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銃火のオシナー  作者: べりや
終章 東方大演習
111/126

前夜 【ユッタ・モニカ】【オシナー】

 クワヴァラードの城門が閉ざされた。

 それはタウキナ連隊に対してだけでは無く、近衛連隊をもクワヴァラードから締め出されしまった。

 王の兵である近衛の入城を拒否すると言う事が王への叛乱を意味する事に他ならないと分かった上での行動――即ち自身が叛乱の首謀者である事を殿下は現された。


 その締め出された近衛連隊は態度を明確にせず、ただ現王様の捜索を行っていると言う……。

 見慣れた連隊の兵営の歩哨所から見える近衛連隊の宿営地に目をやってから、わたしは兵営に足を向けた。

 その途中、営庭に作られたホルーマ第三連隊の野営地を通り、そして兵営にたどり着いた。

 その一室はまだランプの明かりが揺れ、苦痛に歪んだ部下達を照らし出す。



「ち、中佐……」

「静かに。安静にしていて」



 起きあがろうとする兵の腕をとってベッドに寝かす。

 彼らの傍らに寄り添っている魔法使いの疲れた顔が目に入った。



「あの、パウラ兵長の容態は?」

「……大丈夫。安定しました」



 軍使としてタウキナの防御陣地に向かうと言った彼女を、引き留めておけば良かった。

 何度後悔したろう。やはりわたしが行くべきだったのだ。



「運よく弾丸は肉しか傷つけておりませんでした。これが(はらわた)であれば、助からなかったでしょう」

「ありがとうございます……」



 思わず安堵が吐き出される。

 だが、それでもあの銃撃でモニカ支隊から三名の死者と五名の重軽傷者を出した。



「私のような、治癒の魔法を使える魔法使いがもう少し居れば、助かる命もあったろうと思うと、残念です」

「いえ、おかげで貴方のおかげで助かる命もあります。お気を落とさないでください」



 傷による熱に浮かされる部下達の額に乗った布を手に取り、熱くなったそれを水で冷ます。



「代わりましょう。貴女こそ、疲れておいででしょう」

「いえ、今のわたしに出来ることは、これくらいなので」



 ある意味で、油断していた。非武装を示すために両手をあげていれば撃たれないと思っていた。塹壕にタウキナの軍旗が翻っていたから、アウレーネ様の兵ならすぐには撃つまいとスキがあった。

 そのせいで――。



「隊長……」

「――どうしました?」



 汗を拭っていると、うなされるように言葉が紡がれた。



「我々の潔白は、示されましたか?」

「えぇ。タウキナ大公殿下は、わたし達の無実を認めてくれました」



 「良かった……」と言うなり、その兵は急に眠りの世界に落ちていった。

 みんな、消耗している。

 そう思いながら冷たい布を額に置いた。



「失礼します。中佐殿。大公殿下がお呼びでありあす」



 扉に視線を向けると、タウキナ連隊を表す赤いズボンに青い詰め襟軍服の兵士が立っていた。

 ふと、魔法使いの方に視線を向けると「お任せください」と言ってくれた。

 自分の部下が苦しんでいるのを助けたいとは思いつつ、それでもこの呼び出しを断るわけにはいかない。



「申し訳ありません。大公殿下とのお話間が済み次第、すぐに戻ります」

「……貴女も休まなければ倒れてしまいますよ。医術を納める者として忠告させていただきますが、本当なら殿下との会談も明日にして、今宵は休んで欲しい所です」



 それに曖昧に答え、わたしはアウレーネ様の下に向かう。

 暗い廊下を進み、司令部となっている連隊本部棟に行くと、そこだけ慌ただしい空気が漂っていた。



「ユッタ・モニカ中佐です」

「遅いでは無いか!」

「止しなさい。モニカ中佐、こちらへ」



 幕僚を押し留めたアウレーネ様に一礼してその近くに近づく。



「これは、東方辺境領の地図?」

「今後の策を練ろうと思いまして、お呼び致しました」



 その時、紫煙の臭いを感じた。

 部屋のすみに居たスピノラさんが「失礼」と言いながら大きな煙を吐き出す。



「今後の策ですが、作戦方針としては二つ。

 一つは総退却でさぁ。冷血姫が先手を取ってホルーマ第二連隊を掌握すればこれと事を構える必要が出てきます。いくら二個連隊の戦力があってもクワヴァラード第一連隊とホルーマとで挟撃されちゃ、かないません。何より態度を明らかにしていない近衛連隊がやっかいです」

