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第一話「これがいわゆる異世界転移」

 僕、明星 実<みょうじょう みのる>は、普通の男子中学生。異世界転移モノが好きで、好きな作家さんの最新作のために夜ふかししてしまうくらい、普通の。

 

 読み終わるのに三時間はかかりそうなその本を、パラリパラリとめくり挿絵だけをまずながめる。


「3巻ぶりのフィアちゃんのソロイラストだ!作画担当さん、マジでありがと。」

 

 すると、最後のページと表紙の間に、推しのキャラ、フィアちゃんが描かれたしおりが入っていることに気づく。


「しゃあああああ!!!」


「みのるー!もうちょい声小さくしてー!」


夜10時には確実に合わない大声を出し、母にとがめられる。


「やべっ……ごめんごめん、お母さん。」

 

 ふとんをベットから持って来てガバリと被り、物理的に音量を下げる。前みたいに本ごと取り上げられるのはごめんだ。

 

ビュウッ!

 

 強い風が吹いて、本当に不自然に、部屋から窓に向かって吹いて、机に置いていたしおりが飛ばされる。

「フィアちゃん!」


 愛というのは恐ろしいものだ、と思う。だって、窓から身を乗り出し、しおりを取ろうとしてしまうほどなのだから。


「うぇ!?」

 

 体が落ちる、感覚。 後悔も浮かばない一瞬の間に、地面が近づく。

 と、むらさき色のキラキラした布みたいなのが目の前に現れ――意識が消えた。


 目を開けると、一言で言えば、天国。

 

 金色の目、黒くて軽そうな長髪。赤い布に金の飾りがつけられたへそ出しの服。ただ、その目の下にはクマがある。


「あっ!起きたぁ!おはよっ!」

 

 鈴を転がしたような、というよりはぶん投げたような声。


「だれー?どちらさまー!?使徒なの?」


「え、と。実です、明星実です。」


「みょうじょう!!キラキラだねぇ!あたしはドーナだよー!ここの僧侶!」

 

僧侶、……僧侶!!?!この服装、話し方で、僧侶!?!

どうやらここは、僕の住む世界とは違うようだ。異世界、ということか。


「……あのね、キミはね、落ちてきたー!拾ったー!!みんなにあいさつしよー!?」

 

 彼女は僕の手を掴み、ムリヤリベットから起こしてドアの方へ走る。


 手がすべすべとか、思う暇も与えてくれない。

 ドアを開けると、杖をついてかろうじて立っている老人がいた。

 

 後ろにいる4人の美女を含めても、比較的豪華な服を着ている。


「はじめまして。空からの旅人様。トラゲ村へようこそ。わたしは村長のリエルリと申します。といっても、村の統治はほとんどドーナ含めた後ろの五賢人に任せていますが。」  

 

 後ろの美女には、動く狼の耳がついた子もいる。やはりここは僕が好きな異世界ファンタジー的な世界のようだ。いや、魔法とか見ない限りは早計か?


「はじめまして。僕は明星実です。」


「ミノル魔族とかじゃないよー!」

 

 僕の手をブンブンし、きゃあきゃあと補足説明をしてくれるドーナさん。遅れて照れが来たので、そろそろ手を離してほしい。

 

 すると、後ろにいる美女のうち、狼の耳がある赤髪の子が口を開く。


「弱っちそ!魔族だとしても気にする必要はなさそうね!あっしはミア、五賢人装備担当。」


 狼の血が混ざっている(?)この子からすれば僕は豆腐のように弱いのだろう。


 あれ、この子も、目の下にクマがあるな。いや、目の前の人たち、全員だ。


「あの、僕ってどれくらい前に落ちてきましたか?皆さんすごくお疲れに見えるのですが、ずっと前から待ってて下さったとか……?」

 

 すると、フィアちゃんに似た、金髪の可愛らしい女の子、エルフだろうか。が半歩前に出る。


「ふわぁ……3時間くらい前だよー。疲れてそうなのはみんなそうだからぁ……。学び舎担当、マイラ・エルフィリアだよー。よろしくー。ねむ……」


「みんな?」


「……うん。」


全員が疲れているとは、どういう――

それを説明するように、オレンジ色のおかっぱ頭の少女が水晶をこちらに突き出す。


「ミノルさん、はじめまして。わたくしはヒュード・ララ。五賢人ギルド担当です。わたくしのつたないステータスで申し訳ないのですが、こちらを見てもらえますか?」


ヒュード・ララ LV19 状態異常<不眠>

体力:56778

魔力:160

スキル

<商人の嗅覚>

<魔法石鑑定>

<モンスター素材鑑定>


「あ、はい。えっと、状態異常<不眠>……?」


「この世の者は、魔族……ギルドで討伐を依頼している種族以外、この状態異常を背負っているのです。人類の歴史が始まってから今まで、一度も外れたことはありません。」

 

そんな。そんな事があっていいのか。調子に乗って2時に寝たときのだるさを、ずっと背負っているというのか。


「酷い……」


「……あの、もしよろしければあなたのステータスを見てもよろしいですか?」


「はい」


水晶に手をかざすと、僕のステータス、能力値がでてくる。


ああ。ヒュードさんのステータスよりも圧倒的に低すぎる。


ミノル・ミョウジョウ  LV3

体力:560

魔力:3

スキル

<快眠>


わ〜、弱っちそー。苦笑いするしかなーい。


周りが、ざわつく。どうしたんだ?


「……これは、!!!リエルリさん!」

「……ああ。」

 

え、何?弱すぎるとは思うけど、そこまで?

すると、五賢人の一人であろう角の生えた少女が万をじして口を開く。


「安心したまえ、少年。キミはこれから、とても称賛、いや、崇められるだろう。キミのスキルは、我々の不眠を救うかもしれない。ボクはフィンク。戦闘担当だ。」


……あ!たしかに!この快眠っていうスキルなら……!


「ああ、それと、異世界転移者は歴史上何人か来ている。異世界無双ってやつに、キミはなれる。」


なんて、僕が思い至る前に、言われてしまった。


「すごーい!!!新しい神様じゃん!!」


ドーナさんが僕を軽々と持ち上げて回す。ほんとに、ほんとに胸が張り裂けそうだ。


「へぇ……って、尊敬なんてしてやんないんだからね!」


と、ミアさんが顔を背ける。


「眠くなくなるのぉ……?じゃあ寝かせてぇー」


 マイラはさん頭をふらっと下げた。おじぎだろうか。


「ふむ、王都にわが町の代表として紹介すれば、ここが第二の王都になる可能性も……!もちろん、欲しい物はいくらでも捧げます。わが町の代表になってもらえませんか?」


 ヒュードさんは急激に興奮し、両手を広げた。



 まだスキルがどんなものかもわかんないのに、そんな期待しないでくれ。


 でも、もし僕にできることがあるのなら……

「まずは、スキルを使わせてください……!!」


 とりあえず、まずはこの心臓の強震と、目の前の美麗な方々に恋愛的に好かれるかもしれないという自分の勘違いをなくすことから始めようっ……!!

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