表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風景から魔力を  作者: hato-ryuji
首都編
52/52

ありがとう

 周囲に残っていた触手が、頂上への出口に集合する。

 それらは絡み合い、徐々に人型を形成した。


 人相はつかめない。

 ……というより、顔を認識した途端に形を変えてしまう。

 不定形の顔だ。


「ヨグルフ……」

 ワタリが呟く。


「本体はもっと奥にいるはずじゃ――」

 とメグルが言う。


「本体じゃない。

 だけど、かなり『濃い』ぜ」


 ヨグルフの分身体が告げる。


「ほら、あと一歩だぞ。

 いや、あと一歩『だった』と言うべきかな。


 道は閉じたのだから……《アシ・ホウボウ》」


 分身体の両腕部が変形して一本になり、中央部が避ける。

 そこから、液体がしたたり落ちた。


 地面から重々しい煙が立ち上り、床に穴が開く。

 融解、いや腐食か。


 ヨグルフの腕部が肥大化し、赤黒い液体を噴射してきた。


「《ナギ・ゼクー》!」


 メグルが、相手の魔法を中和する翼を展開する。


「さあ、どこまで持つかな」

 ヨグルフの声が響く。


「メグル、手を貸――

 しまった、建物が……《カイナ・ティング》!」


 エデューが呪文で建物を固定する。


「これで一人封じた……。

 そして、その防御を削り切れば私の勝ちだ。

 最悪、要は魔力を生成する記憶さえ取り出せるなら、多少身体がどうなろうと構いやしない」


 一枚一枚、翼の層がかき消されていく。


 まずい、このままでは……。


「海の景色なら、まだ結構残ってるんだよ……!」


 ワタリが、メグルの背中に触れる。


「青い分は、全部くれてやるよ」


 ワタリから手渡された魔力が、青の翼にいきわたる。

 そして、ヨグルフの攻撃が途絶えた。


 ワタリがヨグルフのもとに駆ける。

 拳を握りしめて――


「《テラス・ジューン》!」


 光の盾が拳の先に現れ、そのまま盾ごとヨグルフを殴りつける。


 ヨグルフは衝撃にわずかにたじろぐが、すぐに反撃に転じようとする。

 触腕を背中から迂回させて、ワタリを狙う。


「お返しだ……!」


 メグルが、さらに盾の内側から殴りつける。

 パンチの勢いと魔力が盾を通過し、衝撃がヨグルフを直撃した。


 ヨグルフは吹き飛ばされ、溶解液で脆くなった石造りの壁を突き破り、野外へと飛び出していく。


 肉の塊はグシャっと地面に広がり、

 周囲の溶解液や触手も赤黒い泡を吹きながら、ゆっくりと大気に溶けていった。


「終わった……みたいだね」


 建物がぐらつく。

 エデューが魔法で支えるも、徐々に橋のほうから崩れ始めている。


 元の世界に戻るための《門》も、心なしか曖昧になっているように見える。


「ほら」

 エデューが言う。

「早く行かないと、閉じてしまうぞ」


 メグルとワタリが、《門》の手前まで進む。


 メグルが振り返る。


「随分とお世話になりましたね。

 こっちの世界の出来事、忘れないと思います。だから――」


「おい、閉じるぞ!」


 ワタリがメグルの手を引っ張り、《門》へ引きずり込む。


「――えっと、その……ありがとう……」


 なんとか言い終えたかと思うと、《門》は閉じた。

 


「どいつもこいつも、一人前になったと思ったそばから、離れていくのか……。

 まぁ、元気でいてくれるなら、それでいいんだ」


*** 


 玉虫色の塵が舞う暗闇を、落下していくような感覚がする。

 周囲を見渡すが、どこにもワタリはいない。


 塵を見つめると――

 ふと、さっきの世界の景色が見える気がした。


 俺は、魔法がある世界の記憶を忘れない。

 だから、確信なんてない……けど、きっと何とかなるって気がする。


 振り返ったところで魔力は沸いてこないし、目の前の状況は変わらない。

 だけど、何かしらの力は得られると思う。


***


 気がつくと、メグルは地面に転がっていた。

 頬に芝生が当たる。


 起き上がると、車の走行音が聞こえてきた。

 そしてしばらくすると、子供たちの帰りを促す放送が聞こえてくる。


 ふう、元の世界に帰ってこれたのかな。

 いや、まだだな。

 帰りのチャイムだって言っている。


「――家へ帰ろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