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銃火のオシナー  作者: べりや
第二章 タウキナ動乱
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カサドール

「来たか、オシナー」

「お呼びでしょうか、ケヒス姫様」

「相変わらず無様なつらだ。包帯を巻いて、まるで敗軍の長だな」



 謁見の間に呼び出されて早々に敗軍の長呼ばわりって……。


 だがアムニス大橋の戦いで三分の一以上の兵力を失ってしまった猟兵中隊はある意味敗軍と言って差し支えない。

 しかしあの戦からすでに二週間はたって中隊の再編も完了している。

 それに頭の傷も包帯を巻いているが見た目ほど酷いものではない。でもケヒス姫様になじられなら医術師と交渉して包帯を取り外そう。



「また反乱が起こった。今度はフシャスだ。兵を派遣させよ」

「ちなみに反乱が起こった理由は?」

「早馬によると徴兵反対の一揆のようだ」



 二週間とは短い時間だと思ったがケヒス姫様は総督府につくやクワヴァラード中に奴隷売買禁止の勅を出された。

 その代わり奴隷を売買していた業者には硝石や硫黄、木炭と言った火薬の材料を取り扱うのであれば奨励金を出すと言ったらしい。

 それでも反発が多く、騎士団が武力的に反発を潰したと聞くが大丈夫なのだろうか。


 いや、奴隷売買に関する問題もさることながら徴兵の勅も反発を招いている。



「ちなみに敵は……」

「ケンタウロスが五十ほどだ。奴らの機動力をなめるな」

「分かりました。相手への処罰ですが……」

「余の意思に背いたのだ。首謀者は極刑に決まっておろう」



 亜人政策の見直しや徴兵は専制政治をしているだけあって早急に決定されたが、早急すぎた。回りがそれについて来れないという節がある。

 何よりも今まで奴隷として売買されていた人々を今度は兵隊として取られてはなんら変わらないという風潮が生まれてしまったために徴兵反対の一揆が起こっているのかもしれない。



「あの、差し出がましいようですが――」

「なら話すな」



 水をかけられたようなピシャリとした物言いに黙らざるを得ない。



「どうせうぬの事だ。亜人兵士の俸給を上げろ――つまり一方的に使われているのではないと亜人共に印象付けたいのであろう。うぬの考えに従うのは癪だがこうも反乱が起こってはたまらん。考慮しておこう」

「あ、ありがとうございます!」



 ケヒス姫様は「はよう、行け」と言う様に手のひらをふった。

 俺は一礼してその場を後にしてクワヴァラード郊外に設けられた駐屯地に向かう。

 中隊には寛大な損害が出ていたがケヒス姫様が雇っていた傭兵の編入や徴兵よって得た戦力のおかげで数だけは増えている。

 ユッタの報告だと総戦力は千五百を超えるとの話しだ。そのうち元傭兵が五百人以上と全隊の三分の一を占めているらしい。

 だがこの根こそぎ動員によって集まった兵たちの錬度は限りなく低い。せめてもの慰みは傭兵の数だろう。

 実戦経験のある傭兵たちを各隊に分派して新兵たちの尻を叩かせて訓練に励んでいるが、対外戦争などを担えるレベルではない。


 しかし、徴兵一揆を起こしている連中とは装備の差によるもののせいか互角に戦えている。(軍隊が市民の反乱と互角というのも問題だが)

