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文芸部作品

僕と君

文芸部作品の転載です。

 ヒーローと怪物がにらみ合っている。

 ヒーローと怪物、戦うことは必然であった。でもあの怪物は・・・でもきっとそうだろ。

 僕はあの怪物を知っている。きっとあれは君なのだろう。

 結局僕らは戦う運命だったのかもしれない。いや、昔にそう誓ったのだから必然だったのかもしれない。しかし少し約束は違ってしまったかもしれない。

 でも僕と君、君と僕。どっちがどっちであろうと変わらなかったと思う。

 だから僕らは戦わなければいけない。己の正義のために。


 お母さんは今日同窓会で久々にお友達にあって楽しんでくるといっていたので遅くなる

と言っていた。私はもう夏休みだし、昼間は近所の私の同級生の家に預かってもらうらしい。

 私はまだ小学三年生だし、料理もまだヘタクソな目玉焼きぐらいしか出来ない。

 それにサラリーマンのお父さんは夜のちょっと遅い時間にならないと帰ってこない。だから近所の家に預かってもらうらしい。

 でも私は友達の女の子の家に行きたいと少し駄々を捏ねたけど、迎えに来るお父さんが友達の家をあまり知らないからって却下された。

 結局私は近所に住んでいるお母さんの友達の家に預かってもらうことになった。


 お母さんの友達の家には男の子が居た。

 ちょうど同じ小学三年生で同じ学校だった。

 男の子とは仲がよかったけど、その子とはクラスが一緒になったことがなかったから良く知らない。

 私はその子の家の天井を眺めならが、もっと近所に友達の家があったらよかったのになって思った。

 そしたら友達の部屋でおままごとをしたり、お人形あそびをしたり、かわいいお菓子の話をしていただろうな。

 でも仕方ないから、本でも読んでお父さんを待つことにした。今日持ってきたのは『ジェニーちゃんとあそぼ』だった。

 私もジェニーちゃんみたいにお城で遊んでみたいな。

僕の家に女の子が来ていた。お母さんの友達の子らしい。

どうして家で預かることになったのかは忘れた

僕はいつも近所の子とかいつの間にか仲良くなった学校の男の子達と遊んでいた。たまに女の子とも遊んだり話したりすることはあったけど、その子とはクラスが一緒になったこともないし一緒に遊んだこともなかったからどうすればいいか分からなかった。


女の子は本を読んでいたので僕はテレビを見ていた。

僕はテレビが好きだ。

冒険にワクワクするアニメも色々面白いことをするバラエティーも好きだな。

でもニュースはまだ何を言ってるかよく分からないからあまり好きじゃないけど、でもテレビには色んなものがあって楽しい。

特に夏は特殊モノが多くて好きだった。


そうしてテレビに夢中になっているとお母さんはお昼が出来たと呼んでくれた。

今日のお昼は冷やし中華だった。やっぱり夏には冷やし中華が美味しいよね。

お母さんと女の子と僕とで同じテーブルに着いて食べた。

給食以外で女の子と一緒にご飯を食べるのはなんだか不思議な気持ちだった。

でも給食の時と違ってあまり会話がなかった。

お母さんが女の子に色々と聞いていたけど首を振って、一言二言話すだけであまり会話にはならなかった。

お母さんはきっと知らない家で緊張しているのだろうと女の子にやさしく言っていた。確かこういうのを借りてきた猫っていうんだっけ?

