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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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カナン解囲戦



挿絵(By みてみん)

西方戦役全図

挿絵(By みてみん)

カナン解囲戦作戦図


 丘のふもとから風にのって軽快なリズムが聞こえてくる。

 太鼓に笛にラッパの音階に合わせた足踏みも聞こえ、目を閉じれば祭りを連想させるが、違う。



「楽器の音色に合わせて部隊を行進させるか」

「あの短期間ではこれで精いっぱいで……」



 砲兵の着弾観測陣地と司令部を兼ねる丘から見下ろすと眼下には青い外套を着たタウキナ猟兵旅団と、それに混じるように赤い軍服の猟兵一個中隊がいくつもの梯団を作って前進を始めた所だった。



「欲を言えば連隊のように士官の号令を基に部隊を動かしたいところでしたが、時間が足りませんでした」



 アウレーネ様は恥ずかしそうにうつむくが、俺としてはリズムに合わせた行進という方法に驚いていた。

 これならより錬度の低い兵でも隊列を維持して行進することができるはずだ。連隊でも採用しようかな。



「しかし、あれほどの兵をよく集めたな。徴兵か?」



 ケヒス姫様の感嘆した(かなり珍しい)声で問われたアウレーネ様は小さくうなずいた。



「町民から農民、それにタウキナ近衛騎士団の残存部隊にタウキナ海軍の兵をかき集めました。雑多な身分の方々で構成しているので初期には混乱もありましたが、軍法の浸透でまとまりだした感じです」



 「それに雑多な身分で構成された部隊で成功している例もありますし」と俺を見て薄く笑うその顔に、この人は変わったと俺は思った。

 以前であれば民を戦に巻き込むことを嫌っていたはずだ。



「増援として雪解けごろに新たに三個連隊相当の規模の兵を派遣する予定です」

「お前、その金はどうした? 兵だけではなく武器に兵糧に出兵は金がかかるだろう? 財政難のタウキナで賄いきれる数ではあるまい」



 言え。



「……父上から援助が出まして」

「現王から?」

「はい。父上に掛け合わねばこれほどの大金を手にすることはできません」



 アウレーネ様の父――現王ゲオルグティーレが妾の娘であるアウレーネ様に軍資金を援助した?

 だが、現王の側近である宰相閣下はアウレーネ様を陥れるために経済封鎖を行っていたはずだ。

 それなのに手のひらを返したように資金を援助するものか? それに時期的に王都とタウキナでやり取りをして金をもらったとしてこれほどの部隊を整える時間があったのか?

 疑問が疑問を呼ぶが、その思考を閉ざすように砲兵陣地から轟音が轟いた。

 野戦重砲の砲撃だ。



「すごい音ですね。タウキナの職人達の喜ぶ顔が思い浮かびます」

「タウキナは野戦重砲あれを導入しないのか?」

「一応、作ってはいるのですが兵の教育が独学状態で……。雪解けの後にくる援軍には野戦重砲や大砲を装備した部隊も随伴させる予定ですが、できれば連隊の砲兵士官を軍事顧問としてタウキナに招きたいのですが……」



 俺は「どうしますか?」とケヒス姫様にお伺いを立てる。

 タウキナにはタウキナ継承戦争の時に野戦重砲の鋳造と合わせて小銃の品質向上のためにドワーフを数人派遣して技術指導を行わせた。

 それだけでも東方の技術の流失になるのだが、あれは有事の際中だったから致し方ないと思っている。

 それに小銃や手銃の運用を教えるために猟兵連隊所属の元傭兵がタウキナに一時的に軍事顧問として派遣されていたが、大砲となれば話は違う。

 少数の猟兵が勝利を得てきた裏側には彼ら砲兵の制圧力があったからだ。

 彼らなくしてアムニスで、タウキナで、そしてベスウスでの戦に勝利できなかっただろう。

 いわば俺達のかなめだ。

 そえをおいそれと――タウキナであろうとも簡単に広めていいのだろうか?