 だが、アムニス大橋で戦ったようなオークや戦好きなケンタウロスと戦うことになれば話しは違う。

 あのオークの力を見たら逃げ出す兵士も多いと思うし、ケンタウロスのような騎馬戦力はその突撃だけで相手を畏怖させる。

 それにケンタウロスに限れば訓練の浅い歩兵が騎兵突撃を受ければどうなるか、と言うことに置き換えられる。

 答えからすれば否だ。



「連隊長閣下ご入来!!」



 司令部の役割をしている天幕に入るときに衛兵が声を上げてくれた。未だに『閣下』という敬称に恥ずかしさを覚える。


 そんな玉じゃないだろうに、と。


 司令部にはすでに幕僚がたちが中央の机に広げられた地図を基にに各地で頻発している徴兵反対一揆の鎮圧について話し合っていた。



「これはこれは、連隊長閣下ではありあせんか!」



 破顔して向かえてくれたのはドワーフの砲兵参謀であるローカニルだ。



「また、出兵の話しですかい?」

「そう言わないで下さいよスピノラさん」



 スピノラさんはケヒス姫様に雇われていた歴戦の傭兵だと聞いた。噂によると無理やり傭兵たちを野戦猟兵連隊カサドールに併呑されてしまってこの世の全てを恨んでいると聞く。



「フシャスにてケンタウロスの反乱が起きた。数は小規模だが、相手は騎馬戦力――強力な勢力だ。再編の終わった第一中隊と第二中隊を派遣しようと思う」

「第一中隊は司令部直轄の部隊ですから陣頭指揮を執られるのですか?」



 そう言ったのはユッタ・モニカ大尉だ。

 アムニス大橋の戦で左腕を骨折しているので赤い軍服を羽織るように着ている。軍務に復帰していて大丈夫なのだろうか。



「相手は騎馬戦力だから俺が陣頭指揮を取る。すぐに準備してくれ」



 俺の命令を聞いてユッタが片手で器用に机上に広がった地図を片付け始める。



「亜人共が調子にのりやがって。あぁ、副官殿と砲兵参謀殿、気分を害されたのなら謝罪いたしましょう」

「調子にのっているという点ではわしも同感だ」



 ローカニルは伝令を呼んで指示を出し始めた。



「しかし連隊長殿、こうも頻繁に出撃させていては兵たちが持ちますまい」

「それも確かですが、スピノラさんも準備をしてくださいよ」

「了解しました連隊長殿。ただ、一揆の鎮圧をするなら人間だけの部隊を作ったほうが良いですぜ。東方領を守る軍隊を作るという名目でこの連隊が作られたんです。それは亜人を守ると同義です。それなのに亜人たち同士を戦わせるのは忍びないと思うんですがね」



