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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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ドラゴン


 総督府に向かう途中、俺は空が急に陰ったのを見た。


 ドラゴンだ。


 ドラゴンは総督府の上空を一周してから降下を始め、風を巻き起こしながら着陸した。総督府の近くに設けられた臨時の厩舎から馬達の悲鳴が聞こえる。



「よし良い子だ」



 ドラゴンの背後から聞こえたその声にお目当ての人物が乗っているのが分かった。これで探す手間が省けた。



「ヘルスト様? 少し、お時間を頂いてもいいですか?」

「ん? オシナーか? 今降りるから待っていてくれ」



 背後に回ってみるとドラゴンの背にベットのような鞍が取り付けられており、そこに寝そべるようにヘルスト様がしがみついていた。

 ヘルスト様は慣れた手つきで自身の体と鞍を固定していたベルトと紐(命綱か)を外し、スルリとドラゴンの背から飛び降りた。



「お待たせ」



 そう言いながら耳垂れのついた防寒帽のような帽子にゴーグルを押し上げて笑顔を見せてくれた。

 だが、その笑顔もどこか疲れのようなものが奥に読み取れる。

 そりゃ、そうか。

 敵に包囲されている聖都にはヘルスト様の主であるエイウェル様を始め、ヘルスト様の父――ノルトランド大公がいるのだ。

 それにこの気温。冬の初めということもあり、冬季用軍服を着ていても寒さが這い上がってくるのに空を飛んでいればさらに寒いだろうに。

 きっと内面と外面の疲れが溜まっているに違いない。



「大丈夫ですか? 顔色が――」

「空は寒かったからね。オシナーは良いお酒とか持っていない?」



 肩をすくめて「あいにく」とつぶやく。



「今度、何か持っていきますよ」

「そりゃ助かるよ。それに、そんなに気を使わないでくれ。エイウェル様や父上のほうが苦労しているというのに」

「ヘルスト様……」

「やだなぁ。もう。自分とオシナーの仲じゃないか。唯一無二の」



 唯一無二。


 この言葉をこれほどまでに実感した事があるだろうか。

 ある意味、この世界で一人ぼっちだった俺達の関係はまさにこの四字熟語に集約されるだろう。



「そのゴーグル、前世の知恵で?」

「そうそう。飛行中は目がかすんじゃうからね。大公家ご用達のガラス職人に頼んで作ってもらったんだ」



 あと、帽子もね。

 そういってモコモコとした毛皮で作られた防寒帽のような帽子も俺に見せてくれた。

 軽いのに暖かい。やっぱり貴族ご用達の店で作らせたのだろう。

 それにしてもさっきまでヘルスト様がかぶっていた帽子はひと肌に温まっていてどこかくすぐったい思いがする。



「なにニヤついているの? 気持ち悪いよ」



 せめて真顔で言わないでくれ。すごく傷つく。



「そ、そう落ち込まないでよ。冗談だから。それで、何か用?」

「あぁそうでした。部下が聖都周辺の偵察を行ったのですが、その際に戦闘になって、一名の捕虜を得たのですが言葉が通じなくて――」

「通訳がいるってこと? ならやるよ。今日はもう飛べないからね」



 優しい手つきでヘルスト様がドラゴンの後ろ脚を撫でた。

 ぐるる、と低く喉を鳴らすドラゴンに俺は思わず半歩後ずさってしまった。



「あはは。大丈夫大丈夫。タンニンは大人しいんだよ」



 いやいや、一噛みでもされたら腕が丸ごと持っていかれそうなんですけど。



「ほらタンニン。オシナーに挨拶」

「こ、こんにちはタンニン」



 ぐるぐると喉を鳴らすドラゴン――タンニンに声をかけるとタンニンはいぶかしげに俺を睨んできた。

 すげー怖い。



「それじゃ今から捕虜の所に行くの?」

「ケヒス姫様に偵察の結果を知らせてからにします。ちなみにヘルスト様も偵察で飛ばれていたのですか?」

「うん。今のところ聖都とガザをつなぐ唯一の連絡手段だからね」

「他にドラゴンはいないのですか?」

「自分と、兄上の二騎だけだよ。父上も乗っていたのだけど、敵の矢を受けて負傷してしまったから今は乗れないんだ」



 航空戦力は貴重ということか。

 だが出し惜しみしている余裕もないだろう。



「ちなみにドラゴンって、どれだけの重さを持って飛行できるんですか?」



 もし、積載量に余裕があるのなら投擲爆弾なんかをヘルスト様に託して敵陣を爆撃できるかもしれない。



「そうだね……。ドラゴンの力は強いから、馬車に乗った大の大人十人くらいは持ち上げらえるんじゃないのかな? 試したこと無いけど」



 それなら作戦の幅が広がる。



「それじゃヘルスト様。お願いがあるのですが」

「なんだいオシナー。あ、今夜の宴のこと? 良いお酒が出るといいんだけどね」

「戦争中ですよ!? さっきの話からなんで酒盛りする予定なんですか!?」



 こういう時でも自分のペースを崩さないというのは尊敬するが。



「これからの戦闘についてです。ヘルスト様に上空から偵察や着弾観測をしてもらいたいのですが」

「着弾? え? なに? どういうこと?」

「あぁ。俺が指揮している部隊なんですが、大砲を装備しているのです。長距離で砲撃となるとどこに弾が落ちているか分かりにくいので空からそれを観測して報告して欲しいんですが」

