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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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降下龍兵【ユッタ・モニカ】

 ドラゴンが頭上を飛び去り、そのドラゴンから落とされた投擲爆弾――擲弾が爆発する音が聞こえた。

 先ほどから反復的に行われる空からの攻撃のおかげでこちらへの抵抗が明らかに減っている。



「各個射撃!」



 わたしの号令の下、降下龍兵達が個々に狙いを定めて射撃を行う。

 こちらは木の陰に隠れながら、なだらかな丘の上の敵を襲うという地理的不利をこうしていたが、射程の差がその逆境を打ち消した。



「敵の小銃の射程は短い! 慌てずに各個に撃て!」



 ヨスズン殿の指示通り、敵の射程は短かった。

 敵がエルフ(同族とは思えないが)である以上、敵の射撃も脅威ではあるが、敵の射程は五、六十メートルと手銃とそんなに変わらない印象がある。

 対してこちらの螺旋式小銃ライフルだと二百五十メートルくらい先の敵を狙い撃てるのだから高低差の不利も緩和されて逆に優位性を保持していると言っていい。


 それに猟兵は赤い冬用軍服の上に泥で汚した夏季用軍服を羽織っているおかげで敵に発見されにくくなっているし、ヨスズン殿率いる騎士団の方々も鎧に泥を塗って目立つ色を抑えているからエルファイエル軍は銃声だけ聞こえる敵に右往左往しているはず。

