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俺の可愛い王女様

これぞまさにタイトル詐欺と言うものよ!!

 俺の名はジェイク・カーライル。23歳。フォスター侯爵の嫡男だ。

 いきなりだが、俺には婚約者がいる。彼女の名はエルシーリア・セレスタ。この王国の第一王女だ。彼女は俺より年下だ。

 そう、年下なのである。


 ……18歳も。


 ……って、これ犯罪じゃねぇか!! 18歳も年下ってヤバ過ぎだろ!! 相手5歳だぜ!? 普通に考えて捕まるだろ、おい!! そんな俺を犯罪者だろ、って思う人!! 貴方は何も間違ってない! 俺だって思うよ、犯罪者かよ、ってな!!

 なりたくてなったわけじゃない。向こうから選んできたんだよ!! エルシーリア殿下が第一王子と同い年の俺を選んだんだよ!


 事の始まりはこうだ。国王夫妻は長年女の子が欲しくてたまらなかった。普通はさ、後継ぎに男児をって感じなんだろうけど、彼らには既に五人の男児達がいたわけよ。こんなムッサイ男しかいない一家の中で唯一の癒しの女と言えば王妃陛下のみ。後は反抗期の息子達。

 国王陛下は友人達が娘自慢(おとうたま、と舌足らずで慕ってくる姿が可愛いだの、抱きついてくるのがたまらないだの)をしてくるのを羨み、妬みながら聞く日々だった。王妃陛下ももちろん娘自慢(着せ替えが楽しいだの、おままごとが可愛らしいだの)聞かされていた。

 友人達と話した後で息子達に会えば、彼らはやんちゃ盛り。より娘が欲しくなる。癒しが欲しくなる。


 そんなある日だ。王妃陛下が懐妊した。


 国王夫妻、狂喜。王子殿下達、また増えるのかと溜め息。

 第一王子のデューク殿下曰く、また厄介なのが増えるのかと頭が痛くなったそうだ。大変だな、お兄ちゃん。

 しかしまぁ、また男児が生まれたらどうしようもないという事で、夫妻は神殿やら何やらと不気味なもんに祈祷する事に熱中し始めた。

 俺も一度だけその様子を見たことがある。その時の夫妻の目は完全に逝っていた。怖かったわ、マジで。

 で、とうとう出産。お二人の狂気じみた祈祷が通じたのか、(言っちゃあ、アレだが)生まれた赤子の股間にブツは付いていなかった。見事にその赤子は女児だったわけだ。その赤子はエルシーリアと名付けられた。

 王子殿下達はまた下の子が生まれうんざりといった感じだったが、男児とは違う小さく柔らかな体。目障りにやんちゃするわけでなく、耳障りに喚くわけでもない初の妹に大興奮。何より、エルシーリア殿下が生まれて以来、厳しかった王妃陛下のレッスン(多分、王妃の八つ当たり込みだぜ)は今でのは何だったんだと思うくらい優しくなったんだとか。

 奴らにとって妹は救世主だったわけだな。案の定、家族全員が王女を溺愛した。


 そんでもって、俺だが、そもそも俺はデューク殿下の乳兄弟だったんだ。デューク殿下が乳兄弟である俺にぜひ見て欲しいと誘ってきた。ただ妹自慢がしたいだけだろうが。

 エルシーリア殿下に会う前、デューク殿下は俺に忠告(けいこく)してきた。


 その一、妹に惚れるな。

 その二、妹に触れるな。

 その三、妹に話しかけるな。


 いや、アンタの妹、赤ちゃんでしょ?今仲良くなったって大きくなっても覚えているわけじゃないでしょ? そもそも、赤ちゃん相手に惚れるわけないじゃん。何考えてんの、バッカじゃねぇの、このシスコン。

 言いたい事は山ほどあったが、流石に不敬罪にあたるので全て心の中に留めておいた。長年の親友であり、乳兄弟である俺を犯罪者にすんじゃねぇよ。


 エルシーリア殿下との初対面の日、殿下は俺を王女殿下の元に連れてきた。彼女は王妃陛下の腕の中ですやすやと眠っていた。髪は国王陛下譲りで金髪。顔立ちは王妃陛下譲りで将来絶対に美人になるであろう造形をしていた。