「大砲? オシナーの部隊が?」



 ヘルスト様が小さく「前世の知恵か」と嘆息するように言った。

 どこか困ったような顔をしている。

 何か不味いことでも言ったか?



「構わないけど、タンニンの負担になるだろうな。一々、地上に降りたり空飛んだりを繰り返すと疲れちゃうよ」

「いやいや。空を飛んだまま魔法か、なんかで無線機のように通信してくれれば良いのでは?」



 タウキナ継承戦争の際にベスウスが魔法による遠距離通信を行っているという噂を聞いたことがある。

 ケヒス姫様は貴族は魔法が使える者が多いと言っていたからヘルスト様も使えるだろう。(アウレーネ様やアーニル様といったタウキナ勢は使えないようだったが)



「は? 魔法による遠距離通信ってこと? そんなの理論もあやふやだって聞いたけど?」

「え? そうなんですか」



 あや? 噂は所詮、噂だったか。



「それじゃ、観測はいいです。ただ歩兵を支援するために上空から魔法攻撃をしてくれませんか? 近接航空支援とか」

「敵を攻撃するような魔法なんて使えないよ」

「え? でも氷の魔法を使って敵を攻撃するとか――」

「無理無理。敵の戦闘部隊に打撃を与えられるほどの魔法を使うにはそれなりに大きな魔法陣がいるし、それはタンニンの上に広げられないよ」

「人、一人が乗る程度の魔法陣でもいいんですが。それこそ、あの鞍? 鞍のような大きささえあれば良いんです」



 タンニンの背中に乗っているベットのように平べったい鞍のような物を指して言うと、ヘルスト様が「魔法の教養が浅いなぁ」と諭すように口を開いた。



「そんなに小さい魔法陣だと何もできないよ。しいて言うなら雪を降らせるとか」



 あれれ?


 ユッタの報告だとベスウスの法撃陣地の大きさはあれくらいだったはずなのに。

 ユッタの見間違いか?



「そんな事言ってないでとっと報告してきなよ」



 解せぬ。

 解せぬぞ。


 なんでこんなに魔法について見識の違いがあるのか?