 スピノラの言う事も正しい。この連隊が発足するにあたって東方領の自治と繁栄を守るためという訓示があった。

 その訓示を守るなら亜人同士で戦うことは理にかなっていないと思える。だが――。



「人間同士でも戦争はしますし、一揆の鎮圧もするでしょう?」

「まぁ、そりゃ、そうですがね」



 スピノラはそのまま議論をするのかと思ったが、スタスタと司令部を去っていった。どこか飄々として掴み所がないような人物だ。



「オシナーさんも手伝ってくださいよ。片手ではやはり無理です」

「おぉ、悪い悪い」



 散らかった天幕の中から反乱鎮圧に必要な地図や部隊状況が書かれた書類を選別して纏め上げる。

 すでに幾人かの従兵たちが天幕を片し始めた。



「腕は良いのか?」

「さすがに手銃は撃てませんが、部隊への指示くらいでしたら平気ですよ」



 思ったより元気そうなその姿に安堵を浮かべる。

 だがあの時の、大切なものが滑り落ちていく感覚を二度と味わいたくない。

 全てを守ろうとは思わない。だが、出来るだけ多くを守りたい。


 そう、思えた。



「それよりオシナーさんも頭の傷は良いのですか? したたか出血していましたよね」

「あの時は頭の中身も出ているんじゃないかと思ったよ」

「もう――」



 あまり心配させないで下さいね、とユッタは小声で言って小走りに走っていった。

 なんだか、嬉しい反面、なんだか――。

 恥ずかしい、いや、照れくさいというか。顔の温度が上がった気がする。



「お話は終わったか?」

「よ、ヨスズンさん!?」



 一体いつからそこに居たのか。唐突に背後から話しかけないで欲しい。



「今回の遠征で気になることがある」

「気になることですか?」

「アムニス大橋で戦ったオークなんだが――」



 あの戦闘で大暴れをして俺にトラウマを植え込んだオーク。

 そのオークはヨスズンさんによる『誰にでも本音を言わせる会話術』を受けてその後の事を俺は知らない。


 いや、知りたいとも思わない。知ると消されるかもしれない。だからケヒス姫様にもその後の話しを聞けずに居た。



「妙な事を言っていた。おそらく誰かにそそのかされて挙兵したようだ。誰か、という部分については定かではない。おそらく魔法のたぐいで消されているようだ」

「魔法?」

「知っての通り姫様は敵が多い。亜人もそうだが、人間にもな」



 確かにケヒス姫様の性格を考えれば敵は多そうだ。それに騎士団も各地を転戦しているらしいから各地に恨みの種を蒔いているのかもしれない。



「東方辺境領で頻発している一揆も、もしかすると裏に扇動者がおるのかもしれない。だから出来ればケンタウロスを捕まえて『会話』をして欲しい。無理そうなら、捕虜にしてもかまわない」

