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銃火のオシナー  作者: べりや
終章 東方大演習
109/126

ユッタ、捕らえられる【ユッタ・モニカ】【ケヒス・クワバトラ】

 現王様に反逆したモニカ支隊の支隊長がホルーマ第三連隊によって捕まえられた。

 その報は風のように東方中に伝わり、東方戒厳司令部と呼び名を変えた東方辺境領の総督府にも吹き荒れた。

そして東方辺境姫より「護送するための部隊を送る故、待機せよ」との命がすぐに出たが、その命令が発せられたのと時を同じくしてわたしはホルーマを出てクワヴァラードに向かう道中に居た。



「今更なんですがね、良いんですかい?」

「わたしの作戦ですから、責はわたしが取ります……。と、言いたい所ですが――」



 今のわたしに責任を取るだけの力は無かった。

 まぁ、今乗せられている馬車が未だ改造されずに残されていた奴隷馬車に乗っている時点でそこらへんはお察しのような向きもあるのだが……。

 それよりも馬車後方には鉄の格子が取り付けられ、びゅうびゅうと冷たい風が吹き込んできて寒くて仕方ない。

 一応、外套を体に巻き付けているのだが、まだまだ春は遠そうだ。



「ハッキリ言いますがね、この作戦、穴だらけですぜ」

「そこは部下を信頼しているので、大丈夫なはずです。それにいざとなれば脱出させてもらいますので」



 御者台に座るスピノラさんが大きなため息をつく。

 まぁ、この作戦を話した段階では、わたしが逃げ出す事は伏せていたのだが――。



「それよりも、この馬車の派手な落書きのせいで作戦がパァになる事はないんですかい? 嫌ですぜ。突然、奴らと一戦するなんて。もっと綺麗に書いたらどうです?」

「そ、それは……! 物を書くのは苦手なんですよ。それに、これくらいならちゃんと分かってもらえますから!」



 やれやれ、とこれ見よがしに溜息をつかれたが、もう作戦は発令しているのだ。

 後は木と風の神様を信じ、祈るのみ。



「まぁ、こっちは撃たれなければ万々歳。ですがね、その檻から出る事は出来ませんぜ?」

「もしかして開けてくれないんですか?」

「……まさかそれを宛にこの作戦立案したんですかい――?」

「ははは。まさか。逃げ出すのは最後の最後の時ですよ。わたしの部下はどの部隊より優秀であると思っていますから、そもそも失敗の時はあまり考えていません。それに、失敗したらそれこそ全てが終わりなので」