 散発的な敵の反撃は目標が発見できていないと言う事もあるのかもしれない。



「第一班、前進用意! 第二班は援護射撃を!」

「わかりました!」



 ポーチから取り出した早合カートリッジを口で噛みきり、火薬を銃口、そして火口に移してドングリのような銃弾を早合ごと銃口に押し込んでカルカでさらに押し込む。

 あまり強く押し込みすぎると銃弾の形が変わってしまって命中率が落ちてしまうから適度に。

 カルカを戻し、撃鉄を押し上げ、銃口を敵に向ける。

 何か指示を出している豪奢な兜を被った敵兵に照準を合わせ、引鉄に触る指にゆっくり力を入れる。

 撃鉄が落ち、その反動でグラリと螺旋式小銃が揺れそうになるが、その力を逃すように保持していたおかげで最小限の反動で終わり、続けて大きな反動が銃身を揺らした。

 照準儀の先の敵が胸から何かを吹きだして倒れ、その近くにいた兵士が何やら騒ぎ出す。



「命中……」



 ふぅ。

 急いでポーチに指を運ぶが、すでに弾がなくなっていた。



「誰か、弾を!」

「ここにたんまりありますよ少佐!」



 伍長のエルフが木箱をドスンと地面に置いた。その中には大量の早合が詰まっており、当分、弾切れの心配をしなくてよさそうだ。



「モニカ。騎士団はこれから突撃を行う。螺旋式小銃で相手の頭を押さえてくれ」

「了解しました。みんな、装填!」



 いつもと同じ動作で弾丸を込め直し、銃口を敵に向ける。



「準備完了です」

「では、撃て!」



 ヨスズン殿の号令で一斉に銃火が瞬き、その轟音を合図に騎士団が前進を始めた。



「次弾装填! 装填出来次第に敵を狙い撃って」



 射程そして命中率で小銃に勝る螺旋式小銃であれば一斉射撃よりも個々で狙った方が戦果を挙げやすいのかもしれない。

 今までの小銃は命中率の低さから(個人的に言わせてもらえばそんなに低くないと思うのだけど)一斉射撃を行って弾幕を張ることで命中率を底上げしていた。

 だが狙った所に素直に飛んでいく螺旋式小銃ではそもそもオシナーさんの言う所の戦術が変わってくるのかもしれない。



吶喊とっかんせよ!」



 ヨスズン殿が抜剣して走り出し、その後ろに騎士達が喊声かんせいをあげて続いていく。

 そしてその手に擲弾を握った彼ら目がけて敵が小銃を構えるが、その端々からこちらの銃撃を受けて倒れていく。

 ヨスズン殿達はある程度走るとまた木の陰に隠れ、敵が銃撃を行うとまた走り出しては木の後ろに隠れて立ち止まりという行動を繰り返して敵との距離を詰めていく。

 その間にもわたしを含めた射撃の腕に自信のあるエルフたちが正確な射撃で敵を減らす。

 そして騎士達が敵と目前の距離まで進むと彼らは擲弾に火を付けていく。



「投擲!」



 号令一下、騎士達が擲弾を投げ出して頭を保護するように腕を組む。



「衝撃に備えて!」



 ここまで爆風は来ないだろうが、用心はすべきだ。特にあの爆弾の音は耳に堪える。

 両耳を手で覆うが、その手を貫通して爆音が聞こえた。



「進め!」



 ふと丘を駆け上るヨスズン殿達が稜線の向こうに消えていく。



「着剣!」



 腰に吊った銃剣を引き抜いてそれを銃口に差し込む。

 これで突くと銃身が曲がって弾道が変わるから正直、あまり突きたくないという本音があるが、わがままを言える状況ではない。



「目標、前方敵本陣! 突撃にぃ! 進め!」



 隠れていた木陰から飛び出し、全力で丘を駆け上がる。

 タウキナ継承戦争で丘を奪う意味については骨身に沁みているから急いで登らねばならない。

 木を避け、根を飛び越え、枝をかいくぐる。

 そして急に視界は開けた。



「伏せて!」



 目前には色鮮やかな幟。白い天幕。敵の司令部だ。だがよくよく見ればどれも黒い焦げが付きまとい、硝煙と肉の焼ける臭いが鼻を突いく。擲弾のせいだろうか。

 その周囲には敵の色黒いエルフが見慣れない鎧を着こんで右往左往していた。



「構え!」



 地面に伏せたまま、それぞれが横隊になるように螺旋式小銃を構える。



「撃て!」



 螺旋式小銃の一斉射撃の効果には疑問があるが、弾幕を張って敵をかく乱する効果は通常の小銃と変わらないだろう。



「先に突撃した騎士団を援護します! 総員白兵戦用意! 突撃!」



 喊声と共に駆け出し、天幕をくぐるとすでにあちこちが血で汚れ、足元には斬り殺された敵の躯が転がっていた。



「まだ生きているかもしれないから注意を怠らないで!」



 天幕のどこから敵が飛び出してくるのかわからない恐怖と倒れている敵兵に緊張しながら進んでいると「いやああッ!」と掛け声と共に何か、鈍い音が聞こえた。



「た、誰か!?」

「ヨスズンだ。もう済んだ。早く来い」



 誰何を行うとヨスズンさんの落ち着いた声が返って来た。どうやら向こうは安全が確保されているらしい。

 ホッと息をついて天幕をくぐると、豪奢な鎧を来た兵士達が両手をあげて降参の意をしめしていた。

 その彼らに剣を向ける騎士。足元に転がった首の無い死体。鮮血と泥にまみれたヨスズンさん。

 え? 何がおこったの?



「あぁ。一騎打ちの果てに討ち取った。モニカはあまり見ないほうが良い」



 その言葉に反射的に視線をそらしてしまう。

 だが、堂々とした戦いで散ったのなら、視線をそらしてしまうのは失礼なのではないか? 例え相手が悪魔に身を売った悪いエルフだとしても。

 それにいつまでも目をそらしてはいられない。



「第二班は捕虜の武装解除を。少尉はわたしと敵の作戦に関する報告書や書類に類するものを集めましょう」



 地図が置かれていたであろうテーブルは派手にひっくりかえっており、その上に置かれていたであろう書類も地面に散乱して血に濡れていた。

 それを一枚、一枚拾い上げていく。わたし達は読めないけど、あのノルトランドの姫君なら読めるだろう。

 そこから敵の兵力や作戦方針がわかればこちらが優位に立てる作戦を立案できる。

 そうやって書類を集めていると天幕の奥からどんどん敵兵が集まって来た。だが誰も彼も抵抗をする意志はもう、無くしているようだ。

 誰も彼も泥と硝煙で汚れて疲れた顔をした彼らは次々に得物を地面に投げ捨てていく。

 それでも彼らの武装解除も改めて行わねば。



「こちらヨスズン支隊。敵本陣の制圧に成功。支隊長ヨスズン殿が敵の大将を討ち取りました。繰り返します。敵本陣の制圧に成功――」



 ベスウスの魔法使いという青年が魔法陣を広げて状況を司令部に伝達していく。

 ベスウス側からは二か所の通信のみと言われていたのでその配置には散々議論された。

 そしてもっとも遠隔地で少数の部隊であるわたし達――ヨスズン支隊こと降下龍兵に作戦成功や空からの支援を行ってもらうために魔法使いを配備してもらったのだ。


 これで一件落着、かな。


 敵の大将を討ち取り、敵の首脳部を抑えたのだ。

 これでカナン解囲戦の大勢は決した。

 あとは、オシナーさんの所に帰るだけ。もうひと踏ん張りだ。



ユッタさんが小銃に弾を装填する時、形が変わる云々言う所がありますが、知人からマスケットの弾は元々大きく、カルカでつくことで銃口の大きさに合わせて形を変える(整える?)云々と聞きました。

でも、とあるマスケットの射撃動画だと弾にフェルトのパッチを当てて銃身と弾に隙間が出来ないようにしていたので、どう見ても弾の方が小さい。


ま、まぁ当時は共通規格とか無いし、多少は、ね?


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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