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銃火のオシナー  作者: べりや
第一章 アムニス事変
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ケヒス・クワバトラ

「東方辺境領出身で、工商をしているオシナーと言います」



 俺は城址で行われる武器市に来ていた。目的は魔物を倒す剣や鎧を買うのではなく、逆に武器を売るためだ。

 村に時々訪れる行商の人が言うには街に出れば何でも買えて、なんでも売れるらしい。

 鎧を着けた兵士に市で物を売るための場所代を支払い(ボッタクリも甚だしい)、指示された場所で荷を解いて開店準備をする。


 突然で、唐突で、脈絡も無くて申し訳ないが俺には前世の記憶がある。


 最初は夢の一部かと思ったのだが、それにしては鮮明にその記憶を持っていた。それに目が覚めていてもその事に想いを馳せれば芋づるのように次々に知らないはずの知識を手に入れることが出来た。

 前世の記憶を頼りに俺の住む世界を例えるなら『ファンタジー』の世界のようだ。

 街から出れば魔物や盗賊が闊歩し、貴族たちが魔法を使う。


 空にはドラゴンが飛び、海には人魚が泳ぎ、陸にはオークが闊歩している。


 そんな世界で前世の記憶があるというのは便利だった(時々、記憶が混乱して吐きそうになるが)。

 特に前世の趣味だったミリタリーとサバイバルに関する知識は結構役に立った。

 何より迷える人生のバイブルとして買った『米海兵隊が教えるタリバンから命を守る二百のテクニック』は使えた。

 まあ役にたつ知識もあったがそれと同じか、それ以上に役に立たない記憶も多かった。(タリバンなんて居ないし)

 だが前世の記憶があっても俺は今を生きるだけである。

 前世の記憶を使って一攫千金などと考えたことも在ったが、それは違うと思う。

 前の世界が自ずから進化したのだから俺のような存在が口を出して良い訳が無いと思っていた。


 そう、『思っていた』


 これが過去形なのは、つまり金が必要になったからだ。

 俺を雇っている工房の親方がこさえた借金のせいで首が回らなくなってむしろ首を吊らなければならなくなってしまったので、早急に金を貯める必要が出た。

 だからゴブリンの話には乗るなと言ったのに……。


 ちなみに俺の前世は交通事故で幕を閉じてしまったので今世は天寿を全うしたいと常々思っていたのでこのままだと俺の人生プランが台無しになる。プランと言っても具体的な計画はないが、とにかく再び得られた命だ。大事にしたい。もっと言うなら天寿をまっとうしたい。

 そのため親方との無理心中だけは阻止しなければならない。

 そのために俺は自分で定めたタブーを破る事にした。命は惜しい。



「さぁさぁ! 見てらっしゃい!! 騎士の鎧も貫く新兵器だよ!!」



 俺が売り出したのは、手銃ゲヴェーアだ。

 銃と名の付く通り火薬の力で鉛玉を飛ばす装置であり、その威力は実証済だ。

 しかしその形状は木の柄に金属の筒がついただけのとても原始的な銃となっている。たぶん前世の人々にこれを「銃です」言っても信じないだろう。

 欲を言えば火打石を組み込んだマスケットのような物を作りたかったが、材料も時間も足りなかったせいでこの形状に落ち着いた。

 それでも作れた物が三丁しかないと言うのは情けない。だが材料を仕入れる事も出来ないほど困窮している工房なのだから仕方ない。

 つまり今日これを売って金を作って材料を買い、新たに何かをさらに売るしかないのだ。


 必死の思いで商品を並べ終えると異形の武器に興味を引かれたのか数人の人だかりができて来た。

 よし。


「おい坊主、その笛のような物が武器なのか?」



 笛――確かにモデルにしたタンネンベルクガンと同じく簡素な銃身にあいた小さな火口のせいか、笛のように見えなくも無い。気がする。



「それで殴るのか?」

「いや、コレは弓や弩に近い武器です」

「どうやって弓を打つんだ? 威力は?」

「正確には矢じゃなくて、この鉛玉を撃つんです。そこの武器商の人が売っている鎧くらい簡単に撃ちぬけますよ」



 人だかりで聞こえないだろうと思っていた向かいの武器商のおっちゃんが「それならやってみろ!」と怒鳴り込んできた。聞こえていたのか。

 しかし新兵器を採用してもらうには実戦テストがいるだろうからちょうどいい。この世に魔法はあっても銃は無いのだ。きっと目を引くに違いない。



「それじゃ、遠慮なく」

「おし! やってみろ! そんなヘンテコなものでタウナキ大公国製の鎧に傷がつけられるか!

