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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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尋問


 作戦会議が終わった後、俺とヘルスト様は連れ添って連隊司令部に向かっていた。



「こんな作戦を思いつくなんて……」

「でも、大概の部分はただの正攻法ですよね」

「数をそろえて策を弄さない、か。大丈夫なのかな? それに別働隊の方も――」

「そこの部分はヘルスト様の存在が重要ですからね。それが作戦の成否を分けるのでは?」



 むぅ、と顔をしかめるヘルスト様。

 作戦の成否をわける彼女ではあるが、今は捕虜の尋問を手伝ってもらうつもりだ。

 今回の作戦の概要は決まっているが、その微調整のためにも敵の情報は必要不可欠。出来るだけ多くの情報が欲しい。



「それにしても捕虜なのですが、妙なんですよね。色黒のエルフというか、なんというか。変ですよね」

「オシナーはダークエルフって知らない? 前世で悪落ちしたエルフっていなかった?」

「そう言えば、いたような、いなかったような……」



 靄がかかったようにあいまいな記憶の中にヘルスト様の言うダークエルフというのが居たような気もしなくもない。



「彼らは自分たちの事をエルフって呼んでいるけどね」

「ふーん……」



 ユッタたちも自分たちの事をエルフと呼んでいたから東西で何か違いでもあるのだろうか?



「自分が調べた所によるとこの地に人間の国家が樹立する前はエルフの国があったそうだよ。それを人間――ケプカルト王国の始祖が北進した事でエルフの住処が分断されてしまったみたいだよ」

「つまり白いエルフは東に、黒いエルフは西に?」

「そんな感じかな? まあ文献も少なくてよくわからないから憶測でしかないけどね」



 どういった事が起こってエルフが東西に分かれたのかは知りようがないということか。

 そして東西のエルフに思いを馳せていると連隊の駐屯地が見えてきた。

 駐屯地と言ってもガザの城壁の片隅に一夜城が並べられた地区にギュウギュウに連隊の兵士達が押し込められている印象しか受けないのだが。



「少将殿!」



 そう声をかけてくれたのは馬車の歩哨に立つ兵士だった。彼に答礼をして俺は捕虜のいる馬車に向かう。



「なんか、すごいね。前世の軍隊みたい」

「それを手本にしていますからね」

「でもオシナー。君はそうやって前世の知識を使ってしまって、怖くないのか?」

「怖い?」



 ヘルスト様は「いや、何でもない」とつぶやくと、黙ってしまった。

 前世の知識を使うことが、怖い?

 確かにケヒス姫様に雇われるまではできるだけ前世の事は忘れていようと思っていたのだが……。

 だが俺の知識で東方の解放に少しでも役立てるのなら、俺は躊躇いたくない。



「あれです」

「なんか、奴隷馬車みたいだね。最近めっきり見なくなったけど」



 俺の指さした捕虜の収容所(という名の馬車)にヘルスト様が素直な感想をくれた。

 奴隷馬車と表現してくれたが、あれは元々奴隷馬車なのだから否定できない。

 その奴隷馬車の脇には見張りとして着剣した小銃で武装した猟兵とユッタが居た。

 二人でどうにかコミュニケーションをとろうとしているようだ。



「お疲れ様」

「あ、オシナーさん」



 見張りに答礼して馬車をのぞき込むと両腕を縛られた捕虜と目が合った。すっごい睨んでいる。



「悪いが、これから捕虜を尋問するからアイツを出してくれ」

「わかりました」



 見張りが手慣れた手つきで馬車の壁をおろし、小銃を向けながら「立ち上がれ」というが、やはり言葉が通じないのか俺達を睨むだけだった。

 その時、ヘルスト様が何かを口走る。それに対するように捕虜も何かを怒鳴りつけた。

 意味は分からないが、敵意だけは伝わって来る。



「自害させろって言ってる……」

「とりあえず落ち着かせてください」



 ヘルスト様はまたよくわからない言語で会話を再開させる。

 その時、ユッタが俺の耳元に近づいてきた。吐息が耳にかかって背筋が少しゾクゾクする。



「オシナーさん。やぱりアレは悪魔ですよ。災いが起こるかもしれません。すぐに処刑すべきです」

「急にどうしたんだよ」



 それにユッタらしくない急進的な意見だ。そんな捕虜をすぐに処刑させるなんてケヒス姫様のようではないか。



「村に伝わるおとぎ話と言いますか、言い伝えと言いますか。とにかくそれでは黒いエルフは悪魔の使いなんですよ。もしくは悪魔に魂を売ったエルフで、良くないことが起こる前兆ですよ。兵達もそう噂しています」

