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銃火のオシナー  作者: べりや
第五章 西方征討
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偵察【コレット・クレマガリー】

 枯野を走るのは気持ちが良い。空気が鋭く澄んでいて空気を吸うだけでも火照った身体に気持ちが良い。



「全隊止まれ!!」



 アタシ達は部下である十名のケンタウロスと、東方辺境騎士団から派遣されたお目付け役の騎士がスピードを落とす。

 中隊長の辞令を受けてはいるが、主任務が敵情偵察であるためにそれぞれが十名ほどの班単位で行動せざるを得えない。その上騎士団から監視役が付いているのだから気持ちよくは無い、と思っていた。



「全体小休止。ケール伍長とジョゼール一等兵は周辺警戒。シャル軍曹とコニーは集まってくれ」

「どうしたコレット?」



 シャル軍曹――シャルレットは同郷の親友であるが、コニーことコニラー・ガイソスは騎士団から出向してきている青年騎士だ。

 コニーとはどういう訳か、馬があって意気投合してしまった節がある。

 騎士団の連中は身分だけ偉くて口ほどにもない連中が多いと思っていたが、そうでもない奴もいるのだな。

 まあクワヴァラード掃討戦に従軍していないとコニーは言っていたから騎士団に入団した時期でも人柄が変わるのかもしれない。



「何か聞こえないか?」



 止まった事でアタシの耳にははっきりと聞こえだした。



「聞こえる。砲声?」



 連隊ではすでに耳に馴染んだ音が風に乗って流れてくる。



「かなり走ったし、そろそろ例の聖都が見えるんじゃないのかな? コレットはどう思う?」



 自然にため口になっている親友に胴をぶつけて抗議し、雑納から折りたたまれた地図を引きだす。



「失礼しました。大尉殿」

「なんでそんなに嫌味ったらしく大尉って呼ぶんだ」

「どうせ大尉昇進の際にも、仲間の力を使ったんでしょ?」



 まあ事実だから否定はしない。少将は相変わらずぬるい。



「お前たちは、本当に仲がいいな」

「あら? 騎士殿は妬いているの?」



 下半身が馬じゃなければな、と軽口を叩きながらコニーは前方の丘を指示した。



「あそこに登れば現在地がわかるだろう」

「うーん。丘か。丘は重要な作戦目標だから敵が陣取っている可能性が高いとローカニルの親父に習ったんだけどなぁ。丘を越えたら敵の本陣とか笑えないぞ」

「それにしては静かだ。確かに俺にも砲声が聞こえるが、距離は遠そうだな」



 どうすっかなぁ。

 兄貴ならどうするか。

 うーん。



「そうだ」

「良い案でも浮かんだか?」



 コニーに笑いを向け、アタシは妙案を言った。



「とりあえず丘に行こう」

「もし敵が居たらどうするんですか大尉殿?」

「おい呆れた目でアタシを見るな。まあいいや。敵が居たら逃げる。アタシ等の本分は偵察だからね」

「なんとまぁ。行き当たりばったりだな」



 コニーの言う行き当たりばったりという言葉は否定しない。

 なんたってアタシはバカだ。

 バカは小難しく考えるより身体を動かすべきなんだ。

 バカでも判断出来るよう判断材料を増やしておかなきゃならないしな。



「よし小休止は終わりだ。二列縦隊。これから前方の丘に上がって偵察を行う。その後の行動は丘の上にて決める。

 なお、敵との遭遇が考えられる。各自、小銃を確認しろ。いつでも撃てるようにするんだ。

 もし敵と遭遇した場合は一撃を与え、離脱する。みんなアタシについてこい。

 行くぞ!!」



 丘を登るのはキツイが、これも任務だ。それにコニ―が言うとおり丘――高所から周囲を観察する事は重要だ。

 ラートニルでの戦を見ていればバカでもわかる。

 それにしてもラートニルの時は少将に散々に丘を往復させられた。

 だが、今回は往復だけで済みそうだ。

 頂上が見えてきた。スピードを落とし、周囲を警戒しながら進む。相変わらず緊張して口の中がカラカラになる。

 だがそんな姿を部下の前でさらしては恥だ。

 一度深呼吸をして丘を登りきる。



「敵は居ないな? ん? あれは――」



 敵は居ないようだが、敵は居た。

 正確に言うなら敵は近くではなく、丘を越えた先。

 開けた平原に置かれた城塞の周囲に色とりどりの軍旗がはためていた。間違いない。あれが聖都か。



「完全に包囲されているようだな」



 コニーの感想をよそにアタシは雑納から地図と中隊長辞任の時にもらった遠眼鏡を引っ張りだし、地図を見ながら遠眼鏡を覗く。

 色とりどりの軍旗に櫓というか、砦というか、支城のようなものも見える。

 遠眼鏡でそれらを観察していると眩い光が見えた。それに続くように白煙、そして轟音。



「敵は攻城を開始したようだな。大砲で城壁を撃っていやがる」

「ノルトランドからの報告だと敵は攻城兵器を持たないと言っていたぞ」

「遅れて到着したんだろ。クソ。発砲煙でよく見えないな。なんか、連隊うちらの使っている大砲とはまた形が違うようだったが、遠くてよくわからない」

「もっと近づく?」



 シャルが魅力的な提案をしてくれた。確かに近づけば敵の様子をより知る事が出来るだろう。



「いや。危険が多すぎる。却下だな」



 アタシは再び雑納に手を突っ込み、お目当ての鉛筆を探り出す。

 地図を広げ、聖都周辺の敵情を直接書き込んでいき、現在地から見える地形の様子や聖都周辺以外の敵情も付け加える。

 こんなものか?