 さぁ! さぁ! うちで売っている一級の商品だ! みんな見て行ってくれ!」



 なんか、逆に宣伝材料にされているような。

 まぁいいや。それよりこの店主、鎧の位置を動かさずにいるが、このまま撃たなきゃいけないのか?

 一応、鎧の後ろは城壁になっているから誰かに当たる心配は無いだろうし、距離も十メートル無いくらいだし、大丈夫かな。

 村を出る時に一応試射はしたが、改めて撃つとなると緊張する。



「どうした!? 出来ないのか!?」

「せ、せかさないで下さいよ。あ、誰か火打石を持っていますか?」

「なら貸してやるよ」



 旅の商人のような人が火打石を貸してくれた。ありがたや。

 持参した火縄にそれで着火すると細く煙が昇りだした。それをT字型の金具に挟み込む。

 それから手銃になけなしの火薬と弾丸を入れて先ほどのT字金具の柄――カルカで突き固める。



「まだか!! どうせ出来ないんだろう!?」

「待ってください!」



 機構が原始的すぎるため装填に時間が掛かるのは仕方ない。金属薬莢とは偉大な発明だとしみじみ思う。

 火薬と弾丸を付き固めた後はカルカを引き抜いて銃身の上についた火口に火薬を注ぐ。これで準備完了だ。体感的に二分くらいで終わったが、慣れればもう少し早くできるはずだ。

 俺は木の柄を脇に挟みこんで銃身を鎧に向ける。照準儀なんて上等な物は無い。フィーリングだ。

 金具についている火縄に息を吹きかけて燃焼速度を調整する。それを火蓋に押し当てた。


 乾いた破裂音が市に響く。一瞬、市が静まり返った。



「す、すげー! 鎧に穴が空いてるぞ! タウナキ大公国の良質な鉄を使った鎧に穴が空いてるぞ!!」



 成功。大成功だ。武器商のおっちゃんには悪いが、コレで一儲けできる。

 声を張り上げて売り文句を言おうとしたが。



「でもなぁ。攻撃するまでに時間が掛かりすぎじゃないか? 森でオークなんかと鉢合わせしたら準備してる間に殺されるぞ」

「確かに時間は掛かりますがそれに見合う武器ですよ! 取り扱いも楽ですし、オークは撃ったことがないけど……」



 弓のようにすぐに打てないんじゃなあ、と言うなりその人は去ってしまった。最初の興奮が冷めた人たちが去り始めた。



「おい、うちの鎧に風穴空けてどうしてくれるんだ?」

「え? 撃っていいって言ったのはそっちじゃ……」

「黙れクソガキが!」



 この商人、完全に、俺の話しを聞いていない。今にも商品となっている剣を持ち出してきそうな剣幕に、思わず銃に弾を装填したくなって来た。

 この銃の欠点は当たり前だが装填時間だ。今度、早合カートリッジでも作るか。



「この野郎! 話しを聞いているのか!!」



 ついに商人が商品に混じっている剣に手をかけた。コレはヤバイ。実戦テストだけで済むはずが実戦になってしまう。急いで火薬を装填しようとしたが、震えて上手く装填できない。ヤバイ。ヤバイ。超ヤバイぞ。



「双方、待て」



 凛とした声が水を打つように広がった。

 その澄んだ声の方向を見ると白銀の鎧に深紅のマントを纏った女騎士がいた。その後ろには従者らしい男たちが控えている。

 若い。第一印象としては若い女性としか思えない。成人しているのか、いないかくらいか。

 身体の線は細いが痩せているというより無駄がないように絞り込まれているような感じがする。

 だが何よりも目につくのが彼女の目だ。

 目を奪われるような整った顔についている赤い瞳がニヤリと笑っているために不気味な印象があった。



「店主、その鎧は私が買い取ろう。おい」



 彼女の従者が腰についた革袋から金貨を出して怒り心頭だった店主の手に無理やり握らせた。



「うぬよ。その武器は魔法を使うのか?」

「……え? いや、使いません」



 思わず自分が話しかけられているとは思わずに間の抜けた事をしてしまった。

 だが、この騎士様は何者なのだろうか。

 騎士様ならお抱えの工房から武器を調達しているはずだし、べ、べつにその工房がうらやましいとか無いから。あんな工房は滅べばいいのだ。うちに仕事が来る。



「それは、強いのか?」

「強いか、ですか?」



 手銃は強力な武器だと思う。さっきも高価な鎧を濡れ紙の如く穴を開けたし。実戦なら鎧を着た兵士にも致命傷を与えたと思う。

 だけど武器を強いか弱いかの二分には出来ないと思う。

 手銃は弓に比べて装填が遅いし、射程は短いし、命中率も今回は良かったが、弓と比較してしまえば悪い。あれ? 俺はこんなものをよく売ろうとしたな。



「なんとも言えません。強力な武器ですが、その場面によっては役に立つかは……」

「そうですよ! そんなけったいな物より、良いものがそろってますよ!」



 女騎士は何か、思案するように手銃と俺を見比べているようだった。そして従者に「コイツを連れて行け」と手短に伝えて歩き出した。え? なんで? 何で!?