「ど、努力いたします……」

「私はこれからタウキナ大公国に行かねばならんから捕虜を連れ帰ってもすぐには『会話』できないだろうが、遠慮はするな。力になろう。では武運を祈っている」



 そう言ってヨスズンさんは背中を向けて去っていった。

 だが俺は誓おう。捕虜は取らない。捕虜となるケンタウロスに新たな火種を作らせないために。



   ◇ ◇ ◇



「前方! 距離三千メートル!! ケンタウロス!!」

「戦闘用意!!」



 馬術に心得のある元傭兵を斥候に出してよかった。

 その元傭兵からケンタウロスたちがクワヴァラードに向かう街道を南下中という報告を受けていたから余裕を持って対処できた。



「戦闘用意が完了しました!!」



 ユッタの報告に即席の陣地を見渡す。

 いや、即席というのもはばかれる。



「馬車の壁に穴を空けてそこから攻撃するなんて、すごい思い付きですね」

「まぁ、乗っている馬車が馬車だけどな」



 俺たちが乗っている馬車は商会から借り受けた元奴隷馬車だ。

 鉄格子がついているからそこを支柱に頑丈な板を貼り付けて銃眼を作った即席――簡易陣地だ。

 だが『亜人』と呼ばれる人たちと奴隷馬車に乗ってケヒスケヒス姫様のために戦っているのは複雑というより皮肉を感じる。



「あ、後方から狼煙が上がりました。後衛の第二中隊も準備できたみたいです」

「こっちの馬たちを収容できたみたいだな」

「我々が突破されない限り戦闘に参加できない第二中隊からはそれを喜ぶ声があるようですよ」

「戦いたくないという気持ちも分かるけどな……」



 だが、そのままで良いとは思わない。戦わねばならない時はいずれ訪れる。

 この軍隊はケヒス姫様の復讐に使われる日が来る。東方辺境領の守備と繁栄のための軍隊と名づいているが、ケヒス姫様が文字通りの意味で使うことは無い。

 ケヒス姫様の願いはただ一つ。



 現王へのクーデター。



 きっと東方辺境領の自治権や自由と言った美しい名目で戦地に駆り出されるはずだ。

 ならばその時に戦えるような兵士を作らなくてはならない。

 戦えなければ殺されてしまうかもしれない。

 戦わなくてはならない時にその人は死んでしまうかもしれない。

 なら、俺は彼らが生き残るために必要な策を全てとろう。例え幾多の怨嗟と憎悪を受けても俺は彼らが生還できるように戦える人に仕立て上げなければならない。

 それが、銃を発明してしまった俺の責任だ。



「距離、六十メートル!!」

「撃て!!」



 耳を劈く爆音と目を覆う白煙が銃口から吐き出される。

 突撃をしてきたケンタウロスたちが次々に崩れ落ちていく。



「着剣!!」



 すでにケンタウロスたちは五十メートルの距離をつめてきた。次の弾を込める時間は無い。

 手銃の柄に鋭い銃剣を差し込んで突撃してきたケンタウロスにそれを突き刺す。

 ケンタウロスたちも手にした剣で果敢に切りかかってくる。



「ヒィ! もう嫌だ!!」



 新兵が手銃を取り落として逃げようとするが、元奴隷馬車と言う事もあって逃げ出せる場所などない。それを古参の中隊員が叱咤する。



「黙れ新兵!! アムニス大橋から比べたら天国だよ!!」

「落ち着いて!! 二人で共同して攻撃して!!」



 だが悪態をつくのは見方だけではない。



「クソ! 壁が邪魔で切り込めない!! 降りて正々堂々と勝負しろ!!」

「誰がケンタウロスと正面切って戦えるか!!」



 ケンタウロスは壁が邪魔で決定打になる一撃を打てないでいた。

 だがこっちは近づいてきたケンタウロスに銃剣を刺すだけだ。それも今回は戦力差もさることながら騎馬戦力の脅威である騎馬突撃を簡易築城で封殺している。

 アムニス大橋の時とは考えられない圧倒的な戦闘だ。

 そしてその時が来た。

 ケンタウロスたちは次々に得物を地面に捨てて手をあげて降伏の意を示した。



「戦闘やめ!! 第一中隊、第一小隊はケンタウロスの武装解除を行え。あと伝令を後衛の第二中隊に。他の者は手銃に弾をこめて待機せよ」



 我ながらにスラスラと命令が出るようになった。

 戦慣れと言うのか?



「今回の反乱の首謀者は誰だ?」



 すでに戦死している可能性もあったが、この反乱の落としどころを考えれば敵の指揮官と話し合うのは必然だろう。

 だが反乱の首謀者となれば命は無いことくらい誰でも知っている。

 生き残ったケンタウロス十八人(それとも頭か?)が押し黙って俺を睨んでくる。

 そのうちの一人が一歩前に出た。



「オレだ。カーリッシュと言う」

「彼を馬車の裏に。叛意を聞きたい。他の者はそのまま待機せよ」



 馬車の扉を開けて外に下りる。俺の後にユッタが続いてきた。

 ケンタウロスのカーリッシュは手を上げて近づいてきた。彼は手を頭の後に組みなおして座った。



「単刀直入に聞きますが、どうして一揆を?」



 呆れられるかもしれないが俺に尋問に必要な知識なんて無い。

 いくら『米海兵隊が教えるタリバンから命を守る二百のテクニック』なんかを読んでいてもそんな事は書いてなかった。



「早く言ったほうが身のためですよ」

「人間の指揮官に、エルフのお譲ちゃんは副官様のつもりかい? 面白い集団だ」

「質問に答えてください」



 ケンタウロス――カーリッシュは右手でユッタを指して言った。



「お前は人間たちから『亜人』と差別された存在だろ? 我々の側の住人だろ? どうして人間の手先になっている? どうしてオレたちを裏切った?」

「わたしは裏切ってなんかいません。わたしは、わたしを助けてくれた人の側にいるだけです」

「いつかお前は捨てられるぞ。人間たちの所業を思い出せ。アイツ等がオレたちに何をした!? いや、何を奪った!! 人間どもは奴隷に飽き足らずに兵役まで科すと言っているんだぞ。人間共はオレたちを滅ぼすつもりだ。この地に人間の国家を作るためにな」