「結構、絵心があるんだな」

「ん? 以外か?」



 しきりにうなずくコニーに一発だけ小突いてやる。人をがさつな女だと思いやがって。



「いや、ケンタウロスは戦好きと聞いたからな。絵心があるとは思わなんだ」

「確かにそうかもしれないけど、手先の器用な人が多いんですよ。それに学術に凝る人はすごく凝るんです」



 知らなかったな、と話していると空気を裂くような甲高く尾を引くような音がした。



「なんだ? このヒョウーというような音は……」

「鏑矢だ! まずいぞ」

「かぶ――なんだって?」

「鏑矢だよ! 猟とかで使わないのか!?」



 首をかしげるコニーをもどかしく思うが、今はそんな余裕はない。

 あれは刈りで使った事があるが、矢の先端に特殊な飾りをつける事で大きな音を出す矢だ。

 あれで獲物の居場所を連絡しているのだから、この場合の獲物はアタシ達だ。



「追手がかかる。各自警戒! 二列縦隊にてガザに帰還するぞ」

「敵だ! 敵の騎馬! 五騎はいるぞ」



 部下の指差した方角に目を向けると五騎ほどの騎馬が土煙りを上げて疾走してきていた。

 まあ赤い服を着ていれば目立つし、コニーの鎧も太陽の光が反射して居場所がわかるのだろう。



「どうする? 戦うの?」



 またため口になっている。



「いや、アタシ達の目的は偵察であって戦闘じゃない。各自発砲は控えろ!

 行くぞ!!」



 アタシを先頭に部隊は走りながら隊列を整える。

 だがそんな事も出来ない騎士団のコニーは必然的に最後尾――殿しんがりとなった。

 まあケンタウロスと人間の違いだろうから仕方が無い。人間は二つの足で歩くものだからな。



「敵! さらに新手! 右後方!!」



 そこ報告に首を回せば確かに新手としてニ騎走ってきていた。黒い鎧が光に反射してギラリと光る。

 いや、違う。



「弓矢が来るぞ!! 警戒!!」



 光の尾を引きながら頭上を矢が飛んでいった。まだ敵とは百メートルほど距離があるが、油断は出来ない。



「追手、左後方! 接近してくる!」



 シャル軍曹の声に反対を振り返れば確かにアタシ達を追尾してくる追手達が大きくなりつつある。

 こちらの方が遅いのか?

 全力で走ればそんじょそこらの馬なんか振り切れるはずだ――。だがやめた。こちらにも普通の馬が居る。

 全力で走ればコニーを置いていくことになるだろう。

 だが何としても敵と距離を取りたい。このまま近づかれて敵の間合いで戦うのは好ましくないし、欲を言えば先制攻撃を与えて敵を遅滞させたい。



「シャル軍曹部隊の指揮を頼む。アタシに三騎続け。敵に一撃を与えて遅滞たせる」

「なら私も行こう!」

「コニーの馬は足が遅いからダメだ。それより部隊の殿を頼む」



 不承不承にうなずいたコニーを確認してアタシは隊列を離れる。

 後方に三騎張り付いて槍のような一列をなし、追手の前方を遮るような機動を行う。

 新手のほうは少数だから大丈夫のはずだ。



「西方の奴らに東方のケンタウロスの力を見せてやるぞ!! 撃鉄起こせ!」



 喊声かんせいと共に的に切り込むと、敵も何か叫びながら速度を上げた。

 弓矢を絞る姿がよく見える。

 奇妙な兜に奇妙な鎧。東方の騎士団とはえらく違う出で立ちだな。



「射撃用意!!」



 距離は一気に詰まって六十メートルくらいか?

 止まって狙えば命中を期待できる距離だが、走っていてはどうだろう?



「考えても仕方ないか。馬を狙え!」



 馬なら図体がでかいから――それはアタシ達にも言えるが――当たるだろう。



「撃て!」



 馬脚に交じった発砲音に一騎が崩れ落ちた。さらに一騎が発砲音に驚いて暴れ出す。

 って、一騎だけかよ!? それ以外の馬達は何事もなく走っている姿に違和感をぬぐい切れない。



「なんで発砲音に驚かないんだ!? ベスウスの奴らは驚いたって言うのに」



 部下の悲鳴のような声に舌打ちをし、どうして奴らは発砲音で馬脚を乱さないのか考える。

 考えた。


 だがやめた。


 今、考えるべき事は他にある。



「離脱だ! 急げ!!」



 敵にいつまでも腹をみせていたら弓矢の的だ。

 隊列を反転させ、全力で走りぬける。振り返って敵との距離を確認。八十メートルってとこか?