「その件については検討しておく。だが、今は目の前の戦だ。オシナーの言うことが正しければ敵も我らと同じく小銃を装備しているそうだ。さて、農村あがりの新兵どもがどれだけ戦えるか楽しみだな。く、フフフ――」



 不敵に嗤うケヒス姫様の笑い声をかき消すように野戦重砲の砲声が響いた。

 そしてそれを追うように氷の塊が頭上を飛びごえる。

 ベスウスの魔法使いと連隊所属の野戦重砲の混成陣地から本隊突入のための準備砲撃がだんだんと苛烈さを増していく。

 その間にもタウキナ旅団が敵との間合いを詰め、その後方に傭兵を主力とした槍隊が付く。最後尾に配した騎士達が歩兵の進軍の遅さに歯噛みしている音が聞こえそうだ。

 陣形としてはオーソドックスのような気もする。

 誰もかれもが軍鼓に軍笛に信号喇叭に軍靴をそろえて行進していく。



「オシナーさん」

「お? ユッタ。準備できたのか?」



 振り返ると赤い軍服の上から土で汚れた夏季軍服を羽織ったユッタが近づいてきた。



「ヨスズン支隊の準備、完了しました」



 今回の作戦でも彼女に散兵としての任務を与えていた。

 もちろん、反対する気持ちが無かったわけではない。だが、合理的な作戦指揮にあたって彼女の作戦参加は作戦の成功率をあげてくれるだろう。



「支隊は別名あるまで待機させておけ。おぉ! 見よ! ドラゴンが行くぞ!!」



 声をあげてはしゃぐケヒス姫様に俺は内心、「子供みたいだな」と思いつつ、空を縦横無尽に飛行する二匹のドラゴンを仰いだ。



「ドラゴンが火を吐いたりすればもっと簡単に戦局をひっくり返せたんですけどね……」

「うぬは何を言っているのだ? ドラゴンが火を吐くのは伝説だけだ。そもそもそんな事が出来れば我ら人間は火だるまになって絶滅していることであろうが」

「オシナー殿は面白い事を考えるのですね」



 「お前バカだな」とクスクス嗤うケヒス姫様。「面白い発想」とクスクス笑うアウレーネ様。

 同じ『わらう』のはずなのにどうしてこんなに違う結末になるんだ……?



「ところで、どうしてこの時期に攻勢を? 諸侯も傭兵も反対していなかったので聞きにくかったのですが、もうじき雪が降りましょう。雪が降れば攻囲するエルファイエルはより苦しくなって包囲を解くのでは? もしくは街道が雪に閉ざされれば補給も止まるでしょうし……」



 つまり無理して攻める必要なんてないんじゃないのか?



