分がいい賭け
「予言がどうこう言ってましたけど、それが、おれが捕えられて、魔女裁判みたいな状況になった理由ですか?」
メグルが問いかける。
「魔女裁判が何かわからないが、おそらくは予言による先入観だろう。
予言の内容をざっくり言うと――
『来訪歴1296年に、だれもたどり着けない遠くから来た者が災いをもたらすであろう』
といったところかな」
「――つまり、災いをもたらす者とやらが、おれだと思われている?」
「そういうことだ。だが、決め手になったのは――」
エデューがメグルに向かって手を突き出す。
手は野球ボールを握るように、親指・人差し指・中指で虚空を鷲掴みしていた。
「《アモル・アクシー》」
エデューの三本の指の間に、稲妻が走る。
――魔法によるスタンガン。メグルはそう思った。
「おそらく、君の身を守る仕草が攻撃魔法の予備動作に見えたのだろう。
こんな感じに、攻撃魔法は相手に向かって手を突き出すものが多い」
メグルは、農具を突き付けられたときに両手を前に出して防御しようとしたことを思い返した。
「誤解ですね。おれは魔法なんて一切使えませんよ」
「そうとも限らないぞ。魔法自体は、使うだけなら難しくない。
ただ、たいていの場合は魔法を使うよりも、ほかの手段を使う方が手っ取り早い」
「例えば、広場で私が君を縛っているわら縄を焼き切っただろ?
あの時使った魔法も、九割の人は使うだけならできる。
ただし、火力が低すぎて焼き切るまでにじわじわと二時間かかる。
そんなことをしているんだったら、ナイフで切った方が早い」
「要は、ほとんどの人間は“魔法使い”なんだ。
だけど、幾つも目的を達成する手段がある中で、わざわざ魔法を選びたくなるほど魔法を上手に使える人は限られているってだけだ」
「それって結局、まともに使えるのは限られた人だけになりませんか。
たぶんおれは、多数派の“一応魔法は使えなくもない人”だと思いますよ。下手すれば、使えない方の一割かも」
「簡単な魔法だったら教えてやるが、どうする?」
「たぶん時間の無駄だと思いますけど……」
「そうとも。たいていの人は適性無しだ」
エデューはにやりと笑い、言葉を続けた。
「でも、考えてもみろ。失敗した場合は普通のまま。いわば現状維持だ。
成功したら、晴れて魔法使いの仲間入り。――分がいい賭けだと思わないか?」
メグルが応えるより先に、エデューは彼の首根っこをつかみ、庭先に連れ出した。