お前には奪えない
「とどめは差し損ねたが……まあいい。手間が省けた」
グリクスが地面に倒れたエデューを一瞥し、メグルへと目を向ける。
「降参するなら今のうちだ。依頼主は“魔力さえ出せればいい”と言っている。だが、状態がいいに越したことはないからな」
「――うるさいっ!」
メグルが火炎魔法を放つ。
咄嗟にそれを打ち消したグリクスが忌々しげに舌打ちする。
「チビが……。力ずくでねじ伏せてやる」
グリクスは左腕をかばうように右半身を前に出し、再び火炎の連弾を放つ。メグルはすぐに打ち消し魔法で応戦し、すかさず反撃を試みるが、決定打には至らない。
拮抗。
――エデューの与えた左腕の傷が、今のメグルを対等に押し上げている。
「基本はできているようだが、それだけだ。
戦局を支配――コントロールする力は、お前にはない」
「……お前も同じだろ」
メグルの言葉に、グリクスはわずかに目を細めた。
――たしかに、やっていることは同じだ。
魔法の応酬。読み合い。見切り。潰し合い。
ならば、勝敗を分けるのはリソースだ。
精神論も、奇策もいらない。
ただ、潰し合いを制するだけ。
グリクスは攻撃のペースを上げた。
***
応戦を続ける中で、グリクスは不意に違和感を覚える。
(……このガキ、魔力量を偽ってやがるな)
試験での申告と、戦闘での出力が一致しない。
それに――何より厄介なのは。
「おれの風景は、お前には奪えない」
メグルが告げる。
「風景のストックも十分ある。――どうする? “魔術師殺し”」
グリクスの表情がわずかに揺れた。
“必勝パターン”が封じられている。
(……仕方ない。奥の手を使うまでだ)
「《トーモス・トーバリ》!」
グリクスが右手を掲げ、間に炎の壁を展開する。
この魔法は展開に約6秒。
それを越え、こちらを補足するのにさらに5秒。
詠唱の速さを加味すれば、先に動けるのは自分だ――そう計算した。
(たとえ水で消そうが、瓦礫で埋めようが、迂回しようが、必ず遅れる)
***
メグルは炎の壁を前に立ち止まる。
(これ……コッチネラさんが使ってたやつだ)
火が燃え上がるその向こうに、殺気が漂っている。
「《スミル・シャガン》」
***
一方、グリクスは左手に無理やり魔力を流し、歪な《印》を作っていた。
腐臭漂う沼地――彼の風景が脳裏に浮かぶ。
(あの水鉄砲じゃ消せない。せいぜい足止めくらいか)
だが、その時――
「……なにっ!」
メグルが、炎の中から突っ込んできた。
全身に巻いた湿った布から煙をあげながら、メグルが現れる。
「――っ!」
グリクスが慌てて攻撃魔法を放つ。
「《トーモス・カルラ》!」
螺旋の火が襲いかかる。
「《ナギ・ゼクー》!」
メグルが打ち消し魔法で応じた。
だが、目線はすでに次の一手を見据えていた。
(この目……本気だ。決めにきている)
風景は――海。
『印』は――掌底。
「《カイナ・オウ》!」
衝撃波が、グリクスの左腕を直撃した!
「ぐっ……!」
呻きながらも、なおもグリクスは左手に魔力を込めてくる。
「なら、もう一発!」
さらにもう一度、《カイナ・オウ》を打ち込む。
グリクスの身体が吹き飛び、背後の壁に叩きつけられた。
よろめいた男が、地面に崩れ落ちる。
「なぜ……お前ごときに……!」




