探索者ギルドが騒々しい
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本日は6時、12時、18時の3回更新です。
ようやくと言うか、特に問題もなく、謙信は領都ガイアスへと到着した。
これもバルガスのお陰である。
道中、魔物に襲われたのだが謙信の自信は粉々に打ち砕かれてしまった。
と言うのも地球と全く同じ魔物に遭遇したのだが、謙信はバルガスを護るべく必死に戦った。
ゴブリンは地球時代でも比較的簡単に倒せていたので問題なかったのだが、初めて見る相手もいてとても苦戦を強いられたのだ。
その魔物は殺し屋兎と言い、かなりの俊敏さと瞬発力に加えて包丁の二刀流攻撃を仕掛けてくるため、謙信は避けるだけで精一杯であった。
ちなみに名前は対象の真上に表示されるので初めての相手でも、分かるようになっているのだ。
この辺りも地球と同じなんだなと思った事を覚えている。
と言うか何しろ謙信の位階は5である。
まだまだ倒せるモンスターは少ないと言っても良い。
ちなみに殺し屋兎はバルガスが倒してくれた。
ただの農夫だと思っていた謙信にショックが走ったのはその時である。
聞いてみると彼の位階は15だそうだ。
思わず絶句したわ。
この辺りで生活していくにはそれなりの強さを持っていなければならないらしい。過酷な暮らしなのかとも思ったが、バルガス的にはそうでもないと言う。
謙信は聞くのも悪いかと聞かずにいたのだが、彼は気にしていないようで簡単に職業などを教えてくれた。
彼は重戦士で定期的に、村人総出で周辺に出現する魔物を狩っているそうだ。
強くなるはずである。
日本では今のところダンジョン以外では魔物が出現したと言う話は聞かないが、もしかするとこれからそう言うことも起こるのかも知れない。
領都に入った謙信はバルガスと別れると探索者ギルドへとやってきていた。
中に入ると正面には受付カウンターがあり、左奥は飲食スペースになっている。
右手は魔核、素材・アイテム買い取りのカウンターのようだ。
入口側の壁には巨大な掲示板があり、依頼状が紙で貼り出されている。
ダンジョン攻略だけではなく、古代遺跡や天空回廊、浮遊大陸なんてものもあるらしく、年甲斐もなく心が踊ってしまった。
謙信は受付カウンターに並ぶと順番を待った。
周囲の探索者をチラチラと窺うと全身を鎧で固めている者、軽装な革製の鎧を着ている者、巨大な片刃斧を肩に担いでいる者など様々だ。装備の面では日本の方が洗練されているような気もするが、性能の方は分からない。この世界にも地球各地で見つかったような新素材があるだろうし。
何と言っても異世界なのである。
そんな事を考えている内に謙信の順番が回ってきた。
「本日は何の御用でしょうか?」
受付嬢のお姉さんがバリバリの営業スマイルで訪ねて来た。
プロ意識が垣間見える。
「あー探索者登録したいんだがいいですかね?」
「もちろんです。登録料は3000ゴルドです」
「えっ(お金かかんの?)」
「えっ(何でお金かかんないと思ったの?)」
しばしの沈黙が流れる。
気まずい。
その空気を破ったのは受付嬢の方だった。
「お客様、外で魔物を狩って素材を売っては如何でしょう?」
にこやかな笑みは変わらないが、一昨日来やがれと言う雰囲気は伝わってくる。
仕方ないので出直すしかないかと諦めそうになった瞬間、ソフィの声がした。
『それではこれでお願いします』
チャリンチャリンと硬貨がカウンターに落ちて音が響く。
落ちてきたのは三枚の銅貨。
なるほど、これで3000ゴルドかと思っていると、受付嬢は謙信の頭上を見て呆気に取られた顔をしていた。他の人には見えないようになっているのかと思っていたが、そうでもないらしい。バルガスは敢えて突っ込まずにいてくれたようだ。
「なんでお金持ってんだよ……まぁ助かったけど」
『是非、お使いください』
「スマンな。ありがとう……」
『……』
何処か照れている感情が伝わってくるような気がしたが気のせいだろう。
宝珠にもそんなものが備わっているとか疑問だし。
「で、ではこれで登録させて頂きますね。今から探索者ライセンスを発行致しますので、こちらの装置に手をおいてください」
驚愕から見事立ち直った受付嬢にプロ根性を見た謙信。
彼女の言う通りに、すぐに装置に手をやった。
恐らく異世界物によくある能力を図る魔導具と言うヤツだろう。
石板のような物に触れた瞬間に、目が眩まんばかりの強烈な光が周囲を明るく照らした。
次々と石板に知らない文字が記載され、そして消えていく。
知らない文字だが、日本語のように読める辺り流石は異世界と言ったところか。
すると石板からカード状の物が排出される。
「なんかプリンターみたいだな」
受付嬢はそれを取ると確認のために目を通した。
さっと確認するつもりだけだった彼女の顔がまたしても驚愕に染まる。
それに気が付いたギルド職員たちが彼女の回りに集まって、周囲はざわざわと騒めきに包まれていく。
「あの……何かあったんですか……?」
ギルド職員たちは謙信の問い掛けに気付いていないようで小声で何か言い合っている。何なのか気になるものの、声が小さすぎてとてもじゃないが聞こえない。
「なんだこの職業は……?」
「これって今まで存在してませんでしたよね?」
「未知の職業の発見か……ギルドネットに照合してみてくれ」
「『カード使い』ですか……アイテムにもカードはありますし、別にどの職業でも普通に使えますけど差別化されてるんでしょうか?」
ひそひそを声を潜めて話す職員達だが、待っていても埒が明かないと思った謙信は仕方なく切り出した。
「あの! これで登録は完了したんですよね。探索者ライセンス頂けませんか?」
「あっはい……ただ今、少々お待ちください」
慌てて返事する受付嬢であったが、その背後では未だこそこそ話が続いている。
時折、謙信の方にチラチラと視線をやってくるので、当然気付かないはずがない。
「やはり未発見の職業のようです。当然、能力も分かりません」
「彼の名は……ケンシン・タケダ? 変わった名前だな。とにかく彼は要注意人物に指定する。その動向に注意して能力を探るのだ」
「ええ……でも位階5ですよ? ダンジョン探索していきなり死なれたらどうするんです?」
「とにかくそれとなく伝えろ! 無謀だってな。クランにでも推薦してもいい」
カウンターの奥でギルド職員と共に何やら話していた受付嬢が戻ってくると、探索者ライセンスを手渡してきた。
念願の探索者ライセンスを手に入れたぞ!