「今日の事を、タウキナとモニカ支隊との自作自演と思われる可能性がある、と言うことでしょうか」



 「その通り」スピノラさんはため息に似た煙を吐き出す。

 自作自演と思われる可能性は低いとは思うが、作戦を考える上でこのような不確定要素があるのは不安以外の何者でもない。



「スピノラさん。それで、もう一つは?」

「ホルーマ第二連隊を冷血姫が引き込む前に、こちらに引き込み、第二連隊を警戒していたタウキナ連隊を増援として東方に呼び込んで一気に近衛及び東方第一連隊を強襲する案です」

「第一連隊と一戦交えるつもりですか!? それに、近衛連隊とも――」

「近衛に手を挙げるは避けたい所です。ただ、どう動くのか分からない奴らを警戒しなきゃならんでしょう。本格的な戦闘では無く包囲くらいは行いたい所ですな」



 近衛連隊とは王の軍隊。それに手を挙げたとなれば国賊と断じられても仕方がない。だが、こちらの敵となるようであるなら戦わなくてはならない。みすみす、部下達を死なせる訳には行かない。


 だが、それよりも、せっかく東方が解放されたのに、今度は東方の諸族に銃口を向けなければならないのか――!?

 多くの血を流して手に入れた自由の果てに、東方諸族で殺しあえと言うのか――!?



「スピノラさん、東方連隊相撃ちは容認出来ません」

「それじゃ、撤退しかありません。で、それで殿下のお考えをお聞かせ願いたいものなのですが」



 スピノラさんの大仰な態度にアウレーネ様は静かに目をつぶって思案していたが、「ホルーマ第二連隊の説得は確実に出来るのですか?」と問われた。



「あそこの連隊長は傭兵時代の腹心がやってまさぁ。冷血姫が命令書を勅として出さない限り必ず説き伏せてご覧に入れます」

「では、その方向で行きましょう」

「ですが――!?」



 ですが――。

 反論が出る前にこのまま逃げ出せば、この反乱の首謀者である東方辺境姫殿下の思惑通りになってしまう。

 きっと、あの人はこの反乱で王位に着くつもりのはずだ。

 なら、東方から出て王都でも旗揚げをするだろう。

 それを阻止するには、クワヴァラードに立てこもる第一連隊と一戦交えてでも、それを止めなくてはならない。



「どうしました、中佐?」

「いえ、なんでもありません。ただ、近衛連隊は――?」

「失礼します! 火急の用件によりご無礼つかまつる!! 近衛連隊より使者が参られました!」



 「噂をすれば――、とは上手く言ったもんですな」とスピノラさんはタバコの火を消した。



「失礼します。近衛連隊連隊長のポン・シュタット辺境伯――失礼、公爵です。大公殿下。お目通りが叶い、恐悦至極に存じます」

「シュタット公。どうされました?」



 まだ若い――そんな印象を受ける壮年の公爵は恭しく礼を行う。

 一度、王都に行った時に近衛連隊の視察も行ったが、その時の連隊長はオシナーさんだったから、この人はその後任だろう。



「まず、陛下の捜索ですが、難航しております。河は急流であり、我らは土地に慣れぬ者ですので、依然、捜索中です。この非力をなんとお詫びしたら良いか……」

「我々も陛下の身を案じておりますが――。いえ、時間もそうありません。

 シュタット公を見込んでお願い申しあげます。我々と共に現王様に手を挙げたお姉さまを止めてください」

「……確かに、わたくしは殿下が王族であられる時は、殿下をお支えしてまいりました」



 アウレーネ様の口調から二人が浅からぬ縁を持っていると思えた。確か、アウレーネ様の出生を巡って派閥があったのだったか。だが、その派閥もアウレーネ様がタウキナ大公家の養子となった事で有耶無耶になったとオシナーさんから聞いた事がある。



