新たな出会い
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地上に帰還を果たした謙信は、まずは心配を掛けたアリアの宿部屋を訪ねたのだが、流石に朝方でまだ眠っている頃だろうと判断して止める事にした。
朝食の時にでも会って説明すれば良い話であり、急を要する事態でもなければ迷惑を掛ける必要もない。
部屋に戻り軋むベッドへ飛び込むと仰向けになって今後について考え始める。
自分の漆黒力を相殺するためには神聖力が必要だ。
現状、候補になりそうなのはアリアだけなのだが、カオス化して自制が利かない状態の謙信を止めるには、ちと心許ない。まずは位階が違い過ぎてダメージが入らないだろうし、動きについてこられるとは思えないのだ。
しかめっ面になりながら謙信は第3者が現れないかと考える。
候補としてはやはり聖女、聖人、聖騎士、聖闘士、司教、司祭、神官、神官騎士などなどが思い浮かぶものの何処かピンとくるものがない。
「うーん。そもそもの話、知り合い自体が少ないからなぁ。となるとギルドで依頼すればいいのか……いやサフィのお陰で閲覧者も増えてるし動画配信で募集するのもいいかもな」
『謙信様、なるべく遠距離攻撃のできる職業の方がよろしいかと』
「え? あーそう言う事か。俺に殴られるのは危険だからな……」
サフィのいつも通りの抑揚のない言葉に気付かされた謙信は、魔法や聖剣技で神聖攻撃をしてくれる存在について考え始める。
呻りながら考えてはみるものの、謙信には自分に攻撃を与えた者に待っているのが最悪な末路であるとしか思えなかった。
遠距離攻撃を数発喰らったところで謙信が止まるはずもなく、その俊敏性であっと言う間に間合いを詰めてぶん殴る未来しか見えなかったのだ。
『人間凶器ですからね。謙信様は』
「どれだけ尖ってんだよ。俺は……」
いつもの突っ込みも心なしか弱めである。
謙信は自嘲気味に苦笑いするとため息を吐きつつ小さい呟きを漏らした。
「いやーこれって結構厳しいかもな。位階の高い人がいればいいんだけど」
謙信の位階は既に60オーバーである。
カオス戦に加えて、天界での天使戦でも経験値を稼いでしまったが故であった。
いくら頭を捻ったところで考えが浮かばないのはしょうがない。
「んーカオス種が現れたらとにかく逃げるか? 後は殴らない。剣を使えば漆黒の力も取り込まない」
『無理でしょう。漆黒のオーラを感知しただけで謙信様は、火に群がる蛾のように吸い寄せられてひたすら敵を殴り続ける事になるでしょう』
言った傍からサフィに即否定されて項垂れる謙信。
口から出るのは諦念の混じった言葉のみ。
「マジかー」
『日本の魔窟省にも頼みましたし、そちらに期待しましょう。大勢が知恵を出し合えば弾きだされる回答もあると言うものです』
慰めるように言うサフィの言葉であったが、気休め程度にはなる。
謙信は考えるのを止めて起き上がると、少しばかり早い朝食を摂るべく1階の食堂へと向かった。
案の定、食堂には誰もいなかった。
女将さんは朝食の準備をしていたらしく、謙信が頼めるかと聞いたら快諾してくれた。
すぐに謙信は出来あがったばかりの温かい朝食にありついた。
思わず表情が緩むが、やはり食事は出来立てを食べるのが1番だと実感させられる。とは言え、日本食が恋しい謙信である。
だが、贅沢は言うまい。
硬いパンと野菜スープ、ソーセージを美味しく頂いていると、横手から声が掛けられた。誰もいないものだとばかり思っていたので、不意を突かれた謙信が視線を向けると、そこには大柄な体躯を持つ男が佇んでいた。
「おはよう。そして初めまして。ひょっとすると貴方は謙信殿ではないかな?」
敵意などまるで感じさせない人の良い雰囲気を持った優しげな男だ。
物腰も柔らかいので謙信も警戒を解く。
「如何にも俺が武田謙信ですが? あん……あなたはどちら様で?」
「俺はウォーサイトと言う者さ。貴方の動画はいつも見させてもらっているよ。娘がファンなんだ」
「それは光栄だな。娘さんによろしく!」
自分にもとうとうファンができたかと感慨に耽っている謙信にサフィが声を潜めて話し掛けてきた。
『謙信様、彼は有名な探索者ですよ。是非、コラボしましょう!』