と浮かれそうになったのはいいが、よくよく見ると特段変わったところはない。
むしろ――
「これって日本のライセンスと同じじゃないか? 書式まで一緒って有り得るのか……?」
そこには武田謙信の詳細情報――個人の能力が全て分かる情報が記されている。
何度も裏返したり、見直してみたりするが、変わるはずもなく。
今考えてもどうせ無駄な話だ。
何しろ手がかりもヒントもない。
これなら日本で使っていたライセンスを出せばよかった。
そう思ったが、職業を得た事を思い出して仕方ない事だったのだと考え直した。
細かい事はいい。
謙信は考えるのを止めて職業が付与された事を素直に喜ぼうと思うのであった。
「あのケンシン様……」
浮かれていた謙信に受付嬢が話し掛けてきた。
もう話は終わったつもりだったので、次は何を言われるんだと思わず構えてしまった。
「すぐにダンジョンに潜られるのですか?」
「はい。一応はそのつもりです」
取り敢えず兎にも角にも早急に必要な物が存在する。
金だ。金が要る。
「ケンシン様はまだ位階5なので単独での探索は厳しいかと……何処かのクランをご紹介致しましょうか?」
「うーん。有り難いお話ですが、当分は一人でやってみようかと思っています。何かあったら相談させてください」
バルガスでさえ位階15だったのだ。
上位のランカーともなればかなりの高位階だろう。
確かに危険かも知れないが、まずはやれるだけやってみようの精神である。
異世界だから配信で食べていく事はできないが、探索で得た物を売って生活していく事はできる。
むしろ、現状ではそれしかない。
それにあの女神が言った修行して来いと言うのが本気なら、監視者のサフィも黙ってはいないだろう。
気になる事もある。この世界に飛ばされる瞬間に言われたセリフだが『強くなるまで帰ってくんなぁぁぁ!!』と言うものだった
となると強くなれば地球に帰還できるのではないだろうか?
どちらの世界が暮らし易いかは分からない。
謙信はあの世界大変革後の人々の醜悪さには辟易しているが、家族や友人達のようなまともな者もいる。
地球で自分の扱いがどうなっているのか気になるものの、頑張って強くなり日本に帰る事を目標としようと謙信は心に決めた。
その後、ギルドから出ると謙信は道を聞きながらダンジョンの方向へと向かう。
『謙信様、もしかしていきなりダンジョンに行くつもりですか?』
「え、そうだけど?」
『今日はもう遅いですし休まれては? それに能力の確認も必要かと』
「それは俺も考えたんだが、金がない。全てはそれに集約されるんだ。先立つものがないと宿も取れないからな……世知辛い世の中……」
『ハァ……私がお金を支払いますので宿屋に行きましょう。そして早急に能力の理解をしてください』
溜め息のような声が聞こえたのは気のせいだろうか。
監視者とは何者なのか気になるが、ギルドでも金お払ってもらった以上、更に甘える訳にもいかない。
「え。悪いしいいよ。頼りっぱなしは駄目だ。自力で何とかするから」
『駄目です。許可できません』
こんなやり取りが何度か繰り返されたのだが、有無を言わせぬ圧を受けて謙信はサフィの厚意に甘える事にした。
宿へと向かう前に待っているはずのバルガスの元へと急ぐ。
事情を説明すると分かったと言ってもらえた上、困ったらいつでも村へ来てくれとまで言われてしまった。
本当に世話になりっぱなしなので、この恩は必ず返そうと心に誓い、彼と別れた。
こうなったからには職業、『カード使い』と技能、【カード】の力を頭に叩き込もうと意気込む謙信であった。
そして必ずや使いこなして見せるのだ。
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