第1話 プリン
今、私は人類全体で一番、すっごく困ってる。
理由は二つ。
一つは、私の親友、美紀と絶交してしまったから。
そして、もう一つは……私のせいで起こったこと。
それが原因で、今、私たちのクラスでは、半分に分かれている状態になってる。
もちろん、美紀とは違うグループになっちゃって、なんかややこしいことになっちゃってる。
私はこういうのがあんまり好きじゃない。
だから、余計面倒くさい。
こんなバカみたいなの、さっさと終わってくれないかな……。
って、バカなことを起こしたのは私なんだけど。
本当に、些細なことだった。
私が大好きなプリンが出た日の事。
ちょうど一人が休んでて、それが美紀だった。
私はプリンを食べたかったけど、美紀もプリンが好きだったから、持って帰ってあげようと思った。
私はそのことを先生に言うと、先生は持って帰っていいと言ってくれたので、みんなにそのことを伝えて、私が美紀に連絡帳を持って帰るときに一緒に持って行った。
私が帰り道を歩いていると、後ろから猛スピードでトラックが走ってきた。
私は道のど真ん中を歩いていたから、走って避けた。
でも、そこでプリンを落としちゃって、トラックに踏みつぶされてしまった。
私はつぶされたプリンを眺めながら、ため息をついて、明日言わないとなぁ……と思っていた。
で、今日。
美紀がやってきた。
美紀と仲がいいのは私だけじゃなくて、実留もだった。まあ、みんな美紀の事好きなんだろうけど。
実留は私がプリンを持って行ったと思ってたから、美紀に向かってこう言った。
「美紀、昨日のプリン、美味しかった?」
実留のノー天気な声が教室中に響く。
静まった教室で、美紀は顔をしかめた。
「私、プリンなんて食べてないけど」
その言葉に、クラスのみんなは私の方を見てくる。
だって、昨日私が持って行くって、言ったから。
絶対逃れられない。
実留のせいだって、思った。
実留がいなければ、美紀にちゃんと言って、謝って、みんなにも知らせることができたのに。
仕方なく私は昨日のことを話した。
「ごめんみんな。私昨日、トラックに轢かれかけて、プリンを落としちゃったんだ。それで、プリン、トラックにつぶされちゃったの。ごめんね」
自分でも、何で謝ってるのか分からなかった。
けど、謝らないと怒られそうな気がして、ごめんって言った。
「へー。それ、ホント?」
実留は疑うような顔で私を見た。
実留、私の事嫌いなの?
でも、まあいいけど。
「ほ、本当だよ。嘘なんか言わないって」
私はそう言ったけど、実留はまだ疑っていた。
いつまでもしつこいな……。
私はそう思いながら無意識に髪を触った。
「プリン、好きなんでしょ? 家に持って帰って食べたんじゃない?」
実留はそう言った。
いつまで疑うんだろう。
私は少しあきれていた。
たかがプリン一つで、よくこんなに怒れるなんて。
ちょっと実留がウザかった。
でも、私はそんな思いを口にはしない。
言ったって、「は?」で終わるんだから。
そんな無駄なことするくらいなら、今すぐ家に帰ってもいい。
「もういい」
私はそうつぶやいて、席に座った。
このやりとりからすると、多分実留は本気で私がプリンを食べたと思うだろう。
でも、私は気にしない。
あとで美紀にちゃんと話しておけばいいだろう。
別に、友達を疑ってばかりの実留と友達じゃなくなったって、どうでもいい。
ただ、美紀に捨てられたら、ちょっとヤバいかもしれない。
美紀は結構クラスの中心的な存在だから、たいていの人は美紀についていく。
それが、問題なわけ。
美紀が私の言ったことが本当だと思ってくれたら実留が孤立する。
ま、普通こうなるはずなんだけど。
だって私は嘘付いてないからね。
でも、逆に美紀が私を疑って、実留の方に行っちゃったら、まあ、私が孤立するだろうね。
別に、どうでもいいけど。
私特に友達と一緒に行動しまくらないから、クラスの中で半分空気。
美紀といる間だけ、空気じゃなくなるみたいな感じ。
結局、美紀がいないといけないみたいなのになっちゃってる。
そういうの、本っ当に嫌なんだけどね。
だから、やっぱり、友達とかどうでもいいんだ。
本気でそんな感じがする。
「ほらっ、諦めたみたいだよ? じゃ、やっぱりプリン食べちゃったんだね!」
実留がそう言った。
本当に、どうでもいい。
――――――――それで、うちのクラスが半分になっちゃったわけ。
私の考えは外れた。
私は美紀と離れた。
ってことは、私は孤立するしかないと思ってたんだけど、実留を好きじゃない人たちがなぜか、私の方に付いた。
いやいやいや、これ、絶対おかしい。
私、もう、こんなことになるくらいなら孤立しますけど?
こんなことが決まっちゃって、私が最初に発した言葉。
「め、めんどくさっ……」
教室中が、静まり返った。