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銃火のオシナー  作者: べりや
第二章 タウキナ動乱
10/126

アーニル・タウキナ


「帰るしかあるまい」

「ケヒス姫様……」



 襲撃があってすぐに白亜の城に帰ったのは良いが、すでにヨスズンさんは帰り支度をし始めていた。



「協定の調印式はいかがするのです?」

「案ずるな。式典をしないだけだ。協定の改定は互いにとって必須だからな」



 よかった。

 協定の見直しをすると言う事はタウキナと東方辺境領における奴隷貿易が無くなるという事だ。

 アムニスで命を落とした奴らにこれで顔向けが出来る。

 お前たちのおかげで東方辺境領は変わろうとしていると言えるし、『言い訳』が出来たように思う。



「姫様。今回の事ですが――」

「ヨスズン。皆まで申すな」

「しかし……此度の暗殺はタウキナ側の不手際と言うより、タウキナ側に仕組まれた可能性があります。その糸を引いているのはおそらく、宰相閣下と思われます」

「まあ。あの男ならやりかねんな。問題は宰相ごみとタウキナをつなぐ内通者だな」

「内通者?」

「そうだ。此度、この地にごみが居ること自体が不自然だ。アレはごみでも宰相。簡単に王都を出られるはずが無かろう」



 今回の協定見直しにおいてケヒス姫様がタウキナに来る事を知って宰相閣下はタウキナに直接来て暗殺の指揮をしている。

 なんだか荒唐無稽な気はするが、ヨスズンさんとケヒス姫様の口ぶりからしてその部分は正しいのだろう。


 だがタウキナと宰相閣下を結ぶ内通者?



「アウレーネか。あやつもやるようになったものだ」

「しかし……その根拠は?」

「簡単だ。奴が王位継承者だからだ」



 第四王姫のアウレーネ様が王位と継ぐ為には第三王姫を殺さねばならない……。

 だがそのような人には見えなかった。いや。アウレーネ様とは出会って間もない。その短時間でアウレーネ様の内心を見抜くような心眼を持ち合わせていないのだから一概に否定も出来ないか。



「うぬらもさっさと支度を済ませろ。支度が済み次第帰る」



 長居は無用。と支度をしていたらドアがノックされた。



「アーニルです。第三王姫殿下。失礼してもよろしいでしょうか?」

「入れ」



 一礼して入ってきたアーニル様。



「では私も入らせていただきましょう」



 に続いて宰相閣下が――。閣下!?

 部屋の温度が下がるのが分かる。その原因も。痛いほどわかる。



「いやはや。災難でしたね。まあ王族の方がホイホイと外に出て刺客に襲われたので仕方ないでしょうな」

「ぬかせ。あと出て行け。余はもう帰る。行くぞ」

「おっと。少し、いま少しお待ちいただけませんか?」

「何を待つと言うのだ」

「本日の晩餐会におきまして従者様の叙勲式を執り行うのでお待ちいただけますか?」



 殺意のこもったケヒス姫様の視線が俺を向いた。俺も叙勲式があるなんて聞いていない。だからそんな形相で俺を見ないで欲しい。

 というか何の話だ。



「おや? 連絡に不備があったようですね。実は今回のオシナー様の働きに現王様は大変感激いたしました。よって勲章を授けたい、と」

「く、勲章!?」

「そうでございます。五千の大軍を百の兵で迎え撃つとはまさに奇跡。故に現王陛下はその功をねぎらうために私を使わしたのです」



 はい。と愛想のよい笑いを浮かべた宰相閣下に俺は何故か、嫌な予感を覚えた。

 出来れば回避したいくらいの予感だ。



「余を嫌う人間は多い。早々に居城に戻りたいのだが」

「東方辺境姫様におきましては人間ばかりではなく亜人にも嫌われていると思われましたが?」

「…………」



 無視だ。


 いや、宰相閣下の事を虫でも見るような目で見ている。どれだけ嫌っているのだ。

 嫌な予感というのもケヒス姫様の話す宰相閣下のイメージが先行したからか?



