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風景から魔力を  作者: hato-ryuji
首都編
45/52

お前には奪えない

「とどめは差し損ねたが……まあいい。手間が省けた」


 グリクスが地面に倒れたエデューを一瞥し、メグルへと目を向ける。


「降参するなら今のうちだ。依頼主は“魔力さえ出せればいい”と言っている。だが、状態がいいに越したことはないからな」


「――うるさいっ!」


 メグルが火炎魔法を放つ。


 咄嗟にそれを打ち消したグリクスが忌々しげに舌打ちする。


「チビが……。力ずくでねじ伏せてやる」


 グリクスは左腕をかばうように右半身を前に出し、再び火炎の連弾を放つ。メグルはすぐに打ち消し魔法で応戦し、すかさず反撃を試みるが、決定打には至らない。


 拮抗。


 ――エデューの与えた左腕の傷が、今のメグルを対等に押し上げている。


「基本はできているようだが、それだけだ。

 戦局を支配――コントロールする力は、お前にはない」


「……お前も同じだろ」


 メグルの言葉に、グリクスはわずかに目を細めた。


 ――たしかに、やっていることは同じだ。

 魔法の応酬。読み合い。見切り。潰し合い。


 ならば、勝敗を分けるのはリソースだ。


 精神論も、奇策もいらない。

 ただ、潰し合いを制するだけ。


 グリクスは攻撃のペースを上げた。


***


 応戦を続ける中で、グリクスは不意に違和感を覚える。


(……このガキ、魔力量を偽ってやがるな)


 試験での申告と、戦闘での出力が一致しない。

 それに――何より厄介なのは。


「おれの風景は、お前には奪えない」


 メグルが告げる。


「風景のストックも十分ある。――どうする? “魔術師殺し”」


 グリクスの表情がわずかに揺れた。


 “必勝パターン”が封じられている。


(……仕方ない。奥の手を使うまでだ)


「《トーモス・トーバリ》!」


 グリクスが右手を掲げ、間に炎の壁を展開する。


 この魔法は展開に約6秒。

 それを越え、こちらを補足するのにさらに5秒。

 詠唱の速さを加味すれば、先に動けるのは自分だ――そう計算した。


(たとえ水で消そうが、瓦礫で埋めようが、迂回しようが、必ず遅れる)


***


 メグルは炎の壁を前に立ち止まる。


(これ……コッチネラさんが使ってたやつだ)


 火が燃え上がるその向こうに、殺気が漂っている。


「《スミル・シャガン》」


***


 一方、グリクスは左手に無理やり魔力を流し、歪な《印》を作っていた。


 腐臭漂う沼地――彼の風景が脳裏に浮かぶ。


(あの水鉄砲じゃ消せない。せいぜい足止めくらいか)


 だが、その時――


「……なにっ!」


 メグルが、炎の中から突っ込んできた。


 全身に巻いた湿った布から煙をあげながら、メグルが現れる。


「――っ!」


 グリクスが慌てて攻撃魔法を放つ。


「《トーモス・カルラ》!」


 螺旋の火が襲いかかる。


「《ナギ・ゼクー》!」


 メグルが打ち消し魔法で応じた。


 だが、目線はすでに次の一手を見据えていた。


(この目……本気だ。決めにきている)


 風景は――海。

 『印』は――掌底。


「《カイナ・オウ》!」


 衝撃波が、グリクスの左腕を直撃した!


「ぐっ……!」


 呻きながらも、なおもグリクスは左手に魔力を込めてくる。


「なら、もう一発!」


 さらにもう一度、《カイナ・オウ》を打ち込む。


 グリクスの身体が吹き飛び、背後の壁に叩きつけられた。


 よろめいた男が、地面に崩れ落ちる。


「なぜ……お前ごときに……!」

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