくす笑いながら俺の目の前に座っているのが、かつて「ファンでした!」と言い放った奴だ。いや、女性にそういう言い方もどうかと思うがあの頃とこうまで変わったら致し方ない。

 笑顔はあの頃から変わらない。


「そんな話題になってるの?困るなぁ」




 そんなこんなで打ち合わせ中、からんとベルの音がしてドアが開く。

 条件反射で見た先には入ってきたばかりの清楚な女性で、彼女は店内をさっと見渡す。長い黒髪、白いブラウス、スカート。ふんわりとした化粧をしているのもまた装いに合っていて、初デートな雰囲気だ。

 パンツも合いそうだな、化粧も少し変わるだろうな。

 今度の連載のヒロインはこういう見た目にして、性格は……



「先生?聞いてます?」

「あぁ、ぁ、聞いてま…す」


 いたずらした悪ガキのようにどきっとして居住まいを正す。

 あろうことか、くすりと笑って一言。


「綺麗な女性に目を奪われるのも分かりますが、今は打ち合わせ中ですから」


 かなり歳下に言われる台詞ではないよな、これ。

 10も離れてさ、ましてやファンですとか言われた子に。

 あれを読んでから、俄然星や宇宙に興味が湧いてきて…とか言ってたなぁ。



『国際宇宙ステーションと先日飛び立ったシャトルとのランデブー飛行の予定時刻は現地時間午前4時と発表がされました。これにより…』


 誰かが開いただろうスマートフォンのニュースサイトの音声が響き、その音に彼女の意識が持っていかれたのが見て取れた。

 開いた当の本人は慌ててイヤホンを差し込んでいる。


「どうしたの?宇宙?それともランデブーって単語に惹かれた?」

「…違いますよっ」


 何か必死だな。

 そう思ったら口が滑りだした。


「俺ね、ランデブー飛行っていいよなぁ、浪漫あるネーミングだなぁって思うのよ」


 え、ちょっと何を言い始めてるの自分!


「時間決めて出逢う、デートの約束なわけでしょ、本来のランデブーって。楽しみな出来事だよね」

「えぇ、そうですね」

「それにさ、これはこじつけなとこもあるけどさ…」


 言い淀むとキョトンと覗き込んで来るから少し恥ずかしい。


「作家と編集者さんもランデブー飛行しながらひとつのものを作り上げていくんだろうなって思う時もあって…。だから、ありがとう、これからもよろしくね」


 待って。

 彼女が固まってる。

 目をまん丸にってそれ以上に固まってて、無表情なんですけど!

 まだ「何言ってんですかぁ」って言われた方が良かったよ!

 俯いちゃったよ。

 笑いを、呆れを見せまいと!?


 あぁぁぁ…やっちまった感半端ない。

 途中からもう笑顔で誤魔化してしまえと思ったが、それすら引きつっているという事実。

 編集部内でまたネタになるかもしれない…

 彼女より10も年上のおっさんがネタに。


「あ、っと。すみません時間が押してましてそろそろ失礼しますね。原稿もいただきましたし…打ち合わせの細かい事はその用紙にも書いてますので一読ください。では、失礼します」


 わざとらしく腕時計を見てさっと立ち上がりあっという間にドアの向こうへ消えた。

 がろんという音だけ残して。


「…マスター…俺、やっちまったかなー」


 カップをカウンターへと下げるついでに泣き言を言う。

 引かれたよな、何言ってんの?ってなったよなぁ。

 さっきまでいたテーブルに広げてた書類を一切合切纏めカウンターへ陣取る事にした。


「大丈夫でしょう。わからない間でもないですし。飲みますか?」


 クィッと盃を飲み干す動きをするマスター。

 そうここは昼は喫茶店、夜はbarという店であり、マスターいつ眠ってんだ?と疑問にも思う。


「んんー、何飲もう…」


 悩んでいるとスマートフォンが震えた。

 見るとメールが来たようで

「げっ90件もある!」


 基本バイブ機能を活用しているので気が付かない方が多いけれど、これは多いだろう。

 そう考えて思い至った。執筆中だったからだ!


 それはそれとして新着新着。

 

《まだ陽は高いですからお酒は控えめに》




 アルコールは辞めて、オーダーしたミルクティーが出されるとともにマスターが言うには

「先程の台詞、面と向かって言われて恥ずかしくなったんじゃないでしょうかね」


 そういえば、少し頰が赤くなってたような気がするなぁと、ミルクティーをちびりと口にした。


〜fin

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