でも僕にはことわざはむずかしいや。


お昼を食べたあとお母さんは内職に戻って行った。また部屋に女の子と僕の二人になった。

僕はまたテレビを見ていた。

しばらくして気になって女の子の方を見てみると持ってきた本に読み飽きたのか本を時々ペラペラとめくり暇そうにキョロキョロしていた。

僕は女の子に近寄って「僕の本を貸そうか?」って言ったけど、女の子は無言で首を振るだけだった。

やっぱり男の子と女の子じゃ、読みたいものも違うのかな。

僕は元の位置に戻りテレビをまた見た。


でもなんだか女の子が気になってテレビに集中できなかった。なんでだろう、さっきまではあまり気にせずにテレビを見れたのに。

僕はなんだかモヤモヤし始めて、なんだかよく分からないけど女の子の手を引っ張って一緒にテレビの前に行った。

「暇なら一緒にテレビ見ようよ」

 僕がそう言うと女の子はなんだか困ったようにキョロキョロした。僕はもっとモヤモヤしてよく分からなくなった。だからテレビに集中することにした。

 しばらくすると女の子も落ち着いたようでキョロキョロした目はいつの間にかテレビに向けられていた。

 僕らは気が付くと同じようにハラハラしたり、驚いたりしていた。

 いつの間にか僕らは普通に会話をするようになっていた。

 夕方になるといつも僕の楽しみな番組が始まるんだって言ったら女の子はキラキラした目で僕に笑顔を向けてきた。


 ちょうどその時その番組は始まり、女の子のキラキラした目がテレビに吸い込まれていった。でもなぜだろう、大好きな番組のはずなのに始まって欲しくないって思ってしまう。

 でもそんなワガママは聞いてくれないようで、僕の大好きなヒーロー特撮が始まった。

 ヒーローが悪の結社の作った怪物を倒す。そんなシンプルなストーリーだった。

 でも今日はなんだかとてもドキドキした。なぜだろう。

 ふと横を見ると女の子も同じようにテレビに釘づけだった。きっと女の子も同じ気持ちなのだろうと思った。

 なんとなくドキドキの理由が分かった気がする。


 きっと僕はヒーローに憧れたんだ。


 なんだか男の子の視線を感じて男の子の方を見たけど、男の子はテレビに夢中だった。

 でもなんだかドキドキした。なんでドキドキするのかよく分からなかった。

 だからテレビのヒーロー特撮に集中した。テレビは見るけど、こういうのは始めてみた。

 ヒーローが怪物を戦ったり、怪物が人に迷惑をかけたりしていた。

 でもそんな中で怪物が逃げている最中に転んだお婆さんをやさしく手を貸してあげる場面になんだか不思議なものを感じた。

 そこで今気が付いた。

 きっとこのドキドキは憧れなのだろう。


 きっと私は怪物に憧れたのだろう。


 僕らがヒーロー特撮を見終わるとちょうど女の子のお父さんが迎えに来た。

 女の子は走って女の子のお父さんに跳びついた。僕はなんだか寂しくなったけど、返る間際女の子が「また遊ぼうね」って言ってくれた。

 僕はそう言われてすぐ体がポカポカしたような気がした。

 きっとこの夏休みは女の子といっぱい遊ぶのかな。

僕らはその夏たくさん遊んだ。ヒーローごっこをして遊んだことが多かったけど、ほかの友達みたいにヒーローを取り合うことはなかった。

だっていつも僕がヒーローであの子が怪物だったからだ。

いつの間にかそうなっていた。最初からそうだったかのように、それが普通だったかのように。

 そして僕らは高学年になっても一緒に遊び、笑いあい、時にはケンカをしながらもいつも言い合ってきた。

「僕はヒーローになる」

「私は怪物になる」

 僕らはそう言いながらいつものように続けた。

「それなら僕が君を倒すんだ」

「それなら私が君を倒すんだ」

 それは幼いが故にそれがどういう事かもはっきりと分からずにした約束だったが、僕らはそれを信じていた。

 きっと僕らはそうなるだろうと思っていたからである。


 僕達は気が付くと高校生になっていた。僕達がお互いの名前を知ったのは中学生に上がった時だった。それぐらいに僕達はお互いのことしか気にしていなかった。

