クワヴァラード掃討戦 【ケヒス・クワバトラ】
八年前。この地は亜人の朽ちた都だった。
それが父上――クワバトラ三世の親征を受けて無名の都はクワヴァラードと名を与えられた。
その後は西方政策重視からほぼ野放しとなっていたが、こうしてここに帰ってくるとは思わなかった。
「入城は果たせたが……。さて、状況はどうなっている?」
敵はその殆どか有象無象であった。
だが、それでも反発はある。
今はクワヴァラードの中心地に近いところにある闘技場跡地のような場所に本陣を置いているが、先ほどまでこの近辺に敵が迫っていた。
「それが、敵は――亜人は我らに恭順の意をしめしたと思えば、すぐに敵兵と姿を変えます」
報告をしてくれたガウェインは疲れたような顔をしてため息をついた。
「どういう事だ?」
「昼は友好的に、夜は敵対して来るのです。民だと思っていた亜人が急に牙を向く。卑劣極まりない戦いを亜人はしてきます」
なんだ、その戦い方は? 兵がその身を民に偽装していると言うのか。
やっかいだな。
そもそも、そのような軍民一体の戦など聞いたことも無いし、戦術の叢書にも載っていなかった。
そんな戦場――いや、戦場と呼べるかすら、分からないが――で、どうすれば勝利を得られるのか?
「姫様……」
音もなく背後に立ったヨスズンに「急に現れるな」と言いながら振り返る。
その背後にはタバコをくゆらす、見てからに傭兵然とした男が居た。
「なんだ、その者は?」
「タボール傭兵団の――」
「アンブロジオ・スピノラと申します。殿下。お目通りをお許しくだせぇ」
軽薄。第一印象を上げるならそれだった。
それにタバコの臭いが鼻につく。そもそもお目通りも、すでに眼前に居るではないか。
「それで、何ようだ? すでに傭兵団との契約は済ませたはずだ。賃金についても――」
「いえ、金の話ではありません。この戦について、です」
不信の感情を出きるだけ押さえながらスピノラの全身を眺める。
中肉中背。体格的に強者を感じさせる事は無かったが、それでも幾多の戦場を駆けてきたと言う雰囲気だけは確かに感じた。
「なんだ?」
「地図を出して頂いてもよろしいですかい?」
顎で本陣の中央に置かれたテーブルを指す。
そこに乗ったクワヴァラードの概略図と東方辺境領の地図。
スピノラはクワヴァラードの概略図を手にすると、「これに線を引きましょう」と言った。
「縦と横に線を入れてマスを作ります。
それで、我らに手向かった地域を明確かさせると言うのはどうですかい? 王都じゃ、盤上遊戯としてそう言う遊びがあるとか」
マスを作る――作戦地域を明確化する気か。
なるほど。そういえばノルトランドの小娘がそのように地図にマスを書き込んだ物を使った図上演習を考案していたな。
この男、世情の機微に鋭いようだ。
欲しい。
「どうですかい、殿下?」
「……。良い案だ。褒美をとらそう。おい」
すると、従者の一人が小さな財布を取り出す。
そこから金貨を二枚手渡すと「ありがたき幸せ」とスピノラはやっと頭を下げた。
「だが、これは良い案だな。お前の案を改良して使えば効果的だ」
「……はい?」
「ガウェイン。王宮から受けた命はクワヴァラードの解放だな?」
疑問を浮かべながらも頷くガウェインに「解放の方法は名言されて居なかったな?」と聞くと、再び頷かれた。
「ならば、亜人を文字通り掃討する。各騎士長を集めよ。
各小隊をマス毎に配して小隊はその地区の亜人を一掃させる。明確な担当地区を指定する事で敵の地区外への脱出を困難にさせ、段々と敵を分断、最終的には根絶やしにしてくれる」
「ね、根絶やし? さ、さすがにやりすぎじゃ、ありませんかい?」
スピノラの顔がひきつるが、これ以上の妙案があるとでも言うのだろうか。
「確かに、敵は民に紛れていますし、それを見破る術を我々は持ちえません。殿下の仰る通り、亜人を殲滅するのが良き手かと」
「ガウェイン様の言ももっとも。幸い、騎士団はほぼ全兵力をもってクワヴァラード掃討に当たっています。相手は亜人、戦力に劣る事は無いと思います」
ガウェインとヨスズンの了承にスピノラは「マジですかい」と苦そうにタバコに口をつけた。
そして騎士長が集まり、作戦を下達する。
誰もが亜人共の苦渋を嘗めてきただけあって、その目はギラギラと凶暴に光っていた。
「もはや手段は選べぬ。余はここにクワヴァラードの亜人殲滅を命ずる。
殺し尽くし、奪い尽くし、焼き尽くすのだ。
亜人は兵、民の分け隔てなく殺せ。亜人から取り上げた戦利品は己の物にしろ。亜人の拠点となる家屋には火をかけてこれを潰せ。
敵は人間では無い。亜人だ。好きなだけ暴れるが良い!
