第7話 みんな
「あ、愛ちゃんだ!」
水色のワンピースを着たあの子がキラキラした笑顔をこっちに向けて言った。
意味分かんない。
なに? その顔。
普通そこは、あー、きたよ、みたいな感じで終わるんじゃないの?
え?
なんでなんで?
そういうこと、あるものなの?
意味分かんない。
意味不明。
「大丈夫だった?」
そういうあの水色のワンピースの子は、あんまり好きじゃない。
なんとなく、だけど。
でも、心配してくれてるのはまぁ、うれしいけど。
てか、私は名前知らないのに、なんであの子は、私のこと愛ちゃんって呼んでるんだろう?
ま、いっか。
そんなどーでもいいことを考えていられるほど、私はひまじゃない。
そういうことを考えてるひまなんてあったら、そもそも私はここにいない。
ん、あれ?
なんか言ってることが矛盾してるような気もする。
いやいやいやいや、ここは気にしないが勝ち。
よし、私は全力で現実逃避しよう。
それが一番だよねっ。
「悪いけど、ちょっとどいてくれないかな」
あくまでも、笑顔でそう言う。
もちろんその女の子はぽかんとしてる。
まだ分かんないかなぁ、私があなたのこと、よく思ってないし、悪くも思ってないってこと。
分かるはずないか。
だよね。
「あ、えと、ごめんねっ。邪魔、だったよねっ」
そう言って、その子はさっとどく。
そんなに嫌だったわけじゃないんだけど、きつく言いすぎたかな?
普通にそう思っていると、やーっぱり、あの子が来るわけなんだな。
「うっわー、愛ちゃんひっどーい。せっかく人が心配してくれてるのに、そういう態度取っちゃうー?」
ほーらね。
なにかといえばつっかかってくるんだから。
「美紀」
つぶやくと、美紀が私を睨んでくる。
あーあ、本当にウザいんだから。
私の事なんかほっといてよね。
どうせ、美紀には何も関係ないんだから。
美紀だって、私の事なんか見捨てたくせに。
それなのに、わざわざ話に入ってくるなんて。
悪趣味だよね、美紀も。
みんなみんな、本当に嫌なんだよ。
さっさと私を見捨ててどっか行けっての。
「あの、えっと、そういう同情、いらないからっ!」
水色のワンピースの女の子がそう言う。
美紀が同情してたってことになってんのかな?
それでもやっぱり、水色のワンピースの子の名前は出てこなかった。
私って、本当に名前覚えるつもりないんだよね。