 僕達は中学生になっても高校生になっても一緒に遊んだ。

 でも中学生になるにつれ、高校生になるにつれ、お互いを異性として意識するようになっていた。

 だからいつの間にかそういう関係になっていた。

 それでも僕達の約束は変わらなかった。

 たまにはくだらないことを言ったり、ヒーローのどこがいいだとか、怪物のどこがいいだとか話し合ったりした。

 それは高校に入り、自分達の関係が恋仲な関係なのだと気づき、ぎこちなくもお互いを愛し合い、お互いを知ったかぶりした行為で埋め尽くしもした。


 それでも僕達にはその時がやってきた。

 三度目の冬休みを迎え、僕達で過ごす何度目かの年越しだった。

 その頃になると次第にお互いを傷つけないようにと距離を置き始めた。

 いずれは敵同士になるのだから、もしかしたらどちらかがどちらかを殺すことになるかもしれないのだから。

 そして高校最後の三学期になると僕たちはより一層お互いに距離を取るようになった。別に示し合わせたわけでもなく、自然にだった。


 会話もどこかぎこちなく、むしろ話しているとお互いに棘があるくらいだった。

 でもこれがお互いのためなのだと信じ、そうするしかなかった。

 結局僕らはまだ子供だったのかもしれない。

 そうする事でしか気持ちを抑えることが出来なかったのだから。

 そしていつかあの約束が訪れないことを祈って僕達は卒業した。


 僕は憧れだったヒーローになるためにヒーロー育成機関に入った。

 この頃になるとヒーロー育成機関も爆発的に増え、様々な方針があった。

 五人一組のユニットを組んで戦うものや逆に一人で戦う個々の戦闘力高いタイプのヒーローもいた。その中でも変わったものもいくつかあった。

 たとえば、元怪物の裏切り系ブラックヒーローや特撮や宣伝活動のためだけにヒーローをする役者系ヒーローもいた。

 僕はその中でもかなりの歴史ある名門の〈ヒーロー見参!〉を選んだ。

 この〈ヒーロー見参!〉は基本的に一人で戦うため戦闘力は高めのタイプのヒーローを輩出している。

 僕は憧れだったヒーローになって世界を平和にするのだ。

 だが最初の頃はやっとヒーローになれると思ってキラキラしていた。しかし現実を知るのは早かった。


 怪物たち以上に黒い上下関係、新人ヒーローの雑な扱い、最後は金がものを言わせるレギュラーヒーローへの道。

 そんな現実を知って僕は愕然とした。今まで憧れてきたヒーロー達は偶像でしかなかった。

 徐々に僕の心は荒んでいった。歴史はあってもこのご時世では正統派であったのはもう昔のことだった。

 怪物への憎しみを正義と刷り込む洗脳教育、負傷した先輩ヒーローの対決 談による恐怖の刷り込み、そしてその恐怖を利用して過酷な訓練の強要。

 僕はそんな中で道を見失いかけていた。

 私は憧れだった怪物になるために怪物結社に入った。

 怪物結社もヒーロー育成機関と同じく多様化していた。

 怪物はどれも醜い姿をしていたが、中には外見で惑わせるために綺麗な怪物も現れ始めた。そのほかのもヒーローからの裏切り怪物などもあった。

 私は〈怪物工房〉に入ることにした。〈怪物工房〉は比較的新しく従来の怪物結社にはない総合怪物結社だった。

 それでも私は特撮で見たような醜い外見をした怪物を選んだ。やっぱり怪物と言えばこういう見た目がしっくりくるよね。

 しかしやっぱり私の憧れていた怪物とは少し違った。彼らには優しさはなかった。

 ただ破壊とヒーローの抹殺しかないのだった。


 しかしそれでも私はそこに私の信じた正義があると信じて怪物として頑張った。

 いつか、きっと君との約束を果たすためにも。

 僕は暗い路地にいた。ヒーローとしての自信を失いどうすればいいのか分からなくなっていた。

 正直もうこのままヒーローをやめることも考えていた。

 しかしそんな時だった。

 偶然にも君が通りかかったのか声をかけてきた。


「やぁ、元気? 私はまぁまぁかな」

 僕は悪でありながら堂々として明るい君に嫉妬した。