そして余に勝利を! 我ら近衛の騎士団に勝利を!」
割れんばかりの歓声が闘技場に響く。
その翌日から騎士団は各地区に於いて掃討が始められ、父上の打ち建てた都に血が流れた。
あれはそれから幾日かたって、掃討の六割が終わった頃だったと思う。
「ケンタウロスだと?」
クワヴァラード周辺に出していた斥候からケンタウロスの群がクワヴァラードに向かっていると言う。
「数は?」
「およそ五百との事です。いかがなさいますか?」
「……分かった。余が陣頭指揮を――」
「なりません! 姫殿下が本陣を離れてはクワヴァラードの掃討に滞りが出ます。どうか、このトリスタンめにお任せを!」
父上の忠臣の一人であるトリスタン。
馬の名手であり、王国一の騎手であると呼ばれるこの男なら、ケンタウロス相手でも一歩も引かずに戦うであろうと思った。
「よし、任せる。兵はどれほど居る?」
「我が直属の騎士を千人投入します。
その他の戦力では連携が乱れ、逆に手こずりましょう。騎馬による会戦となればその勝敗の左右はこの連携にあります」
「分かった。くれぐれも無茶をするではない」
トリスタンはニヤリと不適に笑うと「御意に」と頭を下げた。
全てはそれが始まりだった。
その後、各地区に分散した騎士達に命令を与え、どの地区が敵に奪われ、どこを制圧したかをまとめていると血相を変えた伝令が本陣に飛び込んできた。
「ほ、報告申し上げます!」
「どうした。どの地区を奪われた?」
「違います! ケンタウロスの迎撃に向かったトリスタン殿、お討ち死に!」
……なんと言った?
トリスタンが、討ち死に?
「真か? 虚偽の報告を余は許さんぞ」
「残念ながら、真にございます。トリスタン殿はケンタウロスの手によってその首をはねられました。
私はそれをこの目で……」
まさか。
そんなまさか――。
「敵は、どうなった?」
「敵は潮が引くように逃げ帰りました。ですが、我らの受けた被害は甚大であり、追撃は叶いません。申し訳ございません!!」
敵は逃げたのか? いや、違う。
余が敵の指揮官であれば目的を持った攻撃をしてくるはずだ。
それにクワヴァラードのような都市での戦にケンタウロスのような騎兵は不要だ。
その図体の大きさが小回りを鈍らせ、逆に不利となるだろう。
ならば、その目的は――?
「……騎兵戦力を潰しに来た?」
「姫殿下? まさか亜人がそのような策を弄するとお考えですか? 奴らは蛮族。そのような知恵など――」
確かに、相手は蛮族。
考え過ぎか?
だが、ケンタウロス共の執拗な攻撃は続いた。
「またか……」
「はい。姫様。提案なのですが、ケンタウロスを相手するのはお控えなさっては?」
ヨスズンの言葉に思わず睨み返してしまった。
だが、ヨスズンの言ももっともだ。
最強の騎兵部隊であったトリスタンの騎士団が壊滅したのに、その他の部隊でケンタウロスに打ち勝つ事が出来るだろうか?