「それは違う!! わたしたちを見て!!」



 ユッタは手を広げて兵員たちを指し示す。

 エルフがおり、ドワーフがおり、人間がいる。種族ごとに小隊が組まれているとはいえ全ての人員が共に働いている。

 そう、俺たちは知っている。あのアムニス大橋の戦闘で俺たちはそれを学んだ。



「わたしたちは協力しあえるんです!! エルフも、ドワーフも、人間も!! わたしたちは仲間になれるんです。だから人間の亜人政策も変わったんです。人間たちは変わろうとしているんです。なら、わたしたちも変わらなくちゃいけません。恨みを捨てろなんていいません。でも、人間の全てが恨めしい存在じゃないんです。あなたも嫌いなケンタウロスが居たでしょう? 好いているケンタウロスが居たでしょう? わたしもそうです。それに人間もエルフもそう違いません。なら、わたしたちは人間の仲間になれるんじゃないんですか?」



 カーリッシュはその言葉を吟味するように黙っていた。そしてやっと言葉を搾り出した。



「わからないな。どうして人間をそこまで信じられるのか……。そこの人間がそれほど良い男だったのか?」

「なッ!? 何を言ってッ!?」

「赤くなるなよお譲ちゃん。だが、これで一族は円くなる」

「どういうことだ?」



 本題である叛意について聞きたかったが、ケンタウロス族が円くなるとはどういう事だ?



「徴兵に反対する――いや、違うな。反人間を掲げる強硬派を率いてきたからな。その連中の一揆が失敗したんだ。これで人間との融和もしやすくなったろうしな」

「まさか一族の不和を解消するために――」

「それはエルフのお譲ちゃんの深読みだよ。オレはそんな対した奴じゃない。だが、最期に言い話しが聞けてよかった。我が一族があんたらに加わる時は良くしてやってくれ。そして人間を信じられない――変われない莫迦が居なくなった一族の事を、どうか頼む」



 自嘲気味に呟いた彼に同情の念が沸きそうになる。だが反乱の首謀者の末路はすでに決まっている。

 それを変えることは、今は出来ない。いや、未来に出来る保障もない。



「カーリッシュさん。今回の反乱をくわだてたのは誰です?」

 せめてヨスズンさんの言う魔法使いにそそのかされていたのならまだ助命の機会はある。

「オレだよ。人間の坊ちゃん。一族の強硬派をそそのかして旗揚げしたんだ」

「それじゃ、カーリッシュさんは誰かにそそのかされたんじゃ無いんですね?」

 カーリッシュは「どういうことだ?」と首をかしげている。嘘をついているようには見えない。

 ヨスズンさんの言っていた扇動者とは関係のない反乱だったのか。

「オシナーさん。彼の処遇ですが……」



 考慮してくれと目で訴えるユッタに思わず顔を背けてしまった。

 その期待に応えるのは出来ない。

 全ての希望は、潰えた。



「良いだよ。エルフのお譲ちゃん。当然の報いだ。だが、最期に手紙を書きたい。妹へだ。紙とペンを貸してくれ。それくらい良いだろ?」

「……あぁ」



   ◇ ◇ ◇



「降車!」



 クワヴァラードに凱旋したのは反乱鎮圧から丸二日たった朝だった。

 凱旋した空気は気持ちよかったが、まずはやることがある。馬車の返却だ。

 いくら奴隷商が廃業になったと言っても奴隷馬車の所有権が連隊に来たわけではない。

 商会からの借り物にすぎない奴隷馬車は柵にくくられている板を剥がして元の状態にして返却しなければならない。

 傷ついたものが無くてよかった。

 それにしてもわざわざ返却しなければならないにしても軍事作戦に貴重な馬をよく貸してくれるものだ。

 ケヒス姫様とあの商会長は一体どういう仲なのだろうか?



「第一、第二中隊各員、整列完了しました」



 ユッタはあれからどこか冷たい態度で俺に接している。気持ちは分からなくは無いが、俺にはカーリッシュを助ける事など出来なかった。

 カーリッシュがオークをそそのかした魔法使いの術中にあったならともかく叛意を持った者を野放しにすることは出来ない。



「全中隊前へ! 進め」



 俺は殺すべきでない人を殺してしまったのでは無いだろうか。



「……ん?」



 そう言えば俺はいつの間に人を殺す事に慣れてしまったのだ?