 ジトとした視線を受けたが、わたしはそれを無視して格子の外に広がる部隊に意識を向けた。

 馬車を囲むように一個歩兵小隊と騎兵二個班。

 その全員が怯えるように周囲を警戒しながら進む。そのせいか、通常の行軍速度の半分も出ていないだろう。

 そのとき、エルフの中尉が馬車に走りよってきた。



「准将! 斥候が何か発見したようです!!」

「分かった少尉。全隊止まれ! 周辺警戒!!」



 ギシリと嫌な音を立てて馬車が停車する。小さなのぞき窓から外を伺うと、前方に土煙が上がっていた。



「ありゃ、馬だな。おそらく、東方第一連隊ってとこですかい」



 スピノラさんの言葉に思わず身が固くなった。

 予想より展開が早い。



「スピノラさん……!」

「まぁ、そうなりますな。周辺の村々にエルフの嬢ちゃんを捕まえたって噂話を流して、クワヴァラードまで護送するなんて話を流し続けたんです」



 確かに、それだけ噂話を流せばクワヴァラードからも騎兵がやってくると言うものか。



「相手はケンタウロスでしょうか? それなら、まだ話せると思うのですが……」

「……。残念ながら、人間のようですな」



 雑納から取り出した遠眼鏡を構えたスピノラさんは苦笑を浮かべて言った。



「後は運を天に任せましょうや。嬢ちゃんの信仰心がありゃ、こんな局面乗り切れるでしょう」



 運任せの作戦なんてオシナーさんは認めないだろうな、と思うと思わず笑みが漏れてしまった。

 だが、わたしは信じている。



「第三連隊の者と見るが、如何か!?」

「こちらはホルーマ第三連隊、連隊長のアンブロジノ・スピノラ准将だ。貴方は?」

「こちらはクワヴァラード第一連隊第一騎兵大隊長ヘイムリヤ・バアル中佐である」



 よりにもよってバアル上級中佐か……。

 近頃はその性格が丸くなってきているようだったが、わたしはこの人が苦手で仕方なかった。きっとセイケウ会戦でのあの出来事が忘れられないから、ずっと苦手意識を持っているのだろう。



「第三王姫殿下の命で参った。我々は殿下よりモニカ支隊支隊長であるユッタ・モニカ少佐の身柄を第三連隊より預かるよう命じられている。これが命令書だ」

「拝見しても?」



 二人のやりとりに喉がひりついてきた。それにしても殿下の動きが早い。

 このままバアル様達とクワヴァラードまで行っても良いのだが、もしかすると道中でわたしを殺して口封じ――。そんな未来が見えた。



「バアル殿。この命令書なんですがね、おかしくありませんかい?」

「……どこがおかしいと言うのだ。それは殿下より直接受領した物だぞ」

「いやね。第三連隊より罪人ユッタ・モニカ中佐の身柄を引き渡してクワヴァラードに移送するようにって、我々第三連隊の護送部隊はどうするんですかい?」

「それは元々、我々が第三連隊に向かうまで待機しているようそこに書いてあるでしょう。

 後は我々がやるので罪人の身柄を引き渡してください」

「いやいや。バアル殿。我々もここまで出張って来たんですぜ。それを無碍にされちゃ兵達に示しがつきません。

 指揮官にとって威厳が無くなりゃ、それはこの連隊制の崩壊を――」



 あーでもない、こーでもない。のらりくらりとした問答に段々とバアル様が声を荒げて行くが、スピノラさんはタバコを吹かしながら世間話をするように応答している。

 それに痺れを切らしたのはバアル様では無く、エルフの中尉だった。



「准将、あの、議論をされるのでしたら馬車の陰に――」

「ん? まぁ、そうだな」

「――? どういう事で――」



 その時、数発の銃声が響いた。それと同時にバアル様と共に居た騎士の馬から血が噴き出て、スピノラさんが倒れる。



「敵襲!!」



 始まった! そう思った途端、近くで擲弾の爆発が起こる。



「攻撃やめ! 攻撃やめ!!」



 小さな窓から手を振って攻撃を止めさせようとするが、それでも数発の銃声がする。



「開けてください!! 早く!」

「今開けます!!」



 エルフの中尉が背後の扉に向かい、鍵が開けられる。



「おい、なにを勝手な事を!!」



 バアル様の怒鳴り声。だが、それを無視して森に手を振る。

 それを合図に攻撃が止んだ。



「どう、なっている?」



 自身の馬を馬車の陰に隠したバアル様がつぶやく。その意見に多くの兵がそう思ったろう。



「モニカ支隊、集結! 集結!!」



 しばらく、迷うような逡巡を伴う沈黙の後、彼らは森から生まれるように姿を現した。

 はぐれていたモニカ支隊だ。



「えと、この中で階級が高いものは……。少尉」

「ハッ!」

「見たところ十人しか居ないようですが、残りは?」



 躊躇いながらも少尉は「森に五人」と答えてくれた。

 どうやら、賭に勝った。



「総員を集めて」

「しかし!!」

「貴方は西方戦役に従軍したエルフでしょう。馬車に書かれた文字が読めなかったとは言わせません。それに、わたし達の無実を証明するためです」



 少尉はチラリと馬車の陰にいるバアル様と、馬車に書かれた模様――エルファイエル文字を見て、それから「総員集結」と命令を出してくれた。そうして、モニカ支隊が集結を完了した。



