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銃火のオシナー  作者: べりや
第六章 西方戦役
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ナザレ

「降車!!」



 俺の号令と共に馬車から続々と兵士達が湧き出して何個かの梯団を形成していく。

 そして間髪入れずに点呼の合唱が響き、その報告を聞いた中隊長達が俺にその結果を教えてくれた。



「各員、集合完了しました。脱落、遅延、共に無し」



 ユッタの報告に頷いて、一個班を抽出するよう命令した。

 これから村長宅に行くのだが、やはり護衛も無しに敵勢力下の村に行く勇気は無い。



「それで、ケヒス姫様。ケヒス姫様はどうして乗馬なされていないのです? それに騎士団の方々も……」



 同じ馬車に乗っていたはずだが、ケヒス姫様は気がつくと愛馬にまたがって俺たちを見下ろしていた。



「騎士団総出で乗り込むつもりですか?」

「当たり前だ。先にも言ったが、我らの力を見せつけて奴らの抵抗の意志を砕く」

「いらぬ軋轢を生むだけです。ここは平和的に行きませんか?」

「フン。たわけ。たかが工商の分際で余に統治のノウハウを教えてくれると言うのか?」



 そう言われると返す言葉がない。

 だが、あまり威圧的なのは……。



「えぇい。わかったわかった。下りれば良いのであろう。うぬはさっさと捕虜を連れて参れ」



 ケヒス姫様に一礼してから、俺は連隊が唯一獲得した捕虜――ダークエルフのシモンの所に向かった。

 彼女も馬車の中に軟禁していたのだが、これで晴れて釈放である。

 そのシモンの乗る馬車から彼女が降りるのが見えた。



「武器や装備は返却してやれ」

「少将! 良いのですか?」



 彼女を取り囲んでいた兵の一人が聞き返すが、まあここまで来て斬られるとか無いよな。

 彼女には出きるだけ紳士的に――そう紳士的に振る舞ってきたのだ。だからきっと斬られるような事は無い。



「シモン。これからナザレの村長の家に赴く。案内をしてくれ」

「……わかっタ」



 シモンも俺たちを警戒しているのか、その動作の一つ、一つが強ばっている。

 まあこれから異国の軍が故郷に来るのだから不安に思わずにはいられないだろう。



「よし、俺たちも村に入るぞ。

 各員は戦争をしに来たのではないと言う事を肝に銘じておいてくれ」



 一応、連隊の各員には小銃に弾丸を装填してもらっているが、銃剣は着けさせていない。

 そしてシモンを先頭にケヒス姫様、ヨスズンさん、俺以下連隊の幕僚と護衛がナザレに入った。



「なんだか、不気味ですね」



 俺の隣を歩くユッタが左右を見渡しながら呟いた。

 村は静まり返っていたが、家々から複数の視線が俺たちを見ているのがわかる。



「ここ」



 シモンが立ち止まった家は簡単な堀と塀で覆われた平屋だった。

 その堀には簡単な橋が門までかかっており、いざとなったら橋を落とすのが目に見えていた。

 どこか、初期の武家屋敷を思わせる屋敷から鋭い声が放たれ(聞き取れなかった)、その声に反応して護衛の兵達が身構える。

 だが、それよりも早くシモンがなにやら、エルファイエルの言葉で叫んだ(こっちも聞き取れなかった)。

 互いになにやらやりとりがあった後、門が開く。



「お前、達の、代表入れル。武器持った者、入れない」



 まあ当然の対応だよな。

 心配そうな護衛に待機を命じようとしたとき、ケヒス姫様が言った。



「なぜ、王姫たる余が出向かわなければならぬ。村長を出せ」



 その言葉を受けたヨスズンさんが異国の言葉でそれを叫んだ。

 ヨスズンさんも話せたのか。



「勝手、許さなイ」

