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銃火のオシナー  作者: べりや
第六章 西方戦役
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曇天

「ひどい目にあった……」

「余に先んじて言うではない、このうつけ」



 川岸から離れ、ナザレの村に帰り着くと俺とケヒス姫様は互いに泥まみれだった。

 せっかくの外套が……。ま、まあ偽装能力が向上したと思えば――って思えるか!

 せっかくの外套が……。

 これ、泥を乾かして叩けばなんとかなるか?



「オシナー少将!」



 這う這うの体で村に向かって歩いていると武装した一個班ほどの兵を率いたヨルン大尉が駆け寄って来た。



「先ほどの銃声は?」

「おそらくエルファイエル側の残党だ。釣りをしていた所の対岸から撃たれた」

「すぐに兵を出します」



 戦闘は嫌だと言うヨルンに兵を指揮させて大丈夫だろうか、という疑問が浮かんでくる。

 それにヨルンは一応、士官教育として戦術などを教えはしたが、戦闘の指揮に関しては特に何も教えていない。(それより輜重参謀の仕事を優先させた)



「コレットは? 騎兵なら機動力もあるから、コレットの騎兵小隊で敵を捜索させろ。

 教練中の全小隊は村周辺の警備を、森に入っている部隊にも警戒態勢に入らせるんだ」

「敵の追撃には騎士団も出させろ。本陣にヨスズンがいるだろう。そこに行って騎士団を出させろ」



 口早に命令を伝達し、十人で構成される一個班から二人の伝令が去る。

 そして俺達二人を囲うように班員が回りを固め、敵の襲撃に備えるように村の中心地である屋敷に戻る事になった。

 その途中、幾人かの騎士と鉢合わせし、ケヒス姫様が追撃の司令を直接出したりしながら目的地にたどり着く。

 どこか慌てた空気が村中に広がっているが、村民の方は不安そうに俺達を見ている。

 俺達はそのまま屋敷の中に入り、ヨスズンさんと合流した。



「ご無事でしたか」

「あいにくな」

「そう、すねないでください姫様。敵は?」

「一人か、二人だろう。カナンからの残党と見て間違いない」



 本陣として借りている(接収している?)部屋の机に広げられた地図にケヒス姫様が指を這わせながらため息をついた。



「地の利は敵にある。この一体に火を放って敵が草に隠れられないように清掃してしまおうか」

「雪が積もっているので燃えるかどうか怪しいですな」

「いや、延焼の危険もあります。火を放つのは……」



 かと言って連隊総出で草刈りをやらせる訳にもいくまい。



「連隊としては川岸に土塁を築いて防衛線を作るべきだと思います。この、チグリス大河にそって……」

「どこまで張り巡らせるつもりだ。川岸一体を守備するとなると相当になるぞ」

「川幅が五十メートル以上もある大河ですから、おのずと渡河点が限られます。その要点――例えばナザレ大橋や、この川幅の比較的短い所を中心に築城を進めれば規模も小さくなると思います」