「総員、回転式拳銃を出して」



 すると、各員がそれぞれに回転式拳銃を持ち出した。



「予めスピノラさんに渡していた回転式拳銃は十五丁。そしてここに十五丁がそろいました。バアル様。我々は総員が回転式拳銃を所持しているのに、陛下を襲った賊の砲兵陣地に回転式拳銃が残されていたんですよね?」



 苦虫をつぶしたような顔をしていたバアル様は、何も言わずに馬に飛び乗ると、疾風のように駆けだした。



「捕まえて!」

「いや、あれは無理ですぜ」



 御者台から起きあがったスピノラさんは「おい、連隊本部に作戦発令を伝えろ」とだけ言った。



「でも、ヒヤっとしましたぜ。危うく、同士討ちになるかと」



 『モニカ支隊の無実を晴らすための作戦』そう、書かれた馬車の側面には第三連隊の兵士を撃たない旨書かれていた。



「さて、馬車を回頭させましょう。急がないと周辺の騎兵大隊が集結して俺たちの口封じに来るはずでさぁ」

「えぇ、誰か伝令をしてモニカ支隊を集結させたいのだけれど――」



 そうしてわたし達は元来た道を帰る事になった。

 後はオシナーさんを助け、この反乱の真の首謀者である殿下を捕らえなくては。





「失敗したか」

「申し訳ありません……」



 亜人の護送――と言う名の処刑人を送ったが、モニカ支隊の逆襲で一人は返り討ちにあってしまったか。



「仕方がない。まぁ、いずれ余が反乱の首謀者である事が知れる。故にこれからだ」

「殿下……。畏れながら申し上げますが――」

「バアル。今は余を信じよ。以前、ヨスズンに諭されて反乱を取りやめた事があと言う話しは知っておろう?

 あれは余の準備不足――場当たり的な計画であったからヨスズンは止めたのだ。

 だが、此度は違うぞ、万全の準備が整っておる」



 それに動き出した歯車を止める事は出来ない。

 後は行くところまで突き進むのみ。



「余は牢屋を見に行く。バアルは後の準備を進めておくように」

「御意に」



 謁見の間を後に総督府の地下に向かうと、どこからともなくポタポタと水の滴る地下牢に響いていた。

 ゆらゆらと光を生み出す松明の脇にいる牢屋番に軽く手を挙げて退出させると、牢の片隅にうずくまる影を見つけた。



「気分はどうだ?」

「…………」



 無言か。だが、それでも影の奥から白い眼光だけがギラギラとしているのが見えた。良い面構えだ。余の好みに値する。婿に迎えても良いかもしれないと思えるほど気分が昂ぶっているため、思わず口が要らない事を言った。