「なら戦うか? 余は一向に構わぬ。この村程度、草一本残らず焦土に変えてやるぞ」

「やめてください、ケヒス姫様!」



 この人は冗談でこのような事を言わない人だから本気でやめてほしい。

 だが、俺たちの会話に関係なく続けられたヨスズンさんと屋敷の中の問答は唐突に終わった。



「奴らの返答は使者を一人寄越せと言っておりますが」

「やはり焦土に――」

「だから待ってください。なら俺が行きますから」



 思わず、言ってしまった。

 言葉の弾みというか、なんというか。

 だが、このままだとケヒス姫様は村を整地してしまうかもしれない。



「うぬだけではなぁ……」

「大丈夫です。お任せを」

「まあ良い。余も直接交渉できるとは思っておらん。

 まずは顔合わせだ。それと、この手紙を渡してこい」



 ケヒス姫様が片手をあげて合図をするとヨスズンさんが腰の雑納から一通の封書を俺に差し出した。



「余が村に対する命令書だ。兵の住居、食料の提供、衣服の提供。その他の事が――」

「それ、絶対に受け入れられないですよね」

「当たり前だ。そのうち、本命以外についてこちらが譲歩すれば奴らは『先ほどよりマシ』と、要求を飲みやすくなる」



 外交手腕の一つなのだろうが、第一印象がめっちゃ悪くなりそうなんですが……。



「不服か? うぬなら余よりうまくやれる代案でもあるのか?」



 すごく否と言いたい。

 だが、このままケヒス姫様の案が通される方が嫌な予感がする。

 ここはこの一年で鍛えた第六感を信じるべきだ。



「俺に任せてください」

「ふむ。たまには良いか。それにいざ失敗しても奴らを皆殺しにすれば問題ないな」



 問題だらけだよ。

 急に難易度があがった。どうすんだよ。一介の工商には荷が重いぞ。



「行け」



 その言葉と共にヨスズンさんが何か叫んだ。

 俺が使者となったことを告げたのだろう。



「通訳がいるが、どうする?」

「それなら、シモン。一緒に来てくれ。村長との交渉が終われば捕虜からとき放つ」

「わかった」



 シモンが歩き出すとユッタが彼女の元に歩み寄り、二人は握手をした。

 いつの間にか東西エルフは和解していたようだ。



 そして俺はユッタに軍刀(唯一の得物だ)を渡してからシモンに導かれるままに武家屋敷の門をくぐる。

 ギーと軽い音を立てて門がしまった。


 そのとたん、どこからともなく現れた鎧――具足か――を身につけたダークエルフに取り囲まれた。

 背丈こそ子供のそれだが、誰もが整った顔立ちを怒りに変えて俺に槍を構えて殺気を放つ。


 思わず手を挙げて敵意が無いことをアピールするが、それでどうにかなる雰囲気ではない。

 交渉を行うと言ったことを早くも後悔する。


 そういやエルフって残虐な一族だって事を忘れていた。

 あれなの? 殺されるの? そう思っていたらシモンが強い声を出した。


 なにを言っているのかわからないが、どうやら俺の事を弁護しているようだった(そうだと良いな)。

 そうしていると屋敷の奥から杖をついたダークエルフが現れた。どこか老いた(正直、エルフって外見から年齢が想像出来ない)雰囲気があるものの、その身にまとう雰囲気は支配者のそれで只ならぬ雰囲気だ。

 そしてその杖を握った右手とは反対の左市が木を削っただけの義足となっていた。

 あの杖はシューアハ様の持っている魔法の杖と言うより、不自由な足を補助するためのものかもしれない。



「父上――村長むらおさダ」



 短くシモンがつぶやくとすぐに膝をついた。

 俺も彼女に習ってケプカルトの騎士がするようにひざまずく。



「猟兵連隊の連隊長をしているオシナーです」



 すかさずシモンが俺の言葉を訳してくれる。

 その間にも義足のエルフは俺を睨んで一言も発さない。

 あれか? なんか、言った方が良いのか?