「現王様から賜った勲章をオシナー様にお渡しできなければそれは現王様の意向に反したこと――反逆罪に問われても仕方がありません。もっとも東方辺境姫様に叛意がお有りなのでしたら別段、問題ありませんが」



 ケヒス姫様が密かに(もう密かとかじゃないが)抱いていたクーデターについても知っているようだ。

 だから東方なんかに飛ばされるのだと呆れる自分がいたのはケヒス姫様には内緒だ。ばれたら殺される。



「……わかった。授与式には参加しよう。オシナー。準備を整えて置け」



 それにしても叙勲式か。しかも現王様より勲章がいただけるのか。

 確かに努力はしたからな。

 いやこの言い方には語弊がある。努力をしたのは俺ではなく、あの戦場にいた全ての人だと思う。


 特に死んでいった奴らのおかげだ。



「恐れながら宰相閣下」

「どうしました?」

「叙勲式についてですが、失礼ながら辞退したいのですが」

「ほぅ。私は先ほどその行為は反逆罪に当たるとのべたはずですが?」



 嫌に丁寧な物言いに得物を見定めようとする蛇を連想してしまう。宰相閣下の細い瞳も獲物を嘗め回すように俺を見ている。



「失礼を存じて申し上げます。本当に現王様から勲章を得るに相応しい者はあの戦で死んでいった奴らにこそ相応しいです。彼らの活躍なく橋は守れませんでした」



 そうなのだ。彼らの活躍なく橋は守れなかったし、『亜人』の人々の未来を守れなかった。

 俺のために死んだとは思っていない。彼らはそういう、普遍的な物のために死んだのだと俺は思う。

 故にその結果勲章を得られるのならそれを最初にもらうべき存在は戦死した奴らだろう。



「なるほど。その謙虚なお心に私、感動いたしました。はい」



 笑っている。嗤っている。宰相閣下は嗤っている。



「ですが、現王様からはオシナー様に、とのこと。どうかお受け取りください」



 ケヒス姫様にいかがしますか? という意味で視線を送れば仕方なしという風にため息をついた。



「わかりました。ありがたく頂戴いたします」



 宰相閣下は満足げに頷いて部屋から出て行ったが、アーニル様はその後を追うことは無かった。

 深く頭を垂れてケヒス姫様に跪いている。



「第三王姫殿下。先ほどの不手際。誠に申し訳ありません……」

「当たり前だ。万死に値する」



 不機嫌そうだが、ケヒス姫様が本当に不機嫌で怒っているならすでにアーニル様の首は跳んでいる。



「部下の失態は私の失敗。どうか厳罰を」

「それを言うなら貴様の主が責任を取るべきではないのか? あの豚の娘の首なら欲しい。床の間に飾って寝るまで見つめていたい」



 発想が怖い。首を床の間に飾るってどこの猟奇殺人者だよ。



「おそれながら第三王姫殿下。主君への悪口は――」

「冗談じゃ。冗談」



 本当に冗談なのかかなり疑わしい。ケヒス姫様のことだから首が手に入ればやるに違いない。