 うちは男二人兄弟。弟は生まれた時から女たらしで男はシカト、女のみ反応を返すという可愛げのないクソガキだった。そんなだから、こんなに可愛らしい赤ちゃんを見たのは初めてだった。そりゃあ、可愛がるだろうよ、と納得したよ。


「うふふ、本当に可愛いでしょう?」


 ええ、実に可愛らしいですね。俺もあんな天性の色ボケな弟じゃなくてこんな可愛い妹が欲しかったです、王妃陛下。


「私の自慢の娘だ。惚れるなよ、ジェイク」


 俺は生まれて間も無い赤ん坊に惚れるような特殊な性癖は持ってないですよ、国王陛下。


「今日も愛らしいね、僕のエル。ご覧よ、ジェイク。エルのこの寝顔。君が僕の親友でなかったら、絶対に見せてないからね」


 僕のエルって何。独占欲強過ぎでしょ。ってか、ただの乳兄弟じゃ見せなかったんですね、デューク殿下。


 と、そこへ、三人と話していたら次々と王子殿下達がやってきた。みんなエルシーリア殿下に夢中だ。あまりの夢中さに割り込めないよ、俺。

 なんだ、いたのか。邪魔だ、失せろと言わんばかりに弟王子達に睨まれる。酷過ぎじゃね、俺、アンタらの兄貴に連れてこられたんですが。

 もう帰りてぇなー、と遠い目でバカ兄弟を傍観していたら、奴らが我先にと王女殿下と戯れようとしたせいであまりの煩さに目を覚ました王女殿下が泣いてしまった。


「あらあら、貴方達が寄って集るから、エルが泣いてしまったじゃないの」

「自重しろ、お前達。あぁ、泣かないでくれ、私の可愛いエル。そんなに泣くと顔が溶けてしまうぞ」


 デロッデロに甘いですね、両陛下。恋愛とはまた違う砂吐きそうな甘さだよ。


「ごめんね、僕のエル。今すぐこいつらを追い出すから」

「兄上のものでもありませんし、父上のものでもありませんよ。さぁ、可愛いエル、僕の腕の中においでなさい」

「エルは僕と遊ぶんだよ、兄上達は引っ込んどけよ」

「違うよ、僕と遊ぶんだよ」

「エルと遊ぶの、僕」


 エルシーリア・セレスタ、0歳。早くも魔性の女と化している。国一番の美形であろう兄貴達を全員誑かすとは、恐ろしい子ッ!

 バカ兄弟達が口論をしだし、エルシーリア殿下は更に大泣きした。それでも、奴らの口論は止まらない。しゃーねぇーな。


「殿下方、王女殿下を泣き止ませたいのであれば、まず静かになさって下さい。喧嘩をしたいのであれば外でお願いします」


 頼む、喧嘩は他所でやってくれ。俺の言葉が効いたのか、殿下達は皆黙った。王女殿下の効果はでけーな。

 そこでふと、赤ん坊の泣き声が止まっているのに気がつく。ぱっと王女殿下の方を見ると、殿下は何故か俺をガン見していた。そう、ガン見だ。生まれたてほやほやの赤ん坊が瞬きもせずガン見。

 王女殿下の目は海のような蒼色だった。王妃陛下譲りなんだな、と見つめ返したら、王女殿下はにっこりと笑った。

 俺を見て、笑ったのだ。


「……ジェイク……」


 ハッとなって、声のした方を見る。俺の名を呼んだのは、デューク殿下だ。彼の、いや、王妃陛下を除く彼らの背後には真っ黒なオーラがあった。

 俺の頭の中で警鐘がガンガンと鳴り響く。俺はこの時こう思った。ヤバイ、死ぬかも。それを押し隠して、笑顔で尋ねる。


「……な、何か?」

「今、エルが笑った」

「そ、そーですねぇ! 今笑ってましたねぇ!」


 焦りまくったせいか、敬語が乱れる。


「いやー、実に可愛らしいお顔でしたね! 殿下達は毎日あの笑顔を見ているんだなと思うと、羨ましい限りですよ!!」


 アハハハ……、と渇いた笑い声を上げる俺。これで幾分か和らぐかと思いきや、むしろ黒いオーラは更にデカくなった。あれー?

