孵化
特殊な設定なので、嫌悪感を感じた方はおやめください。
別作品のネタバレ含んでますが、あんまり明言してないので気にせずどうぞ(笑)
私の原初の記憶は少女の姿をした父と、父の姿をした自分だった。
随分と長い事私と父は二人で旅をしながら妖魔を狩っていた。
たまに人間の町や、天の町に赴くこともあったが、基本旅だった。
おかげで私は自分を理解していなかった。
私は仙士。
神々の血を引き、天に暮らす一族の娘である。
この身に宿る神力は母方の神、縁を基盤とするらしい。
らしい、というのも可笑しな言い方だが、
私はその母の術…父曰く癇癪の末の呪により物心つく前に入れ替わっていた。
仙士の成長過程は特殊なのが多く、
私の場合は15、6歳ほどの外見で一度止まり、その後緩やか。
ずっと父の体に入っていたので、客観的に自分の姿を評するなら、
現在400手前の年齢で20歳手前、しかし成長に偏りが激しい容姿をしている。
もっとも私の容姿なんて些細な話だ。
問題なのは、私は自分が女であると知っていたが、理解していなかった事だ。
紆余曲折を経て、
天へ戻った父と私は『天』に仕える事となった。
…場所も、機関も天という名前なのは紛らわしいが、つまり宮仕えだ。
旅でも妖魔を狩っていたので仕事自体は楽だった。
ちなみに仕事の内容はいまいち理解していないので、相方にでも聞いてくれ。
さてその相方なんだが、
温和で常に柔和な笑みを浮かべたような表情をした術師。
それでいて、実は古代に滅びた破壊の女神の唯一の血を継ぐ存在。
…ちなみに神々の血は基本片方しか継げないので、系統が滅びたらおしまい。
初めての友人、という存在である彼は私に起きた事情を知っている。
というより…事情に巻き込まれた、見事に。
その辺は、再開した私の母の手腕によるものだったりする。
そして今現在、私は自分の体に戻り女性として生きている。
「だから、こうなった。」
「…だからに繋がらないと思うよ、この状況…。」
状況…場所は相方の部屋で、私は今相方の上に馬乗りなっている。
「うーん、もう少し説明が必要?」
「説明よりまずどいて、お願いだからどいて!」
私は難しい話は苦手だ、眠くなる。
よって、母が説明してくれたホルモンがどうたらという話を説明出来ない。
眠りそうになると母の扇に叩かれつつ聞いていたが、
理解しきれていないのを理解した母が一言。
「恋だそうだ。」
「今説明投げたよね!?明らかに結論に飛んだよね!?」
頭を抱えて涙目で叫ぶ青年を見て、可愛いと感じるのは惚れた欲目だろう。
友人だと思っていた、間違いなく。
けれど、自分に戻った瞬間、日常であったはずの日々にできた違和感。
手を繋ぐだけで足りなくて、衣服越しの体温がもどかしい。
それらの感情の意味を知った時、初めて自分の中の女性を理解した。
悩むのは性に合わない。
だから―――、
「諦めてさっさと私の物になってね、紅軌。」
「…世迷いごと言ってないで、屋敷に帰れー!」
いつ間にか、私の下から脱出した彼の神力が形を成す。
純粋な神力ではあちらが数段上、普段は暴走しやすい性質なため抑えがちだが、
今は我を忘れて振るっている。
さしもの私も全力の彼には勝てず、この日は撤退となった。
まあ、父親譲りの直情型の行動力と母親譲りの傲慢さを継いだ私から逃げるのは難しいけど?
それに紅軌は私に甘いし。
…恋敵は刀の錆にしつつ、がんばりますか!
主人公の名前出てませんが名乗るタイプじゃないので出なかった・・・。
もしかしたら紅軌の視点で続き書くかもしれないので、そこで!
ちなみに紅軌は可愛いとか言われてますが、別に可愛いタイプではない。
中性的な綺麗寄り、細いけど背が高い。
体格差は次があれば…並ぶとすごい感じと予告(笑)