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銃火のオシナー  作者: べりや
第四章 タウキナ継承戦争
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鍛冶職人

「まさか司令部を離れるとは……」

「申し訳ないですな連隊長。いや旅団長」



 ローカニルと共に俺はシブイヤの街を歩いていた。

 もちろんベスウスと睨みあっているのだから司令部で作戦指揮を執るべきなのだが、シブイヤで問題が起きてしまった。

 それも新型大砲の製作命令が出て一週間でだ。早速計画が頓挫してしまうなんて……。



「工房のほうが入れてくれないって本当なのか? 勅令も出ているんだろ?」

「タウキナ大公様も勅令を出してくだすったのですがね、人間は俺たち『亜人』に工房を使われたくないと」

「まあ気持ちは分かるな」



 自分達が親方から譲られたであろう伝統と努力が積もった工房に他者が――それもドワーフが入ることを快く思わないのだろう。

 俺も親方の工房以外で鉄を打とうとは思わないし、見ず知らずの他人に工房を貸そうとは思わない。

 少し考えれば分かることだろうが、どうして思い至らなかった。



「最悪、東方の工房を使わにゃならんと思いますが、時間が掛かりすぎるでしょう?」

「そうだな。試作品を作ってテストして輸送するとどれだけ時間がかかるか分からない」



 戦に間に合わないなんて事になりかねない。

 それは絶対に避けなければならない。なんとしても、だ。



「それで、その手の小銃はなんですかい?」

「ちょっとな」



 もちろん手にした小銃は布を巻いて中身が一見してわからないようにしている。

 街中で銃を手にした奴がぷらぷら歩いているのも気持ちが良くない。前世で言うところのマナーだ。

 今、俺たちの脇を駆けて行った馬車の御者も俺が小銃を持っているなんて毛ほども思っていないだろう。



「そう言えば馬車がやけにシブイヤに来てますな。あの馬車、商会のでしょう?」

「上手く補給線が維持できている証拠だよ。それに東方から手銃を取り寄せているから余計、馬車が来ているのかもしれない」



 ローカニルが「手銃?」と首をかしげていると件の工房が見えてきた。

 なんだかその中が騒がしいようだ。



「おい。工房の方からなんか怒鳴り声が聞こえないか?」

「うちの若いのが事を起こしたらしいですな」



 勅令の下っている工房の前にたどり着くとその中から罵声が響いてきた。

 ケヒス姫様以外の事で胃が痛くなるのは初めてかもしれない。

 いや、親方が借金をこさえた時も胃が痛くなったな。親方、お元気ですか?