数を出せばそれこそ勝算はある。だが、それほどの戦力を抽出してしまうと、今度は掃討戦に支障を来す。
来るか、来ないか分からないケンタウロスのためにわざわざ大戦力を遊ばせる訳にはいかない。
「伝令! 第十一地区掃討隊より伝令! 亜人の集中的な蜂起あり。至急増援を求む! 以上!」
「十一地区? それは昨日、周辺地区も含めて掃討が完了した地域では無いか」
「それが、どこからともなく亜人が現れて……。同地区にいた残留部隊が包囲されています! どうか救援を!」
どのような仕掛けを使った?
だが、今それを考えても仕方がない。早々に救援を差し向けなくては。
「ガウェイン。至急、増援を率いて十一地区に迎え」
「御意に!」
掃討が完了したと思われた地区に亜人が現れ、騎士団に攻撃をしかけてくる。
だが、その謎はすぐに解けた。
地下通路だ。
この古都が建設された当初に包囲された際の脱出路として作られた物が縦横無尽に走っていようだ。
その一本をこの闘技場の地下で見つけたために、その存在を知ったというのはいささか遅すぎだったと反省せねばならない。
だが、敵がこれを攻撃に使う前に見つけられて良かった。
「昨日発見した地下道ですが、手はず通り封鎖致しました」
「うむ。ご苦労。これからも虱潰しに地下への出入り口を封鎖せよ。頼むぞガウェイン」
「御意に。さっそく手配いたし――」
「伝令! 報告致します! 三十七地区掃討中のランスロット殿、お討ち死に!」
突然の報告を一瞬、頭が理解する事をやめた。
ダメだ。被害が出すぎている。
クワヴァラードの掃討を初めて三ヶ月。
未だに亜人の抵抗は続き、東方の各地で反乱が起こる。その鎮圧に兵を割けども、また別の地域で反乱が起こる。
どうも、クワヴァラードから余を駆逐しようと周辺の亜人が集まっているらしい。
それらの流入を防ぐためにも、周辺警戒として騎兵戦力を配そうとも思ったが、目ぼしい騎兵戦力はケンタウロスとの戦闘で疲弊してしまい、これが上手く行いない。
いや、騎兵戦力なら騎士団のそれ自体を騎兵戦力に換算できるのだが、それだけ戦力を抽出する事さえ難しくなってきていた。
「この戦に、意味があるのか……?」
いくら掃討を続けようとも屈しない亜人。
見せしめとして城壁に亜人共を吊ったり、家を焼いたりしているのに、一向に衰える事のない抵抗。
亜人共は無尽蔵に増えるのに、騎士団は消耗を強いられるばかりだ。
「……撤退しよう」
「な、殿下!!」
別に驚くような選択はしていないと思ったが、ガウェインは驚きで顔をゆがませる。
すでに騎士団の兵力は三割を越えている。
軍学からすれば壊滅だ。これ以上、父上の騎士団を失う訳にはいかない。
「なりません! もし、ここで兵を引かれては王宮から王命に背いたと見なされるかもしれません!」
「だが、こればかりはどうしようもない。王宮に撤退と増援を進言する他ない」
そう、撤退する他、無い。
◇ ◇ ◇
「撤退は許されない?」
ヨスズンの言葉に先ほど、使者の持ってきた書状の内容が頭に入ってきた。
「増援を準備中、しばらく耐えよ……。まさか、このような返答が起ようとはな」
「それで、どうされるのですか?」
最近のヨスズンはよく喋る。ふと、そう思った。
これが現実逃避と言う奴かなどと思いながら「仕方あるまい」と返す。
「戦線を縮小するしかあるまい。抵抗の激しい地区から兵を引き、現在占有している地区を固守して増援を待つ」
それしか無いと思った。
だが、その作戦を騎士長達に伝えると、帰ってきたのは反発だった。
「損害は出ていますが、それでも我らは確実に勝利を積み重ねております! 今引いては犠牲になった者達へ顔向けできません!」
その先陣をきるのがガウェインだった事も、ショックだった。