「おい、さっさと来い」



 俺は従者の一人に捕まえられた。

 あー。あれだ。前世の記憶を使って金儲けしようと思ったのが間違いだったんだ。うん。



   ◇ ◇ ◇



 監禁された。

 あの後、従者のおっちゃんに連れて行かされた場所は城の地下牢だった。むしろ拉致されたといって良い。時間としてはどれだけたったろうか。すでに一日は過ぎている気がする。

 というか。

 なんで。なんで捕まるの?

 おまけに手銃や火薬類は没収されて脱出なんて出来やしない。どうしたものか。

 思案していると大きな音がした。扉の開いた音だ。誰かが来る。

 現れたのは昨日、俺を拉致した従者だ。



「起きているな? 来い」



 牢の鍵が開けられる。促されるままに牢の外に出た。どこに行くのかを彼に尋ねても答えは返ってこない。その上、牢獄を出る時に俺は目隠しをさせられた。



「ちょ!? 何するんですか!」

「目的地についたら教える」



 目隠ししないと行けないような場所って……。

 そもそも市で武器を売っていたら捕まるって。しかも俺だけ。なんでなの……?

 そう思っていると、急に腕を引っ張られた。どこかに移動するらしい。

ただ、移動すると言ってもこっちは目を封じられている。そのせいで躓き、転び、倒れても俺は歩かされ続けた。すでに歩数は数えていない。

 突然、ここだ、と言われて目隠しを取られた。

 石造りの壁。目の前には階段がある。地下にいるようだ。階段の上から光が差し込んできている。

 外からは大勢の人間の歓声が聞こえてくるが、いったいここはどこだ?



「ここはコロシアムだ」

「は?」



 お前の武器を姫様が気に入ったようだ、と従者は答えて俺が持っていた手銃や火薬やらを渡して来た。

 コロシアムって。どうしろと?



「そんな間抜けな顔をしているとすぐに死ぬぞ」

「……もしかして殺し合い?」

「鈍い奴だな。お前が勝てば褒美は思うまま。負ければ、まぁ、死ぬだけだな」



 死ぬって。死ぬって……。


「あぁ、これは餞別だ。その笛で相手が倒せるとは思わないからな」


 従者は腰から一振りのナイフを俺に手渡した。そして背中を押される。行けという意味だ。いや、行きたくないよ。そもそも人を殺した事も無いのに、いきなり殺し合いをしろって出来るわけないだろ。

 だが強引に階段を上らせられた。地上はコロッセオのようなものになっているのかと思ったが、違った。

 周囲を円形の木と泥を乾燥させたような壁で囲まれた簡素なフィールドだ。たぶん、地下空間以外は風雨や戦で失われてその上はモルタルで適当に作ったのだろう。

 元壁だった残骸たちが遮蔽物となってフィールドに複雑さを与えている。

 周囲の衆人はよく見れば鎧を着けた騎士のような人たちばかりだ。その騎士たちから一段高いところにあの不吉な赤目の騎士がいた。

 従者が姫様と言っていたし、それなりの身分の方だったのだろうか。


 そう思っていると真向かいにあるらしい地下階段から誰か上がってきた。スキンヘッドの大男だ。トロールに負けないくらいでかい。そもそも人間なのか?

 その手には弩のようなものを持ち、背中には大剣を背負っている。全身を覆う鎧兜がガシャガシャとまるで威嚇するような音を出している。


 どう見ても話し合いでどうにかなる相手ではない。



「こんなヒョロイ奴が相手か」



 笑われた。むしろ嗤われた。当たり前だ。体格で俺が勝れているところを発見できない。

 死んじゃうよ、俺。



「始めよ!!」



 赤い瞳の騎士の声が前触れもなく開始を宣言した。

 心の準備というか、対戦相手と話し合うくらいの時間を普通はくれるんじゃないのか? 俗に言う心理フェイズという奴を――。


 と思っていると俺の頬の脇をものすごい速さで何かが通り過ぎた。振り返らなくても分かる。矢だ。

 大男の手にした弩から放たれた弓が俺の頬をかすった。だが、相手が弩であるなら矢をつがえるのに大きなモーションと時間が必要なはずだ。その隙にどこか、遮蔽物に隠れないと。