「現実逃避してないで行きますぞ」



 ローカニルに引きずられるように工房に入るとドワーフと人間が一人ずつ取っ組み合いの喧嘩をしており、野次馬があふれていた。

 全面戦争になっていないのが救いか。早速仲裁に入ろう。



「おいやめろ! やめ――。ぐふッ。よくもやってくれたなッ! 覚悟しろッ!!」

「火に油を注がんでくださいって、お前らも自重しろ!! くそ! くそ!!」



 気がついたら互いに殴り合いの喧嘩になってしまった。

 俺の頬に固く引き締まった拳がぶち当たり、俺もお返しに殴り返すが、軽くいなされてしまう。

 そういえば俺は村で一番喧嘩が弱かった。いや、相手はドワーフだし。人間じゃねーし。



「何事だ!! 静まれ!!」



 警邏の声に俺たちはようやく落ち着いた。

 警邏の騎士は騎士で援軍に来てくれた連隊の兵士がタウキナの職人と殴り合いをしているのを見て混乱しているようだった。



「お前ら戦争中なのに何をしているのだ!? これだから亜人は野蛮で好かないんだ」

「いやぁ。先に手を出したのはわしだ」



 そう手を上げたのはこの工房の職人だった。

 綺麗に禿げあがった頑固そうな老人。職人としての矜持を持っていそうだ。



「ついつい、議論が白熱しちまって」

「ヘ―パ爺さんいい加減にしてくれ。この間も酒飲んで暴れて。もう若くないんだから無茶すんなよ」

「うるさいわい。アレはわしの作った鎧にケチをつけたアイツが――」

「はいはい。わかったわかった。今回の事は一応、上に報告させてもらうから爺さんはついてきてくれ。あとドワーフのほうも責任者を連れていく。誰だ?」

「あー。俺です」



 人間が手を上げた事に騎士は驚いたが、俺が着ている軍服から「連隊の人ね」と納得してくれた。

 まあ騎士の詰め所で名乗ると急に居住まいを治されたのは誰にも言わないようにしよう。

 俺たちはそこで簡単な事情聴取と二度とトラブルを起こさない旨の反省文をしたためて釈放された。

 騎士団としては援軍に来ている連隊――もしくは東方辺境騎士団とトラブルを起こしたくなかったのか、厳重注意で済んだ。



「あんた偉い人だったんだな」

「いや、ただの成り上がりですよ。あ、改めて俺はオシナーと言います」

「ヘ―パイ・ストスだ」



 互いに握手するとストスさんの武骨な手に懐かしさを覚えた。そうだ。親方の手だ。

 親方も肉刺まめが潰れて固くなった手をしていた。



「アンタも鍛冶師か? そういう手をしている」

「ここんとこ打っていないので鍛冶師と言えるかどうか」



 この老人。一本気の職人といった感じの人か。


 気がつくと金属の熱処理について議論をしながら俺達は工房に戻ってきた。

 工房の中は金属を叩く音が響き、さっきまでの喧騒が嘘のようだ。

 工房を覗き込むとタウキナの職人達が小銃の銃身を作っているのをドワーフ達が壁際でむず痒い表情で見守っている。

 彼らにしては色々、言及したい事があるのだろう。俺もそうだ。



「わしらは皆、この工房を先祖代々守り続けている。先祖伝来の技がある。それに、自信もある。タウキナでしか作れない良質な武具を作る事に誇りを感じている」

「それを言うなら俺達もそうです。鉄と土の神様に誓って粗末な物は作りません。作るものには誇りをもっています」

「可笑しな事を言う。オシナー殿は人間じゃろ?」

「いえ。育ての親がドワーフでして。鍛冶についても親父――親方から習いました」

「……失礼だが、親御さんは?」

「十年前のクワバトラ王の東方遠征の際に戦に巻き込まれて死んだとか。もう覚えていませんよ」



 ストスさんは「そうか」と短く答えて工房の中に入っていく。



「あの、良いですか?」

「なんだ?」



 俺は手にしていた小銃の包みを工房の床に広げる。



「……小銃か」

「こちらの工房で作られた物です」



 銃口の下に刺さっている金属製のカルカを抜き出してそれを銃口に入れる。

 カルカは薬室に入れた火薬と弾丸を突き固めるための棒だが、俺の手にしているカルカは銃身の途中で止まってしまった。

 その様子を興味深げに見ていたストスさんが「最後まで入れないのか?」と疑問を口にする。

 俺たちのやり取りを他の工商も気にしているのを感じながら俺は言った。



「入れないんじゃなくて入らないんです。ちょっと工具を貸してください」



 借り受けた工具でぱっぱと小銃をバラす。銃床と銃身を分離するのはもちろん、撃鉄などの装置も外して銃身だけのあられもない姿にする。なんだかワクワクしてしまう。



「この小銃、一見まっすぐですけど、わずかに湾曲してます」