「俺は……えと、俺たちはケプカルト諸侯国連合王国の西武戦線総大将、エイウェル様の命でナザレ地方の統治を行う事になった東方辺境騎士団、並びに野戦猟兵連隊です」



 先手を打って自己紹介をするが、義足のダークエルフは顔色をまったく変えずに俺の事を睥睨している。

 この張りつめた空気に悲鳴があがりそうだ。

 重圧に吐き気を感じそうになっていると義足のダークエルフが厳かに(そう聞こえた)何か言った。

 それにシモンがすかさず答えた。すると槍を構えている一人のエルフが強い声で何かを叫んだ。



「マズイ。徹底抗戦する言ってル」



 あ、これはダメな奴だ。

 このままだと俺は殺される。



「あ、あの、我々の要求はただ兵の休息できる場所を提供して頂きたいだけでして、あと水の使用権も与えてくれると助かるのですが……」



 俺の言葉の後をシモンが現地の言葉に訳してくれるが、周囲の空気はなかばまだ険悪だ。



「そ、そうだ。我らがケプカルト諸侯国連合王国第三王姫殿下より書状を預かっております」



 ケヒス姫様から託された書状をシモンに渡すと、彼女は素早くそれを近くのエルフに渡した。

 それを今度は村長の下に回される。

 年老いたエルフは書状を一通り読み終えるとシモンに何か問いかけた。それにシモンが答えると、俺の事をまじまじと見てきた。



「娘が世話になったようだナ」



 そう呟くと何やら強い言葉を周囲のエルフに投げかけてきびすを返した。



「あ、あの……」

「ン?」

「俺たちは、どうすれば……」



 情けない話だが、ここで返事をもらわないと今度はケヒス姫様に殺されかねない。

 なんとしてもここで返事をもらいたいのだが。

 そういう想いで義足のエルフを見ていると、彼は何事かささやいて屋敷の奥に消えていった。



「しばし考えるト言っている」



 しばらく拘束されるものかと思ったが、あっさりと俺は解放された。

 槍に囲まれながら俺は来た道を戻り、ケヒス姫様に始終を報告する。



「なんだおめおめと帰って来よって……。まあ交渉が決裂しても大砲の二、三発撃ちこんでやれば済むことだろうがな」

「少し楽観的じゃありあません?」

「ケプカルトと開戦してすでに四ヶ月目に突入しようとしているのだから村で戦える者はあらかた前線に行ったはずだ。

 戦力にならないような者が残ったとすれば、戦闘なぞ望むまでもないだろう」



 なるほど。

 そういう戦闘の機微に関しては人一倍に鋭いケヒス姫様の言に納得してしまう。



「まあ、後は奴らが敗北を納得するか、否か」



 まっすぐ屋敷を見つめるケヒス姫様の言葉に押されて連隊の面々の方に向かおうとした時、屋敷から誰か出てきた。

 俺に槍を向けていたエルフ達だ。

 エルフ達は手にした槍を地面に次々に置いていく。



「恭順の印か?」

「ケヒス・クワバトラどノ」



 そうたどたどしい発音でケヒス姫様の名を呼んだのはあの義足のエルフだった。

 シモンに付き添われて門を出るとその場で地面に座り込んだ。



「我が、村に抵抗の意志は無イ」

「左様か。なら余の要求通り、兵の休息所、食糧、水の提供を要求する」



 その言葉をヨスズンさんが翻訳し、義足のエルフに伝えるが、彼はただ首を振るだけだった。



「そのような大人数の泊まれる場所、無イ。我が村の蓄えも少なイ」

「まぁ、予想の範疇だ。隊を分けて分散するぞ」



 ケヒス姫様の言葉通り、騎士団の多くは少数の部隊に分かれて各々の目的地に向かっていく事になっている。

 彼らは馬という機動力がある故に遠方の村に向かったはずだ。



「オシナー。うぬも命じよ」

「はッ」



 連隊は中隊単位で分散するようすでに司令を出している。

 連隊司令部の手元に置くのは独立砲兵中隊と一個騎兵小隊、そして二個猟兵小隊の百八十人ばかりの小部隊だ。

 直接的な戦闘要員が騎兵と猟兵の各二個小隊というのが不安要素だが、この村の規模からすれば余裕だろう。

 それに戦闘要員が村に居ないというのも安心できる要素かもしれない。



「貴殿の屋敷を我が仮住まいとする。良いな?」

「要求を呑もウ」

「それと兵の休息所として大きな建物……そうさな。あの教会も接収する」



 ケヒス姫様が指さしたのは村の中ほどに位置する尖塔の教会だった。

 教会ならタウキナ継承戦争の際、ラートニルにも存在したが、あれよりも幾分も小さい。



「ダメだ、異端の者、入れられない」

「そうか。よかろう。気にするな。だが、兵の休める住居を求める。村人を疎開させよ」

「それは……」



 言いよどむ村長にケヒス姫様は矢継ぎ早に村民の住宅を明け渡すよう言い放つ。

 まあこちらとしてはこれからの季節にテントだけでは過ごす事ができないから屋根のある家に落ち着きたい。(まあ村民も同じ事を思っているだろうが)



「あまり聞き分けないと立ち退かせる事になるぞ。あの世に」

「ケヒス姫様! いくらなんでも――」

「ならうぬは兵に寒空の下で寝ろと言うのか?」

「それは……。あ、この近くに森あります?」



 俺の唐突な質問にケヒス姫様はもとより聞いた義足のエルフもぽかんとしていた。



「あ、あル」

「なら、森から木を切り出して丸太小屋を設営できますね。その間は、村の方の住居に身を寄せれば……」



 連隊には今までの陣地の作成などで工作能力はそれなりにあるはずだ。

 特にドワーフを中心に作業を進めさせれば短期間で仮の住まいを作れるだろう。



「ですから、お時間を――」

「――。仕方ないか。おい、良いな?」



 ケヒス姫様の問いかけに村長はしぶしぶとうなずいた。



「では作業にかかれ。悪いが住居には騎士団を優先させる」

「……はい」



 まあ身分の高い者を差し置いて連隊の兵士がそこに泊まるわけには行かない、か。

 ここは妥協が必要かな。


久しぶりの連投。

ポイント古事記と化したべりや(スマホだとコジキが変換出来ないんですね)。


投稿スケジュールを早めているのでおかしなところもあると思います。ご指摘していただけると幸いです。


また、昨夜頂いた感想は今夜返信します。




それではご意見、ご感想お待ちしております。



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