「ですから殿下。殿下の復権をお誓いくださるのなら、わたくしは一族を率いて冷血姫の討伐を行いましょう」

「……復権?」

「この場をいち早く制し、次王として即位して頂きたい」



 その言葉にアウレーネ様はこぼれそうなほど目を見開く。

 スピノラさんもわたしも部外者ではあるが、あいた口が塞がらないでいた。



「お、お父様は生きておられます。それなに、即位だなんて――」

「陛下のご生存が絶望的である事に違いはありますまい。

 我らが望は殿下の治世にございます。我らは殿下が王族で在られた時から殿下を信奉し、殿下の手に王権が握られる日を待ち望んでおりました。

 これは、好機にございます! 第一王子エイウェル様は先の西方戦役で失策されました。

 その上、現王陛下に牙向いた冷血姫を討ったとなれば、いくらタウキナ大公の養子であっても即位するにふさわしい功績でしょう! 我々は殿下の血を信じておるのです。

 故に、故に殿下が王権を打ち立てるのなら、我が近衛第一連隊は近衛の名の通り、王の先兵として東方亜人と共同しましょう」



 ここに来ても政治なのか。

 熱のこもった言葉だが、薄ら寒く感じた。それはアウレーネ様の復権では無く自身の復権ではないだろうかと思ってしまう。

 それはスピノラさんも同じだったらしく、先ほど消したタバコに再び火をつける所だった。



「シュタット公。私はタウキナの王です」

「重々承知しております」

「私は父上と縁を切り、その上でタウキナの王となったのですよ」

「その上でお頼み申し上げます」



 アウレーネ様はただ、黙って地図に視線を落とし、ふと「オシナー様だったら、なんと言ってくださるのか……」と呟かれた。

 あの人ならきっと――。



「政治は分からない」



 わたしの言葉にアウレーネ様は顔をあげられ、スピノラさんはタバコにむせた。

 そんな驚かなくても……。



「ふふ。そうですね。オシナー様は政治がお嫌いでしたね」

「で、殿下!?」

「シュタット公。私はもう、政治の道具ではありません。私は、いえ、私こそタウキナの王です。ケプカルトではありません」

「……左様にございますか」



 やれやれ、と言った風にため息をつく公爵は「貧乏くじを引いてしまったようですな」とこぼした。



「分かりきっていた事でしょう。私などが王権を継げるわけありません。そもそも王位継承権も兄妹の中でもっとも下位なのですから」

「それでもわたくし共は殿下に賭けていたのです。もっとも、わたくしの行いはただの悪あがきのそれでしたが……。

 さて、では確かめたい事なのですが、この反乱を起こしたのは東方辺境姫殿下で間違いないのですか? モニカ支隊の無実が晴れたと言うのも真にございますか?」



 「事実です」との言葉の下、事の次第が司令部に響いた。

 「なんと言う事だ」と力無く椅子に座り込むシュタット公は大きなため息をつく。



「分かりました。わたくしは殿下の言葉を信じましょう。近衛第一連隊は殿下に微力ながら加勢いたします」

「よろしくお願いします。集まった戦力はこれで三個連隊……。臨時の旅団司令部を設置したいのですが――」

「旅団長は殿下がよろしいかと」



 その後、旅団司令部に関してどのように幕僚を選出するか短いやりとりの後に決定された。



「では、今宵もふけることですし、わたくしは一度、陣に戻りたいと思います」

「分かりました。ではシュタット公、よろしくお願いいたします」

「御意にございます。……しかし、攻城戦の備えが気になりますな」



 包囲をすると言っても砲兵火力が足らない。

 そもそも集結した三個連隊のうち、まともな砲兵戦力を持っているのはホルーマ第三連隊だけだ。その他の連隊は儀典用であり、砲兵が伴っていない。



「開城交渉も長期化するでしょう。ならば、オシナー殿には申し訳ない事を……」

「え? オシナーさんが、どうしたんですか?」



 「耳に入ってませんでしたか」とどこか哀れむような色が見えた。

 胸のうちが絞まるような心細さがわたしを襲う。



「オシナー殿はこの反乱の首謀者として、明日、処刑される事になっております」



 目の前が真っ白になりそうだった。



   ◇ ◇ ◇



 目覚めは最悪だったが、懐かしかった。

 あの日、ケヒス姫様によって捕らえられた牢屋。



「くそ……」



 思わずついた悪態が小さく響き、それと同時にコツコツと硬質な足音が聞こえた。

 見張りの元騎士だ。

 だが、彼は軍服では無く、鎧を着込んでいる。

 すべて、俺がした事すべてが無駄だったのか。

 あの西方での一件は幻だったのか。

 それを見抜けなかった事が、腹立たしかった。


 だが、それと同時にこれからどうなるのだろうと言う不安が鎌首をもたげた。

 処刑、されるのか……。

 また死ぬのか。今回は天寿をまっとうしようと手銃を作ったのに、それが原因でこうして処刑を待つ身になるとは思わなかった。



「起きているようだな」



 その声に顔をあげると、無表情の騎士がそこに居た。

 一瞬、それがヨスズンさんのように思えたが、違う。ヘイムリヤ・バアル様だ。



「出ろ。時間だ」



 見張りの騎士が鉄格子に鍵を差し込み、重い金属音が響いた。

 それと同時に檻に向かって体当たりをし、見張りを倒そうとしたが、騎士に押しとどめられてしまう。



「暴れるな。手荒な事はしたくない」

「なにが手荒だ! こんな反乱、すぐに鎮圧されるぞ。証拠品だってねつ造品だろ!