「奴らは引かぬよ。断言できる」

「どうしてです?」

「奴らの信仰は凄まじい。雪の上で何人倒れようが最後の一兵が聖都を奪還できるのであればそれをやる。奴らはそれを殉教という。

 自らの宗教のために殉じる生き方を奴らは好むのだ。

 自らの矜持のために死にに行く奴も、こちらにはいるようだが」



 その言葉にユッタがむッと反論をしようと口を開ける前に俺は「殉教?」と聞き返した、。



「奴らの宗教は知っているか? 奴らは最後の審判の時に死者は皆、復活して善き魂と悪しき魂に選り分けられ、永遠の命を得ると考えておる。故に奴らは死を恐れん」

「ずいぶんとお詳しいのですね」



 ヘルスト様は転生者ということもあり、宗教に肩入れしていないように思えたが、ケヒス姫様は真っ向から神など信じていないように俺は思っていた。

 だから詳しい解説をケヒス姫様の口から聞けた事に驚きを隠せない。



「兵が欲しくてな。奴らの信仰心を手中に収められれば現王を葬るだけの戦力が集まるとふんだから教義だけは詳しくやった」

「……さいですか」



 だが、信徒を集めて叛乱を起こしたとは聞いていないから不発に終わったのだろう。

 ケヒス姫様の復讐に巻き込まれなくてよかった。良い神様がついているのかもしれない。


 そう考えていると一匹のドラゴンが頭上を通り過ぎていった。

 準備砲撃に紛れて敵陣を空襲するのだろう。

 本隊が敵陣に切り込むまで砲兵隊と魔法使いによる準備砲撃と共にドラゴンに火薬のたんまり詰まった投擲爆弾を使った空襲をしてもらう手筈になっている。

 空から降る砲弾と爆弾に敵陣は相当、混乱するだろう。

 その上、三万近い大軍が攻め寄せようとしているのだ。敵が壊走を始めるまで時間の問題だな。



「陸空の双撃に敵も慌てるだろう。まあそれだけではないが」

「あそこまで作戦を詰める必要性があったのですか? 十分、この攻撃で聖都の解囲作戦は成功したでしょうに」

「まだだ。先も言うたが、奴らの信念は凄まじい。死をいとまないからな。一度、聖都に穴をあけても奴らは死力で聖都奪還を果たそうとするだろう。故に痛恨の一撃を与えねばならぬ。そう、徹底的にな」



 ケヒス姫様は敵の包囲軍を壊滅させる気なのか?



「見ろ。戦闘が始まったようだ」



 ケヒス姫様の指さす方向に遠眼鏡を向けるといくつもの梯団の先を行く部隊と敵の塹壕とで銃撃戦が起きているようだった。

その様子を見て俺は「伝令。観測陣地へ。本隊が接敵。砲撃中止。以上」と命令を伝達させる。



「先手を取ったのはタウキナ兵のようですね」

「射程では我が方に利があるか? 騎士団に伝令だ。東方辺境騎士団を先頭に敵の銃撃の合間を縫い突撃――」

「――ッ! 待ってください!」



 遠眼鏡の先で敵が発砲した。そして間髪おかずに再び塹壕に銃火が煌いた。


 まさか――。

 まさか連発式の銃を持っているのか!?

 どうする? 連隊の兵であれば一分間に三、四発ほど射撃できるが、先ほどの発砲感覚は十秒もかかっていなかったぞ。

 迷っているうちに三度銃火が見えた。だが、その後は発砲が無い。



「三段撃ちか?」



 敵が連発式の銃を装備していないと仮定すると、そうとしか考えられない。

 敵は順繰りに射手が交代しながら絶え間ない弾幕を作る気だ。



「騎馬突撃は危険すぎます。敵の弾幕に切れ目が無いので損害が多くなる可能性が高いです。弓兵と猟兵による制圧射撃で敵を減じさせてから突撃させましょう」

「わかった。伝令! 来い伝令!」



 塹壕からは定期的な銃撃を受けているが、こちらの数は多い。

 隊伍を組むタウキナ兵と連隊の猟兵が距離を詰め、敵に一斉射撃を喰らわす。

 晴天に響く軍鼓や軍笛、信号喇叭の歌声に銃声が混じった合唱が丘まで聞こえてくる。

 こちらの一斉射撃が起これば敵の銃声が明らかに減るのだが、絶え間ない敵の射撃にこちらの隊伍が切り崩されていく。最前線の壊走は時間の問題かもしれない。



「そろそろ仕上げだ。伝令。全体に通達。作戦を第二段階に。ドラゴンを呼び戻せ、貴様もヨスズン支隊に合流せよ」

「わ、わかりました。それでは、行ってきます」

「いってらっしゃい。ユッタ」



 ユッタが敬礼をして走り去っていく。

 だが俺もその後姿をいつまでも眺めているわけには行かない。



「伝令! クレマガリー支隊へ。敵を拘引せよ。以上!」



 さて、作戦はまだ半ばだ。


エルファイエル→足軽鉄砲隊

タウキナ→戦列歩兵


のようなイメージで書いてます。

長篠の戦いの三段撃ち(江戸時代の想像)と隊伍を組んだ戦列歩兵の激突は浪漫しかないですね。浪漫だけでは戦争はできませんが。



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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