 どうせなら俺もアーニル様に仕えたいと思えるくらいこの人は怖い。



「いえ、訂正してください。我が主君をそのように言われるとはいくら第三王姫殿下でも許すわけには参りません。どうかご訂正を」

「……フン。どんな手を使ったのか知らぬが、よく懐いているな。まるで犬だ」



 ケヒス姫様は絶対に訂正する気が無い。


 そもそもアウレーネ様の姓がゲオルグティーレ――現王の姓と同じ事を考えればケヒス姫様は胸の事意外でも恨んでいるのかもしれない。

 例え、アウレーネ様に罪が無いとしてもケヒス姫様の父上を廃したゲオルグティーレ一世を恨むのと同じくその氏族を恨んでいるに違いない。

 ケヒス姫様が『亜人』を嫌うのと同じだ。

 クワヴァラードの『亜人』によって騎士団を滅ぼされたから東方に住む人間ならざるものを全て恨んでいるのと変わらないのだ。

 それだけ現王をケヒス姫様は恨んでいる。



「アウレーネ様がタウキナに来られてタウキナは変わりました。行き倒れも減りました。それに治安も――」

「大量の私費をなげうってか?」

「…………」

「あの娘はいずれ自分の身を滅ぼすだろう。アレは優しすぎるのだ」



 それを言うならケヒス姫様は冷たすぎて己の身を滅ぼすだろう。戦をすることに躊躇いを見せないその冷血さはいずれケヒス姫様の身を滅ぼすような気がする。



「さがれ。昼の事でちと疲れた」



 ケヒス姫様は最後までアーニル様が求めた訂正をすることは無かった。



   ◇ ◇ ◇



「それでは皆様。お静かに」



 優雅に奏でられていた音楽や貴族達の眉唾な噂話が止まる。



「本日は昨今、王都でも噂になっている東方辺境領の英雄であるオシナー将軍が来られています」



 宰相閣下の紹介で俺は一同の前に立つことになった。それにしても将軍って……。

 誇大すぎるのではないだろうか。



「彼は百の手勢で五千の亜人を相手に勇戦、コレを退ける働きをしました。その働きは遥か王都まで響き、現王であらせられるゲオルグティーレ様よりオシナー将軍に宛てた大綬を預かっております」



 宰相閣下が手を叩くと従者が恭しく大綬を載せた盆を運んできた。



「オシナー将軍。東方問題の解決とケプカルト諸国王国の安寧と繁栄のためにより一層の活躍を期待いたします」



 ニッコリと作り笑いを浮かべた宰相閣下が盆から純白の大綬――襷に見えた――をこれまた恭しく俺の肩に巻いてくれた。

 俺は一礼して一度大綬をチラリと確認すると、思っていたより安っぽい生地だな、と場違いな感想を抱いていた。

 だが赤色の上着に白色の襷――もとい大綬は非常に映える。と、言うか目立つ。戦場に立つ時は外そうと思うくらい目立つ。

 それにしても勲章と聞いていたから小さいバッチのような勲章でももらえるのかと思っていたが、まさか勲章の範疇でもっとも大きな襷――もとい大綬をいただけるとは思わなかった。



