念願の職業を手に入れたぞ!
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気が付くと見知らぬ天井だった。
謙信が横になっていたのはふかふかのベッド。
と言っても羽毛布団や木綿布団のような物ではなく、布の中に柔らかい草が入れられた物だ。上半身を起こすと周囲に目をやるが、木材で造られた簡素な部屋で家具などもなく、置いてあるのは小さなテーブルと椅子くらいである。
「何処に飛ばされたんだよ俺は……」
ベッドから出て立ち上がり体操をするかの如く体中を動かしてみるが、特に調子が悪い箇所はないようだ。異世界に飛ばすとは言っていたが、何処なのかまでは分からないので不安になる謙信。
あの駄女神なら誰もいない草原にでも転移させそうなものだが、恐らく自分は運が良かったのだろう。何しろ、ベッドに寝かされているくらいなので、倒れているところを見つけてベッドを使わせてくれたのではないだろうか。
謙信としてはそう思うのが自然だなと考える。
「勝手に部屋から出るのも迷惑かな……ステータスの確認でもしとくか……」
あの女神は言っていた。
『じゃああんたもカードを使って生き延びてみなさいよ!!』と。
と言う事はカードを使った能力が与えられたと考えるのが妥当ではないか。
謙信はそう思ってベッドに腰掛けると、早速、ステータス画面を開こうと考えた。改変後の地球ではステータスと言うか、念じるかすれば半透明のボードのような物が出現し、そこに表示される仕組みだった。もしくは政府が設立した組織――日本ダンジョン公社で発行される探索者ライセンスで確認できたのだが。
「ステータス」
――――――――――――――――――――
[種族]:人間族
[名前]:武田謙信
[性別]:男
[年齢]:27歳
[称号]:異世界人
[加護]:美女神の加護
[身分]:無職
[価値]:C
[位階]:5
[職業]:無職
[熟練]:1
[指揮]:☆☆
[個技]:‐
[戦法]:‐
[技能]:【カードⅠ】
[才能]:‐
[特性]:‐
[装備]:【鉄の長剣Ⅰ】
[等級]:【初心者・E級】
[HP]:38/38
[MP]:0/0
[SP]:33/33
[物攻]:27
[物防]:20
[魔攻]:0
[魔防]:3
[精神]:34
[知性]:31
[俊敏]:30
[幸運]:3+3000
[攻撃設定]:通常攻撃
[固有設定]:‐
[職能設定]:‐
[反撃設定]:‐
[支援設定]:‐
[移動設定]:‐
[特殊設定]:‐
[撃破数]:121
[日本ランキング]:∞
[世界ランキング]:∞
[異世界ランキング]:∞
――――――――――――――――――――
「うーん。変わりねーな。技能に【カードⅠ】が追加されているくらいか……何だよカードって。せめて説明しろよ。あッ……【美女神の加護】とか笑えるな。ははッ運が無くなんのか?……っておいおいおい!! 幸運値が爆増しとる! まさか女神の加護とか!? それならまずは自分の運を上げろよ、そこんとこぉ!!」
『それは申し訳ございません。我が主の怠慢を謝罪します』
何か合成音のような声が聞こえた気がして謙信は上を見上げた。
そこにあった物。
それはまるで謙信を俯瞰するような位置――頭上に浮かんでいる丸い水晶球であった。
謙信が困惑しているのを察したのか水晶球が再び口を開いた。
まぁ口などないのだが……。
『私は――』
「しゃべったぁ!?」
『……すみません。私は女神様に遣わされた宝珠です。そして貴方を監視する者です。サフィとお呼びください』
「お、おう。サフィさんか……そーいや確か監視するとか言ってたな。まぁ俺なんか見ててもつまらんと思うがよろしくな」
『サフィとお呼びください』
本人?には何か強いこだわりがあるのだろう。
そう察した謙信は大人しく従っておく事に決める。
「分かった。サフィ、よろしく」
『よろしくお願いします。謙信様。それで――』
「俺の事も謙信でいーよ。楽でいい」
『いえ、謙信様とお呼びします。よろしいですね?』
何やら圧が強い物言いに再び困惑してしまう。
この頑なさは彼女?の性格なのかも知れない。
不承不承ではあるが思わず頷いてしまった。
「それで俺は何をすればいいんだ?」
『この世界のダンジョンを攻略してください。いえ、ダンジョンに限らず色々な場所を旅してこの世界そのものを攻略してしまいましょう』
「お、俺は無職なんだが……? 簡単に言ってくれるぜ……まぁ技能が一つ付いただけでも助かるけど大丈夫かな? 技能は使えば使う程ランクが上がっていくんだったよな……だったらそうするしかないか」
戦う術がない以上、この世界でも地球の時と同様に剣か素手で戦い抜くしかない。せめて職業があれば攻撃方法などの設定ができるようになり、その組み合わせは多岐に渡る。
例えば職業が『騎士』で他の職業の能力――職能を習得していた場合は以下のように設定できる。
[攻撃設定]:通常攻撃
[固有設定]:騎士剣技
[職能設定]:奥義
[反撃設定]:武器ガード
[支援設定]:経験値UP
[移動設定]:移動力UP
[特殊設定]:自動回復
これはあくまで一例であるが、通常攻撃はもちろんの事、騎士固有の能力、『騎士剣技』の他に別の職業である剣豪で習得した能力、『奥義』を設定する事ができる。
他の設定も色々な職業の能力を習得すれば、それだけ様々な設定が可能だ。
ただ、他の職業に転職するには、はダンジョンで専用のアイテムを得る必要がある。
とまぁここまでゲームのような変化が地球にもたらされたと言う訳だ。
とは言え、今はない物強請りをしていても仕方がない。
なんて事を考えているとサフィが事もなげに言った。
『ではお詫びとして我が主に代わり、職業を付与しましょう』
あまりにも簡単に言うので、どうしても嬉しさよりも疑いの方が先に立つ。
思わず間の抜けた声で聞き返してしまった。
「……え? いいんか!? あの女神に怒られない?」
『大丈夫です。では人間ルーレット~! ル~レットマ~ン!』
豹変レベルのテンションの変化に、またまた困惑する謙信。
こんな監視者で大丈夫か?
