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銃火のオシナー  作者: べりや
第四章 タウキナ継承戦争
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幕間 終戦 【宰相の呟き】 【オシナー】

 現王様ご機嫌麗しく。


 えぇ。見事に泥沼の戦でした。はい。

 東方辺境騎士団も、そして噂の連隊も良い感じに消耗した事でしょう。あぁ。もちろんベスウスも。


 手はず通りです。はい。


 ノルトランドと共にベスウスに戦の話を持ちかけ、両国が共に参戦する空気を作り、最後の最後でノルトランドが離脱してベスウスとタウキナ――東方辺境領が争うように仕向ける事が出来ました。

 これで互いに消耗して王国に牙を向けようなんて思えないはずです。はい。


 そうですね。

 私の諜報網で革新的な魔法技術をベスウスが手にしたと聞いた時は肝を冷やしました。

 しかしこの戦で消耗してくれたおかげで王国は百年の安泰を迎えることでしょう。はい。


 え? そんな芝居がかったセリフはいらない?


 おっしゃる通りです。

 しかしこれも性分。どうかお許しを。はい。


 ベスウスの魔法についてですか?


 そうですね……。

 凄いの一言に尽きます。はい。

 ベスウスの行った『印刷』という西方の技術による魔法陣の複製、遠距離通信魔法の実用化は大いに戦争に革新を与えるでしょう。

 そして連隊の使う『火器』も発展を遂げておりました。

 そうです。野放しにしておけば王国を揺るがすほころびとなりましょう。

 潰すのは簡単です。それくらい造作もありません。

 此度のように戦をさせておけば軍とは勝手に消耗するものです。幸い、王国には東西に火種を抱えておりますから口実さえ作れば簡単に戦に巻き込むことも出来るかと。


 しかし、これをケプカルトの牙に出来れば、これ以上のことはありません。

 西方戦役を制する事も出来ようかと。

 ですが、東から西に部隊を動かすにはそれ相応の餌が必要です。

 え? 妙案?

 褒美を授けるのは王家の務め。私の職域を超えます。はい。


 はは。そうおっしゃらずに。


 ですが、忠告と言えば勲章程度ではすまないでしょう。

 もちろん、彼らがそれ相応の働きをすれば、の話です。

 出来なければそれまでの集団であり、王国を脅かすに至らないはずです。


 そう、難しく考えられずに。


 前王様であれば即断でしたでしょう。

 え? 前王様を好いているかですか?


 いえ。そのような事は。

 はは。お戯れを。現王様を好いていないと答えれば私の首が跳びます。はい。

 私が愛してやまないのは、この国です。はい。

 国のために宰相である私が働くのです。はい。

 そう、全ては国のために。



   ◇ ◇ ◇



「うーん。この耳は元通りにはなりません」

「……なりませんか」



 終戦から一週間。俺たちはまだラートニルに駐屯していた。

 戦争が終わったと言っても戦後処理がある。

 ラートニルで戦死したタウキナ近衛騎士団やベスウス騎士団の騎士達の収容や城門等の修理、そして街の復興。


 この土地はアウレーネ様が直接統治を敷いて急ピッチに復興が進められる手はずになっていたが、この街に戻ってこようと考えている人間は少ないらしい。

 そりゃ、死体が二ヶ月近く放置されていたり、砲撃と法撃を絶え間なく受けたこの街に戻ろうと考えるほうが珍しいのかもしれない。


 だがこの地はベスウスとの国境の町でもある。物流を考えればベスウスとの中継点になれるこの街を放棄するにはもったいない。

 そしてその復興というか、瓦礫の撤去などに協力している連隊(旅団は解散して連隊ごとに復興作戦に携わっている)の司令部にシブイヤからアウレーネ様とそのお抱え魔法使いが来訪していた。

 以前、シブイヤであった聖職者のような魔法使いはユッタの耳を見て顔をしかめた。



「魔法とは無から有を作るのではなく、有を支配する力のことです。傷であれば回復させることはできますが、無くなったものを作り出す事はできないのです」



 ユッタの耳は敵の法撃陣地を攻撃した際の反撃で片耳が千切れてしまった。

 だが幸いに聴覚に問題はないそうだが、本人はかなり気にしているようだ。

 やはりエルフとして耳は大切なのかもしれない。



「フン。さっぱりして良いではないか。見栄え良くするためにもう片方もそぎ落としてやろうか」

「で、殿下……。殿下と言えど容赦はいたしませんよ」



 その時、司令部の入り口からヨスズンさんが「おや、お揃いのようで」と呟きながら入ってきた。



「姫様、例の物をお持ちしました」



 そう言って地図の広げられたテーブルに大きな木箱を置いた。

 何が入っているのだろうか。



「戦功章になります。第二次総攻撃に参加した装甲擲弾兵に三級戦功章。そしてモニカ支隊に参加した五名に二級戦功章を用意しました」

「え? わたし達にも勲章がいただけるのですか?」



 ユッタの驚きの声にヨスズンさんがうなづいた。



「姫様からのご指示で追加されたのだ」

「フン……」



 どこか恥ずかしそうにそっぽを向くケヒス姫様にどこか、何を企んでいるんだと疑心が――。



「なぜ疑心なのだ」

「こ、心を読まないでください。して、どうしてユッタ達にも勲章を」



 それも二級。俺が授与されたのは三級戦功章だったから上官より位の高い勲章をもらうことになる。

 別に悔しいとか、羨ましいとかではないが、ケヒス姫様が『亜人』に――それもケヒス姫様自らの指示で授与されるなんて珍しいを通り越して不気味だ。



「よく働いた者に褒美をやって何が悪い。それに――」



 何かケヒス姫様が早口に言ったが、聞き取れなかった。



「何を笑っておる」

「いえいえ」



 もし、その言葉がユッタ達――『亜人』と呼ばれる人たちへの感謝の言葉であるなら、とても嬉しかった。

 ケヒス姫様も変わろうとしているのかもしれない。

 今までの犠牲を忘れようとしているのではなく、犠牲を無駄にしないようにするために変わろうとしているのかもしれない。


 ならば俺もそうしよう。

 これまでの犠牲の上に成り立つ『生』を無為なものにしないために戦い続けよう。

 全ての犠牲が報われるように――。

 これから始まる西方戦役では犠牲を無にする事は出来ないだろう。

 だが、これまでの戦訓を――。これまでの犠牲を無駄にしない、犠牲の上で成り立った数々の戦訓を生かそう。

 それが東方の解放につながると信じて。

 だが、今はこの優しさに包まれていたい。


 この平和を享受したい。


 甘えであろう。怠慢であろう。



「オシナーさん、似合いますか?」



 ヨスズンさんから手渡された勲章を胸元につけてほほ笑むユッタに俺も自然と笑みがこぼれた。



「あぁ」



 だが、犠牲の上に成り立つこの平和をどうか、一時でいいから享受したい。

 これがあれば、俺はまた戦えるかもしれない。


これにて第四章終了です。


次章からは西方でのお話。



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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