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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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攻城

 敵を包囲しておよそ十日ほど。

 塹壕線が完成し、敵の後方連絡線は完全に遮断された。

 その間にも連隊の誇る砲兵戦力とベスウスの魔法使いの法撃でゴモラを攻撃して敵の戦力に打撃を与えていたのだが、これからは本格的な攻城戦となる。

 梯子を城壁に掛け、破城槌が城門を襲い、投石機が追い打ちをかける。



「砲撃目標、敵、城門! 撃ち方始め!」



 俺の号令と共に野戦重砲が渾身の雄叫びを上げ、砲口から白煙を吐き出す。



「砲身の冷却を急げ。次弾装填!」



 号令と共に砲兵が砲身の清掃と濡れた布を使って砲身の煤と熱を奪う。

 これからたっぷり装薬を入れ、砲弾()を装填する。



「オシナーさん! 弾が空中でバラバラになりましたよ!」



 俺が貸した遠眼鏡で着弾を観測していたユッタが驚きの声をあげた。

 とりあえず第一射は成功のようだ。



「装薬装填よし、ぶどう弾装填!」



 装填手の掛け声にまず、砲口に押し蓋木の板が入れられた。

 それが押し込まれると砲口より幾分も小さい氷の塊達がゴロゴロと押し込められる。



「ぶどう弾装填よし。砲撃準備よし!」

「装填手退避! よーい! 撃て!」



 小隊長の号令で射手が拉縄りゅうじょうを引き、砲口から鼓膜をつんざく砲声が飛び出す。

 砲弾は空中で広がりながらゴモラの城壁を軽々と超え、雷鳴の如き悲鳴をゴモラが挙げた。

 敵にとっても霹靂へきれきだろう。



「ベスウスを倒すために作られた野戦重砲がベスウスの協力を得ているというのも、また不思議な感じがしますね」

「俺からすると不思議というより、皮肉かな」



 まあ砲弾の備蓄が無かったから渡りに船だったが。



「ヨルン大尉はそろそろ西方入りされるのですよね」

「その予定だな。そろそろ来るんじゃないか?」



 増援として新たに二個中隊と各種補給物資を届けてくれる彼らが待ち遠しい。

 砲弾の備蓄はベスウスの魔法で事足りたが、装薬――火薬の方は非常に心もとないから早々に合流を果たしたいところだ。



「そろそろ前線司令部に行こうか」

「わかりました」



 ゴモラに対する準備砲撃は順調そのもののようだし、この場を離れても問題あるまい。

 野戦重砲とは別に各中隊に配属されている大砲群の陣地も視察してもいいかもしれないが、あまり上官がウロチョロすると兵達が気を使ってしまう。

 せっかくカナン解囲戦を終えて疲れたであろう彼らにさらなる負担を与えるのもよろしくない。



「でも、よく連隊が予備選力に回されましたね。会議で紛糾したのでは?」



 俺が連隊を矢面に立たされるような作戦を嫌うという事をユッタは知っている。それに諸侯は最新兵器である小銃や大砲で武装した『亜人』部隊を矢面に立たせたいと思っている事も、彼女は知っているのかもしれない。



「いや、西方辺境領南方を守備していた騎士団や傭兵団に手柄を立てさせてやりたいと言う思惑と、カナン解囲戦を経て損耗した連隊を作戦から外すべきという声があったんだ」



 その声を上げたのは、アウレーネ様だった。

 俺として――連隊として言うならば、アウレーネ様の言はもっともだ。

 カナン解囲戦からゴモラまでの進撃を考えると兵達の疲労はピークのはず。ならばここで攻勢作戦に投じられても軍としての機能を発揮出来ない。

 つまり足手まといになる可能性がある。

 その意を汲んでくれたのか、このゴモラ攻略戦に連隊は基本的に不参加となった。

 まあ予備兵力として塹壕の一区域の守備と砲兵による攻略隊の援護をすることは引受けたが。



「その、アウレーネ様が率いるタウキナ猟兵は? オシナーさんの指揮下に入っていませんでした?」

「タウキナ猟兵は塹壕陣地の守備に回るらしい。あっちも相当、損耗しているようだよ」



 指揮権を借り受けたと言っても俺の立ち位置はどこか補佐官――助言役止まりで、タウキナ猟兵の損耗度合などはタウキナ猟兵側の幕僚が取り仕切るとアウレーネ様に言われてしまったので詳しい損害を知ることができないでいた。

