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銃火のオシナー  作者: べりや
第三章 パックス
22/126

転生者


「あなた『も』転生者なのか?」



 その言葉に俺の思考は完全に停止した。

 転生者。



「あなた『も』前世の記憶があるんじゃないのか?」



 前世の記憶。

 俺の思考がゆっくりと再起動を始める。



「『も』って事は、他にも居るんですか?」

「良いから答えろ。お前は前世の記憶があるのか? 無いのか?」



 なんて答えて良いのかわからない。

 前世と呼べる記憶が蘇ってきた時、俺は夢の断片だと思った。

 だがそれは夢にしては鮮明すぎて、飯を食っている時や鉄を打っている時も『思い出したように』頭の中を駆けて行く。


 現世と前世の記憶の違いにギャップを覚えて嘔吐した事もある。

 親方に相談して見た事もあった。(相手にされなかったが)

 村の仲間にも相談したが、俺が取り合ってくれなかった。

 そりゃいきなり「前世の記憶が――」と言われても真面目に返せるはすが無い。俺もそんな奴がいたら真面目に返答できなかったろう。


 だが、この場は――。この人は真面目に聞いている。


 この場を誤魔化すことは出来るだろう。

 ヘルスト様が本当に前世の記憶という存在を信じているのだとしてもこの知識は武器になる。兵器になる。力になる。

 ならケヒス姫様や東方のためにも俺は黙っていた方が良いのかもしれない。


 だが――。


 だがこの人は俺と同じモノを知っている仲間なのかもしれない。

 ケヒス姫様やヨスズンさん、それにユッタも言えない秘密を分かち合える仲間なのかもしれない。



「どうなのだ?」



 耳元から離れたヘルスト様が俺の目を見て問うた。

 仲間という存在なら連隊を通して大勢出来たが、俺の本心を知る者はいない。

 俺は、俺を知って欲しいのかもしれない。



「……あります。俺には前世の記憶があります」

「本当か? ためしに何か言ってくれ」

「いきなり言われても……。そうだ。魔法の火矢――」

「そうか! そうだな。オシナル。答えてくれ」



 ヘルスト様は嬉しさを隠し切れないように言ってくれた。


 だが、今更だがヘルスト様が前世の記憶と言うのを自身の妄想で言っている可能性に思いついた。

 この場合なら新型の魔法アイテムが開発されて――という答えが適切なのかもしれない。

 だが、俺は信じよう。いや、信じたい。同じモノを知る者同士だと信じたい。



「銃、ですか? 個人が携帯出来るのであればタンネンベルク・ガンか、よくてマッチロック式の火縄銃のような物かと」



 答えた後でヘルスト様は唖然と俺の顔を見ている。あれ? もしかして前世の記憶とはヘルスト様の妄想で新型の魔法だと言って欲しかったのか?



「そうだ! その通りだ。奴らは火縄銃のような銃で武装を始めているんだ。良かった。ここまでしておいて別の答えが来たらどうしようかと思っていたんだ。良かった」



 壁から離れたヘルスト様に危機は去ったと安堵のため息がもれた。

 そうか。この人も、なのか。



「最初は夢だと思ったんだ。だけどその記憶は夢のように風化しないし、日中でも関係なくふと、『思い出す』ように現れるんだ」

「……その時の現世と前世のギャップに戸惑いますよね」

「そうそう! 酷い時は頭痛で動けなくなるんだ」



 この人は頭痛なのか。


 俺も頭痛だったらどれだけ助かったものだろう。



「その服も前世の記憶を使ったのか? そういう服を着た人をドラマで見たことがある」



 ドラマ? あぁ。ドラマね。思い出した。

 そう言えばそんな単語もあったな。



「ま、まあ。そんな所です」

「そう改まるな。あ、もしかして前世でも貴族とかいたのか?」

「大昔に」

「クスクス。そうか。昔か。それじゃ同じ位の時代に生きていたのかな?」



 俺の答えが面白かったのかヘルスト様が小さく笑っている。

 貴族の娘と言うが、親しみを覚えるその笑みに俺も笑ってしまった。



「そう言えばすまないな。突然連れ出してしまって」

「いえ別に。俺も、この世界で始めて俺と同じモノを知っている方がいて嬉しかったです」

「ある意味で一人ぼっちだったからな」



 仲間なら居る。家族も居る。

 だが同じモノを知っている仲間が居なかった。

 それがここに居ると思うと安堵感のようなものが涌いてくる。



「オシナルは誰に仕えているのだ? 良かったらうちに来ないか?」

「え? それは……」

「同じモノを見れる仲間じゃないか。共にノルトランドのために――。いや。違うな。同じモノを知っているオシナルと共に居たいと思う。ノルトランドに来てくれ。父にもエイウェル様にも掛け合おう」