「でもレギオー山脈のほうにいるかもしれないんだろ?」

「山から下りてきて悪い子供をさらうっていうお話なんです。わたしはともかく、兵達の士気にもかかわります」



 そう言われてもな……。



「あー。オシナー? それとその副官さん?」

「なんですかヘルスト様」

「このエルフが言うには、白いエルフは悪魔に魂を売った淫らな奴らだから近づけさせるなって」

「なッ!」



 ユッタの顔色が熱した鉄のように赤くなった。

 東西のエルフはどうやら分かり合えそうで分かり合えないらしい。



「ところでオシナー」

「なんです?」

「この捕虜なんだけどさ、鎧を脱がさないでいいの?」



 そういえばコレットが連れ帰ってきてからこの方、ずっと鎧を着ている。

 見た所、武装解除は行っていたようだったので無視していたが、あの鎧の下に何か隠し武器がある可能性もある。



「それでは身ぐるみを剥ぎましょう」

「あ、あのさぁ。もっとこう、ね。オブラートにさぁ」

「はぁ。とりあえず脱ぐよう言ってください」



 ヘルスト様が捕虜と話をしている間に俺は腰の軍刀に手を当てていつでも抜けるようにする。

 ユッタもどこか身構えた様子で捕虜をうかがっているようだ。



「鎧を脱ぐそうだよ」

「よし。縄を解いてくれ」



 見張りはユッタに小銃を渡し(奪われるといけないから)縄を解く。

 その縄が解けても捕虜は大人しいままだった。

 俺が柄に手をかけているせいか、それともユッタが小銃を構えているせいか。

 そして捕虜がゆっくり立ち上がり、鎧の肩紐を外しだした。

 そうか。今、思い出した。


 この鎧。


 武士なんかが着ていた鎧のようなデザインだ。すごく今更な感じもするし、俺の記憶はどこに穴があるのかわからなくなる。

 前世の記憶をすべて思い出したようで、そうでない部分もあるようだ。



「おぉ!」



 捕虜が――そういえば名前を聞いていない――鎧を脱ぐとその下は着物のような服で、熟した見事な果実が二つ並んでいた。

 アウレーネ様と同じ、いや、それ以上にッ――。

 着物は体のラインを隠すと前世では言われていたが、豊満な胸を隠すには至らず、腰に巻かれた細見の帯がキュっと腰をスマートに見せ、なおかつそこから胸に至る曲線が――。


 ユッタに足を踏まれた。



「見すぎですよ」

「捕虜が抵抗するかもしれないから身構えただけだ。それより尋問をだな……」



 ユッタだけではなくヘルスト様も俺を蔑むよう視線を投げてきたが、ここで一番重要なのは胸――もとい敵の情報であり、胸――もとい捕虜に視線がいってしまうのは致し方ないことだ。

 そう、致し方ないのだ。



「とりあえず名前を聞いてくれませんか?」

「うん」



 捕虜とヘルスト様が会話しているうちに捕虜の様子を観察すると、着物は麻でできた粗末なものだし、鎧も泥がついている(戦闘のおりに落馬したと聞いた)だけではなく、どこか古臭く見える。

 捕虜に注意しつつその鎧に手を伸ばしてみて驚いた。木製じゃないか。

 馬に乗るって事はそれなりに身分の高い奴のはずだが、この恰好はどう見ても貴族ではなさそうだ。


 しかし馬に乗れるということは馬を養えるだけの財力はあるはず。

 下級騎士とか、そういう身分だろうか。

 貴族であれば人質として価値が出てくるが、それは望めそうにないな。



「あー。オシナー。駄目だ。答えてくれない」



 申し訳なさそうにヘルスト様が両手を挙げた。

 文字通りお手上げか。



「どうしますかオシナーさん」

「どうするもなぁ」



 もっとも簡単に情報を引き出す方法があるとすればヨスズンさんに任せることだけど、任せたくないしな。

 そもそも本当にこの捕虜は俺達の言葉が通じないのだろうか。

 よし、試してみるか。

 俺は捕虜の前にかがむように立つ。

 『米海兵隊が教えるタリバンから命を守る二百のテクニック』によると嘘をつく人間は視線が動くと書いてあったはずだ。

 俺は捕虜の瞳をのぞき込む。すると捕虜は急に近づいた俺に警戒したのか、スッと視線を外した。

 これでは相手の視線がわからないので、俺は顎をつかんで無理やり俺と視線を合わせる。

 これでよく見えるな。



「お前、すごい大きな胸をしているな」

「オシナーさん!?」

「血迷ったのか!?」



 後ろから非難がましい声が突き刺さるが、今は尋問中だ。



「そんなに大きな胸だと肩も凝るだろう。と、いうかとても柔らかそうだし、形の良い胸をしている。その形の良い胸を救い上げるようにもみほぐしてお前の甘い吐息を感じながら――ってお前、俺達の言葉わかっているだろ」