 その振り向いた一瞬で敵が矢をつがえるのを確認した。

 体を斜めに向けて――相手からすれば横にすべるように機動して矢の狙いを定めにくくさせる。

 こういう一工夫が大事だと兄貴が言っていた。

 そう思った時脇を矢が通過していくのを確認し、もう一度振り向く。まだ追ってきている。中々しつこい奴らだ。

 もう一撃食らわしてやろうかと思うが、弾を込める事を考えると難しい。

 それも走りながら込めるのはさすがに出来ない。

 どうしたものか。



「ん? あれは――」



 前方。やや右寄り。

 そこに横隊を組んだ本隊――と言っても八人ほどだが――が射撃姿勢をとっているのが見えた。

 あいつら逃げなかったのか。いや、逃げられるほど猶予を生めなかったというのもあるが。

 だが迎え撃つ準備をしているというのなら乗ってやろう。

 少しずつ方向を修正し、敵との間合いを測る。


 今だ。


 急角度で右に曲がり、射線をあける。



「撃てッ!!」



 シャル軍曹の掛け声とともによく狙いを定めた小銃が火を噴く。

 こうなりゃ自棄だ。



「着剣!!」



 横隊の背後に孤を描くように走り、騎馬突撃に備える。

 そう思ったが、追ってきていた三騎は小銃の一斉射撃を受けて地面に倒れるところだった。



「右後方より敵!! ニ騎!」



 コニーの叫びにそちらを向くと、ちょうど敵が反転する所だった。

 どうやら十人に二人で挑むことはしないようだ。



「よし全員点呼。全員居るな? 全員居ないと報告書が増えちまう」



 乾いた笑いと点呼の返事が返ってくる。どうやら全員居るようだ。



「それと敵が何か持っていないか確認するぞ」



 夜盗のようだが、敵の情報を得るための偵察だ。



「ケール伍長、三人ほど選んで歩哨についてくれ」



 小銃の射撃を受けて倒れた敵兵に近づき――そこでそいつが本当に死んでいるか確認するために一度、小銃の銃床で小突いてみる。


 動かないな。


 敵兵の雑納はないか調べ、物を入れておけるような場所も探る。

 なんもないな。



「うーん。大尉殿。武器以外良いものはないかと」



 シャル軍曹の声に顔を上げて物探しを中断した時、何かの拍子で敵兵の兜が落ちた。



「あ……」



 シャル軍曹の声にふと敵兵に視線を戻すと敵兵の銀髪が目に入り、褐色した肌。そして耳が――。



「この人間、耳が長いな」

「いや、エルフじゃないの?」



 言われてみれば連隊副官をしているエルフの少佐の耳に似ているような気がする。



「いや、同じじゃないの?」

「こいつ生きているぞ!」



 その声に視線を向けるとよろよろと立ちあがる敵兵――浅黒い肌に銀髪のエルフが腰から方刃の剣を抜いたところだった。

 まいったな。

 こっちは小銃を撃ち切って装填していない。銃剣をつけて戦うか?

 そう思っていると敵兵が兜を脱ぎ棄て威嚇するように剣を振り回す。



「な! 女か!?」



 コニーの声に改めて敵を観察すると少佐のように整った顔立ちをした兵士だった。

 だが少佐は色白で金髪なのに対してこのエルフは浅黒い肌で銀髪だ。

 地域が違うと肌の色も変わるものなのか? それとも別の種族か。



「武器を納めろ!!」



 だが興奮しているのか、こちらの警告に従うことなく剣を構える偽エルフ(命名アタシ)。

 それどころか聞き取れない言葉で何かを偽エルフが叫んだ。



「コニーどうする? 殺すか?」



 部隊の指揮官はアタシだが、こういう判断は監視役にしてもらおう。



「生け捕りに出来るか? 捕虜にして敵情を吐かせたい」



 無茶な事を。

 ため息をついて、そして一気に偽エルフと間合いをつめる。

 剣をふるわれたが、小銃の銃身でそれをいなし、前足を上げて踏みつぶさんばかりに威嚇してやる。

 すると気勢をそがれた偽エルフが倒れるようにつまずいた。そりゃはるか頭上に足を上げられたら驚くわな。



「捕まえろ!!」



 その言葉に部下達も距離をつめ、偽エルフを拘束した。



「縄をうて。あんまり傷つけるなよ。捕縛が終われば撤収する。長居は無用だ」



 とんだ土産を得たが、帰りは何事もなくガザに帰還する事が出来た。



外国で鏑矢ってないんですかね?(情弱)


ただケンタウロスは弓が好きらしいので鏑矢の知識はあるということで。

それと敵のイメージはダークエルフです。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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