「オシナー様。皆様にご挨拶を」

「え? あ、はい」



 改めてパーティー会場を見渡すとケヒス姫様が「余に恥をかかせたら殺す」と言わんばかりに椅子に座って俺の事を睨んでいる。

 赤を主体にした上品なパーティードレスが燃え上がりそうだ。なんだかそのオーラでケヒス姫様はだいぶ損をしているのではないだろうか。



「本日は各もご盛大な式に――」



 なんてつまらない挨拶だ。

 とケヒス姫様の目が今度は絶望したように俺を見ている。どうしろと言うんだ。



「英雄殿はこういう場に慣れていないようですな」



 なんとなく嫌な人だなと思っていた宰相閣下が助け舟を――。



「戦好きな東方辺境姫様の配下だけあってパーティーは苦手のようですね。申し訳有りません。お気づきで来ませんでした。これからは注意いたします。はい」



 助け舟を撃沈させやがった。やっぱり嫌な人だ。

 あぁ。ケヒス姫様。そんなに睨まないで下さい。一番恥ずかしいと思っているのは俺なんですから。



「あ、もう良いですよ。それでは皆様。ごゆるりとお過ごしください」



 まるで道化だ。



 あげるだけあげて落としやがって。

 ケヒス姫様が嫌うのも無理は無い。俺はそそくさとケヒス姫様の下に近づくと、



「よるでない」



 拒否された。


 だがヨスズンさんが小声で「宰相閣下は人の事を悪く言う悪癖がある。怒れば思う壺だ」と教えてくれたが、納得はいかない。


 俺が怒れば宰相閣下が喜ぶという理論は分かったが納得はいかない。

 それにしても居心地が悪い。

 悪名高いケヒス姫様を見ているのか、それともスピーチに失敗した俺を見ているのか。

 判断は出来ないが、蔑んだような視線を感じる。



「あの、少し外の空気を吸ってきます」

「よきにはからえ。だが己が主賓である事を忘れるな。あまり長く席を外していると恥の上塗りになる」



 一礼してパーティーに参加している来賓(タウキナ家の支族や豪商たちが来ているのだろう)の間を縫うように俺は会場を後にした。

 外に出ると昼間とは変わって長袖の軍服でちょうど良いくらいの涼しさになっていた。



「嘘みたいだな」



 廊下から闇に沈んだガラス窓の向こうを見ているとアムニスの戦いが夢のように思える。

 だがこうも静かだと逆にあの日の轟音たちが蘇りそうな気もしてくる。


 殺し、殺され。


 あの日の記憶は夢のように現実離れした世界だった。

 それこそ、別世界のようだった。



「英雄殿はお一人が好きなのですか?」

「あ、アーニル様!」



 気がつかなかった。刺客を軽々と組み伏せる武術を修めているのだから気配を絶って近づくことも造作ないのかもしれない。


 だが一体なんのようなのだろう。



「一度、話してみたいと思っていました」



 そう言って俺の隣に立たれると緊張する。貴族という事もあるが、昼間の風呂で躍動するその肢体を思い出して緊張というか、気まずささえある。



「アムニスでのご活躍を直にお聞きしたい」

「……大した話では有りません。とてもつまらないお話になります」

「そんな事はありますまい。いかなる作戦で敵を迎え撃ったのです?」



 いかなる作戦か。だがアレは作戦があって勝ったのではない。それだけは言える。

 たまたま新兵器の手銃と大砲を集中的に動員できたおかげでゴブリンたちが勝手に反乱を起こして壊走したに過ぎないのだ。

 それにケヒス姫様たちが駆けつけてくれなければ――それこそ少しでも遅れていたら俺の命は無かったし、橋も突破されていたに違いない。



「英雄殿は口が堅い。いくら我が騎士団を用いても百の手勢で五千のゴブリンを――それにオークを相手にするのは難しいというより蛮勇に近いと思うのですが?」

「確かに、蛮勇でした。しかし戦わなければなりませんでした。東方を変えるためには百の寡兵で五千の大軍に勝たねばならなかったのです」



 東方を安住の地にするために与えられた無理難題のおかげで東方は変わろうとしている。

 だが東方の民達への政策を変えることもまた無理難題だったのだろう。


 故にケヒス姫様はタウキナまで来られたのだ。


 ヨスズンさんも貿易の調整に長い間タウキナに滞在していた。

 俺が――俺たち猟兵中隊がしたようにケヒス姫様たちも無理難題に取り組んでいるのだ。

 それが明日の協定の調印式という形になる前に刺客のせいで潰えたのは残念というより悔しかった。



「なるほど。貴方はお強い」

「え?」

「貴方の強い意志が相手を退けたのですね」

「違います」



 違う。違うのだ。俺の意思ではないのだ。故に断じて否と言える。



「俺達の意思です。あの橋に居た全ての同胞たちの意思です。全員、よく戦いました。命を落とした奴も居ます。命を落としても守りたいと思ってくれた人が居たからこそ橋は守れたのです」

「強い兵を持っているのだな。羨ましい」



 羨ましい。


 どういう意味なのだろうか。

 それこそ東方辺境領と国境となっているタウキナ大公国だ。東方に比べて物資も人員もそろっている気がするのだが。



「守りたいものを守る力がある事は素晴らしいことですよ」

「タウキナもそうなのでは?」

「もちろんタウキナの騎士団も同じ状況であれば命を懸けて戦いましょう。ただ、一枚岩というわけでは……」



 「いえ、忘れてください」と慌てて口をつぐんでしまった。


 一枚岩ではない?


 騎士団とは一人の主君のために一丸になっている物ではないのか? ケヒス姫様の騎士団も一丸というか、ケヒス姫様を信奉している節があるし。



「……もしかしてアウレーネ様の件ですか?」



 と、なると部外者のせいかもしれない。

 部外者というには不敬極まりないがヨスズンさんたちの話しを思い出せばアーニル様の父上であるタウキナ公爵が死去されたのが昨年。アウレーネ様がタウキナにいつ来られたかは忘れてしまったが、それくらいなのだろう。