「莫迦な。工法自体はお前さんたちとそう変わらないぞ。ちゃんと細長い鉄棒に巻きつけるように打っている」

「問題はこの銃身の後端です。ここ、溶接してますよね」



 銃身の一方が完全に塞がっているから掃除の際にこの部分の煤がどうしても取れない。

 その影響で撃発不良になったり、熱によって銃身が曲がるのだ。



「そちらさんの扱いが雑だから曲がった可能性はないのか?」

「そりゃ、銃剣突撃をすればその可能性も無きにしも非ずですが、あとこの後端を切り落とせばわかる事なんで金鋸貸してください」



 渋々と貸し出されたそれで後端を切り落とす。俺が想像した通り、後端は煤で汚れていた。

 俺は銃身を窓に向けて中身を確認する。あ、やっぱり。



「何が見えるんだ?」



 俺は銃身をストスさんに渡す。



「……。凸凹が出来てる?」

「おそらく形成不良で出来た溝です」



 銃身を作る際に後処理が乱雑だったのか、稚拙だったのだろう。そのためこの凸凹にカルカが取られ、なおかつ銃身が曲がっているからカルカ止まってしまうのだ。



「タウキナ産の小銃で似たような装填不良と命中精度の低下が確認されています」



 だから俺は急遽、後方部隊向けに保存していた手銃を前線の部隊に送るように命令した。

 輜重参謀のヨルンには大きな負担をかけさせて申し訳ないが、この一丁が命を分けるのだから躊躇って入られない。



「戦場では部下が死地に居ます。この小銃一丁がその命を左右するんです。もし、一秒でも装填が早く終われば助かるかもしれないんです」

「だが、コッチにも限界はある」



 職人故にに己の技量を知っているのだろう。

 力の限りを尽くした製品を作っているのは俺も感じる。だが、それだけではダメなのだ。



「我々(ドワーフ)にはこれを完璧に作る技術がある。東方産の小銃であれば曲がりにくく、より薄い銃身を作ることが出来ます。

 これから試作する大砲も、失礼ながら貴方達より軽量で丈夫なものを作ることが出来ます」



 俺の言葉に殺気だつ職人も居たが、俺は言葉を隠してはならない。

 彼らも同じ職人であるならこそ、真実を言わねばならない。



「ベスウスの攻撃で日ごとに部下が傷ついていくんです。部下のためにも早急に新型大砲を配備しなければなりません。

 どうか、どうかご協力を!」



 深々と頭を下げる。

 どれくらい頭を下げていたのかわからいが、ストスさんが「それじゃ好きにしろ」と言った。



「お前らの隊長さんと話して、東方の鍛冶師も悪いもんじゃないって思っただけだ。

 今日はもう直ぐ終いにするから明日、また来てくれ。場所を作る。

 あと、もう暇なら、鉄に愛されたドワーフの手ほどきを受けさせてくれ」



 そっぽを向いて言われたその言葉に俺たちは困惑しながら一人、一人にドワーフ流のアドバイスを送り出す。

 嫌悪な雰囲気もあったが、そのうち技術者として感情より互いのノウハウを吸収するための会話になっていき、ふと窓を見ると西日が差していた。



「よし。今日は閉めて飲みに行くぞ!! ドワーフも大酒飲みと言うしな」



 まさに鶴の一声。

 俺たちは一日の疲れを癒すために道具をしまって酒場に進軍することが決まった。

 その際にストスさんが俺に近づいてきた。



「工房の一角を貸そう。そこで試作の大砲を作ったら良い」

「良いんですか?」

「その代わり、お前達の技術をくれ」



 より良い鉄を打ちたい。その想いで発せられた言葉にこの人は生粋の職人だなと感心した。



「昔、人間の国家が打ち立たれる前まではここはドワーフの土地だって聞いた。だが、鉄を巡って戦争になって、ドワーフは住みかを東に移した。

 そん時はきっと大勢の命が亡くなったんだろうが、それと同じだけ技術も失われたんだろう。互いが持ち合わせる技術を掛け合わせてより技術が向上したかもしれないのにな。もったいねぇ。

 戦争ってのは人以外にも無くなるもんだ。今は伝承されない亡くなった技術もあったんだろうな。本当にもったいねぇ」

「ストスさん……」

「湿っぽくなったな。飲んで忘れるぞ。お前も戦争の事なんか忘れちまえ! 俺は鉄を打つことを忘れるぞ!」

「いいですけど、工房の借用権については忘れないで下さいよ」



 楽しい夜に想いを馳せながら、俺は未だ硬直している前線を思い出す。

 おそらく戦線は動かないだろうが、部下を死地に残して酒を飲むことに罪悪感が募る。今日は悪酔いしそうだ。


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