そっちとこっち
広場で、メグルとワタリは向かい合い、一呼吸の沈黙が流れる。
「《アモル・テラス・ウォルカ》」
閃光とともに壁面が大きく砕け、稲妻の文様が光る狼が現れた。
《狼》がメグルのもとへ突進する。
それを塞ぐように、《鳥》が立ちふさがる。
接触の直前、《狼》は宙返りして攻撃をかわし、そのままメグルのもとへ突進した。
「《エニシ・アーク》」
エデューの呪文が響く。
現れたのは、元の世界へ戻るための《門》。
だが、人が通るにはあまりにも小さすぎた。
――そう、通常の魔力ではどう考えても小さすぎる。
おれが魔力をつぎ込んでも、まだ足りない。
必要なのは……二倍の魔力。
「それ」
メグルが《狼》を指さして呟く。
「借りるね」
《鳥》が上空からとびかかり、自分ごと《狼》を《門》へ引きずり込む。
《門》は、《鳥》と《狼》を吸収し、拡大する。
直径は約2メートル。
揺らめきながら、上空に漂う。
「お前……」
ワタリが《門》を指さす。
「ハナから勝負するつもりなんてなくて、コレをするために……。そもそもコレは何――」
「元の世界、帰れって言ったらどうする? ……!?」
メグルが火球を投げた。
それはワタリの耳元をかすめる。
ワタリの背後で、肉が焼ける音がした。
振り返ると、そこには――
丸焦げになりながらのたうつ、タコの触手のようなものがあった。
壁面が巨大な口に歪む。
その口――ヨグルフが告げる。
「私のもとから離れるつもりか……?
まあいいさ、それも君の自由だ。
試してみるといい。出来るものなら」
「おい、お前」
ワタリがメグルに目配せする。
「おれが味方にならなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「考えてないよ。
まだ線のこっち側にいると思っていたし、隙さえあればヨグルフの元から離れると思っていたから」
ヨグルフが、周囲から触手をけしかける。
「分かった。
これが答えだ」
ワタリの雷撃が触手を砕いた。
「行くぞ」
エデューがメグルとワタリに指示する。
「《門》は上空にある。
ある程度、道は作ってやれるが、まずは同程度の高度を確保する必要がある」
「つまり、砦の頂上に上る必要があると」
メグルが応じる。
三人はヨグルフの追撃をかわしながら、砦の頂上を目指す。
しかし、懸念材料があった。
魔力――風景の残量である。
「使えるの、あと4回……」
メグルが呟く。
4、3、2、1。
最後のストックを使い切った。
最後に思い浮かべたのは――
自宅に戻る風景。
物心がついた後の最初。
そして、魔法が来る直前に最後に見た風景だった。
「最後、最後で一歩足りないか……」
メグルが呟く。
ワタリに一瞬、目配せして問う。
「そっちは?」
「次で最後だ……」
「あきらめるな」
エデューが《門》を指さす。
「お前たちが持っている風景は――そっちの世界だけじゃないはずだ」
その通りだ。
こっちの世界に来てから目にした風景は――
今までの道のりは、すべて自分の味方なのだから。
――山道の奥の《ブラッド・ロータス》の神殿を思い出す。
メグルの火球が、触手たちを焼き払う。
――灯台のある岬を思い出す。
メグルの指先から水流が放たれ、前方の触手たちがずぶ濡れになる。
「ワタリ! 雷で――」
「一掃するんだろ! 《アモル・ライコウ》!」
電撃は水滴を伝い、雷の網となって触手を貫いた。