 当主の居なくなった公国に他所から王家の姫君を迎えてお世継ぎのアーニル様がその従者をしていると言う図は不和の種にならないはずが無いだろう。



「部外者に話す内容ではないです。ただ、第三王姫殿下も同じでしょうがアウレーネ様にも敵は多い」



 ケヒス姫様と違って現王の姓を名乗ると言う事はその血族の一員に相違ないアウレーネ様には政治的価値がつく事は想像に難くない。


 利用しようとするもの。廃そうとするもの。


 貴族や王族の権謀術数は恐ろしい。



「故に守りたいと思ってしまうのです」

「……心酔されているのですね」

「そう、ですね。見て分かる通りですがこの歳になるまで武術にのめりこんでいて私は政がわからないのです」



 武術ののめりこんでいたと言うのも昼の活躍で疑う余地は無い。むしろ合点がいった。

 タウキナ公爵の娘――公爵家の跡継ぎがどうしてあんなに強いのかと思っていたらそういうことか。



「実は私は家を継ぐ気はありませんでした。因果なものです」

「なんと言いますか……意外ですね」



 そう言うとアーニル様は噴出した。



「皆によく言われます。ふふ。私からすればタウキナは退屈な地でした。自分で言うのもなんですが武術の才能を持つ私は戦場に立つべきだと考えていたんです」



 己の力を役立てたい。


 力があればそれを行使したいと思うのは、当たり前だと思う。


 俺もそうだ。


 俺には知識という力があったからこの世に手銃が生まれた。



「勉学をおろそかにしてタウキナ騎士団に混じって鍛錬を積む毎日でした。その度に父上に怒られて、鬱陶しいと思っていました。だから適当に婿でも取って東方辺境騎士団に入ろうとも思っていたのですが、鬱陶しい父上が他界して己の弱さを知りました」

「弱さ?」

「武術ばかりで私は政の要領が分からなかった。私ではタウキナ王に相応しくないとうい家臣も居ました。まあ自分でもそう思う所が無かったわけでは有りません。ですが精一杯タウキナに尽くしたつもりでしたが、結果が伴わなかった」



 そりゃ、政治は根回しに妥協に陰謀が渦巻く場所だ。

 正々堂々と戦う武術を修めていた者とは縁遠いのだろう。



「タウキナは混迷しました。諸公国とのつながりも悪化させてしまいって……。それも、正しい王が居なかったからです」



 頂点が崩れるとその下層も連鎖するように崩れる。

 国益と私益がせめぎ合う政界を導く標たる王を欠く形になってしまったタウキナは大公国という影響力の大きい国で有っただけに多くの不和を巻いたのだろう。



「タウキナには新しい王が必要でした」

「それが、アウレーネ様?」



 小さく、力強くアーニル様は頷いた。


 新しい王がタウキナに来てタウキナがまとまったと言うことだろうか?

 だがヨスズンさんはタウキナと諸公国との間の貿易がうまくいっていないと言っていたはずだが……。



「アウレーネ様が王となられたことでタウキナは変わりました。家臣との不和もなりを潜めました」



 そりゃ現王の娘が来たのだから表立って批判の声を上げるのもはばかれるだろ。

 だがアウレーネ様を迎えるに当たって家臣の反発などは無かったのだろうか。

 そもそも現王様よりも前王様を支持していたタウキナ家に現王の娘が来てタウキナを統治する事に反発を覚えるのではないのか。



「確かにアウレーネ様の事をよく思っていない家臣もいる。だが時代は変わる。戦一辺倒から内政に向かう時が来たのだ。だから武術しか知らぬ王は要らないのです」



 自嘲気味に呟くその顔は苦笑に満ちている。



「私も厄介ごとに巻き込まれたと思いました。相手は王位継承者ですから」



 政治を知らないアーニル様を頂いたタウキナに骨肉の争いをしている姫君が北のだから厄介よりも泣きっ面に蜂だったのだろう。



「ですが、アウレーネ様はタウキナを変えてくれました」



 第四王姫様ですから逆らえないと言えばそうなのですが、と懐かしそうに言った。



「私は父上たちから受け継いだタウキナを守ろうと思っておりました。ですがアウレーネ様はタウキナの『民』を守ろうとされたのです」



 それで奴隷を召抱えていたのか。それにタウキナ――特にシブイヤに乞食や行き倒れが居ないのも納得した。



「新王がタウキナに現れたおかげで民草の生活はよくなりました。自身にはまったく他所の土地であると言うのにアウレーネ様はタウキナのために骨を折ってくださいました」



 だから――。


 そのためアウレーネ様に心酔されているのか。



「それにアウレーネ様を見ていると、何故か守りたいと思えるのですよ。情がうつったのかもしれません」



 庇護欲という奴だろうか。まぁ分からなくはない。可憐な風貌をまとう姫君を守りたくなるような欲は確かにある。


 しかし、情がうつる? なんかおかしな表現じゃないか?



「それにあの方は、哀れな人です」

「哀れ?」

「アウレーネ様は、籠の中の小鳥だから――。いえ。少ししゃべりすぎました。少し酒が回りすぎたようです。お忘れください」



 そこまで言われると続きが気になる。籠の中の小鳥? アウレーネ様が王族だから自由が無いと言う意味か?


 分からない。



それではご意見・ご感想をお待ちしております。

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