表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風景から魔力を  作者: hato-ryuji
農村編
6/52

風景から魔力を

 庭先でエデューがメグルに、オレンジの木を示しながら説明を始める。


「ちょっとしたゲームだ。物理衝撃魔法でこの木を揺らして、オレンジを落とす。落としたオレンジは君のものだ」


 メグルはオレンジの木を観察する。高さが2メートル。幹の太さが30センチほど。自分の二の腕より少し太いくらいか……。


 オレンジはオレンジ色ではなく青い。熟していないのか、青い状態で食べる品種であるのかは不明だ。

 そういう品種であってくれとメグルは思った。


「さてと、魔法の使い方についてだ。魔法を行使には3つの要素が必要になる。印、呪文、そして魔力だ」


「まずは印についてだ。魔力を放出するための特定の形のことだ。今回教える魔法は手をこの形にする」


 エデューがオレンジに向かって手をかざし、メグルを呼び寄せて手の形を見るように促す。


 メグルは手の形を確認する。


 エデューの印――手の形――は張り手や掌底に酷似している。掌を正面に向け、各指の第一関節と第二関節を曲げている。


「そして、呪文を唱える。《カイナ・オウ》!」


 オレンジが何かにぶつかったかのごとく振り子のように揺れ、やがてオレンジは揺れに耐え切れずに地面に落下した。


「とまぁ、こんな感じだ」


 メグルもオレンジに掌を向け、深く息を吐きだす。肺に息が戻ってきたのを確認して、「《カイナ・オウ》!」と声を張り上げる。


 ……が、オレンジは落ちなかった。そもそも揺れてすらいなかった。


「そういえば、魔力について説明し損ねたな」


 エデューが笑いながら言う。


「どうやって、魔力を引き出すつもりだったんだ」


「強く念じれば出せるものかと。落ちろーって感じで」


「残念だが念じるだけは魔力は引き出せない。私たち魔法使いが用いる魔力は土地から引き出すんだ」


「土地……ですか」


「そう、土地だ。土地は魔力を持っている。我々魔法使いは土地から魔力を引き出し、魔法を行使する。

 魔力を引き出す方法は、その土地を思い浮かべることだ。

 また、同じ土地から連続して魔力を引き出すことはできない」


「試してみます」


 目を閉じる。


 メグルが思い浮かべているのは、県境の川の上を通る橋の風景だ。川の両側面に土手があり、頂上はサイクリングロードになっている。土手と川の間の茂み、野球グラウンド。土手の外側には田んぼが広がっている。


 そして、その場で見ているかのように緻密な映像を自分の内側に描き出す。


「《カイナ・オウ》」


 今度は成功した。


 やりすぎてしまったとも言えるかもしれない。葉をあらかた吹き飛ばし、幹をへし折り、オレンジの半数を押しつぶした。


「あの木ってへし折っても問題ない木ですよね」


 呆然としながらメグルが問いかける。


「気にするな。来年からオレンジを食べたくなったら、市場で買う必要があるようになっただけだ。

 それはそうと、予想以上の出来だ。初めてだよな?」


「初めてですよ。わざわざ嘘なんてつきません」


「どうだ、弟子になる気はないか?」


「少し考えさせてください。すこし風を浴びてきます」


 メグルはオレンジの中から、中身が果実が汚れていないものを拾った。


「落としたオレンジはおれのものでいいんですよね」


 メグルはエデューから背を向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