来いよ腰抜け
7日後、白楼砦――
砦の中では、メグルとワタリが向き合う。
エデューは砦の中に潜み、のぞき穴から2人の様子をうかがっていた。
「……あのおっさんはどうした?」
ワタリが問いかける。
メグルが口を出そうとしたときに――
「いや、どっちにしろ同じか。隠れていても、はい、隠れてスキをうかがっています。ですが気にせずどうぞ、なんていうわけないもんな」
「そっちの方は? ボスはどうなんだ? その辺から覗いているのか」
「さあな。本人がどこにいるのかは、俺にもわからない。
わが主――ヨグルフにとっては距離など問題ないらしいがな。……ん、お前と話したいらしいぜ」
二人の間の地面が、巨大な唇の形に歪む。
「話すのは初めてになるかな、暁メグル」
「……こちらこそ、どうも」
「私が君を『ここ』に呼んだのだ」
「そうですね。数日前に手紙を受け取りました」
「そうではない。この砦ではなく、この世界に君を呼び寄せたのだ。……私がな」
「この度は貴重な体験をさせていただき――って話じゃないですよね」
「こちらの世界に来る直前に思い浮かべたことを覚えているか?」
「『まずい、死ぬかも』……?」
「走馬灯だ。
君の世界のランダムに選定し、1,000人を対象にする。
1,000人に対して、走馬灯が走るような出来事を強制的に発生させ――」
「ちょっと待った」
メグルは割り込む。
「2人を呼ぶために、998人も犠牲にするなんて……」
「殺してはないさ。
この魔法は、あくまで肝を冷やすような経験をさせるだけだ。
――話を戻そう。1,000人の中で、一定基準以上の風景を思い浮かべた者を、こちらの世界に転送する。
そういう魔法なんだよ。
経緯についてはこのあたりで終わりにしよう。では――始めるがいい」
***
メグル対ワタリ――二人の戦いは拮抗状態にあった。
メグルは、右手は炎、左手で打消し。
対してワタリは、右手に雷、左手に盾。
メグルが一斉に攻撃を放ちながら後退し、建物に逃げ込んだ。
「ゲリラ作戦って訳か」
ワタリが広間の真ん中を陣取る。
「いいぜ、どっからでも来てみな」
メグルがワタリの斜め後ろに移動し、のぞき窓から攻撃を放つ。
メグルの呪文の声、燃える炎の音、そして光が作り出す影。
それらの情報を頼りに攻撃の方向を割り出し、ワタリは向き直る。
そして盾の呪文で攻撃を防御。
その後、雷の槍をメグルがいる建物の屋根に向かって投げつけた。
メグルが瓦礫から逃れるために奥へ退く。
深呼吸。
思い浮かべるのは……盃状の岩山と太陽。
コッチネラに譲ってもらった『固有魔法』――
「《トーモス・シン・アニマ》」
メグルが呪文を唱える。
現れ出た炎の鳥を、広間に移動させる。
炎の鳥に、思いつく限りの風景を流し込む。
翼開長10メートルまで拡大した。
「行け!」
メグルの合図に応え、炎の鳥がワタリの方へ突進する。
ワタリが雷で応戦するが、炎の鳥の勢いは衰える気配すらない。
光の盾を斜めに構え、なんとか突進を受け流そうとする。
着弾。
炎の鳥は軌道を曲げ、大きく旋回する。
光の盾は砕け、ワタリは地面に転がり込んだ。
「これがお前の切り札ってわけか……。
だが、その燃料はいつまで持つんだ?」
ワタリが砦の中に逃げ込む。
「おい、逃げるなよ!」
メグルがワタリに問い詰める。
「……」
「どうした?
真正面から戦うのが恐いのかよ」
「先に隠れたの、そっちだろうに……」
「そうか。だったら――」
メグルが広間に躍り出る。
「ほら、来いよ腰抜け」