しかし俺の予想に反して大男は弩に矢を番えることなく俺に照準を合わせている。

 よく見れば狩猟なんかで使う弩と少し形が違った。弓の弦に垂直になるように箱のようなものがつけられている。


 大男が弦を引き絞る。ヤバイ。あれは普通の弩じゃない。連弩だ。


 急いで近くの遮蔽物の陰に滑り込む。後ろで空気を切るような音が高速で通り過ぎた。

 あの男の持っている弩の上についた箱のようなものはきっと弾装だろう。あの中に何本かの矢がすでに装填されていて、弦を引くことで立て続けに矢を射かけられる構造になっているはずだ。


 こうなっては敵が矢を再装填する時間まで待っていられない。

 急いで火薬を手銃に装填しようと思うが、気が急いて手が震えて火薬がこぼれてしまう。

 クソ。悪態をつきながら急いで火薬を詰め、弾丸を銃口に押し込む。カルカで弾丸と火薬を付き固めたが、ちゃんと装填できたか不安が生まれてくる。

 だが、それを気にしている時間は無い。カルカにつけた火縄に息を吹きかけて燃焼を調整しようとして気がついた。


 火がない。

 むしろ火縄が無い。


 そう言えば従者が持ってきてくれた物の中に火縄が含まれていない。

 火縄――むしろ火種が無い。火種が無いと火薬に着火できない。着火出来ないと撃てるわけが無い。


 あれ? 俺、詰んだんじゃね。

 一度、大男との距離を確認するために顔を出した。急いで顔を隠す。矢が頭上を飛び去った。

 近い。十メートルくらいか。



「隠れても無駄だ! 姫様! 俺の連弩はどうです? 俺を取り立ててくださいよ!! あははは!!」



 降伏すれば命は助けてくれるか? いや、無理だろ。人生プランが台無しだ。心中どころかここで殺されるなんて。

 何かないのか、ポケットは? ん? なにかポケットに入っている。



「手を上げて出て来い! 降参して俺様の奴隷になるなら許してやるぞ!!」



 絶対に嘘だ。出た瞬間に殺される。



「お前のような戦士でもない平民風情が俺様に勝てるわけないだろ? さっさと降参しちまえ」



 確かに俺は戦士ではないし、そもそも人殺しなんてした事が無い。だがここでむざむざ殺されるわけにはいかないのだ。

 足音を忍ばせて遮蔽物から遮蔽物に移動する。足音をしのばせるどころか、連弩が怖くて匍匐前進だ。

『基本的な匍匐前進をするには、小銃を右手に持って右腰付近で保持し、左ひざを地面に付けて右足を後方に伸ばして左腕で上体を支えながら前進せよ』

 『米海兵隊が教えるタリバンから命を守る二百のテクニック』を読んでいて良かった。

 遮蔽物の隙間から伺えば大男側面に出た。


 深呼吸を一つ。


 ポケットの中にあった火打石――鎧を撃ったときに借りた奴だ――を握り締める。

 静かに遮蔽物の上に手銃を置き、狙いをつけた。火打石を銃身に叩き付ければ火花が散って弾丸を撃てる。そうすればあの大男は――。


 撃つのか? いや疑問が違う。撃てるのか? 魔物はおろか動物さえも撃ったことないのに。

 俺は人間を殺せるのか? 俺は、あの人を殺してしまうのか?



「ん? いつのまに!!」



 大男が振り向いた。連弩が俺を向く。




『躊躇うな。死神が笑っている』




 海兵隊の言葉を思い出した。

 矢が遮蔽物に当たる。次は当たるかもしれない。死神が、笑っている。

 火打石を力一杯火蓋に叩きつけた。轟音。白煙。命中。金属と金属がぶつかる鋭い音がした。


 運よく、大男の頭に命中した。

 運悪く、大男の兜を掠っただけだった。兜が大きくへこんでいる。


 大男がよろめいたが、肩膝をついただけだった。絶対にバケモノだ。人間じゃないよ。



「この、野郎が!!」



 大男が背中に背負った大剣を抜く。俺に向かって突進してきた。

 次の弾を。くそ、手が震えて火薬が上手く銃身に入らない。間に合わない。

 他にある武器はナイフ一本だ。もう、だめか。笑った死神が、来る。



「それまで!!」



 観衆の響きの中でも澄んだ声だ。

 赤い瞳の騎士が観客席から立ち上がり、嗤っていた。いや、こっちは笑ったのかも知れない。そんな気がした。



   ◇ ◇ ◇



 俺は牢獄から、衣裳部屋に案内されていた。

 今まで着ていた服は、汚いとの事だ。

 服と一緒に手銃も取り上げられてしまい、正に身一つ。心細いことこの上ない。

 だが代わりとして渡された上物の絹織物は換金すれば一年は遊んで暮らせそうな上物だ。(上物すぎて着方を聞いてしまった)