 まあ人の軍隊にとやかく言われたくないという気持ちは分からないではない。



「以前、お会いした時とは印象が変わりましたね、アウレーネ様」

「そうなんだよなぁ。あと、ケヒス姫様と俺から距離を取ろうとしているような……」



 おそらく、アウレーネ様が宰相と結んだ密約による影響なんだろうが、一体どんな密約を結んだんだ。



「オシナーさん。あの塔が攻城塔ですか? 初めて見ます」



 ユッタの指さした先には城壁と同じくらいの大きさの塔が立ち並び、ゆっくりと前進していく所だった。



「あの下側に破城槌が付いていて、城門を破るんだ。その上の物見台のような所から矢を射掛けて城壁の弓兵を攻撃するんだ」



 こうしてみると、俺も初めてまともな攻城戦を見たことになる。

 塹壕の切り取られた世界から見てもそれらは圧巻だ。



「敵の抵抗は、激しいようですね」



 対する敵も弓兵が必至に弓を射掛け、城壁に張り付いた兵士に熱湯をかけて追い払っているようだ。



「ケヒス姫様の見立てだと、敵は絶対降伏しないそうだ」

「例の宗教のせいですか?」



 ケヒス姫様は「心して掛かれ」と高みの見物の構えだ。

 消耗が明らかな攻城戦をどこか、一歩離れた所から眺めているふしがある。



「それって、クワヴァラード掃討戦の腹いせですか? 東方辺境騎士団のみで強攻を強いられた殿下は、今の諸侯軍の消耗を楽しんでいるのでは?」



 否定しずらいな。


 消耗した連隊と、攻城戦では意味を成さない騎士団のおかげで指揮のみを執るケヒス姫様はゴモラ包囲軍の消耗を嗤っているのかもしれない。

 そうだったら(そうなんだろうな)本当に性質が悪い。



「あそが前線司令部かな」



 塹壕の一角に簡易的な小屋が立てられており、その脇にタウキナ大公国の青地に白バラの軍規が立てかけられていた。

 中に入るとゴモラの方面に向かって小さい窓があるコジンマリとした司令部に大勢の人間が詰めていてどこか季節に似合わない暑苦しさがある。

 誰もが緊張した趣でテーブルに置かれた地図を凝視し、固唾をのんでいる。



「おぉ。来たか。うぬよ。野戦重砲の調子はどうだ?」



 司令部の一番奥。どっかりと足を組むケヒス姫様が俺達に気が付いた。



「問題ありません。ベスウスから支給された氷塊もうまく機能しているようです」

「此度の攻城はオシナー殿の連隊が重要ですからな」



 司令部のどこかからか沸き起こった声に賛同者が数人続いた。

 誰もが連隊の火器を欲しているのが目に見えている。

 それをあえて無視して「状況は?」と聞くと、若手の騎士が説明してくれた。



「オシナー殿の連隊の攻撃、各騎士団保有の投石器の攻撃でゴモラ城内は甚大な被害が出ている物と思われます。今は攻城塔が接近して城門を打ち破る段階です」



 地図を見下ろすとゴモラの城門の一か所に攻城兵力を集中しているようだ。

 カナン解囲戦でも行った局所的な数的優位を得ている。



「ベスウスの魔法使いは?」



 ベスウス大公国も攻城戦力に組み込まれたせいで連隊の砲兵とは別行動になっている。もし、連隊の装薬が足りなくなってしまったときは彼らの力が頼みだ。



「予備戦力となっておる」



 ケヒス姫様の隣から発せられた声に視線を向けるとシューアハ様が目をつぶって座っておられた。



「ゴモラは二重の城壁から成り立つ城塞都市。改めて言うが、難攻だぞ」

「されど我らにはベスウスの魔法使いや連隊がおるのです。それに我ら一騎当千のケプカルトの騎士、西方蛮族など鎧袖一触です!」



 シューアハ様が「だといいのだがな」と呟いたのが印象的だった。



「それよりもゴモラ開城後の事を決めませんか?」

「気が早い。そのような戯言はゴモラを落としてからにしろ」



 ケヒス姫様がその声を一蹴するが、どうもゴモラ開城は時間の問題と高を括っている人がいるようだ。

 まあ分からなくはないが。



「伝令! 敵の抵抗激しく、二機の破城槌が城壁から油をまかれ、火矢により炎上、攻城塔は敵の火の魔法によって倒壊しました!」



 伝令の声に諸侯達が俄かに騒ぎ出す。敵の火器か。

 敵の火器の諸元についてはすでに報告を済ませてあるが、どうもその浸透率は低いと言わざるを得ない。



「あのオオヅツでしたら、城壁の上に運べるかもしれませんね」

「確かに……」



 もしかして、攻城塔の接近を見計らって撃って来たか?