 この世界で同じモノを知り、同じ苦しみを理解しあえる存在が二人いるなら離れるより二人で居たいと思う。

 同じ仲間が居るのはそれだけで嬉しい。


 だが――。



「俺には出来ません。成すべき事があります」



 俺には自分の都合で生み出した銃がある。そして『亜人』と蔑まされた人々が居る。

 俺のせいで戦争に巻き込まれた人々が居る。その犠牲になった人も居る。

 それらを放り出すことは出来ない。

 いや、してはいけない。


 ノルトランド大公国でも東方解放に力を尽くすことは出来るだろう。

 だが、ケヒス姫様を置いてノルトランドに行くことはできない。

 俺がケヒス姫様の元を去ればあの冷血姫様は俺を裏切り者と言うだろう。そうなれば連隊の皆の命は無い。

 それどころか俺が――俺たちがしてきた努力をケヒス姫様は壊すだろう。

 俺は東方辺境領から出ることは、出来ない。



「お誘いは大変嬉しいです。ですが――」

「大公の娘の願い。いや、命令でもか?」

「命令でも俺は従えません。俺はヘルスト様に仕えているわけではありませんので」

「即答か。なら仕方ない」



 もう少し粘られるかもしれないと思っていたが、あっさりと引かれて少し拍子抜けした。



「人にはそれぞれの生きかたがある。否定は出来ないさ。この世ではそれがまかり通ることは無いが、前世では人の生き方は自由だったろ?」

「ありがとうございます」

「さあ。戻ろうか」



 ヘルスト様は眼鏡を押し上げて歩き出した。



「図上演習の後半戦が始まる。よかったらオシナルも参加してくれ」

「良いんですか?」



 満面な笑顔で言われて断れるはずも無い。後はなるようにになれ、だ。

 ヘルスト様の後に続いて俺は白軍のプレイヤーとして図上演習に参加する事になった。(いざこざはあったが、ヘルスト様の天の一声で収まった。さすが大公の娘)



「作戦はどうする? オシナルから言ってみてくれ」

「そう言われても……」



 図上演習初参加の俺に言われても……。



「軍略の基礎はわかるだろ?」



 同じ白軍の仲間に言われたが、この世界の軍略のぐの字も俺は理解していないぞ。

 俺が知っているのは銃を用いた集団戦術だし……。

 助けを求めてヘルスト様を見ると眼鏡の奥の瞳は俺の回答を待っていると言っている。


 さて。どうしたものか。



「とりあえず騎士を分散させて敵情を探りましょう。それまでは本陣を囲うように弓兵、敵が来ると思われる方角に歩兵で三つの方陣を作らせて警戒線を作りましょう」

「だが、騎兵は貴重な戦力だぞ? 分散して各個撃破されたらどうする? 温存すべきだ」



 論破されてしまった。

 だが騎兵の機動力を温存すると言うのももったいない。積極的に戦場を走らせるべきだ。



「いや。オシナルの作戦で行こう。敵情を掴んでからまた作戦を考えようではないか」

「……白軍の長はあなたですから従いましょう」



 渋々と引き下がる仲間は面白く無さそうだが、我慢して欲しい。

 作戦が決まり、各々が駒の動きを一つ一つ決めていく。それをメモ帳と思われる紙に記していく。



「よし行くぞ」



 ヘルスト様の掛け声で兵たちの行動表を決めた紙を審判に提出しに行った。



「それでは後半戦第一ターンを始めます。第一ターンの結果は白軍――」



 次々と駒の動きが宣言されて行き、従者と思われる人々がせわしなく駒を動かしていく。

 もちろん敵の駒も目にすることが出来るから敵の動きに合わせて行動できるから本当の戦場における伏兵という存在が仕えないのは痛い。

 出来ることならこちらの戦力は隠して敵の戦力を丸見えにしたい。

 連隊で実施する時はこの部分を改良しなければならないだろう。



「以上。これより両軍は第二ターンの準備に取り掛かってください。なお制限時間はこの砂時計の砂が全て下に落ちるまで。それでは始め」



 丸見えであれば騎士を分散させて偵察を行わせる必要は無かったか? いや。騎馬戦力には偵察以外の仕事もある。



「で、騎士を偵察させたが、どうするオシナル殿」

「す、すいません。図上演習は初めてのもので」

「確かにオシナルは図上演習初心者だ。騎士を集結させて歩兵を前進させよう」

「……あの。騎士と歩兵が戦った時の結果ってどうなるんですか?」

「歩兵の数にもよるが、基本的に騎士の駒一つに対して歩兵は三つの駒で同じ戦力になる」



 盤上でも騎士の強さは折り紙つきか。

 なら騎士を集結させる必要は無いな。



「では騎兵の機動力を使って歩兵に小規模攻撃をかけましょう」

「囲まれれば騎士の駒を失うぞ。それに敵の騎士もいる」

「いえ、攻撃したら直ぐに逃げましょう。各戦線で騎士を遊撃させて敵に一太刀浴びせたら逃げる。敵の騎士の駒も俺たちの騎士の駒も進める範囲は同じですから追いつかれることは有りません」

「それでも敵が追ってきたらどうする?」

「その時は歩兵で包囲して弓兵で攻撃すれば良いでしょう」



 敵が騎士の追撃をするならするで良いし、追撃を諦めるならそれで良い。

 ただ敵に細々とした攻撃を与えて戦力をすりつぶしてから決戦に持ち込みたい。



「ではオシナル軍師殿に異論がある者は? ……おらぬな。では駒の動きを――」



 細々とした駒の動きを決めて審判の元にその結果を報告する。

 この繰り返しで最終的に敵の本陣を落とせば勝ちか。

 もしくは互いに戦闘を続行できなくなるほど戦力が消耗すれば引き分け。


 士官の部隊運用を盤上で再現させるにはちょうど良いな。

 やはり連隊に持ち帰ろう。

 ん? 何かを忘れている気がするが、なんだったか。


 それより次の作戦を考えなければならない。さて、どうしたものか。



8月12日時点でPVが10万アクセスを超えました。

これも読者の皆様のおかげです。


これからもよろしくお願いします。

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