「僕はもう無理かもしれないよ。ヒーローとしての自信を失いかけているのかもしれないよ。もう正義がなんなのか分からないや、ヒーローなんて辞めちゃおうかな」

 僕はもう冗談なのか本気なのか分からずにいた。

 でも君はこんな僕でも敵な僕でもかわらぬように接してくれた。


「君が求めてたのは世界にとってのヒーローなの、それとも誰かにとってのヒーローなの? 君の本当になりたかったのはどっち?」


 僕はその言葉を聴き、なんだか胸のドキドキを久しぶりに思い出したような気がした。

「私は君に守られていたとき、とても暖かくて嬉しかった。」

 君はそういうともう何も言わすに去っていった。

 僕は何か出来そうな気がしてきた。


 にらみ合いは終わり最後に残ったのはヒーローだけだった。

 怪物は淡く光だし、風に吹かれた塵のように消えていった。結局残ったのは僕だった。

 運命であれ必然であれ残酷なものだ、お互いに好きあっていた者であっても立場が立場なら当然となる。


「僕ね、うんん」私は首を振ると誰も居ないそこでフェイスガードの付いた ヘルメットを外し君の居た場所に目を向けた。

「私ね、ヒーローに憧れていた君みたいになりたいと思って少し君の言葉遣いを真似してみたの似てるかな?」

 私はだんだん声が震え始めた。この気持ちはなんなのだろう。いや、この気持ちの正体は知っている。でも私は認めたくなかったのだと思う。


「怪物になりたい私がヒーローに、ヒーローになりたい君が怪物になっちゃったね。私見ちゃったんだ、君が怪物結社に入っていくのをだから私はヒーローになろうと思った。君を止めるために、でも結局止められなかった」

 やがで私は頬からうっすらと涙が伝い始めていた。そしてその涙を隠すかのように私は空を見上げた。

「こうなることも分かっていたつもりだった。でも悲しいものなんだね。だから私決めたよ。君の分までヒーローとして頑張るよ」


 再び私は君の居た場所を眺めた。きっとこれは乗り越えなければいけない最初の壁なのだと自分に言い聞かせた。そうすることで君の夢を肩代わりしたような気がした。その頃にはもう涙も止まっていたが、涙のあとだけは君を殺した事実と同じように残っていた。そんな私の声もまだ少し震えていた。


「だから、いつかきっと世界を平和にしてみせるよ」気づくと私は笑顔で君が居た場所を見ていた。


 すると背後から足音がした。私は一瞬遅れて振り向くと緑色で嫌悪感を抱く外見をした怪物がそこに居た。

 私は思考をめぐらせ動こうとした。しかし遅すぎたのだろう。

 怪物は腕から伸びる長い鍵爪のようなもので私の胸部を貫かれた。

「ゲヘヘヘヘ、こんなところでヘルメットを取るとは間抜けな奴だ」

 怪物の下卑た笑い声と共に勝ち誇った声をかき鳴らしながら鍵爪を勢いよく引き抜いた。私の胸からは熱いものが飛び出した。


 そのうち立っていることも出来ずうつ伏せに倒れこんだ。倒れるとほおに何か暖かいものが付着した。

――ああ、これは私の血か、血ってこんなにも暖かいものなんだね。

「こういうのを漁夫の利って言うんだろ?俺は運がいいぜ。ゲヘヘヘヘ。」

 私はそんな下卑た笑いを耳にしながら自分から体温が失われていくのを感じた。しかしもうどうすることでも出来ない。


 そして冷たくなっていく私は下卑た笑い声とそっと頬を伝う雫の感触を最 後に何も感じられなくなり、全てを闇に飲まれた……

まえがきにも書きましたが文芸部作品の転載です。

この作品はヒーローをテーマに書きました。

しかし、ただのヒーローでは面白くないと思い

ヒーローが一般化した世界の裏の出来事を書いて見ました。

おもしろかったでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイデアは良かったと思います。それと二人の視点で交互に物語が進むのも好みでした。(自分でもそういう話を好んで書いたりするので) [気になる点] ヒーロー育成機関辺りから唐突な感じがしました…
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