 ナザレ大橋はカナン解囲後の追撃戦で一度、落ちてはいたのをケプカルトの工兵が復旧させたのだ。

 今はエルファイエルの王都ガリラヤを目指すケプカルト軍主力の主要な補給線となっている。

 その橋の防衛も視野に入れるなら、橋を中心に土塁を築くべきだ。

 俺も地図に指を這わせて土塁の位置の案を出していると腕を組んだヨスズンさんが疑問を口にした。



「人足はどうする? 連隊でやるのか?」

「あ、そうですねぇ。連隊は丸太小屋の建築があるので部隊を抽出するのは難しいですね……」



 周辺の村に展開する部隊から人手を募っても良いが、彼らも仮設の住居建築に追われているだろうし、困ったな。



「……要は敵の攻撃を辞めさせる策を練れば良いのだろ? なら陣地に固執せずともよかろう」

「と、言いますと?」



 嫌な予感が――。



「目立つ所に絞首台を設置して村の若いエルフを吊れば良い。特に女なら、なお良い」



 いやあああ。



「ダメですよ。絶対に」

「姫様、ここはクワヴァラードでは無いのですぞ」



 クワヴァラードでは無いって、やったのか。この人達。



「クワヴァラード掃討戦の折、亜人捕虜を城壁に吊るして行ったら抵抗が増した事をお忘れではないですよね」



 そんな事をやっていたのか、この人――いや、人でなし。



「む、確かにそうだったな。見せしめとして目についた亜人を次々に吊るしたのはまずかったか。

 それを踏まえるなら、やはりやめた方が無難だろうな」



 無難も何もやめてください。



「そんな事をすれば敵愾心が募るばかりです」

「強者の余裕を見せれば抵抗する気も失せると思ったのだがな」



 まあ、そこらへんの士気の操作は紙一重のような気もするが、もっと平和的に行きたい。



「ここはやはり防衛線の策定とナザレへの融和政策を採るべきです。

 ナザレの村民に連隊と騎士団に敵意が無い事を示せば襲撃もなりを潜めるかもしれません」

「甘い。余は――ケプカルトはこの地に戦争に来ているのだぞ。未だ前線では激戦が繰り広げられておるだろう。

 この平和も偽りにすぎん。」

「しかし、彼らと同じ空間を過ごすのなら、敵対するより融和を図るべきです」



 ケヒス姫様は「この分からず屋」とでも言いたげにしていたが、ヨスズンさんは考え込むように組んでいた腕をといで両手を机の上に乗せた。



「姫様。オシナーの言ももっともです。

 東方での抵抗が激しかったのもまた事実、ここは手法を変えてみてはいかがですか?」

「しかし父上は西方親征の折に貴様に亜人の首を斬らせたろう。それも百人だ。

 それなのに西方辺境領は安定を見せているでは無いか」

「親征の時はエルファイエルとは短期決戦で戦がすみ、早々に王都より文官をガザに招いて占領政策を行ったからです。

 前王様は私に亜人を斬らせた事で反する者には死を与え、文官の緩やかな統制による緩急をつける事で現王様に従うよう状況を作りました。

 しかし、姫様は急しかありませぬ。よいですか――」

「わかった。わかった。もう良い」



 お手上げというケヒス姫様にヨスズンさんが溜息をついた。

 それにしても暖急ねぇ。

 それもどこまで上手く行くかは疑問だが、まあそういう物なのか?



「では策はオシナーのを採用する。防衛策に関しては土塁を作って陣地を築け。

 して、亜人との融和とはどうするのだ?」

「そうですねぇ……。一番なのは我々の物資を分け与える――言い方は悪いですが、物で釣るというのがもっとも簡単なように思いますが、分けるほど物資は余っていませんし……」



 むしろ足りないくらいだ。

 おそらく、この戦争に当たってナザレの村も秋の収穫の多くを兵糧として奪われているだろう。

 だから食料などを分けるという点は高ポイントなのだろうが、その分ける食料が連隊にも騎士団にも存在しない。



「後は、村の政への不干渉でしょうか」

「不干渉だと? なんのための軍政と思っておる。この村は我らが占領した、いわゆる準ケプカルト領なのだ。

 亜人を我らの下に置くのは当たり前だ」

「まったく支配下に置かないのではなく、例えば集会や祭りなどの村民が集まる事に関してはケヒス姫様の許可がいる、というだけの簡単な法を科すだけでその他は今まで通りにしてもらえれば我らの負担も減るのでは?」



 村民が集まらなければ反乱の計画を練るのが難しくなるはずだ。

 それにそれさえ気をつけていれば村という組織だっての戦闘に発展しにくいと思われる。

 個々人の反乱――反抗であれば対処のしようなどいくらでもあるし、それに行政にかける手間も減らせる。

 重要な案件を決める役をケヒス姫様が担えば軍政をしいている事に違いは無くなるし、ナザレとしては軍政下とはいえ自治権が認められているような物だから行政に関する反抗も減るかもしれない。



「なるほどな……」

「どうですか?」



 ケヒス姫様はちらりとヨスズンさんに視線を向けると、ヨスズンさんは「良き案かと」と言ってくれた。



「限定的な自治権を与えれば村長の面目も持ちます。それに西方は宗教が強権となり得る地です。

 司祭役もこなす村長が政を行い、その最終的な正否を姫様がこなすならオシナーの言うとおり村からの反感が減るものと思われます」



 静かに言われた言葉にケヒス姫様は眉間をゆがめながら思案にふける。



「姫様、よろしいですか?」

「なんだヨスズン」

「この地はいわば臨時に預かった土地と言えます。その点がクワヴァラードとは違います。

 占領地の安定が計られれば王都から政に長けた文官が派遣され、我らは軍政を彼らに引き継ぐ事になるのですから、難しく考えなくても良いのでは?」

「つまり、ナザレの村をいかに統治するかではなく、いかに安定させるか、が命題というわけか」

「左様にございます」



 なるほど。

 確かに俺たちの任務は占領地の安定化であり、軍政をしくのはあくまで占領地を安定させるための一手段でしかない。

 なら、俺の言った案でも十分という考えか。



「ここはゆるりと、すごされては?」

「フン。この地の果てのような村でゆるりと過ごせと言うか?」

「ここはしばらく。姫様の今後を深く考えるべきかと」

「……そうか。そうだな。アウレーネ(ぶた)のせいで余の計画は台無しだ」



 その点も、あるか。

 おそらくアウレーネ様は王国全土に小銃から野戦重砲と言った火器も売るつもりだろう。

 特にこの西方の戦で火器の優位性を諸侯が知ったこのときなら、さぞ売れる事だろう。

 そうするといずれ諸侯でもコピー生産が始まるはずだ。

 そして火器を装備した徴兵部隊を有した国民皆兵の時代が到来する。

 そうなってしまえば資源に限りのある一辺境領がクーデターを起こしても、まず成功しないだろうな。



「小銃の優位性は東方の優位性に変換できたが、あれのせいで大きく狂ってしもうたな」



 苦々しく呟くケヒス姫様がタウキナと国交を絶つと言わないか不安になる。

 アウレーネ様はタウキナが東方に依存する事を恐れていたようだが、逆に今の東方はタウキナに依存していた気がある。

 タウキナの良質な鉄、硝石や硫黄と言った火薬の原材料、そして小銃を製作する工房。

 急速に連隊が規模を拡大出来たのはタウキナの協力があった故だと思う。

 それを切ってしまうとより東方は苦しくなるだろうし、かと言ってなんら制裁も与えないと言うのはケヒス姫様としてありえだいだろう。



「どちらにしろ、雪解けまで我らは動けませぬ。ここは腰を据えて考えるべきと存じます」

「そう、だな」



 ケヒス姫様は屋敷の窓から曇り空を眺めながらそう呟いた。


まだツンツン。

すごい久しぶりの投稿にガクガクが止まりません。(デジャブ)


久しぶりとあってクオリティーが低下していますが、私は気にしないので皆様も気にしないでください。(暴論)



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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