第5話 プリンの力
今日も変わりない日々。
それを毎日続けてきたのに、今日だけはなぜか違った。
たった一つのプリンで、一つのクラスが二つに分裂する。
おかしな話だ。
プリンにそんな力はない。
二人が手をつないでるところにプリンを投げ込んだって、その手が離されることはない。
たとえ手を離したとしても、すぐにまたつなぐだろう。
でも違う。
今日は違う。
色々なことが重なって、一つの物事が出来上がる。
プリン、トラック、実留への怒り、私への怒り……。
色んな事が偶然重なり合って、たまたま、こんなことが起こってるだけなのに。
バカみたい。
「あ、もう1時間目終わってるじゃん」
美紀の声にみんなが振り向く。
私は一人教卓に目をやる。
そこには空いた席があった。
逃げ出したのか?
あのバカな教師。
「さっさと座れよ、くだらない事ばっか言ってないでさ」
男子の声がした。
興味ないふりして振り向く。
そこにはクラスの中で人気らしい男子がいた。
座れよって、おいおい。
お前は何だ?
何でいきなり真面目な雰囲気出しちゃってんの。
名前は確か……何だったっけ?
た、高梨? 高橋?
あれ、どっちだっけ。
「グチグチうるさいなー、山橋も」
あ、山橋か。
実留の文句言いたげなその口調に少しイラつきながら、私はその男子の名前を思い出す。
名前忘れてるとか色々と頭がダメになっちゃってきてるな。
将来が怖い。
あーもう、私帰ろうかな。
暇だし。
先生もいない、教室の中にいるのも息苦しい。
そんなとこいなくてもいいよね?
よし、帰ろう。
あ、でもお母さんになんて説明しよう?
ま、いっか。
本当の事言おうっと。
私は適当にランドセルに教科書やらなんやらを詰め込むと、山橋とやらと相変わらず討論してる美紀たちにばれないよう、そっと教室を出た。
幸い、ばれなかったみたいで教室からは全く変わらず美紀や山橋の声と女子たちのくだらない話が聞こえていた。
このクラスは一段とバカが多い。
私は今日を通して改めてそう思った。
次の日、私は何にも覚えてないような感じを装って、教室に入った。
声をかける人は、特にいない。
どうでもいいんだけど。
「あっ、愛ちゃん! 昨日みんな心配してたんだよっ? 帰っちゃってたの?」
それは、まさにべとべとした甘い……あんこみたいな声だった。
そんな感じの声の持ち主は、昨日教室で私を待っていた女子だった。
この子の名前知らないなー。
彼女はにっこりと笑いながら水色のワンピースを風に揺らした。
なんか、色々と嫌な感じがするけど、ここは気にしないでおこう、うん。
私は勝手に納得すると、女子に向かって言った。
「帰っちゃったけど、悪かった?」
呆気にとられているその子をおいて、私は自分の席に行くと、教科書やノートをランドセルから出して机に突っ込んだ。
昨日から引き続き、実留は山橋にぎゃーぎゃーと文句を言っていた。
これも間接的にプリンが巻き起こした事だ。
何となく、人ってプリンに動かされるんだ、と、実留を憐れんでみたりした。
もちろん、心の中で。
プリンはいつまでこの騒動を保つんだろうね?
私は初めて、プリンを尊敬した。