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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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騎兵と騎士【コレット・クレマガリー】

「おいおい。まじかよ……」



 少将の命令通り、遊撃的に砲撃を繰り返していたが、三度目の陣地展開で敵の主力に補足されてしまった。

 今までは投擲爆弾や短小銃の一斉射撃で敵の騎馬隊をかく乱してきたが、五百メートルほど前方に敵の騎兵が二百ほど。

 この程度の数であればまだ勝機はある。

 だが左側面から敵の歩兵部隊が鬨の声をあげながら前進してきていた。その数二百。このままだと包囲される可能性がある。

 作戦初期には六百人ほどいたクレマガリー支隊も陣地転換における遅滞戦闘ですでに四百ほどに数を減らしているし、何よりも弾薬が乏しくなりだした。

 逃げたいのは山々なのだが、砲兵が陣地転換の途中だから逃げるための時間さえありそうにない。



「陣地転換中止! 馬車で簡易築城を作れ! 迎え撃つぞ!!」



 支隊に与えられた馬車は砲兵一個小隊用に三台、そして砲弾運搬用に一台の合計四台。

 その四台で方陣(と言ってもスカスカだが)を組み、その隙間から小銃や手銃を装備した兵や騎士が狙いをつける。



「馬を中央に集めろ! この攻撃をしのいだら司令部まで撤退するから一頭たりとも怪我させるな! アタシらは引っ張ってやんないからな!」

「こんな時まで……。まあコレットらしいわね」

「だからシャル軍曹――」

「はいはい。大尉殿」



 この親友はわかってやっているな。



「わざわざ命令するな!」

「わかりましたよバアル殿。それじゃ指揮をお願いします」



 このおっさんもこんな戦況でも変わらないというのは呆れというより感心を抱いてしまう。



「構え!!」



 バアルの号令で撃鉄を押し上げ、銃口を敵の歩兵に向ける。

 その時、背後で銃声が響く。あっちは騎兵を相手にしていたはず。もうそんな距離か。



「用意!!」



 敵の歩兵に狙いをつける。距離は六十メートルほど。とうに短小銃の射程内がだ、少しでも引きつけて火力を上げなければ数の少ない支隊では撃ち漏らしてしまう。

 装填中に敵が突撃してきたら目も当てられない。もう少し敵が進んだら「撃て」の号令が響くはずだ。



「……止まった?」



 敵の切り込みがあると思っていたが、敵が停止した。

 そして最前列が何か、筒状の物を構える。


 そして敵が『発砲』した。


 白煙が敵を包み込み、轟音が耳に届く時、風切り音がアタシの耳のそばを通過した。

 撃った!?

 バラバラと木片を飛び散らす馬車。血を吹きだす仲間たち。



「撃て!!」



 反射的に号令を出してこちらも撃ち返す。

 四辺にわかって兵を分散しているから敵の歩兵に対して攻撃できるのは四分の一の戦力でしかないし、先の攻撃で負傷した兵士もいる。

 何よりも砲兵の装備している手銃だと射程ギリギリ。

 どうする? どうすればいい!? どうすればこの状況を突破できるんだ?



「くそ! 装填いそ、げ? ん?」



 弾薬のおさまった早合カートリッジを取り出そうと腰についた革製のポーチに手を突っ込むが、慣れ親しんだ早合を取り出せない。

 なんで?

 あ、そうか。もう弾が無いのか。



「って、弾!? 弾をくれ! 弾!!」



 やべぇ……。


 そう思っていると敵の銃撃が襲って来た。

 馬車の陰に隠れてそれをやり過ごそうにも馬車自体がもう穴ぼこだらけだ。これ走るのか?

 そういやなんでアタシはこんなに冷静なんだ? 一昔前なら悲鳴あげていたような……。

 と、考えているうちに青い顔色の騎士が悲鳴を上げた。



「もうだめだ! おしまいだ!」

「おいあんた騎士だろ!? そんな情けない声をあげんじゃねーよ!」



 あたりを見渡せば人間のほとんどは戦意を喪失しつつある。ケンタウロスのほうも多少は持ちこたえているようだが、士気が崩壊すんのも時間の問題か。

 どうすっかな……。



「バアル殿! 生きてますか!?」

「そっちもまだくたばっていなかったか」

「そろそろ限界です。降伏します?」

「たわけ! 降伏したらどうなるか、わからんのか!?」



 そういやそうだった。


 少将の捕虜への扱いが丁重だったのを見ていたせいか、こっちの頭もゆるくなっていたようだ。

 ケンタウロスなら捕虜は牽き殺し。エルフなら森の肥やしだっけ?