 いつから嫌悪感もなく人を殺せるようになった?

 いや俺は人を殺す事に罪悪感を感じているのか?



   ◇ ◇ ◇



 人間は慣れる生物だ。とは言うが俺は殺人に慣れてしまったのか。

 まるで。

 まるで狂人じゃないか。いや、俺は違う。俺だけは違うはずだ。

 俺はこの地に暮らす諸族のために戦っているんだ。そのために俺は――。


 殺すのか?


 他者を理由にして俺は誰かを殺すのか?

 そんな『言い訳』をして良いのか?

 俺は泥のように沈殿した気分で今回の事を報告するために謁見のを訪れていた。



「鎮圧ご苦労である」

「いえ、ヨスズンさんは?」

「ヨスズンはタウキナ大公国だ」



 なんじゃ? とケヒス姫様が聞いてきた。すでにヨスズンさんに教えてもらった事だからケヒス姫様も知っているだろう。



「ヨスズンさんから聞いたのですが、アムニス大橋のオークの後に魔法使いがいたらしいという話で、今回の反乱の裏にもその魔法使いが噛んでいるか調べて欲しいと言われていたんです」

「結果は?」

「いえ、関係ないようでした」

「そうか。まぁ良い。オシナー。支度をせい」

「支度、ですか?」

「外交を行いにいく」



 『がいこう』という物が一瞬分からなかった。いや理解したくなかった。



「いや、ですが、俺は一介の工商に過ぎませんし。そのような場にでるのは――」

「うぬはすでに人間である前に余の従者なのだから従え」



 人間である前に従者ってどんな存在だよ。



「今日の昼にはクワヴァラードを出る。はよう、支度をせい」

「今日の昼って今、昼ですよね?」

「うぬも外交団の一員じゃ。従者くらいつけて参れ」

「無視ですか!?」



 さすが王家の血を引くかただ。俺のような者の声が届く気がしない。

 だが、従者をつけろって。俺に従者なんかいないぞ。



「はようせい」

「は、はい!」



 謁見の間を追い出されるように退室する。

 とりあえず荷造りをしなければ。カバンなんかはあったか? 行軍に用いる背嚢くらいしか持ち合わせていないぞ。

 先ほどとはまったく違う難問を思案しながら自室に向かっていると報告書を抱えたユッタを見つけた。


 そうだ。良い事を思いついた。



「おーいユッタ!!」

「なんでしょうか?」



 やはりまだどこと無く冷たい。



「付き合ってくれ」

「ふぇッ!?」



 ユッタが抱えていた報告書を取り落とした。

 少し言葉が足りなかったか。

 彼女が落とした書類を集めながらケヒス姫様が言った外交団の話しをした。



「わたしが、従者?」

「あー。嫌なら良いんだ」



 頑張って言い訳をしよう。



「いえ、『亜人』のわたしが同行しても、殿下にご迷惑では?」

「うーん。でも頼れるのはユッタしかいないんだけどな……」



 我ながらに人望が薄いと思う。

 だが共にアムニス大橋の死線を越えたユッタこそ従者というか、パートナーに相応しいと思う。



「わ、わたし、だけですか?」

「え? あぁそうだね」



 ユッタは「支度して来ます」と言って報告書を床に蒔いたまま走って行ってしまった。

 この報告書どうすんだよ。あと俺も旅支度をしなければ。

 前途多難な旅が始まりそうだ。なんだか暗雲が垂れ込めている気がする……。



カサドールとはポルトガルの軽歩兵のことです。AOE3というゲームででて来ますね。


軽装備の歩兵を猟兵と呼ぶので取らせていただきました。


実際の野戦猟兵とはドイツ軍で憲兵を意味する見たいです。



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