だが、確かに今まで散っていった者達を思えば、今まで守備していた地区を放棄する事は耐えられないだろう。
それに、何よりも精強を自負する近衛騎士団が野蛮で愚かな亜人を前に引く事に耐えられないというプライドがあった。
それが、どのような結果を生むなど火を見るよりも明らかだったのに……。
「パーシヴァル、ガラハッド、ボールス……。名立たる将は死に、すでに騎士団の半数が失われた、か」
「…………」
戦局は悪化の一途を辿っている。
確かに掃討は上手く言っているが、それでも損害が目に付く。
騎士達には目に見えて疲労の色が浮かんでいるし、傭兵達も逃げ出した者がいる。
あのスピノラという男は傭兵としてはよく戦っていてくれるが、それでも焼け石に水だ。
戦は各所で激戦となった。
ここまで仲間を殺された騎士達は余の命令を忠実に守って敵を殺し、奪い、燃やし尽くしている。
だが、亜人もただされるがままと言う訳では無かった。奴らも仲間を殺されれば騎士達を恨み、復讐に燃えた。
騎士団が苛烈な行いをすれば亜人も苛烈な行いをする。
ついには建物を一軒一軒奪うような戦とは名ばかりの殺しあいが続いていた。
「……。増援は? 増援はどうしたのだ?」
「返答、ありません」
再三の増援要請に王宮は重い腰を上げない。
これでハッキリとした。王宮は余から騎士団を奪うつもりなのだ。
父上を奪い、正当な王位を奪い、余の騎士団も奪うか。
殺してやる。絶対に現王共を殺してやる。
「タウキナはどうだ? タウキナからも増援は来ぬのか?」
「それが、タウキナ公は病に伏せ、それどころでは無い、と」
弱り目に祟り目。幸い、騎士団と専属契約している商会から送られてくる糧秣等は途切れる事無く東方に送られてくるおかげで、物資だけを見れば後、半年ほど戦い続けられるだろう。
「増援はなし、か」
あるのは日々募る亜人への怒りと復讐心。
仲間を殺していった亜人共は根絶やしにしたい。
だが、その兵力もしばらくすれば枯渇するだろう。
「皆の者。今日までよく戦ってきてくれた。余は、クワヴァラードから兵を引こうと思う」
「殿下! 今、兵を引いてはクワヴァラード掃討の命を下した現王に反逆するも同義にございます! 謀反人となってしまいますぞ!」
「良い」
王位を奪った現王は殺したかった。
父上を奪った宰相も殺したかった。
そのために生きようと思った。その日が来るまで待とうと思った。
だが、それで父上の騎士団を――ここにいる家臣達をこのような無益な戦でこれ以上、失いたくなかった。
「皆、よくやってくれた。もう十分だ。
余は現王の命に背く。だが、うぬ達の助命嘆願を行うつもりだ。生き残った者はタウキナに身をよせられるよう執り図るつもりだ。
皆、ありが――」
「なりません!」
ガワエイン……。
「なりません!」
「発言を許したつもりは無いぞ」
「礼を欠いた事はお許しください! ですが殿下は唯一のクワバトラ家の血を引くお方です!
殿下が王名に背けばその血統は途絶えてしまうのです! ケプカルトを納めるべき血が途絶えてしまいます!
我らの悲願は殿下が王位を継承し、前王様の未練を晴らす事ではありますまいか!?」
父上の仇は討ちたい。だが――。
「騎士団はいつでも再建出来ます。
時をかければ最盛期の近衛騎士団にも引けを取らない騎士団を殿下はお作りできるでしょう。
ですが、殿下の代わりはいらっしゃらないのです!!」
ぐるりと本陣に集まった騎士長達の顔をみる。
数が減り、新顔が増えた。
幾多の騎士が死んでいった。皆、余のためと思いながら。
「どうか殿下。撤退の命をお取り消しください。
我らは最後の一兵に至るまで殿下の下で戦う所存です。
どうか、その犠牲を無駄にしないでください! どうか我らの血を無駄にしないでください!