 あの証拠と言う回転式拳銃、あれは偽物だ! 試作品だから形しか模倣できなかったようだが、調べればすぐに分かる事だ。

 それに俺の持っていた回転式拳銃とすり替えても、あれには一点物の装飾が施されている。

 どちらにしろ、どちらが反乱軍なのかすぐに分かるぞ!」



 回転式拳銃は複数の銃身を束ねているせいで太い。

 形だけなら、コレットの持っていた試作の騎兵銃――太い銃身を持ち、ラッパのような銃口がついている物を加工すれば形は整えられる。

 試作品だから形さえ似ていれば王都の兵をだませるだろう。



「そんな小規模な反乱だと思うか?」

「…………。まさか」

「そのまさかだ」



 そう言うなり、バアル様は見張りに騎士に合図を送る。すると、彼は俺の手を後ろ手に縛り、目隠しをする。



「この通路、一度通っているから目隠しなんて――」

「この通路を通って殿下がクワヴァラードを脱出されるからな」



 その言葉に見張りの騎士が声をあげる。

 なにを、言っているだ?



「殿下はクワヴァラードを出て王都で即位される」

「そんな事、言って良いんですか?」



 バアル様はそれに答える事無く、俺の背中を小突いた。

 そしてあの日のようにヨタヨタと進むと、目隠しが取られる。



「闘技場で、いったいなにを?」

「これから処刑と言うのに落ち着いているな」



 また、俺の質問に対して答えなかったが、それでも関心したように頷きながら腰の剣を抜く。



「これは餞別だ」



 剣を引き抜くと同時に、その腰に吊られていた短剣を抜いて俺に柄を向けた。



「……既視感を感じます」

「そう取りはからうよう仰せつかった」



 悪趣味だ。

 このまま短剣を受け取り、不意打ちでバアル様に突き立てるか?

 いや、見張りの騎士も居るし、なにより剣術なんてかじったこともない俺がバアル様に不意打ちでも勝てる未来が見えなかった。



「この反乱、第一連隊はどこまで噛んでいるんですか?」

「そうだな……」



 バアル様はチラリと見張りを一別した。「冥土の土産に教えてやる」



「元東方辺境騎士団のみだ。後は偽の命令書で動いている。

 連隊が血筋では無く、階級に従う組織であったために掌握はたやすかった」



 そうか。それで俺は王都に行かされていたのか。

 俺が東方に居れば騎士団が連隊を乗っ取るような人事なんか絶対にしないからな。

 俺の目を東方に向けさせないように王都行きを認めていたって事は、あの人はいつからこの反乱を計画していたんだ?



「長い三年であった。連隊を手にし、各国と足並みをそろえるのにも苦労した」

「それじゃ、それじゃ、東方諸族と騎士団の融和もこの日のためだったんですか!? 共に戦った事も、演技だったのですか――!?」

「違う! それは断じて違う!!」



 思わぬ強い言葉に俺も見張りも口をつぐんだ。

 そして「コレット達が戦友である事に、違いは無い」とだけ言われた。



「貴方は、その信頼を裏切っているんじゃないんですか? 復讐のために連隊を操って、裏切って……。

 その戦友を裏切っているじゃないですか!?」

「……そうだな。だが、我らの忠は殿下にのみ尽くされる」



 それだけ言うと、バアル様は「行け」と俺に剣を向けた。

 悔しいが、どうしようもない。

 死への階段を上ると、あの闘技場に出た。崩れかけたコロッセオのようなそこに多くの騎士達がつめかけている。



「待ちくたびれたぞ」



 冷たい言葉が俺に投げかけられた。


永らくお待たせしました。これからオシナー君の救出劇になります。



ここで没プロットの公開

オシナー救出のため、ユッタが螺旋式小銃を肩に担いで\デェェェン/と登場。

擲弾で街を爆破しながらオシナーを探す。

最終的に冷血姫とナイフで闘い、最後は幸せな蒸気抜きをしてend



ヘルスト「まだ誰か残っているか?」

ユッタ「死体だけです」

ヘルスト 「もう一度モニカ支隊を編成したい。君 さえ戻ってくれれば」

ユッタ「今日が最後です」




アルコールを入れて考えるもんじゃないww


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