「えっそうなの? 本当に俺はこっちの事情に疎いな……」
『仕方ないかと。ラフィーナ様からももっと潜れと言われましたし、考えるな!潜れ!の精神で行きましょう』
「俺の老後の資金が……」
『ウォーサイトさんとコラボすれば資金が増えますよ』
「全部女神に持って行かれるんじゃねーの?」
謙信とサフィがひそひそと話し合っているところへウォーサイトが申し訳なさそうに会話に入ってくる。
「ええと……丸聞こえなんだが……」
『なッ……謙信様、やはり彼はただ者ではないようです。全て聞かれてしまいました……』
「流石、一流ってのは違うんだな」
何だかサフィが呆けた事を言っているので乗っかってみる謙信。
「ま、まぁコラボは別に構わないんだが、謙信殿も今大変なんじゃないかね? よければ力を貸すぞ?」
「ありがとうございます。そうなんですよねー。とにかく俺の中に溜まった漆黒の力を発散してくれる人が見つかるといいんですけど……それも強い人で。俺の攻撃を受けると能力が奪われちゃうみたいなんですよ」
謙信がしれっと重大事を漏らしたせいで、ウォーサイトは思わず耳を疑ったようで口から大きな驚きの言葉が飛び出る。
「能力を奪う!? そんな事が可能なのかい? それも『カード使い』の能力なのかな?」
「いや、全然関係のない能力らしいんですけど、特殊能力で『龍拳』っ――」
『謙信様』
サフィがここで話の流れをぶった切ったと言う事はしゃべり過ぎだと言う意味だろう。だが、もしも協力してくれると言うのなら、ちゃんと伝えない事は不誠実だし、実際に能力を奪われると言うとてつもない不利益を被る事になるのだ。
そんな事は謙信自身が許せるはずがない。
「サフィ。いい加減に俺の性格を理解してくれ。筋が通らない事はできない」
『……申し訳ございません』
項垂れるような落ち込んだような口調だ。
実際にサフィのそんな様子を幻視する事ができる程である。
「とにかく稀に特殊能力を授かる人間がいるらしいんですよ。それが俺で、能力の名前は『龍拳』。人の能力を奪い取る力があります。なのでリスクが高いんですよね」
「なるほど……謙信殿の攻撃を受ける事なく、漆黒の力を消す必要があるのか……確かに危険ですが、知り合いにダヴィデと言う『聖闘士』がいるので協力できないか聞いてみましょう」
特殊能力の危険性を理解してくれながらも話を通してくれるとは有り難いと謙信は素直に思って頬が緩む。
結果がどうなろうと気持ちが嬉しいではないか。
「あれ? 謙信さん?」
意外と長話をしていたようで、気が付くとアリアが朝食を持ってこちらを見ていた。
「おう、アリア。心配を掛けてごめんな。ちょっと前に何とか戻って来れたんだよ」
手を上げて笑顔で応える謙信に向かってアリアが駆け寄っていく。
少し泣きそうな表情をしているが、安堵の方が勝っているようで言わば泣き笑いと言った感じだ。
「良かったです! まったく! 心配させないでください!」
朝食のトレーをテーブルに置いてポカポカと殴ってくるが、可愛らしい程度のものだ。
ぜ、全力じゃなくて良かったとか思ってないからな!
謙信はそう自分の本音を全力で否定した。
「ごめんごめん。それでな? 元に戻れたのは天使の神聖力で殴られまくったせいなんだ。ボコボコにされちまったよ。要は俺の漆黒の力を発散させればいいみたいなんだ。神聖力で相殺するか、散らすかだな」
「お任せください! 殴るのは得意です!」
得意とは。
それは置いといて謙信はアリアとウォーサイトを互いに紹介した。
その上でコラボを提案すると、即行で返事をされた。
「俺はいつでも構わんよ」
「私もです!」
全力で丸投げされたので謙信も適当に言っておく。
「早めの昼食後に行くか。それまでは各自準備をしておくと言う事で!」
2人から了承の返事があったので、それまでは自由時間にする事に。
『【カード進化】の能力も解放されたので、ギルドと【カードショップ】、【カードトレード】と一緒に確認してみましょう』
知らない間に能力を手に入れていたようなので、確かに確認しておくべきだろう。謙信はわくわくしながら【カード進化】の項目に目を通し始めた。
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