我らがこの地に散ろうとも、殿下が我らの本懐をなして下さるのなら、我らの犠牲はその時こそ報われるのです!
どうか殿下。諦めを無くして下され!!」
幾多の血を流し、幾多の屍を作ろうとも、本懐を成し遂げてこそ、浮かばれる者がいる。
だから、余は撤退を取りやめた。
ガウェインはその後の戦闘で戦死した。
伝令がもたらしたガウェインの遺言は『最後までお供できず、申し訳ありません』だった。
多大な犠牲を払ったクワヴァラード掃討は八ヶ月にも及び、その戦域はクワヴァラードに留まる事無く、北はミスリルから南はイーアトウスまで転戦した近衛騎士団二万は二千へと戦力を減じた。
その後、元近衛騎士団は正式に東方辺境騎士団と銘々され、余は東方辺境領総督府長の任を受けて東方全般の統治を申し渡された。
その頃、クワヴァラードの苛烈な戦闘と不退転の指揮が合わさって血も涙も無い姫として余の事を『冷血姫』と呼ぶ者が出た。
だが、それを否定する事はしなかった。それが事実なのだから。
あの戦で、あの殺しあいが今の余を作った。それが冷血姫。
全ての犠牲が報われるその時まで、余は幾多の犠牲を払う。その全てが報われるために。
「姫様? どうされたのです?」
ふと、気がつくと小綺麗な鎧を身につけたヨスズンが立ち止まっていた。
そうだ。クワヴァラードの市を視察するためにヨスズンを共としていたのだ。
本来であれば、一人で出歩きたかったものなのだが……。
「なんでもない。この地区も復興してきたと思ってな」
「奴隷貿易の保護のためにも、商業用の土地の復興を優先されたからです」
亜人は敵ではなく、商品となった。
あれらが売り払われ、それで利益を得る。
亜人によって騎士団の戦力を補充するとは皮肉なものだ。
「早く騎士団を再編しなくては――」
「焦りは禁物にございます。姫様」
「分かっておる。ヨスズンにも今まで以上に働いてもらうぞ」
「ほどほどにお願いします」
シレッと言うが、うぬは余の筆頭従者であると同時に奴隷でもあるのだが……。
まぁ、良い。
あの戦で人形のようだったヨスズンも変わった。
余も変わったろう。毎夜、復讐の炎が余の胸の内を焼くようになり、犠牲を無駄にするなと亡霊が夢枕に立つ。
余は忘れぬ。あの憎しみを。あの怒りを。あの無念を。
それ故の冷血姫たろう。全ての犠牲が報われるその日のために冷血姫たろう。
――そう決意を新たにした時、何やら殺気だった喧噪が聞こえてきた。
「何事だ?」
「行ってみますか」
行くなと言っても行くのでしょう、と言いたげなヨスズンを一瞥してから、人だかりに向かう。
そこにはヒョロリとした若者と武器屋の主人が何やらやっている。
青年は手にした槍のような武器に何かをしていると思ったらそれを武器屋に展示してあた鎧に向けた。
そして、火の付いた縄を不思議な工具に取り付けて、槍に押しつけた。
轟音。白煙。
まるで西方で聞いた火の呪いに似た――いや、それと同じ呪いのように見えた。
それが収まると観衆から「す、すげー! 鎧に穴があいているぞ! タウキナ大公国の良質な鉄を使った鎧に穴があいているぞ!」と歓声が上がった。
「……欲しい」
その瞬間、頭の中で弾ける物があった。
これは、使えるかもしれない。あのような力の無いような者が鎧に穴をあける――騎士に傷を負わせられる。
父上の構想していた職業軍人を殺すモノ。
西方の呪い。
その全てが一直線に繋がった。
「ヨスズン。あれを買うぞ」
「はい?」
「余はあれが、あの男が欲しい」
それが、余にとって劇的な変化をもたらす出会いであるとは、その時は思いもよらなかった。
[to be ケヒス・クワバトラ]
あと一話で本章は終わりで終章になります。
それではご意見、ご感想をお待ちしております。