「お前の贔屓するエルフに逃げられた。そのせいで多少の誤差が生まれたがまだ修正できる範疇だ。いずれ、あのエルフも地獄に送ってやろう」



 ガサリと湿った藁の布団の上に身じろぎが起きる。

 なんと心地良い殺気だ。思わず口元がニヤケてしまう。



「ユッタを、他の皆をどうするつもりだ? なんのために――」

「復讐だ」



 せっかくだ。一時とは言え、余の筆頭従者を勤め、そして余が目をかけた臣だ。

 それくらいは教えてやろう。



「父上を廃した現王と宰相を、騎士団を奪った亜人を殺す。余から奴らが奪うのなら、余もまた奴らから奪う」

「あの時、西方で許すと言ったではありませんか!? あれは偽りだったのですか!」

「そうだ」



 オシナーが息を飲む。今度は滑稽な面だな。

 まぁ、それはそれで愛らしい。



「余は学んだ。強権だけの指導力では臣は付いてこないと、な。

 一人よがりの政策では民は付いてこない。故に飴が居る事を学んだ。

 すべて、うぬから学んだ。

 ベスウスとの戦でそれに気づき、西方での戦でそれは確信へと変わった。

 そうして三年だ。この三年をかけて余の願いは成就する」



 西方戦役で騎士団と亜人の協同が行える事を知り、それには互いの譲歩が不可欠であると結論した。

 その結論はオシナーの提唱したナザレの占領政策で確固たる物となった。


 故に考えた。

 オシナーの持つ連隊を十全に従えさせるにはどうすれば良いか、と。

 答えは簡単だ。オシナーを取り込み、そこから騎士団を連隊にねじ込めば良いのだ。

 騎士団を士官として入隊させるなど――それも憎い亜人部隊に編入させるなど(はらわた)が煮えくり返る思いだった。


 だが、余はそれをした。どんなに憎もうともそれをした。それが万感成就に繋がるからそうした。

 後は邪魔になったオシナーを王都に送り、着々と連隊の戦力を手中に納めつつ、余に同調する諸侯に甘言を与えて取り組むだけ。



「嘘、だったのですか――?」

「方便とも言うぞ? く、フハハ。それも全てこの日のためだ」

「……たとえ、現王様達を廃した所でその背後に続く者が居なければただの反乱だ。

 それに、あんたは第三王姫――継承権を考えればあんたに王位は回ってこない。それとも、こんな不毛な事をあと二回も繰り返すのか?」



 王族に連なる余を『あんた』呼ばわりか。ますます気に入った。やはり余はオシナーを拾って良かった。あの時の判断は間違って居なかった。



「西方戦役の失敗でエイウェル兄様の求心力は無いに等しい。故に、あとはベスウスに籠もるシブウス兄様だけだ」

「それでも、状況に変わりはない」

「なら、正々堂々と戦えば良い」



 オシナーの顔に疑問が浮かぶ。何を言っているんだ? と問うている。突然察しが悪くなる所は好かぬな。



「なに、簡単な話だ。王位を巡って王権の継承者が戦をする事など珍しくもあるまい。

 まさかとは思うが全ての国が現王の政策に諸手を上げていたとでも思っているのか?

 うぬの軍制改革が手こずったのも、螺旋式小銃の配備が否決されたのも貴族はそれを求めなかったからだ。

 それだけでは無い。民さえも現王の東方政策に疑問を持っている。余はそれを取りまとめ、父上を無き者にした現王の一派に復讐を果たし、父上の無念を晴らす。

 そうして余は父上のような王となるのだ。もっとも、余の即位をうぬは見る事が無いだろう」



 反逆者をとっとと亡きものにしてその大戦の準備をしなくてはならない。



「うぬとの分かれはちと寂しい。だが、その程度だ。世話になったな」

「……狂っている」



 ん? 



「狂っている。そんな復讐のために生きてきて、駒のように部下を使って……。狂っている」

「おかしな事を言う。作戦を決める時、うぬも駒を使うだろう?」



 ガシリとオシナーが鉄格子を掴んだ。その音に牢屋番が近づく気配があったが、それもまた手を挙げて制した。



「兵とは駒であり、消耗品だ。それがうぬの考えた戦術であろう?」

「違う!」

「違わぬ。火器とは素晴らしい。撃ち方さえ教えてやれば敵を殺してくれるのだ。

 それが騎士ならどうだ? 一人の騎士を育てる時間と手間がどれほどかかると思う?

 対して民を全て戦力に帰られる。誰でも扱え、誰でも殺せる。

 うぬは覚えているか? うぬを余の従者に任命したあの日、うぬは『誰でもすぐにコレを扱えるようになります』と言っておったな。

 戦は変わる。これからはより多くの鉄と火薬、そして民をそろえた国が勝敗を分かつ戦がやってくる。

 父上の目指した民の軍。西方で威力を発揮していた火の呪法。その二つの融合こそうぬの考えた連隊だ」



 それでも違う、違うとぶつぶつと呪詛を吐いていたが、それでも違いはしないのだ。

 駒のように消耗出来る戦が出来る。

 この意味を真に理解している者がどれほどケプカルトにいるか。



「感謝しておるぞ。うぬのおかげで余の願いが叶う。

 故に、うぬの処刑には一工夫してやろう。首を洗って待っているが良い。く、フハハ!!」



 きびすを返して地上に向かう階段に足をかけたとき、背後から獣を思わせる慟哭が響いた。


エクストリームハッピー状態のケヒス姫様である。



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