 それから通された部屋には長テーブルが置かれていた。扉には衛兵が立って逃げ出す余地など無い。

 俺は一番ドアより――下座に座らせられた。

 しばらくして足音が聞こえて来た。重い音を立てて扉が開いた。



「魔法戦力の充足は?」

「現在、難航しております」



 金髪、赤目、白銀の甲冑、そして深紅のマント。あの女騎士だ。

 その後ろには俺を連行した従者がいた。その従者が俺を見るなり座っていた椅子を蹴った。立てという合図だ。

 やはり、と言うか、あの姫騎士様は身分の高貴方なのだろう。

 というかあの従者、俺の手銃を持っていた。それに何か雑納も持っている。何が入っているんだ?



「補充を急がせろ」



 「かしこまりました」と従者が答えると、女騎士は上座の椅子に腰掛けた。足を組んで、胸を張って。女王様というか、支配者としての貫禄がある。



「うぬよ。この笛のような武器はなんという名だ?」

「手銃――ゲヴェーアと申します」

「魔法は使わないと言ったが、どのような原理なのだ?」

「火薬を爆発させて、その力で弾丸を飛ばします」



 言うは易し。

 絶対に納得していないようなので、まずは火薬について教えてから手銃の仕組みを話した。

 そして手銃の欠点も。



「なるほど。弓に比べて射程も命中率も落ちると。それに火がなければ意味が無い。つまりゲヴェーアは弓矢には勝てぬのだな」



 酷くガッカリした顔――もとい、ゴミを見るような目で俺を見ないで欲しい。

 だがいつまでもその視線を浴びているわけにはいかない。それにデメリットばかり話してしまったから、これからはメリットを話さねば。



「それでも利点は有ります。誰でもすぐにコレを扱えるようになります」

「すぐとは?」

「おそらくですが、一日もあれば……」



 こんな弾をこめて火をつけるだけの武器なのだ。一日撃っていれば誰でも扱いを覚えるだろう。てか、半日でも良いんじゃないか。

 だが、例えば軍隊のように統制のとれた部隊を編制するとなれば話は違う。

 一朝一夕で作れるようなものでは無いが、それでも弓兵の部隊を作る事を思えば早々に部隊を仕上げられるだろう。



「ゲヴェーアの効果的な使用方法を申せ」



 誰でものくだりは聞かないのですか。これこそ銃の最大のメリットだと思うのだけれど。

 だが聞かれないのなら仕方が無い。後で説明しよう。



「堀や柵を作って敵の突撃を無力化し、徴兵した大量の民衆に手銃を持たせて一斉攻撃をさせるべきだと思います」



 弓に比べて威力が低い手銃だが、取り扱いは楽だ。弓に比べて力なんて要らないし、剣や槍に比べて技術力もいらない。

 言うなれば力の無い女、子供でも騎士を殺せる。

 つまり『誰でも使える』という銃最大のメリットだ。



「貴様、民草を戦場に送るというのか? そんな汚い事を……騎士たちの神聖な戦に――」

「待てヨスズン。清く戦って、兄上たちや現王に敵うはずがなかろう。おい」



 彼女(と言ってしまってよいのか)が合図をすると従者――ヨスズンという男が持っていた雑納の中身を取り出す。

 へこんだ金属の兜――コロシアムで俺が撃った兜だ――を取り出した。



「見よヨスズン。戦のいの字も知らないような工商が歴戦の傭兵を殺そうとしたのだぞ? 見よ。この細い身体を。体格や胆力など関係なく民草が職業軍人を殺せるのだ。

新しい兵器に新しい戦場が来る。余は決めたぞ。うぬ、名を申せ」

「お、オシナーと申します」

「オシナーか。命ずるぞオシナー。お前を余の従者に任命するぞ。このケプカルト諸侯国連合王国第三王姫、ケヒス・クワバトルの名において、うぬを余の従者とする。よく仕えよ」


べりやです。新作です。


えぇ。勇者様をほったらかし、ニート以下略を放置して新作です。

言訳をさせて頂きますと、小説大賞に応募して見たかったんです。


と言う訳で目標は夏までに10万文字を書くことですね。

すでに下書きとして5万文字近く書いているんで楽勝でしょう。(慢心いけない)


さて、そういう事ですのでどうかよろしくお願いいたします。

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