 滝の如く汗をかく俺に国王陛下が爆弾を落とした。


「私は笑ってもらった事なんぞ、一度もないぞ……?」


 その言葉と共に黒いオーラは爆発した。あ、もう、死んだな、俺。一瞬にして死を悟る。

 だが、そこで自分の命を諦める俺ではない。


「あ、俺、用事を思い出したんで、帰ります」

「待ちなよ」


 ガシッと肩を掴まれる。って、痛っ!? ちょ、手の力強いよ、デューク殿下!?


「用事を思い出したか何だか知らないけど、王族相手に、それも国王夫妻及びに次期国王である僕や王子である弟達に対し何たる無礼だろうね? 不敬罪だ。今すぐ死になよ」

「兄上、それだけでは足りませんよ。拷問にいたしましょう。死なんぞよりも過酷な苦痛を」

「「ただでは死なせてあげないよー?」」

「絶望、しろ」

「エルの父であり、国王である私よりもその笑みを拝むとは……ジェイク、お前には失望した」


え、ちょっと、みんなして何言ってんの!? ってか、王子達も国王陛下も何そんな怖いこと言っちゃってんの!? 王妃陛下も笑ってないで止めて!?


「ってか、不敬罪って、ただ笑顔を向けてもらわなかったくらいで俺の人生を潰そうとしないでくださいよ!!」

「黙れ!! 私の可愛い可愛いかわ(略)娘を誑かしおって!! 万死に値する!!」

「万死って……ちょ、ちょっと待って下さいよ、国王陛下!剣持ってこっちに来ないでぇぇええ!?」


 かくして、俺はこの日から王家の方々(王妃陛下と王女殿下除く)から目の敵にされるようになってしまった。

 実はというと、その日以来王城には参っていない。王城に来る事を禁じるという内容が書かれた書状が来ているので、行けないのだ。


 つーかよ、怖過ぎて行けねーよ。行ったら殺されるよ、絶対。


 そう思い、必要な儀式の時以外は訪れないようになるべく避けていたのだが……。



 神様、俺は何か悪い事をしましたか? 俺は常日頃から真面目に生きようと心掛けてきました。我がフォスター領の領民には親切心、思いやりを持って接してきました。

 親父がまともに仕事をしないので、俺が代わりにやってきました。領民に対しての親切はそのお詫びのようなものです。色ボケな弟がたまに領から女を攫ったり、使用人の女性に無理矢理迫ったりして口では言えない事をしようとしたことがあったので、見張りを置き、それでもやろうとした時はぶん殴って叱り飛ばしてきました。その度に、何故か親父と奴の奥が俺を怒鳴ってくるのですが、正論で跳ね返してきました。最近では食事に毒が盛られたり、暗殺者が使用人に紛れていたり、夜中に襲ってきたりとしてきます。全部返り討ちにしてやりましたが。

 今の今まで身を粉にして働いてきました。だから、俺の願いを一つくらい聞いてくれたっていいと思うんです。


「ジェイクさま〜! おまちくださいまし〜!!」


 すぐ後ろからどこぞの王女の声が聞こえる。おかしいな。俺、結構全力で走ってんのにだんだんと声が近付いて来てる気がする。まさかねまさかねまさかねまさーー


「ジェイクさま〜!!」


 すぐ後ろにいたァアア!!


 振り返ると、数メートル後ろにいたのはエルシーリア王女殿下。

 おかしい……。王女殿下はまだ五歳のはずだ。ジェイクは騎士団にも務めており、それなりに鍛えられていて体力はあり、何よりスピードは素晴らしいと上司にも賞賛されるほどの実力者だ。にもかかわらず、五歳の幼女がそれに引けを取らない、いやそれ以上の速さで走っている。おかしい、この王女絶対おかしい。


 ってか、目が、目が完全に捕食者の目じゃねぇか!! 絶対おかしいって、この王女!!


「つかまえましたわぁぁ!!」

「イヤァァアア!!」


 とうとう騎士団務めの男はたった五歳の幼女に捕まった。


「つかまえましたわ、わたくしのきしさま!! もうにがさなくってよ!!」

「え、ちょ、そんな!! だ、誰か助けてぇええええ!!」


 王城内に悲惨な絶叫が鳴り響く。


 王女エルシーリアに見事捕獲されたジェイクは十数年後、彼女と結婚する事になり、義兄達や舅殿にいびられながらも、幸せにくらしましたとさ。


 おしまい☆


「終わるなぁぁああ!!」


ジェイクさん、乙。

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