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王子教育物語1

 城の庭を歩きながら、二人の男達が辺りを見渡していた。何かを捜しているようだ。男達は剣を腰に下げている。その剣は綺麗な装飾が施されており、また彼らの着用している服装も一般の兵士とは異なった華美な服装をしていた。胸に王家の紋章を飾っているので、近衛兵だと思われた。


「殿下! 何処にいらっしゃるのですか!?」

「隠れていないで出てきてください!」


 人捜しをしているらしい。声を上げ、目的の人物に呼びかける。当然、返事など来ない。二人の内の一人が溜め息を吐く。


「全くあの王子は何処にいやがる……」

「いつも手間ばかりかけさせやがって……」


 近衛兵に似つかわしくない乱暴な口調だ。無理もない。ただいまの時刻はちょうど午後三時。彼らは正午くらいから捜しているのだ。疲れ、苛立ってくるのは当たり前だと言えよう。


「今は亡き正妃様の唯一の御子といえど、本人があんな問題児じゃあな」

「あまり年の変わらない異母弟であるマーク殿下の方が優秀だし」

「優秀な第二王子に比べ、第一王子は出来損ない。国王陛下もお可哀相に……」


 嘲笑し合う彼らの声を、茂みに隠れた一人の小さな男の子が聞いていた。眉間に皺を寄せ、彼らを睨みつけている。彼は手近にあった小石を拾い、それを近衛兵達に向けて投げつけた。


「って! なんだ? ……って、アーサー殿下!?」


 身体に何かが当たり、何事かと振り返ると小さな少年がこちらを睨みつけていた。彼は素早く踵を返して走り出す。


「しまった! 追え!!」


 二人はやっと見つけた目的の人物を慌てて追いかける。逃げる少年は決して振り返らずに、真っ直ぐ走った。


 幾滴もの雫を零して。
















  *  *  *  *



「専属の教師に?」


 突然の事に目を点にして聞き返す。机の上には数枚の書類が置いてあった。


「それも第一王子のな」


 聞き返された相手はそう返した。お気に入りのクッキーに噛り付いて。


「何の話かと思えば、王子殿下の専属の教師をしろと? いきなり過ぎではありませんか、先生」

「しろとは言っておらん。してみないかと言ったんじゃ。あと、わしを先生と呼ぶ必要はない。お前も同じ先生じゃろう?」

「私にとっては貴方はいつまでも私の先生ですよ」


 先生と呼ばれた男の名はトム・ロドニー。この王国の名門大学の教授をしている。対する男の名はルクレツィオ・カルバーニ。准教授をしていた。ルクレツィオにとってトムは恩師。頼まれれば嫌という事はない。

 だが、今回だけは別だった。


「第一王子は問題児だと噂で聞いております。それに、私はまだ28ですよ? 王子の教育に携わるにはまだ若いですし、経験も足りません。そもそも、先生が行くべきなのでは?」

「わしとてそうしたいのはやまやまなんだが、生憎と今は研究で忙しくてな。それに、第一王子はよく部屋から逃げ出して城や城の庭中を逃げ回るそうだ。年寄りに全力で走らせるなんぞ、なんという苦行を強いる気だ、この鬼畜め」

「その言葉、そのまま貴方にお返ししますよ」


 かけている丸眼鏡の奥の瞳から、冷たく恩師を見返す。 年寄りに対して酷い奴じゃとトムは呟いた。


「他の方々はどうなのですか? 私より優秀な方はいくらでもいる」

「そうじゃな。だが、そいつらは皆第一王子の問題児振りにはついていけなかったのじゃ。次々と辞めていったらしいのぉ」


 自慢の顎鬚を撫でながら、のんびりと辞めていった面々を思い浮かべる。その中にはたくさんの知り合いも入っていた。

 ルクレツィオは書類をペラペラと捲っていく。

 第一王子アーサー。現在7歳。今は亡き正妃アレクサンドラのたった一人の忘れ形見。ここ半年で辞めた教師は10人は軽く越えている。誰彼構わず、数々の悪戯を繰り広げる悪童と記載されていた。悪戯の内容も内容で、7歳の少年が考えついたものとは思えないほどの悪質さがあった。


「第一王子は非常に活発な方のようですね。私には無理です」

「わしがお前にこれを勧めた理由がそれだけだと思うのか?」


 捲る指をピタッと動きを止め、トムを見る。彼は真剣にこちらを見ていた。


「ルークよ、お前なら分かるはずじゃ。問題児とされ、見放された者の気持ちが」

「!」

「その報告書を見て、わしが思うに、第一王子に必要なのは理解者じゃ。お前なら良き理解者になれるとわしは信じておる」

「……随分と私を信用されているんですね」

「なんたってお前はわしの一番の教え子だからな」


 かっかっか、と快活に笑う。トムにはたくさんの優秀な教え子がいる。そんな中で一番と言ってもらえるとやはり嬉しいものだ。つい、口元が緩む。


「受けてくれるか?」

「……そこまで言われたら、受ける他無いでしょう?」


 完全に乗せられてしまったな。そう思うが、悪い気はしなかった。ルクレツィオは書類を手に取り、座っていた長椅子から立ち上がる。


「話がそれだけなら私は戻りますね。上にも、私が受けるとお伝え下さい。日付が決まったならすぐに教えて下さいね、先生」

「あぁ、待て。話はそれだけではない」


 出ようと扉に手をかけたルクレツィオをトムは引き止める。


「何か?」

「……今朝手に入れたわしの戦利品を知らんか?」


 いつになく重々しい口調だ。戦利品、その言葉に身に覚えなどないが、今朝と言われたら何やら覚えがあった。


「そういえば、今朝机の上に置いてあったプリンはとても美味しかったですね。ご馳走様でした」

「ルーク……!!」


 トムのこめかみに青筋が浮かぶ。今朝手に入れた戦利品(プリン)とは現在王国で大人気のスイーツ店の一番人気の品だ。トムは甘いものが大好物で、なかなか手に入れられないあのプリンを今朝やっと入手できたのだ。それも、老体に鞭打ってまでだ。ルクレツィオとて分かっていたはずなのに。

 当のルクレツィオはにっこりと笑みを浮かべていた。罪悪感などまるで無い。


「では失礼しますね、ロドニー教授」

「ル、ルークゥゥウウ!!」


 ルクレツィオが扉を閉めたと同時に、トムの絶叫が大学中に響き渡った。

 学生、その他諸々曰く、その日のロドニー教授は何だか元気がなかったらしい。人のいない階段で、誰かに呪符を吐いていたとも言われている。呪符を吐いた相手は言わずもがな、である。



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