 いや、もしかしてヘルスト様は魔法の脅威を知らないのかもしれない。

 ケヒス姫様もベスウスの法撃に驚いていたようだし、魔法の攻撃力が上がったのはここ最近の出来事なのだろう。それなら説明がつく。

 だが逆に言えばベスウスの協力なしに強力な魔法攻撃はあり得ないということか。



「わかりました」



 とりあえず保留だな。ベスウスがガザに到着して協力を要請しなければならないな。

 そう思いながら総督府の廊下を進むと会議室から喧噪が聞こえてきた。



「なんか、すごい事になっているな」



 後ろを振り向くと。いつの間にかヘルスト様が来られていた。

 疲れを含んだ顔がさらに疲れて見える。

 会議室の歩哨に立つ兵が俺達の来訪を告げてくれたが、果たして中に聞こえているかどうか。



「敵は蛮族である。我らの突撃で蹴散らせるだろう」

「だから敵は一兵に至るまで火の魔法を使えるのだぞ!? 無謀な突撃は避けて冬を待つべきだ! 雪が降れば奴らは凍え死ぬぞ」

「その前に聖都のエイウェル殿下をどうされるのだ!? 殿下の救出に手をこまねいていては王家から処罰の対象になるだろう!!」

「その責は殿下の護衛を任されていたノルトランド家が執るべきだ!! ノルトランド家の誠意を見せてもらおう」

「爵位の降格はもちろん王から与えられた領土の割譲も行うべきだ」

「貴様は自領のことしか考えられんのか!!」



 様々な議論――暴論の飛び交う中、俺は上座のテーブルに深く腰掛けるケヒス姫様のもとに歩み寄る。

 上座に座るケヒス姫様とヨスズンさん、そしてノルトランド大公の子息であるカンオン・ノルトランド様に頭を下げる。



「戻ったかヘルスト」

「はい。オシナーからも偵察の結果の報告がございます」



 一気に老けたようなカンオン様が立ち上がり静粛を求めるが、それは喧噪に掻き消えて指揮官達には届かない。

 その時、ゆっくりとした動作でケヒス姫様が腰の拳銃を天井に向けた。

 そして制止する暇なく発砲する。耳を抑える余裕くらい下さい。



「静まれ。うぬよ。偵察の結果を」

「りょ、了解です」



 司令部から持ってきた地図を参考に会議室のそれに地形情報や敵の布陣を書き込んでいく。



「我が隊からの偵察結果になります」

「自分も空から偵察を行いましたが、かねがね同じようなものです」

「また、敵は攻城兵器――大砲のようなものを使って攻城を開始した模様です。聖都救援を目指すのであれば一刻の猶予もありません」



 俺の言葉に再び喧噪がはじめられようとした時、ケヒス姫様が駒を動かすための指揮杖で机を叩いた。



「意見のあるものは挙手せよ」

「そ、それでは! それがし、クレム公国騎士団のジール・クレムと申す」

「発言を許そう」

「そもそも東方辺境領姫殿下は王家の身とはいえ、総指揮権は第一王子であらせられるエイウェル様であり、そのエイウェル様から指揮権の一部譲渡を受けたノルトランド家がこの場を取りまとめるのが――」

「下らん。この場で発言を許すのは攻勢作戦に対するものだけだ。それ以外の言葉は聞きとうない」



 凍えるような声に会議室は先ほどであれば信じられないほどの静けさを取り戻した。



「無いのか?」



 一同を睨むように見回すその姿は蛇が獲物を見定めているようだ。



「確かに諸侯は余の指揮下で戦う事に少なからず不安を覚える者もおろう。

 そうされる事を、余はしてきた」



 ケヒス姫様は手にした指揮杖をテーブルに静かに置いて立ち上がった。



「では余は諸侯に問おう。勇壮を自負する誇り高き諸侯に問おう。

 聖都に掲げられている軍旗は何だ?」



 会議に参加している一同は互いを見渡し、コソコソとしたざわめきが起こる。



「ヘルストよ。聖都にはためく軍旗はどこの軍旗だ?」

「それは……。西部戦線総大将エイウェル様の御旗です」

「そう。聖都には兄上の旗が掲げられている。しかし、どうして諸侯の旗は無いのだ? どうして勇壮極まる諸侯の旗が聖都になびいていない!?

 そして諸侯はその現実を許せるのか!?

 名誉ある戦。それなのに聖都に諸侯の軍旗が何故はためかない。そして諸侯はこの事を許せるだろうか!?」



 諸侯等は旗を掲げたくないのか?



「ケプカルトは王と古き盟約を交わした諸侯の国。諸侯が寄り集まってこそ諸侯国連合王国を形成するのではないか? 王国を支えるのではないか?

 諸侯の支えあってこそ王国は成り立つのではないか? 諸侯の団結あって王国は成り立つのではないか?

 しかし聖都になびく旗は兄上の御旗のみ。王国の憂いて出兵した諸侯の旗が何故はためかない!?」



 ならば――。



「ならば騎士達よ。傭兵達よ。我らは我らの軍旗を立てに聖都に行こうではないか。

 こんな所でくすぶっているな。余と共に燃え盛ろうではないか。

 戦火の先に我らの旗を立てよう。

 御旗と共に我らの軍旗を立てよう。

 今こそ団結の時だ! さすれば諸侯の軍旗が聖都の空を覆うだろう!! それこそ古き盟約のごとく、ケプカルト王の名のもとに諸侯の旗を連ねようではないか!!

 ケプカルト創成を物語る古き盟約を体現する時は今だ!!

 皆者! 他者に遅れて恥をかくな! 

 進め! 我らの旗を連ねるために!」



 額に汗を浮かべたケヒス姫様は両手を広げて凄惨に笑った。

 そしてどこからともなく拍手が起こり、爆発するような歓声が沸き起こる。



「これが、冷血姫――」



 だがその熱に浮かされていない人物が居た。ヘルスト様だ。

 これから起こる大戦にではなく、諸侯を扇動するケヒス姫様に不安を覚えているようだった。



ドラゴンから空爆するのって浪漫だと思うんですよね。


まあ第二次世界大戦でも飛行機を撃ち落とすのに苦労していたので中世くらいの世界で三次元機動するドラゴンを落とすのは相当困難というか、ムリゲーなのではないのですかね?


そう考えると魔法を発達させて対空戦闘をやりやすくさせたりするか、より多くの航空戦力を仕入れて数で圧倒するしかなさそう。


つまりいかに制空権を奪い合うかが戦争の鍵となり、航空優勢を決める=戦争に勝つの構図が出来そうですね。



なんか日露戦争頃の海戦に勝つ=戦争に勝つのような感じですね、と妄想するのが楽しくて辛い。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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