「(駄女神も大概だが、サフィも大概だな……)」
『何が出るかな? 何が出るかな? たらららんらんららららん♪ 職業は『カード使い』~!! 略して~』
「それ以上はいかんヤツだ! しかも色々混ざってる!」
容赦ないツッコミがサフィを襲う。
何か?天界の関係者は皆、俗世に染まってんのか?
そんな事を思いつつも、謙信は頭痛がして思わず頭を抱えた。
『と言う訳で、謙信様の職業は『カード使い』に決定しました。技能との相性も良くて私としても安心しました。これで今夜はぐっすり眠れそうです』
急に冷静な口調に戻ったサフィが何か言っているが放っておく。
それで『カード使い』とは?
聞いた事のない職業である。
大抵の情報はネットで調べて強くなるための努力はしてきたが、流石にこの職業に関しては何も分からなかった。
『分からない事があれば、私がお教えしますのでご安心を』
「俺の心を読むな……」
もう何でもありである。
だが監視者とは言え、ヘルプのような役割をこなしてくれるなら非常に助かるので有り難い事だ。謙信は早速『カード使い』について尋ねようとしたが、突然部屋のドアが音を立てて開いた。
部屋に足を踏み入れた少女とばっちり目が合う。
茶色の髪を肩口まで綺麗に揃え、クリッとした目をしている可愛らしい子供だ。
彼女は謙信がベッドに座っているのを見てドアの方へ振り返ると大きな声で叫んだ。
「あー! お父さーん! お母さーん! 男の人起きたみたいだよー!!」
その声にすぐに大きな足音が部屋に向かって近づいてくる。
中に入ってきたのは謙信と同じ歳くらいの若い男であった。
「おお、あんた気が付いたのか! 良かった!」
「えっともしかして、お、私を助けて頂いたんでしょうか?」
「そうだよ。あんた街の近くの草原で倒れてたんだ」
「草原ね……」
あの駄女神はまた危険な真似を……。
何処までも適当な神である。
「何があったんだい? あんな場所で倒れてたら野盗や魔物に襲われてしまうぞ」
「えーっと、その辺りはちょっと記憶が無くてですね……」
異世界から来たとは言えないので言葉を濁すしかない謙信。
初めて小説で異世界転移させられた主人公の気持ちが分かったような気がする。
「記憶がない? そりゃ大変だ。ふむう……と言う事は身分の証明もできない訳か……」
「あの、何処かそう冒険者ギルド……みたいな感じの探検する人達をサポートする組織とかありませんかね?」
異世界と言ったらこれだが、実際にあるのかは分からなかったので曖昧な言い方になってしまう。それでも真剣に考えてくれるこの男性は誠実な人なのだろう。
「冒険者……? ……ああ! なるほど! それがいいね。探索者と言ってダンジョンや古代遺跡なんかを回る者がいるんだよ。そのギルドで登録しておけば身分証にもなるからそうしたらいい」
「お父さん、別にこの村に住めばいいんじゃないの? 村の人がもっといたら助かるって言ってたよね」
娘の方はどう言う気持ちで提案してくれたのかは分からないが、正体不明の謙信を普通に受け入れるように言ってくる位なのできっと心優しい人なのだろう。
地球ではあの世界大変革があってから人間の心は荒む一方だったので正直癒される思いだ。
「コニア、それでは無理に引き止める事になってしまう。それではいけないんだ」
その言葉にしゅんとなるコニア。
村想いな少女だし、恐らく自分の事も気遣ってくれたのだろうと謙信は心が温かくなるのを感じていた。
「コニアちゃん、ありがとうね。そう言ってもらえて嬉しいよ。ただまずはお金なんかを稼いで自立しなきゃいけないと思うので……ギルドに登録できる街って何処にありますか?」
「ここから最寄りの場所は領都ガイアスだね。東に10km位かな。近い内に農作物を届けに行くから一緒に行かないか?」
願ってもない提案に謙信は迷わず、即答した。
聞けばガイアスの街はダンジョン都市であり、多くの探索者がいるらしい。
すぐに活動する事ができそうだ。
男性の名前はバルガスと言うらしく、ここホルサ村で農業をやっている30歳の強面だが優しい人だった。
謙信は最初に出会えた幸運に感謝しつつ、出発までご厄介になる事になった。
こっちの世界の人は温けぇだ……。
思わず感動の言葉が口をついた。
ありがとうございました。
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