 みるみる赤くなる捕虜の頬に応えが出ていた。



「ヘルスト様。どうやらこの捕虜、俺達の言葉が――」

「オシナー。お前って最低だな」

「オシナーさん。わたしに近づかないでください」

「待て! 待ってください。そんなケヒス姫様のようなゴミを見る目で俺を見ないでください! これは高等な、そう! 『会話術』! 高等な会話術なんです」

「捕虜の扱いは将軍の自由だけどさぁ。少なくとも女の自分のいる前で今夜の予定を話さないでよ」

「誤解です! 誤解ですってヘルスト様!」

「今日からわたしは別のテントに行くことにします」

「だから誤解だってユッタ!」



 どうやら俺の弁解は二人に届かないようだ。俺がナニをしたっていうんだ……。

 と、いうか見張りも猫背になってしまっている。だからこれは俺流の会話術であって……。

 誰か俺の気持ちを理解してくれる人はいないだろうか。



「ワタシ、ナザレのシモン」

「え? 喋った!?」



 俺の驚きの声に捕虜――ナザレのシモンは諦めたように下向きながら口を開いた。本当に喋れたのか。



「少し、ヘレティックの言葉、わかル」

「へれてぃっく?」

「異端者、って意味だよ」



 ヘルスト様の解説に俺はうなずこうとして、「異端者?」と聞き返した。



「エルファイエル王国から西に広まる宗教――自分たちが信仰する宗教をこいつらは異端って言うんだ。

 これから目指す聖都はその宗教の聖地なんだ」



 どうもピンと来ない。

 たぶんだが、俺の信じている土と鉄の神様とは別の神様の話をしているようだ。



「このエルフが信じているのは一神教の宗教で、神に選ばれた一族こそエルフだと思っているんだよ」

「その宗教なら人間のヘルスト様が信じるのておかしくないですか?」



 ヘルスト様は『異端者』と言った。

 異教徒ではなく異端者ということは同じ宗教を信じているが、その教義の解釈が違うってことか?



「あぁ。そのエルフが信じている宗教は救世主を説くんだけど、自分達――ケプカルト諸侯国連合王国の解釈だとその救世主こそ初代ケプカルト王と言われているんだよ。それでケプカルト王が神と新しい契約を結んで、与えられた国こそケプカルト王国で、ケプカルト王の復活と共に最後の審判が行われるって感じかな。

 まあ、宗教と権力って結びつきやすいからね」



 どこかで聞いたことのあるような宗教だ。

 前世でも似たような宗教はあったし、宗教を使って王の権威付けということも行われていた、気がする。

 俺はあまり宗教とかよくわからないから何とも言えないが。

 それにヘルスト様もどこか宗教の事をよくわかっていない節があるようだ。説明が中途半端すぎるし。



「自分はあまり信じていないからね。一応、侯爵家の娘として一通りの教義解釈なんかは受けたけど」



 「前世は宗教色の薄い国だったから」と小声で細くしてくれた。



「それでどうするのオシナー。尋問は?」

「そうでした。えーと。シモン。お前の仲間はどれほどいる?」

「お前らに話すことなイ」

「お前たちの総大将はどこにいる?」

「知らなイ」

「お前の胸の大きさは?」

「…………」



 質問を間違えた。

 あぁ、ヘルスト様とユッタの信頼度が下がるのを感じる。

 結局、俺はなんの情報も引き出せず、ただただ女性陣を引かせただけだった。



えっちな描写が上手くなりたいです。


あと裏設定としてエルファイエル王国側の信仰する宗教はユダヤ教をモチーフにしています。

逆にケプカルト側はキリスト教です。


まあぶっちゃけ中東発の宗教って似たり寄ったりですから同じようなものです。

ユダヤ教もキリスト教もイスラム教もあがめる神様は同じですからね。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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