 あんな木造の攻城塔なんて矢を防ぐくらいで火器からの攻撃に耐えられるはずがない。



「攻城塔を引かせましょう。投石器と連隊の砲兵で敵の火点を――」

「仕方あるまい。私が出よう」

「――つぶし、ってシューアハ様!?」

「あまりにも不躾な行いだが、これもまた戦か」



 独り言を呟き、人込みを抜け出して行ってしまったシューアハ様に茫然としていると、ケヒス姫様が「城門が破れるな」と呟いた。



   ◇ ◇ ◇



「ほぇ……」



 我ながら間抜けな声だと思う。

 だが、司令部に詰めていた騎士や傭兵達も皆、同じような顔をしている。

 ただ、司令部の奥に詰めたケヒス姫様だけが面白そうに頬杖していた。



「や、槍、ですか?」



 ユッタの上ずった声に改めてゴモラの城門に突き刺さった幾本の氷の塊を見ると、確かに槍のようだが、どちらかと言えば氷のバリスタのようだった。

 その槍がまた空を斬って城門に突き刺さる。

 先ほどからベスウスの魔法使いを総動員して水を氷へ、氷を槍に変えて『射出』しているようだ。


 人間兵器か。


 タウキナ継承戦争の時にラートニルの占領に固執していれば、あの槍の洗礼を受けたことだろう。



「よく、あんなのと戦いましたね」



 ユッタの切実な声に同意せざるを得ない。特にユッタはモニカ支隊を率いて戦線奥地まで浸透していたのだから、その恐怖は人一倍だろう。



「連隊の魔法使いへの戦術を見直さなければ」



 シューアハ様が司令部を出てまだ一時間も立っていない。

 それなのにあの大火力(火力?)を瞬時に展開できるのだから脅威以外の何物でもない。

 ベスウスとの戦闘が長引いていれば、きっと負けていた。



「さて、諸君。貴様らは勘違いしていないか?」



 ケヒス姫様がおもむろに立ち上がり、司令部に詰める面々に言い放った。



「これはただゴモラへの道が開けただけに過ぎない。始まりなのだ。

 諸君。ケプカルトの精兵諸君。地獄はこれからだ。

 敵は恐れを知らない勇猛果敢な、蛮族だ。奴らは最後の一兵まで戦う。

 血で血を洗う戦争が始まるぞ。

 綺麗な理想を掲げる者を容赦なく喰らう戦だ。

 余はこの身でそれをクワヴァラードで体験した。

 過酷な戦闘だ。

 諸君。ケプカルトの精兵諸君。

 ケプカルト諸侯国連合王国を愛する忠勇なる諸君。

 最強の騎士団たると余が信奉する諸君。

 地獄への道が開いたぞ」



ぶどう弾やキャニスター弾が空中で散らばるメカニズムがいまいちわからないべりやです。


初期のりゅう弾は火薬を詰めた弾に導火線を取り付けたとも聞きますが、オシナー君の場合はもっと原始的なタイプでしょう(こぼれ弾が友軍に当たりそう)



※感想欄でご指摘があり、『榴弾』と表記していた個所を『ぶどう弾』に変更しました。またそのためタイトルを『榴弾』から『攻城』に変更しました。


私の勉強不足で弾が散る=榴弾と勘違いしているふしがあったため、訂正いたします。

榴弾は上記にも書きましたが、弾丸の内部に炸薬が封入されており、着弾時など信管が定めるタイミングで爆発(炸裂)するものです(Wikiの榴弾から引用)


本作で榴弾としていた物は感想欄での指摘の通り砲弾の内部に装薬が封入されていないので正確には榴弾とは呼べません。


対地用なのでキャニスター弾と表記したかったのですが、ケースも使われていないのでこう表記できません。

適切化はよくわかりませんが対艦用に使われていたぶどう弾と表記させていただきます。

このたびは知識不足のため読者様に混乱を与えてしまい申し訳ありません。


なんでもしますから許してください(安易に淫夢に走る作者のクズ)


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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