 こっちのエルフも同じか知らないが、アタシのような身分も定かではない奴の身柄がどうなるかわかったものじゃない。

 なんかの引馬になるのはまっぴらだ。



「聞いたかお前ら! 奴隷になりたくない奴は銃を取れ! 砲兵も死んだ騎士やケンタウロスから小銃をもらえ! 死んじまったら持ってる意味ないからな! あと弾薬があるやつはこっちに来てくれ! 景気よく撃ちすぎた」

「あきらめの悪い奴らだな」

「あ? 降伏を渋ったのはそっちだろ」

「む? それもそうか」



 バアルはそう言って腰のポーチから早合を取り出し、こちらに投げてきた。数は四つ。



「これで十分か?」

「どーも」



 まさかあのヘイムリヤ・バアルから弾薬をもらうとは思わなかった。

 苦笑しながら早合を千切ろうと口に運んだ時、後方から爆音が聞こえ――。



「大尉! 装薬を投擲爆弾として使用していいですか!?」

「おっせーよ! バカ!! 火薬満載にした馬車に火が付いたかと思ったよ!! あとこっちにもそれをくれ! 投擲を許可する」



 ドワーフの青年が投げてよこした装薬には短い導火線が付いており、後は導火線に火をつけて投げるだけのようだ。

 って、火が無い。

 短小銃を装備しているから火打石なんて装備してないぞ。



「おい、それを寄こせ! 火を付ける」

「バアルさんよぉ。貴族様が火打石なんか持ってないだろ」

「ば、バアルさん!? 生意気だぞ! それにバアル家の四男として魔法を習得しているから火打石などいらん!」



 魔法って便利だな。

 装薬を投げ渡すとバアルは短い呪文を唱えだした。

 そして導火線に火が灯る。



「こっちにくれ! アタシの方が遠くに投げられる!!」



 バアルはそれにうなずき、装薬を投げた。それが空中にある間に掴み取って敵兵に向かって投げつける。

 投げつけて思った。敵との距離が近い。三十メートルあるか、ないかだ。



「着剣――」

「抜剣――」



 バアルもその事に気が付いたのか、同時に白兵戦の命令を出そうとした時、投擲した装薬が爆発した。

 熱い風が馬車の隙間から流れ込み、砂粒などが身体を打つ。

 思わず目を閉じてそれをやり過ごし、目を開けると歩兵の戦列に穴が開いていた。



「ざまあみろ!」

「やったぞ!」



 アタシとバアルは年甲斐もなく手を取り合って喜び――って喜んでいる暇は無い。



「引くぞ! 敵の戦列に穴が開いた!」

「騎乗! 騎乗!」



 だが、なんだかやっていけそうな気もする。



「バアルさん! 馬車の撤退を騎兵が援護します! その間に脱出を!」

「亜人のくせに生意気だぞ。殿しんがりは任せよ」

「いや、アタシ達なら馬車の脱出を援護しながら脱出できる。その力がある」

「勘違いするでない! 貴様の兵はこの作戦が始まってから殿を受け持ってきて疲弊しているだろう。東方辺境騎士団の精兵を見くびるな。ケンタウロスごときに遅れは取らん。先に行け!」

「……あんた、良い人間っぽいな。やっぱり殿はアタシたちがやる」

「貴様……」

「死ぬ気なんてないさ。アタシはアタシ達こそが殿を務められる力があるからそう命令するだけさ。

 なあ、そうだろ!」



 振り向けば中隊なかま達が「しかたねーな」「中隊長の命令なら」「西方に我らの武勇を轟かせるぞ」と檄が飛んだ。

 血気盛んな馬鹿共(ケンタウロス)だ。



「……あいわかった。皆の者! 弾薬の半分を騎兵に分けよ! 脱出を迅速に行うためにも大砲は破棄だ。砲弾も捨てて身軽にしろ。馬をなくした騎士や負傷したケンタウロスはその馬車に乗り込め!」

「ば、バアルさん!? 大砲を破棄するなんて――」

「少しでも身軽に動くには仕方ない。多くの者が生きてかるためなのだ。姫殿下もわかってくださる」

「わかりました。砲兵! 大砲と砲弾を捨てろ! あと大砲の周りに大量の装薬と長い導火線を設置しろ。爆破して敵に奪われるのを防ぐぞ」



 騎士団も、ケンタウロスもまだ生きることをあきらめていない。

 ならまだ戦える。



「撤退戦だ! 撃鉄起こせ!」

「な! 勝手に命令を出すな!」



 ……この人はやっぱり変わらないな。賞賛に値する。


騎士団の反亜人派のバアルさんとコレットの和解のような話でした。


タウキナ継承戦争冒頭のコレットが営倉に送られたさいの騎士団とのトラブルは、演習の判定を故意に騎士団有利にしたバアルに激怒したからという裏設定があったり。


ユッタやヨスズンの腕についた奴隷の印としての刺青もそうですが、裏設定を生かしきれていないのも反省点ですね。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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